えー、ということで、アルファード解散の危機です。
「こ、拗れるなんてもんじゃない。もうめちゃくちゃだよ……。えぇ、と、トレーナー? あの、えっと、聞きたいことと言いたいことがあるんだけど……」
聞くな。そんで言わんでくれ。おれは頭を抱えた。
「う、うそでしょ……」
クソガキどもが絶句している。キタサンの方はびっくりした猫みたいな表情だ。そしてテイオーと言えば、おれと同じく頭を抱え始めた。
「……えっーと、話を要約すると、つまり……ライスシャワー先輩は、トレーナーさんがレーストレーナーを辞めたがってると思って、助けてあげようとした。で、トレーナーさんはすんごい逆張りで、どうしようもないくらいの意地っ張り屋さんなので、余計なことをするなって感じのことを言って怒らせちゃった。で、有馬で優勝した人はトレーナーさんになんでも命令できるから、ライスシャワー先輩は有馬で優勝して、レースチームとしてのアルファードを解散させようとしている……で、合ってます?」
あぁ……。大体前回のあらすじって感じだ。
「……テイオーさんとのくだらない賭けからよくもまぁここまで拗れましたね。はぁ、だから言ったじゃないですか。トレーナーさんがお酒飲むとロクなことにならないんです、だから見張り係も決めたのに」
あのな! 言わせてもらうが、その見張り係制度のせいでこんなことになってんだぞ。
「どうせ無くてもこんな感じになってたと思いますよ。時間の問題だったでしょ。で、どーするんですか。ライス先輩が勝ったら、アルファード解散しちゃうんですか。あたしを捨てちゃうんですか、カレン先輩みたいに」
キタサンがジトーっとおれを睨んでいる。くそ、おれのトレーナー1年目のことはなぜかメンバー間である程度共有されている。余計なことを教えやがって、誰が教えたんだ。
おまえな……。
「っていうか、ライスの言うことなんて断ってよ! 流石に解散とかやりすぎじゃん! っていうか、最初はボクとトレーナーだけの勝負だったのに、なんでライスにまで話が飛んでるわけ!? 聞いてないんだけど!?」
オメーが噂を広めたからだろ。分かってんのか。オメーが有馬でトレーナーに勝ったらなんでも命令できるんだーとか言いふらしまくったからだぞ。
「トレーナーが他の子たちに、オメーの好きにしろとか勝手にしろとか言うからでしょ!? オメーは関係ねーとか言って断ればよかったじゃん! 大体なんで他の子達が有馬で優勝したからってトレーナーに命令できるワケ!? 因果関係おかしくない!?」
ほんとそれな。全部おまえのせいだぞ。
「トレーナーでしょ! 絶対トレーナーでしょ! 普段の行いが全部返ってきてるんでしょ!?」
オメーだオメー! 話をややこしくしたのは確実にオメーだ!!
ゴン、とキタサンブラックがおれとテイオーの頭をブッ叩いた。ガッ。何しやがる!
「どっちも悪いです! この後に及んで責任のなすり付け合いなんてやってどうするんですか。そんなのやったって状況は変わらないんですから、もっと建設的な話し合いをしないと」
……。おまえ、なんで冷静なんだ?
「べっつにー。あたし、ジュニア級の有望株ですしー。移籍先なんていっぱいありますしー。アヤベさんとかネイチャさんの元いたとこに移れば、先輩たちとも一緒にトレーニングできますしー。アルファードなくなってもあたしは困りませんしー」
ふむ、テイオーよ。こいつはなぜ拗ねている?
