ウマ娘の頭悪いサイド   作:にゃんこぱん

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ほわーですわ!!

 師走の言葉の由来は語るまでもないだろう。昔のおれは、たかだか年末というだけで何をそんなにやることがあるのかとバカにしていたが、バカなのはおれの方だった。普通にめっちゃ忙しい。いや、普段と変わらん(当社比)ような気もする。

 

 ともかく多いのは飲み会である。忘年会だ。自慢だがおれは顔が広い、その都合でお呼ばれることが多いのだ。普通に楽しいので呼ばれるまま飛んでいった。人脈ってのは強い武器だ、断ることなどあり得ない……というのを言い訳にして、おれは思う存分酒を飲むことができる……はずだったのに……。

 

 ガキどもがおれの監視をするとか言って普通に忘年会についてくるようになっているのである。飲みすぎないように見張ってるとか言って。当番制らしい。おれは頼むから許してくれと懇願したが、希望の光はあっさりと潰えた。それはまるで、例外を認めない役人の如き断りようだった。

 

 今日のは別チームの忘年会だ。アルファードで世話してやったヤツがいるチームで、そいつに呼ばれた。そこのトレーナーとも仲がいいので、終わった後に二次会でそいつとサシ飲みで居酒屋にでも行こうという計画だったが、おそらくは潰えるだろう。今日はライスさんがついてく、ついてく……するらしいからだ。勘弁してください。

 

「お兄さまはね、依存症なんだよ。人が変わっちゃう……わけじゃないんだけどね、とにかく酔っ払っちゃったお兄さまは、心配で見てられないから。ライスが守ってあげるの」

 

 誰がアル中だよ。いいか、ライスさん。社会人ってのは常に張り詰めたロープみたいなもんだから、定期的に緩める必要があるんだよ。で、それにはエタノール先生の助けが必要なわけ。いいんか? エチルアルコール先生奪われたらおれ乾いたミイラみたいな感じでサーッって砂になって消えるよ?

 

「それはもう依存症なんじゃないかなって……。お兄さま。ライスね、怖いの。そのうちタバコとか吸い出すんじゃないかって……」

 

 おれはモクはやらん。

 

「モクって言わないでほしいな……」

 

 おれはライスさんの発言を無視した。ぶっちゃけきっかけがあればタバコも吸い始めかねないと自覚していたからだ。

 

 そういや年末と言えば、カーチャンが帰ってこいってうるさかったのを思い出した。

 

「! ライス、お兄さまのふるさとに行ってみたい! お兄さまの家族にも挨拶したい!」

 

 帰れねーよ……。はぁ、カーチャンの命令にはどうも弱くてな。悪ガキの頃に散々叱られたから、その頃の癖が抜けねーんだ。とはいえ、ホープフルと有馬を控えてちゃ無理だ。流石のおれでもな。

 

「お兄さまのお母様とお父様はどういう人なの?」

 

 親父はいねーんだ。浮気してどっか消えたらしい。記憶にもないが……。

 

「ご、ごめんなさい! ライス、無神経なこと聞いちゃった……」

 

 謝るな。いいかライスさん。こういうことは別に珍しいことじゃない。人には人の事情がある、そのことについて謝罪するってのは、ある種の傲慢と見下しを含んでいる。厄介なのは、それが優しさを内包しているところで、それを一概に悪とは断じ得ないが……。

 

 おれは自分のことを、傲慢だと思ったことはあっても不幸だと思ったことはない……いや、嘘をついたな。今まさに不幸を味わっているところだ。なぜ酒が飲めない。この不幸を哀れと思うんなら、少しは優しくしてくれてもいいんだぞ。

 

「……話を逸らさないでほしいな。ライスを、お兄さまに向き合わせて。優しさとおふざけで誤魔化さないで。ライスは……もう、準備はできてるんだよ」

 

 重そうな感じを出すのはやめてほしい。酒を思う存分飲ませてほしいのは紛れもない本心だ。おれは……信じられないと思うが、四六時中ガキどもと一緒にいる。そこから解放されたいと思うことを誰が責められようか。

 

