ウマ娘の頭悪いサイド   作:にゃんこぱん

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わたくしが忘れられてますわー!

 変わらねェな、この町は。

 

「遠くから見れば、そう見えても仕方ないわ。だけど……家の近くの駄菓子屋さん、覚えてる? あそこ、潰れたのよ」

 

 オイマジかよ。じゃあ今どうなってんだ。

 

「駐車場。……それだけじゃないわ、個人店もかなりの数がシャッターを閉めて、今は大型モールが出来たの」

 

 嘆かわしいぜ、これも時代の流れか。はぁ……肉屋のコロッケもか?

 

「あそこは無事。だけど、あそこのおばさんが腰を痛めてしまって、近いうちに閉めるかもって。その話を聞いたのもずっと前だから、もしかしたら多分、もうやってないかもしれない。……変わらないものなんてない。この町も、少しずつ、だけど確実に……」

 

 寂しいね。故郷から人情味が失われていくってのは──否が応でも想起する。どれもこれも思い出ばっかだ。あいつも死んで、思い出の地も無くなって、そうなりゃようやく……忘れられるかね。

 

「……あなたには無理よ」

 

 そうか?

 

「ええ」

 

 ……そうかい。おまえが言うなら、そうなんだろうな。

 

 早いとこ帰るとしよう。車出してもらえるんだっけか。

 

「駅前にもう来てるって。行きましょう」

 

 スーツケースを引きずってアヤベが歩き出した。おれも一つため息を吐くと後を追う……の、前に。

 

 ……どうしたってんだ。

 

「……なんでもないです。ふんっ!」

 

 クソガキ5号が拗ねる子供のようにそっぽを向いていた。

 

 ……置いてくぞ?

 

「置いてったら許しませんよ」

 

 イヤ……だったら来いよ。

 

「言われなくても行きますよ! ……なんなんですか。二人だけの空間作っちゃって。あたしは除け者ですか、そうですか」

 

 なんなんだ、めんどくせェな。おれはクソガキを放って歩き出した。こんなことになったのは、確か……おれは空を見上げて回想シーンに入ろうとしたが、面倒だったのでやっぱりやめた。

 

 ……今年中にGⅠ勝たせられなかったので、おれはクソガキとの賭けに従って、今後ヤツの言うことはなんでも聞かなければならんくなった。正直おれは舐めていた。もっとちゃんとしてくださいー、とか、そんなことしか言われないと思っていたし、言われたら言われたで、なあなあで行けるかなって思ってたんだが。

 

 ……おまえさ、結局なんでついてきたんだ?

 

「……やっぱり迷惑でしたか?」

 

 やめろ。今更申し訳なさそうな顔をするな、白々しいぞ。

 

「あは。バレちゃいました?」

 

 おれはゾッとした。クソガキ1号ことカレンチャンの態度と重なったからだ。そのうちコイツもリゼさんみたいになっちまうのか……?

 

 はぁ。いいから行くぞ……。今度こそおれは歩き出して、後ろからゴロゴロとスーツケースを転がす音もついてくる。

 

 はぁ……全く、帰省が憂鬱なら、トレセンに戻るのも憂鬱だ。なぁ、どう思うよ。ライスさんの件といい、ダスカの件といい、シュヴァちの件といい……おれは学園に戻ったら処理しなきゃいけない件が溜まってんだよね。

 

「……だったら、どうして帰る気になったんですか? アヤベさんに聞いたんですけど、ずーっと帰ってなかったんですよね。……もしかして、家族と仲が悪かったりするんですか?」

 

 いんや。カーチャンは口うるせーし、戦って勝てたことないけど、別にそういうんじゃない。ちと思うところがあったのと、あとは普通に仕事だな。

 

「仕事? ……えーっと、もしかして、将来有望なウマ娘のスカウトとか?」

 

 冗談じゃねぇ。新入りを取るとロクなことにならん。そういうのはおまえだけでお腹いっぱいだ。予想していたが背中を軽めに殴られる。肉体言語で抗議するのはやめような。

 

「……ウマ娘のスカウトじゃなかったら、何ですか?」

 

 まぁスカウトではあるがな。

 

「……? ウマ娘じゃないなら、誰を?」

 

 ろくでもない歳食ったおっさんだよ。

 

 

 

 

  -

 

 

 

「久しぶりだね、ケイくん」

 

 ……くん付けはよしてくださいよ。ガキんちょみたいで恥ずかしい。

 

「はは、すまないな。あまり身長が伸びてないものだから、ついね」

 

 勘弁してくれよ、親父さん。そりゃ酷ェや。

 

「……それとアヤベも、おかえりなさい」

 

「ええ。ただいま、お父さん」

 

 ……親父さんは前に見た時より老けていた。白髪も増えたらしいが、黒染めしてるってアヤベが言ってた。しかし雰囲気は誤魔化せない。

 

 何年振りだ、この人たちに会うのは?

