ウマ娘の頭悪いサイド   作:にゃんこぱん

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やってやりますわ!

 ハガレンで学んだように、世は等価交換である。よって、与えた分だけ返せと言われれば、そのようにしなければならない。それがルールだ。

 

 エリには恩がある。主にはそれは金の恩というヤツだ。異国の地で同じ日本人同士という親近感がなかったとは言わないが、それは本質ではない。当時のおれには大概余裕がなかったから、馴れ馴れしく話しかけに来るようなヤツの存在は、精神的な余裕を生み出した。

 

 全力疾走はいつまでも続けられない。長期的な目標を達成するにはマラソンのやり方でやらねばならない。ヤツはそうおれに諭し、それもそうだなって思ったので、少しは余裕を持つようになったのだ。おそらくあのまま続けていたら、遠くないうちにおれは潰れていただろう。

 

 貴重な友人というヤツだ。上でもなく下でもなくってのは……言葉以上に得難い。

 

 堅苦しいレストランじゃなくて、緩い雰囲気のお店で飲み直そうと言われれば、断ることなどできない。というかおれも乗り気だった。

 

 当然だが、ブレーキのない状態でおれにアルコールを与えた場合、どうなるかは火を見るより明らかだ。いや明らかだ、ではない。完全にアル中じゃねえか。おれはもうダメだな。

 

 結論から言うと、おれは部室の硬い床で目を覚ました。

 

 アルファードの部室にはベッドが一台置いてある。怪我とか病気したヤツ用だが、普段はもっぱら泊まる時に使っている。そこにクソガキとエリが抱き合って寝てる。なんで?

 

 ガラガラ。ドアが開いた。

 

 トウカイテイオーである。どうも、苦虫を噛み潰したような顔をしているが……。

 

「……オハヨー。はぁ……」

 

 な、なんだよ……。

 

「でけでけでけでけ……デン。クイズ、クイズ〜。いきなりクイズ〜。さあトレーナーにクエスチョン。今日は何の日〜?」

 

 テイオーのテンションがイカれている。わけのわからんことを、徹夜明けのような疲れ切った顔でなんか喋ってる。

 

 ど、どうした……。

 

「こったえて〜。こったえてみよう〜。わっかるっかな〜、わっかるっといいな〜。さあいってみよー。やってみよー。今日は何の日〜? はい」

 

 はいじゃないが……。

 

 今日は有馬だろ? どうした? おまえ……ちょっとヘンだぞ……。

 

「はい」

 

 はいじゃない。しっかりしろ、おまえらしくないぞ。

 

「……昨日、マックイーンいたでしょ」

 

 なんだと?

 

「後、つけてたよ、昨日。まあ気づかなかったみたいだけど……はぁ」

 

 テイオーは隠すつもりもないらしい。普通に全部喋った。

 

「外寒すぎたからマック(チェーン店の方)で時間潰してたんだー。有馬前日にボクは一体なにをやってるんだろうって、すごく惨めな気持ちになったよ。どうしてくれんの?」

 

 い、言いがかりだ……。

 

「キタサンもいたでしょ」

 

 いたね。マックちゃんと一緒に。マックといえば、アイツ! 目ェ合った途端、サッと目を逸らして帰っていきやがって! キタサンもだ、じっとおれ見たかと思えばサッと帰ってったの! なんなの!?

 

「はぁ……」

 

 テイオーは実に憂鬱そうなため息をつくと、テケテケとベッドの方まで歩いていき、朝の寒気のために布団に包まっていた連中の毛布をひっぺはがした。朝起きれない息子を起こすカーチャンのような容赦のなさだった。

 

 な、何をしている……? おれはただ困惑した。行動の意図も意味も分からなかったからだ。

 

「ボク、途中からのこと知らないんだよねー。寒かったし眠かったし、今日のこともあるし、早めに帰って寝たのね。で、トレーナーの様子見にきたら案の定連れ込んでるし。しかも2人も……。たづなさんにチクるよ、部室に部外者連れ込んで一夜を共にしてましたって」

 

 ……口止め料を聞こう。

 

「口止め料ォ〜? ハァ? ボクがそんなもので釣られるとでも?」

 

 お、怒るなよ。そりゃ、褒められた行為でもないが、おまえだってこっそり後をつけてたんだろ。お互い様だ。

 

「あのね。ボクらも悪いって言うんなら、それ、違うよ」

 

 はぁ……そ、そうなの?