「アルファードのメンバーなのに、当事者として戦えないのが悔しいんだよ。キタサン、なんだかんだでトレーナーのこと好きだからなぁー」
「はぁ!? やめてください、どつきますよ!?」
「キタサンにどつかれたらボク死んじゃうよ。やめてね、謝るから。謝るからやめてね……」
テイオーは雰囲気を仕切り直すようにシャキッと薄い胸を張って言った。
「でもダイジョーブ! ボクが勝てばモウマンタイ! ボクが勝ったらホントのホントになんでも言うこと聞いてもらうよ、トレーナー?」
あのクソガキが勝ったら言うであろうことに比べれば、何言われても誤差みたいなもんだ。でも金かかるのはやめてくれな。
でもなテイオー。ライスさん今回ガチかもしれんくてな、右目に鬼宿っちゃってるかもしんないのね。油断するなよ。
「あっ、そっかぁ……。それは……ちょっと、ヤバい? もしかして……」
ふむ。やっぱりか? あの状態のライスさんが負けたことないからな……。
「う〜ん……でもトレーナー。ぶっちゃけさ、ステイヤーが中距離出てくるとか舐めてるでしょって思ってるよ。流石に芝2500でボクが負けるわけなくない? これでもボク、去年ぶっちぎりで勝ってるんだけど」
オメーは強ェーからなぁ。
「……でも、アヤベさんもタイシンさんもネイチャさんも、すんごいトレーニングしてますよ。ちょっと見に行ったんですけど、前見た時より速くなってて……。あ、でも別に先輩たちが勝つぶんには問題ないんでしたっけ」
「っていうか、この話伝えといた方がいいよね、一応アルファード解散の危機なんだし」
「そもそもトレーナーさんは、ライスさんが勝って、アルファードを解散しろーって言ってきたらどうするんですか? ホントに解散しちゃうんですか?」
……そこが問題でな。
ガキどもがおれをじーっと睨んでいる。おれは観念した。
くそ、分かった。正直に話す。大明神とも相談してたことだ。元々な、ケアチームとしてか、レースチームとしてか、どちらか一つに絞るつもりではあった。ケアチームとしてのアルファードは、おれが抜けても回るように準備もしてる。ツテのある病院の人頼ったりしてな。
「……えっ、そうなの? 別に今の感じでもいいじゃん」
バカ言うな、おれが死んじゃうだろがい。
アルファードを設立したのはおれだ。すぐ怪我だの故障だの、メンタルやばいですとか言い出すガキどもの面倒を見てやるためだ。おれの本分はそちらにある。その適性もあると思っている。ライスの言い分は正しい。ただし、それが余計なお世話であることを除けば。
レースチームとしておれが面倒見なきゃならんのは、キタサン。ぶっちゃけオメーだけだ。他の連中は他所行ってもやってける。古巣もあるだろうしな。だからまあ、ネイチャあたりにおまえのことを頼むってのも、ない話ではない。
「……なんですか、その他人事な感じ。あたしをスカウトしたのはトレーナーさんですよね。だったら最後まで責任取ってくださいよ」
……分かってるよ! だから迷ってんじゃねーか!
おれが苦々しく吐き捨てると、ガキどもは驚いたような顔をした。
「……あ、そっか。トレーナーさんも、どっちにしようか迷ってるんですね」
そうだよ、悪いかよ。
「いいえ? 悪くなんてないです。意地張ってないで、そうならそうって言ってくれれば、あたしだって……」
ンだよ。
「……べっつにー! なんでもないでーす!」
クソガキ5号はいきなり元気になった。なんなんだよ。
「キタサンは現金だねー。で、結局やることは変わんないってことでいいんだよね。とにかく有馬で勝つ! で、トレーナーには、当分ボクのドレイになってもらおっかなー」
このガキ、マジで……。
「じゃ、ネイチャたちにこのこと伝えてくるよー!」
おい待て。ちょっと待て。
「エ? ナニ?」
おまえから連中に言うとまたぞろ拗れそうだ。おれから言う。
「……別にトレーナーがそうするんならそれでもいいけどさ。キタサン、どう思う?」
「えっと、もっと拗れそうです……」
言ってろクソガキめ。おれはため息をついて重い腰を上げた。
-
おれは3人を部室に集めた。キタサンとテイオーは既にランニングに出ている。
実はかくかくしかじかでな。ライスさんがやばいかもしれんが、まあテイオーかおまえらが勝てば何の問題もない。ということでがんばれ。以上だ。
「……」
「……」
「……」
3人娘はおれの話を静かに聞いたのち、ちらっと視線だけで会話した。まず、ネイチャが口を開く。
「せんせーさ。バカにしてるの?」
えっ、し……してないです。
「はぁ〜〜〜……。だから言ったのに。アタシは、何度も何度も言いましたよ。どうせせんせーはアタシの言うことなんて聞かないだろうな〜って思ってましたけど、何度も、何度も言いましたよ」
ええ、はい、そうですね……。
「ついにこうなっちゃったかぁ〜〜……。はぁぁぁぁ〜……。まぁ時間の問題でしたよね〜……そりゃそうかぁ〜〜……」
ネイチャは、それはそれは深いため息を吐いた。後ろの2人が腕組みをして黙っているのが不気味だ。どうやら今はネイチャのターンなので黙っているようにも見える。
ネイチャは顔を上げると、おれの目ン玉をまっすぐ見据えて、クソ真面目な顔で言う。
「あのね。ライスが有馬で勝っても負けてもしこりは残るよ。問題の本質は勝敗なんかじゃないもん。せんせーがライスとちゃんと話さないからこうなってるんだよ、分かってるの?」
おれは……叱られていた。正論を叩きつけられている。
ネイチャさん。言い訳をしてもよろしいか。
「ダメ。黙って聞いて。今はアタシが話してる」
ずい、とネイチャさんが前に出た。おれは一歩下がった。するとその分ネイチャさんが前に出た。おれはもう一歩下がった。その繰り返しにより、おれは壁際まで追い詰められていた。
「アタシはさー、どっちかって言うとライスの味方なんだよね。せんせーが苦労してるのは知ってる、だったら手放したっていいんだよ。でもなまじ能力ばっかりあるから、どっちも出来ちゃうんだよね、知ってる」
あのな!