 

「それで、そっちが……後輩のキタサンブラックさんだね。いらっしゃい、まぁ上がって」

 

「お、お邪魔しますっ!」

 

「まぁまぁ、そう固くならなくていいのよ〜。昨日のレースお父さんと見てたのよ、ケイくんの担当で、アヤベさんの後輩のレースだ〜って。惜しかったわね〜、お父さんなんて年甲斐もなく叫んじゃっててね?」

 

「母さん、やめてくれ。恥ずかしいじゃないか」

 

 ……変わらない。この人たちはずっと、穏やかで優しい。陽だまりのような人たち、今は……3人家族になっても。

 

「コホン、ともかく上がってくれ」

 

 いや、おれは挨拶だけです。カーチャンとこ行かねーとまた怒られちまうんで。そういやカーチャン、家に帰ってます?

 

「ああ、さっき買い物に出る時にばったり会って話したんだが、せっかくなら一緒に夕食を食べようって話になってね。こっちの家で、みんなで食べよう」

 

 そりゃ助かります。おれは軽く頭を下げながら、思い通りにこの場から逃げられなかったことを悔やんだ。この人たちと話していると申し訳なくて死にたくなる。

 

 アヤベが玄関を上がり際におれの体を軽く叩いた。……んだよ、分かってるって。

 

 "ただいま"なんて言えるほどおれは恥知らずではなかったから、お邪魔しますと、そう呟いた。

 

 

 

/

 

 

 

 

「おれがやりますよ。おばさんは座っててください」

 

「あら、そう? もしかして、久しぶりにケイくんの手料理が食べられるのかしら?」

 

「中坊の頃からおれも結構ウデ上げたんすよ。材料は自由に使わせてもらいます。いいすよね」

 

 慣れた様子でキッチンに向かったケイを横目に、アヤベはキャリーケースを持ち上げた。

 

 キャリーケースで帰ってきたアヤベと違って、ケイの荷物はリュック一つだけだった。珍しく私服だったが、あれは……多分、テイオーさんが選んだ服だな、となんとなくキタサンは当たりを付けた。

 

「先に荷物を置きましょう。ついてきて」

 

「あ、はい!」

 

 キタサンが帰省について来たいと言い出して、アヤベはあっさりとそれを受け入れた。"なら、私の家に泊まるといいわ"。

 

「……一応聞いておこうかしら。空き部屋か、私の部屋。どっちで寝たい?」

 

「えっと、なら、アヤベさんの部屋がいいです。あたし、先輩と一緒にお泊まりって初めてで」

 

「そう。なら、こっちよ」

 

 階段を登って2階。ドアの前には、可愛らしいネームプレートが吊り下げられている。"アドマイヤベガ"と……空き部屋には何も釣り下がっていない。

 

 半ば予想していたことではあったが、アヤベの自室は……何というか、本人の趣味全開だった。クッション、ぬいぐるみと……布団乾燥機……?

 

「布団を運んでくるわね」

 

「え、あたしがやりますよ」

 

「お客さんにやらせるわけにはいかないわ。待っていて」

 

 アヤベの微笑みに逆らいがたいものを感じて、キタサンはおとなしくせざるを得なかった。

 

 待っている間、手持ち無沙汰だったので、なんとなくキタサンは部屋の観察を続けていた。人柄が前面に出ている空間で、よく整頓されている。定期的に清掃されているらしく、埃も積もっていない。

 

「……漫画? アヤベさん、そんなの読むんだ──」

 

 珍しいものを見つけて、悪いと思いつつもキタサンは好奇心に負けて手を伸ばす。アヤベがワンピースを読んでいる姿はまるで想像つかないが……と、ふと気づいた。

 

「……そっか、これトレーナーさんのだ」

 

 脈絡のない連想だが、多分正しいんだろうな、とキタサンは確信を持っていた。この部屋に入り浸って、ジャンプ作品を読み耽る少年時代のトレーナーの姿が目に浮かぶ。最新刊を買っては部屋に持ち込んで、アヤベが呆れている姿を幻視した。

 

 あの人たちは、本当に幼少期を共に過ごしたんだ。

 

 その事実は不思議な感触がした。あんな人でも、子供だった時代が……? キタサンは、机に飾ってあったコルクボードに視線を移す。現像された写真がいくつも貼ってある。アヤベにそんなイメージはないが、写真の中の、アヤベそっくりの子の、花が咲くような笑顔を見て、また理解した。