「えっと、別にいいんだよ? お兄さまがベロベロになっても、ライスがついてるから……ちゃんと部室まで届けるんだもん。ちょっとはライスのこと、信じて欲しいな、なんて……」

 

 いや部室に届けるなよ。家に届けてくれ……と、おれは言えなかった。おそらく……おれの家には、誰かしらがゴローと一緒に泊まっているからだ……。

 

「……ライス、ゴローちゃんと会ったこと、ないかも」

 

 えまじで? 写真見る? マジで可愛いぞウチの子。無愛想なところがたまらん。もう4ヶ月くらい会ってないが……。

 

 おれは娘の写真を胸ポケットにしまっている兵士のようにゴローの写真を見せた。

 

「え、えと……現像してるんだね。……あのね、ライスだって、ゴローちゃんのお世話、してみたいなって……」

 

 謹んでお断り申し上げる。しかし、おまえがおれの家に泊まったりしようとしなければ、その限りではない。

 

「その、ええっと……保証はしかねるなぁ、って」

 

 しかねるな、じゃないが。

 

 いいか? おれはな、忘年会の時間が6時ってことを言い訳にして、さっさと仕事を切り上げて来たわけだ。キタサンとテイオーの恨めしそうな視線を背中に浴びてでもな。この意味がわかるか。分かって欲しいなぁって、おれは思ったりするんだけど。

 

「……ご飯は? いっつも作ってあげてるんだよね?」

 

 作り置きだ。レンジでチンして食べるよう言ってある。流石にこれぐらいは許されるはずだ。

 

 いつもよりも5時間くらい早く上がるためにおれは努力を惜しまざるを得なかった。どうせ終わったって仕事することになるのだ。少しくらいはご褒美が必要ってもんだろう。

 

「……お兄さま、ホントに大丈夫なの? ライス、割と真面目に心配だよ……?」

 

 同感だ。はぁ、朝倉光一も言ってたな。ガッツだけはありますって……。左ききのエレンな。アニメ化おめでとう、ずっと応援してたぞ。DOPEも面白いし、かっぴーはほんとストーリーうまいな。

 

 心配される筋合いもねぇ。どころか普通に立場が逆だろう。おまえ、トレーニングしなくていいんか。

 

「……ライスにだって、ご褒美は必要なんだよ? ずっといい子じゃいられないんだもん……」

 

 誰の禁酒がご褒美になるんだ。それに言っておくが、おまえがいい子だったことはあんまりない。

 

 はぁ、世の罰とご褒美の総量もエネルギー保存則に従うのかね。合わせたらゼロだ。エントロピーの増大がある分、罰の方が総量は多い気もする。それもおれに限っては特に。

 

 だらだら喋って歩いてたら店に着いちまった……。ライスさん、おれもあんまりはしゃがないよ、だからライスさんも大人しくしてくれると嬉しいな……。

 

「お兄さまがライスみたいな喋り方になっちゃった……。うーん……ちょっとだけなら、お酒、飲んでもいいよ?」

 

 マジでか。

 

 

 

 

 

 ひゃっほーう! 

 

 おれはアルコールの恩恵を享受していた。気分が浮き上がって仕方がない。

 

 がやがやがや……。

 

 えー、続いてはおれによる声真似百連発のコーナーです! ではまず、学園長のモノマネから。

 

 わーっと歓声が上がった。

 

「……やっぱりこうなっちゃった……」

 

 必然! ウマ娘たちのことを考えよっ!

 

 似てる似てるとウケを得た。おれは楽しくて仕方なかった。

 

 労働! 残業ではなく自由意志っ!