 

「あのさあ。なんで予想できないわけ? 後をつけられるってさー。ボクはてっきり分かってやってると思ってたよ。どういうつもりなんだろうなーって」

 

 責任転嫁も甚だしい。おいテイオー、おまえ滅茶苦茶言ってるぞ。

 

「トレーナーこそ。やるならバレないようにやってよ。はぁ、トレーナーと仲良くするようになってからボク、ろくな目に合ってないや」

 

 こっちのセリフだ、こっちの……。

 

 いいか、おれは別にやましいことがあったとか、隠してたわけじゃねーからな。そこんとこははっきり言っとくぞ。そこで文句言われても困る。

 

「ハァ……。ほんっとにタチの悪いトレーナーだな〜。こんなことシラフで言うんだから……」

 

 なんだとこの野郎、さっきから黙って聞いてりゃグチグチと。そもそもおれの後をつけるのをヤメロ! 怖いわ!

 

「だから言ってんじゃん、バレないようにやりなよって。なんでわかんないかなぁ」

 

 そんなことで言い合っていると、ベッドを占領して寝ていたヤツらが朝日によって目が覚めた。

 

「ん、んぅ……あれ。ケイ……ぃ? なんでいるのぉ……?」

 

「…………ふぁ〜ぁ……はぁ。夢じゃなかった。もう、最悪」

 

 なんなんだよ。おれの寝床を奪っておきながら、こいつらは……。そのせいで体がバキバキだよ。

 

 はぁ。朝飯でも作るか。食うやつ挙手しろ。……全員かい。

 

「……二日酔いに効くのをお願い。はぁ……そっか、そういえば私、ホテルとってなかったんだっけ……」

 

 思い出してきた。エリが寝床がないとか言い出して、じゃあ部室のベッドで寝ろよとか言ったような。で、おれは普通にベロベロになって寝てた……のか? おそらくそんな感じか。なんでクソガキ1号がいるかは分からんが。

 

 寝起きの方々がのそのそと朝の支度を始めたのを横目におれは調理に取り掛かった。……テイオー、手伝え。

 

 そう言うと、ノロノロとテイオーは無言で皿の準備を始めた。

 

「……なんなのホント。マックイーンもテイオーも、あの後のことさっぱり話してくれないし、さっさと帰っちゃうし」

 

 あのさあテイオー、おまえ調子どう?

 

「これが良さそうに見えるっての? サイアクだよサイアク。あー、なーんかやる気ないなー。こんなトレーナーのために走ってあげなきゃいけないの、ボク」

 

 あのね、自分の発言には責任持てよ。なんのかんの言って、やるって言ったのはおまえだぞ。

 

「やれって言ったのはトレーナーでしょ。トレーナーこそ自分の発言に責任持ってよね。所属してるチームがどうだからとかじゃなくてさ。実質的にはトレーナーがボクのトレーナーなわけ。自分の立場分かってる?」

 

 ……おれどういう立場なわけ? 教えて欲しいわ。

 

「……ボクもよくわかんないや」

 

 おまえとおれが揃ってわかんねーとか言ってるということは、もう誰にも分からないということだろう。まぁ飯食ったらさっさと準備してレース場行くぞー。

 

「トレーナーさ。そのうちグサッと刺されて死ぬと思うから、背中にジャンプとか仕込んどいた方がいいよ」

 

 なんで後ろから刺される想定なんだよ。それはもう通り魔だろ。

 

 そうして駄弁りながら、朝の時間は過ぎていった。運命を決める日の朝とは思えないほど……二日酔いの頭が痛かった……。もう断酒しよう。おれに酒を与えるとダメだ。ろくなことにならない。

