ウマ娘の頭悪いサイド   作:にゃんこぱん

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誰ですの!?

「……て、起きて……」

 

 むにゃむにゃ……。

 

「……きて、起きて……」

 

 うーん……。

 

「起きてくださいッ!!」

 

 ぐあッ! 腹部に衝撃を感じておれは飛び起きた。襲撃!? 

 

 ……襲撃ではなかった。クソガキがおれを枕でぶん殴ったらしい。なんだ枕でぶん殴っただけか。じゃあおやすみ……。

 

「おやすみじゃないですよ。ほら、そういうのもういいですから。起きてください」

 

 おれはクソガキに叩き起こされた。

 

 はぁ。久しぶりに時間を気にせず寝ようと思っていたんだがな。というかなんなんだおまえは。幼馴染なの?

 

「誰がですか。朝ごはん出来てるって、お母さん言ってましたよ。ほら起きて」

 

 お母さんって言うなよ、その質感イヤなんだけど……つーか! なんでぬるっと家来てんの?

 

「トレーナーさんのお母さん、面白い人ですよね。なんていうか、トレーナーさんの悪いとこ全部無くしたみたいな人で。豪快で、話も面白くて、なのに気が利くし、優しいし」

 

 おまえはおれのことなんだと思ってんだ。これはアレか? 担当ウマ娘と腹を割って話そうのコーナーか? お?

 

「腹割って話さなきゃいけないのはトレーナーさんですよ。昨日のご飯の時、あれなんですか。一回もちゃんと笑ってなかったですよね」

 

 やめろやめろ、突っ込むな。おれァアドマイヤ家に弱いんだよ。

 

「……あたし、なんでもトレーナーさんに命令できるんですよ。全部白状しろって言ったらトレーナーさん、そうしなきゃいけないの、分かってます?」

 

 ……その、正直今からでもそれ無しにできん? 無法すぎるだろ……。

 

「絶対ダメですよ。契約書持ってきてるんですから、あたし」

 

 冗談だろ。なんでだよ。

 

「昨日、アヤベさんの両親に見せたら笑ってましたよ。あの子らしいって」

 

 ……まさかと思うが、カーチャンにも?

 

「え? はい。ため息ついてましたよ」

 

 朝からなんてヘビーな展開なんだ。聞きたくなかった……。

 

「……そういえば、ここトレーナーさんの部屋ですか?」

 

 そうじゃなかったらなんなんだよ。つってもほぼ物置みたいになってるが……。カーチャンが片付け面倒くさがって、多分ずっとほったらかしにしてたらしい。

 

 言っとくがな、別におもろいもんもねーぞ。多分。

 

「……」

 

 な、なんだよ……?

 

「別に。なんでもないです。ほら、着替えてください」

 

 はぁ。朝っぱらから……。

 

 ……。

 

 え?

 

「え?」

 

 いや、着替えるから。パジャマから、普段着に……着替えるんだけど。

 

「え? はい」

 

 いや、着替えるから、出てって……?

 

「え? いや、だってトレーナーさんこの前あたしの着替え覗きましたよね?」

 

 え? いや、あれはだって、違うじゃん。

 

「え?」

 

 え?

 

「え?」

 

 結論から言っておれはクソガキの前でパンツ一丁になった。一向に出ていかないし、別に男の裸ぐらいどうってことがないことに気がついたためだ。

 

「……み、見せないでください」

 

 クソガキが顔を両手で覆って、かぁっと顔を赤くしながら指の隙間からガン見してくる。え? それはなんでなんかこう、ラッキースケベ的な感じでやれてるの? 無理じゃない?

 

「で……でも……トレーナーさん、意外と体……引き締まってるんですね……?」

 

 しばらく早朝ランニングしてたからな。定期的にトレーニングさせられるし……。おい、触るな。なんだ、やめろ。

 

「……硬い。不思議な感じ……でも、なんでだろ、しばらく触っていたいかも。味は……?」

 

 味!? やめろ、舐めるな! ブチャラティなの!? おれはお腹に顔を近づけてくるクソガキを引き剥がした。

 

「あうっ……ちぇっ、仕方ないですね。でもこれでおあいこなんですから」

 

 何が? クソガキはごく普通に出てった。パねぇ……。

 

 おれはさっさと着替えてリビングへ向かった。……このボロい一軒家では、歩くと床が軋む音がする。迂闊に走り回ると床が抜けるかもな。

 

 

 

 

 もぐもぐ……人の作ったメシなんて久しぶりだ。

 

 おれはカーチャンのあんまり美味くはない朝飯を懐かしんだ。しかしなんかクソガキが何故か普通にメシ食ってるのはなんでなの? おまえアヤベんち泊まってんじゃなかったっけ?