 

 こっちは多分、妹さんの趣味だ。写真に映るのが好きだったのか分からないが、多分、強引にアヤベに押し付けた。そして多分、アヤベはこう言ったはずだ。

 

「……仕方ないわね、って──」

 

「何が仕方ないのかしら?」

 

「ひゃぁっ!?」

 

 布団を抱えていたアヤベに背後を取られていた。キタサンはかぁっと赤面して押し黙るしかない。ドアが開いたことにも気が付かなかったなんて。

 

「……その写真に興味があるなら、私に直接聞きなさい。隠すつもりはないから」

 

「あ、いえ……そういうつもりじゃなくて。それに、知りたいなら……トレーナーさんから聞かせてもらうつもりなので」

 

「そう」

 

 アヤベは布団乾燥機の準備を始めた。本当にふわふわ好きだな、この人。しかもキタサンの布団の方を先に乾燥させようとしているあたり優しい。

 

「夕食ができる前にお風呂に入りましょう。多分もう沸いていると思うから、先に──」

 

「一緒に入りましょ、アヤベさん!」

 

「え? ええと、その──」

 

 キタサンは、アヤベがどう返事をするのか、もう分かっていた。

 

「……仕方ないわね」

 

 

 

 

-

 

 

 

 

 ゴンと頭をぶっ叩かれた。ンだコラァ!

 

「コラァじゃないだろこのバカ息子。あんたねぇ、帰ってくるなら連絡の一つも寄こさんかい! 今朝だよ今朝、あたしがそれ知ったの。分かってんのかいバカタレッ!」

 

 カーチャンだった。久しぶりだな、カーチャン。元気そうで何より。

 

「あんッたねぇ。連絡しろと何回言ってもまともに返事をしやしない。で! いつまでいんの」

 

 おれは手元の火力を調整しながら鍋を振るった。今日は中華である。カーチャンはズカズカと人様の家のキッチンに踏み込んで、シンクの皿をぱぱっと洗って片付け始めた。

 

 決めてねぇが、三が日終わる前には帰る。こっちにゃ用事があって来たんでね。仕事が山積みなんだ、さっさと帰らにゃ。

 

「ああそう。あんたの部屋ね、いい加減片付けちまうからね、後で帰って、いるもんといらないもん仕分けときなよ」

 

 いらねーよ、全部捨てといてくれ。

 

「口じゃそう言ってもね、いざ見てみたら大事なもんも混ざってるだろあんた。大体後であれどこやったーとか言い出しても知らないよ」

 

 ちっ、わーったよ。メシ食ったらやっとく。

 

 カーチャンは相変わらず、大阪のおばちゃんみたいな感じだった。幼少の頃から柊木家とアドマイヤ家……ここでは便宜上アドマイヤ家と呼ぶが、交流が深かった。慣れたものだ、カーチャンは洗い物を片付けて、後ろで親父さんとお袋さんとぺちゃくちゃ喋ってる。

 

 このキッチンに立つのも久しぶりだ。懐かしい、最初はお袋さんに色々教えてもらいながらやっていた。おれが苦戦していると、後ろの方からあいつがよくちょっかいをかけてきて──

 

「手伝うわ」

 

 ……一瞬だけ、見間違えそうになった。

 

 風呂上がりらしい。キタサンも……風呂上がり? こんなに早く……? 妙だな。

 

「……どうしたの?」

 

 いんや、なんでも。もう出来る。皿持って来てくれ、デカいの。

 

 夕食の様子は割愛する。カーチャンがぺちゃくちゃ喋って、キタサンが愛想の良さを存分に発揮して気に入られていたぐらいだ。おれと言えば、自分の作ったメシに今更なんの感動も感じなかった。

 

 ともかく、おれは一刻も早くこの家から立ち去ることだけを考えていた。

 

 

 

 

/

 

 

 

 

 家を出て、肌寒さにマフラーを巻き直した。キタサンがお父さんたちとずっと話しているのを放って、私は歩き出す。

 

 ──吐き出した息が白い。

 

 自然の色が濃く残る町。それでも別に、決定的に田舎というわけではなくて、かといって別に栄えているわけでもない。ここは私の故郷、あの子が眠る町。

 

 この町は山間部に囲まれていて、町と接する部分はコンクリートで土砂崩れを防止してある。上の方には隣町への道路が続いていて、そこへのショートカットで階段が上へと続いている。

 

 じゃり、と音を立てて、私は上がって行った。あの場所からこの町が一望できる──ケイが、あの場所を好んでいて、自宅の近くでふと見上げると、ケイがあそこから手を振っていたこともあった。