 

 おれはn回目の決意を固めた。そしてその数だけおれは断酒に失敗した。当然だ。なぜなら、最初からやめるつもりなどないからだ。

 

 そうだ。結局おれは口だけなのだ。そして、それをやめるつもりもない。それでどれだけ痛い目にあってもだ。

 

 今回もそうなるだろう。有馬の結果がどうであれ、自分を変えるつもりなど、ない。

 

 

 

 

 -

 

 

 

 

 天才ってのは定義されるものじゃない。天才は物事を定義する側だ。新たな基準を作り出し、比較基準となるようなスタンダードを作り出す側の呼び名だ。

 

 そういう意味で言えば、おれは天才には程遠かった。ただ人より多く時間をかけただけだ。トレーナーになるのもそうだ。すでに道筋が整えられていたから、それを効率よくなぞっただけに過ぎない。

 

 結果に結びつく要素は数えていくとキリがない。どんなに些細なものであれ、それが最後の決定打になることもあり得るだろう。力を入れた方がいいこともある。肩の力を抜いてやった方がいいこともあるだろう。

 

 ふむ。ところで、控え室の空気が最悪なんだが、この場合についてはどうなるかね。

 

「……」

 

「……」

 

「……なんでアルファードで控え室が一緒なわけ。っていうかさ! ボク所属はスピカなんでしょ!? だったら控え室も別々にするべきじゃん!? なんでこんな時だけ……」

 

「まぁまぁ──仲良くやりましょ〜よ。無敗の二冠ウマ娘ちゃん?」

 

「ウッ……。ネイチャの圧が強い……」

 

「つか仲良くやれとか無理でしょ。これから()ろうって時に──まあ、アンタのツラ見てるだけでも、こっちはボルテージ上がってくるからいいんだけど」

 

「た、タイシン先輩も、睨まないでよ〜。ボク、チームメイトになるかもしれないんだよ〜……?」

 

「……その時はその時ね。ともかく、お互い全力で戦いましょう。はぁ……あなたたちも、あまりテイオーさんを怖がらせないようにしなさい……」

 

「うぅ〜……! アヤベ先輩だけだよ、優しいのは……」

 

 アドマイヤ先生はホントなんだかんだで、基本的に人当たりが良くて優しい。というか年下に対して容赦なくガンくれてるウチの連中の大人げがなさすぎるだけだ。

 

 ……ところでキタサンよ。なぜおまえは大人しいんだ? 一言も喋ってないが……。

 

「……」

 

 無表情も無表情だ。アルファードに入ったことでクール系になったキタサンだが、なんのかんの言って感情表現は豊かな方であるが、今は監視カメラみたいにおれを見ている。

 

 ふむ。なんなんだ。

 

「……はぁ、やっぱりわかんないや」

 

 なんなんだよ。

 

「結局、トレーナーさんは、誰を1番応援してるんですか?」

 

 その瞬間、控え室にいたすべてのウマ娘の視線がおれに突き刺さった。ウッ……やめろ、おれにどう答えても角が立つことを答えさせるのは……。

 

「……? 答えられないんですか?」

 

 ……おまえ、確信犯か。とぼけやがって。白々しいぜ。

 

「トレーナーさんの真似です。さぁ、早く」

 

 おれのことなんだと思ってんだオメーは。くそ……どいつもこいつも、マジな顔で睨んできやがって。なんで睨んでんだよ。ただ1人、テイオーがニヤニヤしたツラをしていたので、おれは言ってやった。

 

 もちろんテイオーを応援しているぞ。

 

「ちょッ……トレーナーッ! この空気で……ボクを巻き込むのはヤメてってば! ボクのことなんだと思ってるの!?」

 

 よし。これでテイオーに矛先が向いた。……と、いかん。そろそろ時間だな。おしゃべりはここまでだ。

 

「……仕方ないわね。だけど発言の意味については後で、ゆっくり、聞かせてもらうわよ。当然、その内容には発言の結果も含まれるわ。──その両目で、ちゃんと観ておいて」

 