 

 ここのチームのトレーナーが爆笑してくれた。おれはそれだけで満足だった──

 

「ご、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ! うちのお兄さまがごめんなさいっ! ふええ、お兄さまはやっぱりお酒が入るとダメなんだ〜っ!」

 

 トレーナーさーん。お酒はほどほどにしてくださいね〜(裏声)

 

「たづなさんのモノマネもやめて〜! こんなことばっかりしてるからいっつも怒られちゃうんだよっ! うぅ、お兄さまぁ……!」

 

 ライスシャワ〜さん。どうしたんですかぁ〜(裏声)

 

「ううぅ、どうしてそんなに似ているんだろう……。あっ、お兄さまはこれ以上飲んじゃダメだよ! ダメっ、ダメったらっ!」

 

 ジョッキを掴むおれの腕をライスが取り押さえた。

 

 ライスはえらいな〜。おれを止めてみろ〜。可愛いやつめ〜。

 

「かわっ、……お兄さま酔ってるよね!? っていうか飲まないでっ!」

 

 そうだぞトレーナーって周りの連中が野次ってくる。期待に応えよう。おれはライスさんの隙をついてジョッキを一気に飲み干した。あまりにも美味すぎる。

 

「あーっ!」

 

 ふむ。ライスよ……おれの飲酒を許したことに感謝するぞ。ほら、焼き鳥を食え。おまえはちっこいんだから食って大きくなれ。ほら、あーん。

 

「あ、あーん……もぐもぐ、ごくん。……えへへ、お兄さまにあーんってしてもらっちゃった……じゃなくて! お酒飲むのも許してないよ!? ううぅ、どうしようどうしよう、ライスもう止められないよっ……」

 

 では続いていきなりマジックのコーナーです。ささ、ライスさん、こちらに。

 

「えっ、ちょ、ちょっとお兄さま、巻き込まないで欲しいなって……!」

 

 おれはライスさんを立たせると、にぎやかな連中を注目を集めた。バックダンサーのようにライスさんの手を取って掲げると……。

 

 なんということでしょう。ポンっていう効果音(セルフ)と共に、青いバラがライスさんの手に握られているではありませんか。

 

「……えっ。ええっ!? な、なんでぇ!? どうして!? ら、ライス……気が付かなかった、どうして!? お、お兄さま、どうやったの!?」

 

「ま、マジック? でも隠せるところなかったくない?」「マジシャンって基本長袖なんだよね、タネを隠せるし……でも……」「12月に半袖は普通にイカれてるよね、さすがは先生。長時間労働で頭がおかしくなってるんだね」「それより普通にどういうこと? ど、どこから出てきたの?」

 

 ガキどもがワイワイ言っている。気分がいいぜ、コソ練した甲斐があった。

 

 青バラはおまえへのプレゼントだ。もっとも造花だがね。おれの手作りだぜ、レティー。

 

「え、ええっと、ええっと……ど、どうしよう……何からツッコんでいいのか分かんないけど……でも、ありがとうお兄さま。うぅ、こんなにいっぱいの人の前で……こんなのもうプロポーズだよ、どうしよ、どうしよっ……! ライス、もうすぐ結婚できるようになっちゃうよっ!」

 

 何からツッコんでいいのか分からんが……。

 

 ともかく場を盛り上げたことで、お呼ばれしたことへの礼は伝えたといっていいだろう。となれば、あとは楽しく飲むだけだ。

 

 さて、この機会に色々聞いてやろう。ライスさん、おれに言いたいことがあるんだろ。

 

「えっ、どうしたの急に……?」

 

 この際だ。腹を割って話そう。

 

「えっ、ど……どうしたの……? ライスは別に、お兄さまに言いたいことあったら全部その場で言ってるけど……」

 

 ……そうだった。あのなあ、おまえちょっとはおれに遠慮とかしないわけ? おまえグイグイ来すぎなのよ。距離感とかあるでしょ、わかる?

 

「……お兄さまが全部悪いよ。責任取るつもりもないくせに、勘違いさせるようなことばっかりするんだもん」

 

 なんだとこのやろう。

 

 いいか。よく聞けクソガキ。おれは大人のお姉さんに癒されたい派だ。そもそもガキどもに興味とかねーんだぞ。二十代後半の妖しいおねーさんになって出直してこい。

 

「えっ、お兄さまはロリコンさんじゃなかったの?」

 

 誰がロリコンさんだよ。おまえマジで……。

 

「先生はロリコンでしょー! 誤魔化さなくていいよー!」

 

 ええい、ヤジを入れるな。今大事な話してるから。

 

「えっ、じゃあもしかして、お兄さまって、たづなさんのこと……」

 