 

 星を見ようと思っていた。冬の空は澄んでいて……冬でも天の川が見える。私は、その景色が好きだった。

 

「……ケイ?」

 

「……アヤベか。奇遇だな」

 

 落下防止用の手すりに体重を預けて──振り返りもしなかった。静かな夜、車が一台だけ道路を走っていって、ライトがシルエットを照らした。

 

「何をしているの?」

 

「部屋の片付けが面倒でな。サボってるところだ」

 

 ──嫌な、匂いが、した。

 

「……ケイ、あなた──それ」

 

 焦げるような独特の匂い。蛍のように浮かんでいるオレンジの光から煙が立ち昇っている。煙草だ。

 

「……ああ、悪い」

 

 ケイは小袋のような携帯灰皿に殻を押し付けた。

 

「……どうして?」

 

 なぜだか、ケイはそれとは一生無縁だと思っていた。

 

「ストレス解消になるらしくてな。試してみている」

 

 私は何かを言おうとして、その度に、自分が何を言いたいのか分からなくなり、口を閉ざした。沈黙を破って、ケイがつらつらと語り出す。

 

「肺胞を通して吸収されたニコチンは動脈流のラインに乗って、わずか10秒ほどで脳組織内へ──」

 

 カンペを読み上げているような無感動さで、ケイはただ夜空を見上げている。 

 

「親油性であるニコチンがこうまで早く効果を発揮することには、ヒト血漿アルプトンやα-1酸性糖タンパク質との結合率の低さが関係している。結合制限を受けないために活性を維持し、脳血流に乗ってニコチン性受容体に到達し、外因性アゴニストとして結合──」

 

 肺に残った煙を吐き出して、ケイはずっと空を見上げている。

 

「受容体のコンフォーメーションの変化により、イオンチャネルが開き、細胞内に正イオンが流れ込む。この回路がいわゆる報酬系──本来はアセチルコリンを受け取る回路だが、ニコチンの働きはこれを騙し、結果めでたくドーパミンが放出される……なんてな」

 

 その内容なんて、一度に言われても理解できるはずもない。体内の仕組みは難解で、私なんかにはとても太刀打ちできないと思う。だけど……ケイは、ずっとそれに向き合って、そしてやめてしまった。

 

「アセチルコリンは脳の認知や覚醒に関わる脳内物質だ。煙草に眠気覚ましの効果があるのもこれが理由で、ニコチンがこいつによく似ているから、頭を騙すことが出来る。……最初に試したヤツは偉大だよ。よくもまあ、こんなことを思いついたもんだ」

 

 ペラペラと話しているが、意識はここにはなかった。ケイはずっと空を見上げて、その先に何かを見つけようとしているように見えた。

 

「……匂いが消えないわ」

 

「そりゃニコチンは油脂性だからな。こびりついて中々落ちねえ。……吸う時は選ばんとダメらしい。おまえはすぐ気がつきそうだ」

 

「……やめなさい。体に悪いわ」

 

 ケイはようやく、私の方に顔を向けた。

 

「おまえの言うことはいつも正しいよ、アヤベ。だがおれは天邪鬼なんでな。やるなと言われるとやりたくなる」

 

 私は黙って、ケイの手から強引に煙草の箱を奪い取って、眼前に広がる向かって──思いっきり投げ捨てた。

 

「や、やめろよ、ポイ捨ては……」

 

 私は無視した。

 

 ケイがそうやって、自分のことを他人事のように扱うのを見ると、嫌で、苦しくて──私はそれが辛かった。今更都合のいいことを、と、冷静な自分がそう言っている。

 

「はぁ……。ウマ娘ってのは嗅覚も鋭いって言うからな。確かにマナーにゃ欠けるか。心配せんでも、バレないようにやるよ」

 

「……そういうことじゃないわ」

 

 この町には過去だけが存在し、感傷で濡れている。

 

 ケイはこの町に帰って来てから一度も笑えていない。見たことないような愛想笑いを、お母さんに向けていたのを見た。ずっと、葬式の時のような表情で、ただ──

 

「ケイ、あなた……どうして帰る気になったの?」

 

「あいつの亡霊に会えそうな気がしたんでな」

 

 自分でそう言っておきながら、ケイは失笑した。

 

「……いや、冗談だ。本気にするなよ」

 

 あまりにも酷い言葉で、私には掛ける言葉もなかったから、空を見上げることにした。冬の空は白く青い。子供の頃に観ていた景色と同じのはずだったが、同じとは思えない。

 