「──黙って聞いて。それとも、力づくで黙らせた方がいい?」
おれは怖かったので黙った。
「アタシはアルファードが解散したっていいよ。せんせーがそれで、ホントにやりたいことに集中できるなら、そうしたっていい……そうして欲しいって思ってる。ちょっと寂しいですけどね。だけどなんにも言わずにそうするのはダメだよ」
おれの信用が無さすぎる。流石に言うわ、そんぐらい──
「言わないよ。せんせーは1番大事なことは誰にも話さない。誰にも踏み込ませない。ライスの言った通りじゃん。助けるだけ助けておきながら、自分はそうされるのが嫌だなんて勝手だよ。そうでしょ?」
あの、ネイチャさん、もしかして怒ってるの?
「うん。キレてるよ。ぶん殴ろうかなって思ってる。どうしてアタシがキレてるかは、今、説明しているところ」
な、なんでキレてるんだ……? おれはさっぱり分からなかった。え、話繋がってる? えこれ連続した話なのか? そう思ったが口に出せるはずもない。
「せんせーが話したくないことはアタシも聞かない。だけど言わなくても察してくれなんて……アタシはそこまで都合のいい女じゃない。待ってくれって言うなら待つよ。話したくないって言うなら聞かないよ。でも、そのくらいは言って欲しい。それが最低限の責任だよ、そんなことも分からないの」
え、えぇ……?
ネイチャに対して適切な返答がなんなのかおれには分からなかったが、ネイチャは言いたいことを言ったようで、おれに背を向けた。タイシンとパチンとハイタッチをして、今度はタイシンがおれに近づいてくる。
「じゃ、次アタシの番ね。言っとくけどアタシはネイチャほど優しくないし愛想も良くない。だから一言言わせてもらう。──アンタは素直じゃ無さすぎるんだよ! どうして素直にお礼も受け取れないわけ!?」
お、おまえが言うなよ……。え? それアリなん? ツンデレ代表のタイシンが言っていいんか。言っていいのか。ルール無用なのか。
「……それがアンタの、コミュニケーションの取り方なんだって知ってるよ。どうでも良いことばっかり喋るのに……ああもうイライラする。もっと真面目にやらんかいッ!」
えええええええ!?
お、おまえにそんなことを言われる日が来るとは……思わなかったぜ。あと言わせてもらうが、おれは口以外は案外真面目だったりするんだぞ。
「だ・ま・れ!」
はい。黙ります。
「……ネイチャのチームに行って、トレーニングして。アンタが、どんだけアタシのこと考えてトレーニング計画作ってたか分かった。そのくせ、そんなこと一回も言わなかった。テキトーなことばっか言ってるクセに、そういうところがムカつくんだよッ!!」
そりゃ、オメーにしおらしくされても困るし……。
「だ・ま・れッ!」
はい。黙ります。
「ッ、はぁ〜〜〜〜……。アタシのトレーナーはホントにどうしようもない。言っとくけど、アルファード解散してもアタシはヨソに移る気ないから」
えっ。うーん……まあ、元々そんなんだったしな……。別にいいか。とか思ってたらネイチャがぎょっとした顔をしている。
「それアリなの!? だったらアタシも! アタシもそうする!」
おまえなんかさっきいい事言ってなかったか? アドマイヤ先生が額に手をやってため息をついている。
「とにかく! アタシが有馬で勝ったら、アンタ、覚えときなよ。マジで」
おまえのワガママを聞かされるのは今に始まった話じゃないが……。
「っさいッ! このッ!」
タイシンがおれを蹴っ飛ばそうとしたが、おれは予測していたので受け流した。一本調子ではいつまでも通じないってこった。次ァもっと工夫するんだな。
「ちっ。はぁ、まあいいや。アタシの番終わり。アヤベ、あとよろしく」
「ええ。分かったわ」
パチンってハイタッチした。その一体感はなんなの? はぁ、まあアドマイヤ先生はネイチャみたいにガン詰めして来ないだろうし、暴力に訴えることもないだろ。
アドマイヤ先生は軽く腕を組んでおれを見た。無表情でただ見てくる。
……な、なんか言ってくれ。
「いえ……。その、別に私はあなたに言いたいことは……特にはないから……正直、何を言おうか困っているの」
えぇ。じゃあ何か。なんかノリで腕組みとかしてたの? 雰囲気に流されてたの?