 おい。言葉を切るな。ハッとしたような顔もやめろ。おまえ怖いもんねーのか。ミス・カウントダウンはもうカテゴリーから違ェぞ。

 

「えっ、でも、夜遅くによくお兄さまと密会してるって……」

 

 違……くもない。でもあれだぞ、メシ食いに来てるだけだぞ。

 

「でも、お兄さまのご飯屋さんはもう閉めちゃったんでしょ? ライスも食べてみたかったのに……」

 

「食の自由を解放しろー!」「そうだそうだー!」

 

 ヤジがうるせえ! あのな! おれも人間なの! あんな生活してたら死んじゃうの!

 

「……でもたづなさんにはご飯作ってあげてるんでしょ?」

 

 そりゃオメー、二徹目ですとか言われたら断れねーだろ。最近じゃあの人をちょっと手伝いたくなってきているおれがいる。おめーらもあんまあの人に苦労かけてやんなよ。

 

「えっと、お兄さまが1番たづなさんに苦労をかけてると思うな……」

 

 急に刺してくるじゃん。固有スキルで短剣抜くやつはやっぱ違ェな。

 

 だが誤解するな、最近じゃおれもあんまりふざける暇がない。おまえみたいのが四六時中見張ってくるんでな。マジで、ほんと、許してください……。おれは祈るように頭を下げた。

 

「どうしてお兄さまが謝るの? お兄さまは何にも悪くないんでしょ? ライスを怒らせるようなことしてるの? してないよね? じゃあ堂々としてればいいんじゃない? ライス間違ったこと言ってるかな」

 

 怖っ。やめろ、一息で喋るな。バーって言われると圧を感じて怖ェよ。てかさ、てかさ、ライスさんはあれかな、有馬で勝ったらおれに何をさせるつもりなのかな。

 

「え? えーっとね。まず、アルファードは解散。それで、お兄さまにはライスだけのトレーナーになってもらうの」

 

 その言葉を聞いた瞬間、忘年会の喧騒が耳鳴りのように響くのを聞いた。おれは間違いなく戦慄していた。おそらくおれは、金曜日の夜にチェーンソー持った仮面の男に出会ったモブのようなツラを晒していたはずだ。

 

 ……ま……。

 

 …………まじスか。

 

「──ライスは本気だよ。言ったよね、()()()()()、って」

 

 ま、待て。その要求には応えかねる。

 

「どうして?」

 

 ……おれにとって、レースの勝敗ってのはさほど重要ではない。おれはあくまで間接的にしか関われない上、そもそも青芝の上の駆けっこに大した興味もない。誰に怒られようが詰られようが、それはおれの本心だ、そこを偽っても意味がない。

 

 だが……それのために……全てを捧げているヤツがいる。そして……おれはそいつのトレーナーになっちまった。

 

 ……おれの都合であいつをアルファードに入れといてハイサヨナラってわけにゃァいかねェだろ。そいつは責任を欠いている。あまりに勝手だ、一年弱も経っておきながら……。

 

「……うん。知ってるよ。前のレースも見に行った。強かった。これからももっともっと強くなると思う、だけど……あの子にお兄さまが必要だ、なんてどうして言い切れるの?」

 

 おまえ──

 

 デコを押さえてクソガキを見ると、ヤツはまっすぐおれを見ていた。

 

 いつの間にか忘年会の喧騒は止んでいた。ガキどもがおれを見ている──なんだよ。やめろよ、真剣なツラでおれを見るな。

 

「ライスが勝ったら、お兄さまの担当はライスだけ。でも別にライスのことなんて放っておいていいの。そうしたら……ライスのこと言い訳にして、レーストレーナーをやめていいんだよ。向いてないって分かってるなら、お兄さまが余計な苦労をすることもないんだよ。保健室の先生がやりたいんならそうしよ? たづなさんには、ライスが説明するから」

 

 その時の、おれの思考を文章に起こすのは困難を極めた。

 

 ……。なんてこった。

 

 くそったれ。楽しい忘年会だったってのによ。

 

「あっ、お兄さま、どこ行くの?」

 