「はぁ。懐かしいね、おまえの天体観測に付き合わされたこともあったな」

 

「そうね。あなたは途中で寝たけど」

 

「おいおいおい。機材一式運んでやったのは誰だと思ってんだ。天体望遠鏡、結構重かったんだぞ」

 

「……そうね」

 

 思い出だけだ。思い出だけが残っている。

 

「なぁアヤベ、この星空、昔と同じと思うか?」

 

「どうしてそんなことを聞くの?」

 

「いや。こんなんだったっけ、って思って」

 

「空は変わらないわ。宇宙のスケールから見れば、人の一生は静止しているも同然──」

 

 分かっていた──何もかも分かっている。ケイの疑問について、私はずっと考えていて、だからその答えも知っている。

 

 どうしてあの頃と違うように感じるのか。

 

「だから星空は変わっていない。……私たちが変わったのよ」

 

 ケイは白い息を吐き出して、そうだな、って頷いた。

 

「……だが、変わらないものもある。違うか?」

 

「……いいえ。変わらないものなんてない」

 

 嘘だ。昔と変わらないものもある。何故なら、

 

 私はずっと、ケイのことが好きだからだ。

 

「……そうか。おまえが言うなら、そうなんだろうな」

 

 澄んだ星空を二人で見上げて、私はまた一つ嘘を重ねた。

 

 

 

 -

 

 

 

「そういえば、シュヴァルグランさんの件だけど」

 

 ウッ……。シリアスな雰囲気からいきなりぶっ込んできた……。

 

 な、なんだよ。説明はしたぞ。おれも悪いとは思ってるが、反省は……しているような、していないような……。

 

 じり、とアヤベがおれに一歩近づいた。

 

「あなた、いい加減誰彼構わず手を出すのをやめなさい」

 

 手ェ出してねーよ! 誰がロリコンサンダーだ! あのね! おれはトレーナーとして学園に貢献してんの! そういうのじゃねーから!

 

「……」

 

 アヤベがじっとおれを睨んでいる。おれは弁解を続けた。

 

 そもそも! トレーナーとウマ娘に惚れた腫れたなんぞねーから! そういうのは小娘どもの噂話の中だけの話であって! こっちもいい大人なわけ! わかります!?

 

「……必死になって否定するのは、余計に怪しく見えるけど」

 

 おいおいおい。じゃあもう何言っても詰みじゃねーか。

 

「やっぱりロリコンなんでしょう。軽蔑するわ」

 

 違うよ!? 違うからね!?

 

「……隠すことないわ。年下の女の子に囲まれていれば、好みがそういう方向に向かうのも、仕方ないことよ」

 

 そうかなあ! ホントにそう思ってます!?

 

「大丈夫。ゆっくり矯正していけばいいわ」

 

 あのねえ! アヤベさん!? やめてくれます!? もうこっちはこの後おれにロリコン疑惑の噂が流れて一悶着ある流れまで見えてんの! どうせまたテイオーが言いふらすんだろ!? あのガキマジでホント許さんからなッ! 

 

「……大丈夫よ。私は見捨てないから」

 

 やめろ! その感じやめろ! お願い! マジで! アヤベさんまでその感じになったらもう救いも何もあったもんじゃないんですけど! ねえ! 聞いてます!?

 

「……大丈夫。分かってるわ」

 

 やめろ! ホントに! やめろ! やめて! 

 

 おれの哀れな叫び声が、だだっ広い空に溶けて、そして消えていった。

 




シリアスとコミカルが高速反復横跳びしているのが本作の特徴(?)です
あんまり暗い話はやりたくねーなーとか思ってるんですが……。

・アヤベさん
 おそらく本作1でトレーナーに対する感情がねじれている。過去編はまぁおいおいやっていくんですが、シリアスもボケもいけるのがアヤベさんの長所。というかそうしないと話が重くなりすぎて……。

・アドマイヤ家とは
 ウマ娘の苗字問題って結局どうなったんですかね。田中トウカイテイオーとかそんな感じでしたっけ。この辺マジで藪蛇っぽくてあんま突っ込みたくないんですけど、わかる人いたら教えてください

どうでもいいことなんですけど、本作では行間は基本-で区切ってます。トレーナー視点以外だと/で切ってて、イメージ的にはなんかテキストベースのゲームのムービーシーンっぽいところに使ってますが、正直トレーナー視点があまりにも書きやすいのであんまり使いたくなかったり……。

ともかくいつも読んでくれてありがとうです。
感想とかここすき助かります。
特になんか投稿してから一瞬でここすきつけてくれる方! こっちからはユーザー名見えないけどいつも助かってます! ありがとう!
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