「……だったらなんだと言うの?」
開き直った。マジか。アルファードに入ってからこっち、アドマイヤ先生の面白化が止まらんぞ。
「はぁ……。別に、アルファードをどうするのかなんて、あなたが作ったチームなんだから、あなたの好きにしたらいいでしょう。あなたの性格については、直せと言っても無理だろうから……そうね、言うだけ損──でしょう?」
よくご存じで。え、じゃあアドマイヤ先生のターンはこれで終わりか。
「……そういうわけでもないわ。ケイ、カレンに冷たくするのはやめなさい」
おっと、話が変わってきたな。おまえはヤツの味方なのね……。
あのなぁ。あいつはもうどうしようもねェぞ。優しくしても冷たくしても無理だった。爆弾からは離れるに限るが……。
「……強くは言わないわ。だけど……あなたの方にも、問題はあるでしょう」
言ってくれるな。おまえに言われンのが1番キく。
「…………」
……言いたいことがあるって顔だな。
「あなたこそ……私に言いたいことがあるんじゃないの?」
ねぇよ。
一つとして、おまえに言いたいことなどあるはずがない。あっていいはずもない。そうだろ。
「……なら……だったら、私にもないわ」
……。そうかい。おまえが言うなら、そうなんだろうな。
我ながらどうしようもない。おれは金庫の鍵をその金庫の中に入れたまま、その扉を閉めてしまったのだ。その金庫を開けるためには金庫の中の鍵が必要だ。デッドロックってヤツだ。
おれはずっと、その金庫の前に突っ立ったまま、誰かがそれを開けようと試みるたび、無駄だからやめとけって言っては……おれは一体、こんなところで何をやっているんだと、答えのない自問自答をしている。
なぁ。おれは一体いつまでこんなことをやればいい。
「…………、………………、………………」
……ああ。分かってるぜ。おまえがおれを許すハズもないのにな、忘れてくれ。
「ッ、ちが──……、…………」
違う、と言おうとしたのか? だが結局その言葉を飲み込んだ。まるで泣きそうな顔で……なんて顔をしてやがる。
おれは何かを言おうとしてやめて、近づこうとしてやめて、離れようとしてやめて……そのままバカみたいに突っ立っていた。突っ立ったまま、被告人が裁判長をただ見上げるように、ヤツを見ていた。そしてずっと、判決が下るのを待っている。
あいつが死んだあの日から、おれはずっと、おまえが判決を下してくれるのを待っている。
アドマイヤベガは、口を開いては閉じ、開いては──
「ち、中止! 中止! 中止です! 全部中止! えー中止です中止! 全部中止!」
ネイチャが叫びながら飛び込んできた。
「ほんっっとに、あーもー! なんなの! その重たいカンジやめてくれます!? 気まずいでしょうが! 触れづらいからやめて!? 2人っきりでやってくれます!? いや2人っきりでやるのはもっとダメでしょ!? 絶対ダメだからね!?」
……ネイチャ。おまえ、言ってることがメチャクチャだぞ。
「うるさーい! なんの話か聞かないアタシの気遣いに感謝して!? っていうかそう言うとこだからね!? せんせーはアタシに甘えてるんだよ! カノジョでもないのに!」
そうね。いつも助かっている。
「どういたしまして、じゃないから! あーもう! こっちはうだうだやる気なんてないの! はぁ……もういい。有馬で勝ったら何もかも白状してもらうよ。せんせーの昔話! 話してもらう。必ず、せんせーの口から話してもらう」
断る。その要求についておれは譲歩するつもりはない。
「ネイチャ、それアタシも賛成。有馬で勝って、それでもコイツが言うこと聞かないなら力づくでヤろ。……アヤベも!」
「えっ……い、いいえ。私は……」
「うだうだ言うな! 今日はもう終わり! トレーニング行くよっ!」
ガキどもが強引にヤツの手を取って部室から連れ出していった。最後に、何かの言葉を求めるようにおれの方を振り返った──冗談じゃねえ。おまえはおれに一体何を言わせたい。分かってんのか。それすら分からないから、こんなことになっちまったんじゃねえか、アヤベ。
-
……というわけでな。ヤツらが勝つと面倒なことになる。マジで負けンなよ、テイオー。