 頭ァ冷やしてくる。悪いがそのまま帰るぜ。すまんが、おれのマジックショーは次の機会の楽しみにしといてくれ。

 

 おれは諭吉を机に置くと、席を立って、そのまま店を出た。

 

 

 

 

 12月の冷気が全身の熱気を冷ましていく。だが思考の方は纏まらない。いや……論理的な結論はとっくに出ている、ただ……おれがそれを認めたくないだけだ。それを認めたくないということすら、おれは認めたくなかったのだ。それも認めたくはない。

 

 認めたくないと認識している時点で、おれはそれを認めていた。その上でYESもNOも返せない。そうなれば処理落ちしたメモリの如く、頭ン中はまともに動きやしない。それを俯瞰で見ていると、出来の悪ィぜんまい仕掛けを見せられてるみたいでムカつくぜ。

 

 なんてェザマだ。これがおれのやりたかったことなのか? 違うよな、だがどう違う? おれはおれのやりたいことをやってきたはずじゃなかったのか? そこに妥協があったのか? それともまた間違えたのか?

 

「お、お兄さまっ、待って! 待ってよ、ねぇっ!」

 

 ライスシャワーが後を追ってきた。鬱陶しいガキだぜ。人ン心にズケズケと踏み入ってきやがって。

 

「っ──ライスの心に土足で入ってきたのはお兄さまの方でしょ!? なのにライスにはするなって言うの!? ライスは──助けてなんて頼んでないよ、お兄さまが勝手に助けたんでしょ!? だったらライスも勝手にやるよ、それは……お兄さまにだって関係のないことだよ、そうでしょ!?」

 

 助けただぁ? おれはおまえを助けたつもりなんぞない。おまえが勝手に助かっただけだ。ちっ……忍野さんがチラつくぜ。

 

 誰かを助けられるなんてのは思い上がりでしかない。少なくともおれにとってはそうだ。

 

 人を救う。その言葉の本質が分かっているほど、人を救うことなど出来ないと分かるはずだ。それは余りに困難で、余りに傲慢で、余りに救いがない。人は脆弱だ。心はもっと脆弱だ。それに向き合うことができなかったから、おれは半端なことをしているのだ。

 

 ライスシャワーよ。おれはな、誰かを助けるなんて言葉、とても恐ろしくて言えねェよ。

 

「……違うよ。ライスは──」

 

 やめとけ。言うだけ損だぞ。

 

「っ……うるさいよ。ライスは……ライスはね……──素直にお礼も言わせてくれないお兄さまのことが、大っ嫌いって言いたかっただけだから」

 

 聞かねェヤツだな。言うだけ損って言ったのによ。

 

「ライスがこれからどうするかなんて、お兄さまに説明する必要もないよね。どうせ分かるんだもんね。ライスを止めなくていいんだね。説得するなら今しかないんだよ。後で謝ったって、ライスは許してあげないよ」

 

 どんな言葉や命令でも、心の奥底まで人を従わせることは出来ねェんだぜ。おめーがおれに何を言おうと何をしようと、結局のところおれがどうするかはおれが決めることだ。そこにおまえの干渉する余地はない。自由意志ってのはそういうことだ。おまえが何をしようが、骨折り損になるだけだ。

 

「お兄さまは、勝ったらおまえの好きにしろって言った。お兄さまはそういう嘘をつけないことをライスは知ってる。それで……結局はライスの言うことを聞くことになるんだよ」

 

 クソガキの目に蒼い炎が宿っているのを見た。え、それはどうやってんのと思ったが、今はシリアスなシーンなのでおれは口に出すのを控えた。

 

「……首を洗って待っててね。ライスをそうさせたのはお兄さまだってことを、せいぜい忘れないで」

 

 クソガキはそのまま踵を返した。おれもトレセンに帰ろうと思ったが、もう少し、アルコールでパーになった頭を冷気で冷やしていくべきだと判断した。

 

 冬ってのは嫌な季節だ。いや……春も夏も秋も冬も、どれも嫌な季節だ。

 

 そうだ、おまえの言う通りだ、カレン。嫌な思い出ばっかりあるからそう思ってんだ。悪いかよ。

 

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