 アドマイヤ先生がトゲのある声色で言い残し、控え室を出て行った。ガキどもがチラッとおれを流し見てそれに続く。テイオーもじろっとおれを睨んでいく。

 

 ……はぁ。まあ、もうちっと見送ってやるか。それぐらいはおれの仕事だな。おれも同じく扉をくぐった──目の前にライスさんが立ちはだかっていておれは死ぬほどびっくりした。

 

 ほわッ……な、なんだよ。

 

「……ライスを観ていて。それでもまだ知らないふりをするなら、許さない」

 

 それだけ呟いてライスさんは行ってしまった。こわい。

 

「……トレーナーさん。観客席行きましょう。急がないとレース、始まっちゃいます」

 

 ああ……そうね。行くか……。

 

 おれは後のことに頭を悩ませながら移動した。その途中マックとスカーレットにすれ違った。またおれに黙ってカロリーに沈んだマックには文句が山ほどあったが、今は控えることにした。なんかキリッとした顔をしていたし。

 

 そしてスカーレットさんはヘビのような眼ン玉でおれの姿を捉え、獲物を前にした肉食獣のように、確かに舌舐めずりをした。無言ですれ違うが、おれは頭の中に響く警報を感じ、全身の震えを抑えられなかった。どうやら……まだイベントが残っていたらしいが、おれはフラグを処理することが出来なかったようだ。

 

 うそだろ……。

 

「……すんごい眼、してましたけど。トレーナーさん、多分、この後殺され……い、いえ。なんでもないです……」

 

 キタサンの声色からは戦慄が感じられた。それを直接ぶつけられたおれの感覚は、表現に尽くし難い。

 

 あかん、やべぇ。

 

 

 

 

-

 

 

 

 

 上で待ってたエリと合流し、おれはレース前のざわめきを眺めていた。

 

 もうめちゃくちゃだ。もうめちゃくちゃである。それはつまり、もうめちゃくちゃということだ。

 

「えーと。ケイは何を言ってるの?」

 

「えっと……つまり、もう、めちゃくちゃってことです……」

 

 思うに、愛と憎しみは紙一重だ。無関心から遠ざかるほど、どちらかに傾く。ルカによる福音書に従うなら、曰く──与えよ、さらば与えられん。

 

「はは。愛されてるねぇ。果報者じゃない?」

 

 そういうのじゃない。連中はただ甘いだけだ。甘ちゃんだから、目の前で転んでるヤツに無関心ではいられない。それは……優しさとは違う。

 

「それも優しさだよ。君だってそうするだろ?」

 

 おまえだってそうするさ。しかしそれは分類としては道徳の範囲だ。優しさというのは、個人の性格に属するものだろう。

 

「……じゃあ優しいって、どういうことですか?」

 

「答えのない問いだね。個人的な見解として、優しさとは結果だと思う」

 

「? えーっと……」

 

「例えば、成績の悪い友人がいるとする。根気よく教えてやれば成績は上がって、本人のためになるだろう。でも友人には意欲がない。本人に嫌がられても勉強をさせるべきだと思うかい?」

 

「えっと、あたしは勉強させるべきだと思います。だけど、無理矢理やらせるっていうのは、ちょっとニガテかも……」

 

「そうだね。本人に嫌われてもやらせるなんて気が重い。そういうのは親の役目だ。だけど、ケイはそういうのをやらせるタイプでね」

 

「……そうですかね? トレーナーさんは、なんというか、本人の意思を大事にすると思います」

 

 あのね。おれのいないとこでやってくれ、そういうのは。おれはそうぼやいたが、エリはふっと笑って無視した。

 

「今のケイならそうだろうね。知っているかい、キタサンブラック。ケイはね、昔、本人のためになると思っていろんなことをしてあげて、それでとても酷い失敗をしたんだよ。だからまず本人の意思ありきというスタンスを取っている。だけど性根は変えられない。言うだろう、病は治れど癖は治らぬってね」

 

 違いない。癖は治んなかった。病もな。

 

「……それ、アヤベさんの……妹さんの話ですか?」

 

 レース場の喧騒の中で、クソガキの言葉ははっきり聞こえた。おれは聞こえないふりをしたかったが、沈黙を許さないような視線を向けて来る。

 

 ウチのチームにはおしゃべりが多くて困るね。誰の影響なんだか。

 

「答えてください」

 

 おれの昔話には興味がないんじゃなかったのかよ?