「も、もっと拗れた……」
テイオーが頭を抱えている。
「と、トレーナーはさ………………バカなの? ネイチャたちの心に火をつけて困るのは誰なの? 言ってみ?」
ライバルのやる気が上がって困るのはおまえだな。
「そうだよね。で、ボクが困るとトレーナーはどうなる?」
当然、おまえに勝って欲しいおれも困る。
「そうだよね。え? これボク、完全に巻き込み事故じゃんね。なんでボクトレーナーのために走んなきゃいけないの? こんなヘビーな展開のために?」
そうなる。事ここに至ってはやるしかないんだよ。ごちゃごちゃ言うな。
「トレーナーを殺すよ? 今、ここで」
テイオーがキルアの兄貴みたいになった。
おれとテイオーの下らない勝負は、いつの間にかぐちゃぐちゃになった人間関係の糸に絡め取られ、どうしようもない運命の輪に変わってしまっていたのだ。なぜこうなる。
「だから言ったじゃないですか。もっと拗れそうですって……」
キタサンと言えば完全に他人事だ。アホくさって顔に書いてある。
「はぁ。アホくさ」
キタサンは完全に興味をなくしてスマホをいじっている。一応これ、練習終わりのミーティングという体なんだが。
何他人事みたいな顔してんだ。オメーも関係者だろ。
「はぁ。別にいいですけど。じゃ逆に聞きますけど、あたし何か出来ることありますか? ないですよね。別にあたし、トレーナーさんの昔話とか興味ありませんし」
もう逆に安心する。連中ときたら、おれを一体どうしたいのか見えてこない。あいつらは一体何がしたいんだ。何をさせたい。
「トレーナーの昔話ならボクも興味あるなー。わざと負けよっかなー」
おいおいおいおいおい。もう頼りの綱はおまえしかいないんだぞ。それにおまえが手ェ抜いたら多分バレるぞ。そしたらおまえもおれの横で仲良く正座だ。おまえもガチ説教されてみるか?
「念入りに利害関係を強調しないでよ。はぁ……もう懲りた。懲りましたー! ボクが悪かったですー! もうトレーナーのやばい人間関係に巻き込まれて酷い目に遭うのはヤダ! ヤダヤダヤダ! どうしてこんなプレッシャー感じながら戦わなきゃいけないのー!?」
「テイオーさんもトレーナーさんもちゃんと反省するいい機会です。悪いことしたらツケが回ってくるんです」
おれなんか悪いことしたっけな。大体テイオーが悪いだろ。
「ボクのは完全に事故だよ事故。完全にトレーナーが悪い」
「まだ言ってるんですか? はぁ……。あーあ、あたしもネイチャさんたちの方に行こっかなぁ」
「き、キタサン。ぼ……ボクじゃ不満なの? ねぇ見捨てないでよ、ボクを置いていかないで、お願い……」
「えぇ……」
キタサンがドン引きしている。限界だ。これ以上はない。テイオーの精神状態は思いの外ヤバいかもしれん。有馬の出場メンバーの視線がどこにいても突き刺さるらしい。特にスカーレットのヘビみたいな目が怖いんだと。スカーレットはなんでそんなにやる気になってんだ。まさかまだ爆弾が埋まっているのか? おれはそう思ったが、確かめるのが怖かったので放置することにした。
「はいはい、大丈夫です。トレーナーさんを放っておくとロクなことしませんし、どこにも行きませんよ」
キタサンは聖母のようにテイオーを抱きしめた。……キタサンの方が身長は高い。年下なのに構図は完全に逆だ。テイオーはぎゅっとキタサンに縋りついている。おまえそれでいいのかテイオー……。
「はぁ。チーム選び、完全に間違えちゃった。やっぱり今からでも間に合わないかなぁ」
もう遅いぜ。諦めて受け入れるんだな。
……本番まであと2週間もない。つまり今年もクリスマスは楽しめそうにない。もっとも、いい子にしてなかったからサンタは来ないだろうが。
あ、そういや明日も忘年会呼ばれてんだった……。
「またですかぁ? 食べてばっかだと太りますよ。えーっと、次の当番誰でしたっけ……」
その当番というやつが元凶だ。それが悪い……いや、本当はわかっている。そんなわけはなく、原因はもっと別のところにあるとおれはわかっていたが、叫ばざるを得なかった。
勘弁してくれ!!