 

「減らず口ばっかり──エリさん、トレーナーさんって、昔からこうなんですか?」

 

「いや、本人なりに煙に巻こうとしてるんだよ。言いたくないなら言いたくないって言えばいいのにね。そう答えるのを弱さと捉えている。そしてケイはとても強がりで、弱さは隠すべきだと信じている」

 

 おれァ長男なんでな。長男だから我慢できる。炭治郎が言ってた。

 

「ほらね。でも、キタサンブラック。君が本当に真剣ならケイは答えを誤魔化さないよ。というか誤魔化せない。そういう性根なんだ」

 

 何でもかんでも喋っちまうのは勘弁してくれ、友よ。あんまり買い被られると照れちまう。

 

 キタサンよ。知らんようだから教えとくがな、傷口に触れられるとすげー痛いんだぜ。

 

「だが、傷口を放っておけば化膿するばかり。そしていずれは腐り始める。だけど幸いにして心とは曖昧なものだから、手遅れではないかもしれない。……私はね、ケイ。君は今からでも医者に戻るべきだと思っている」

 

 そうだな。おれもそうしようかと思っていたよ。

 

 たがもう手遅れだ。おれってヤツはいつでもそうだ。気づいた時にはもう手遅れになっている。

 

 だってのに、この後に及んで……ずっと迷っている。友よ、おれはどうすりゃいい?

 

「その答えは、君の担当する子たちが教えてくれるんじゃないのかい? 君の失ったものを持っている子達だ。君にはそれが、眩しくて仕方ないんだろ? 羨ましさを覚えると共に、彼女たちがこれから数々のものを失う事実を嘆いている。だけどケイ、この世界はそこまで捨てたものではないと、私は思っているよ」

 

 ……どうかね。おれにはレースのことはよく分からん。

 

「……でも、トレーナーさんはあたしを勝たせてくれました」

 

 走って勝ったのはおまえだろうが。

 

「あたし1人じゃ……絶対、無理でした」

 

 いいや。おまえには才能がある。おれじゃなくても、誰かと一緒に成し遂げていただろう。

 

「ッ、そんなこと──」

 

 キタサン。おれはな、ありとあらゆる2択を間違えてきたんだよ。言うべきところで言うべきことを言えず、言わなくていいことばかり言ってきた。やらなきゃいけないことをやらなくて、やらなくていいことばかりやっちまった。

 

 そんでこの有馬だ。なんなんだ? ここまで来れば喜劇だ。

 

 結局おれの言いたいことは一つだけだ。おれのことなんぞ放っといて、自分のやりたいことをやればいい。

 

「……妹さんのことを話してくれたのは、アヤベさんです」

 

 ………………は?

 

「昨日の夜、聞きに行きました」

 

 …………あいつが話した、のか?

 

「全部じゃないです。……あたしは、残りはトレーナーさんから聞きたいと思ってます」

 

 ……………………。

 

「明日、あたしがレースで勝ったら話してください。そう約束してください」

 

 ……いや、断る。知りたいならアヤベから聞け。

 

「トレーナーさんが話してください。他人には、嫌がられても勉強をやらせるんですよね?」

 

 …………ああ、そうだ。

 

 そうだ。クソガキに言われなくても分かってる。人にそうしといて、自分がそうされるのが嫌だなんて勝手な言い草だ。だからこんな目に遭ってるのも分かっている。

 

 ──知ったことか、そんなもの。

 

 クソが。観てろっつーなら観ていてやるよ。クソガキどもの駆けっこがどれほどのモンか──やれるモンならやってみろ。

 

 

 

 -

 

 

 

レースが始まる。

 

 

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