 

「あんッたねぇ。こんないい子に向かってクソガキだのなんだの言ってんじゃないよ。ほんっとにどうしようもないヤツだね。叩き直してやっておくれよ、キタサンちゃん」

 

「あはは。はい! それはもう、ぜひ!」

 

 ぜひ、じゃないが。大体なぁ、カーチャンはおれのことなんだと思ってんだよ。言っとくがなぁ、トンビがタカ生んだようなもんだからな。おれの年収教えたろうか。

 

「トレーナーさんいつもお金ないじゃないですか」

 

 うるせーぞい。

 

「あんたの財布の中身なんか知ったことじゃないよ。だいたいね、カエルの子はカエルなんだ。自惚れんじゃないよ。あんたはあたしに似て、なんだかんだで適当だからね」

 

 カーチャンは相変わらずあたしンちみたいなビジュアルで、相変わらず口うるさい。つーかよ、この家いい加減引っ越してもいいんじゃねーの。カーチャン一人でボロ一軒家住んでも広過ぎるだろ。もしくは再婚って手もあるけど。

 

「冗談じゃない。結婚なんかするもんじゃないよ。バカ旦那は浮気して、バカ息子はとっとと家を出てっちまう。丸損だよ丸損。その上歳食った中年と一緒になったって仕方がないだろ。あんたも結婚はやめときな。どうせバカ旦那の浮気性を継いでんだからね。ロクなことになりゃしないよ」

 

 あのねぇカーチャン。人類はそうやってバカとバカがくっついて繁栄してきたの。だいたいね、カーチャンがくたばった後にこんなボロ家残されても困るから言ってんの。

 

「トレーナーさん。ダメですよ、そういうこと言っちゃ」

 

「いいんだよ、キタサンちゃん。このバカは憎まれ口でしか会話できないんだ」

 

 カーチャンに言われたかねーよ。

 

「フン、口の減らないヤツだね。だいたい今更どこにいけってんだい。あたしもいい歳なんだ、今更どこにも行きたかないね。ご近所さん付き合いだってあるんだ。あたしに孤独死しろってのかい」

 

 冗談キツいぜ。カーチャンがそんなタマかよ、どうせ誰彼構わず世話焼くことになるんだ、心配すんなって。

 

「バカ言ってんじゃないよ、あたしがそんなタマかい」

 

 変わらないねぇ。この意固地さは、疑いようもなくおれのカーチャンで間違いない。

 

 ……なんだよ? 嬉しそうな顔しやがって。

 

「えっと、なんていうか……家族っていいなぁ、って思って」

 

 バカ言ってんじゃねぇよ。

 

「バカ言ってんじゃないよ」

 

 ハモった。恥ずかしい。

 

「あはは。やっぱり、なんていうか、素敵だと思います。それに、トレーナーさんの性格の原因がなんとなく分かっちゃいました」

 

 イヤだねぇ。どうやらおれの性格はカーチャンに似たらしいぜ。

 

「あたしに似てたらもっと人間出来てるだろう。だらしない男に育っちまって、ほんとにしょうもない。ほら、食い終わったらごちそうさましてお椀は片付ける」

 

 おれァ小学生か。はぁ、ごちそうさん。

 

「? トレーナーさん、どこか行くんですか?」

 

 ちっと出かけてくる。昼メシはいらん。

 

「夜までには戻りなよ。初詣行くからね」

 

 わーってるよ。適当に返事をしておれは身一つで玄関に向かった。後ろでクソガキが声を上げる。

 

「あっ、待ってください! あたしも行きます!」

 

 行き先も言ってねぇのに……。言っとくが待つ気はねーぞ。おれはさっさと歩き出した。

 

 

 

 

/

 

 

 

 あたしは急いでご飯を飲み込んで、食器を片付けてトレーナーさんの後を追うことにした。待つ気はねーぞとか言っていたが、多分待っているだろうから、そこまで急いではいないんだけど。

 

「ごちそうさまです! それじゃ、行ってきます!」

 

 トレーナーさんのお母さん、ナオミさんに挨拶をして居間を出ようとして──

 

「キタサンちゃん」

 

「? どうかしましたか?」

 

「……バカ息子が人様に迷惑かけないように、きっちり見張ってやってくれるかい」

 

 ずずっとお味噌汁を啜ってナオミさんは小さな声で言う。その言葉に、別の意図を感じて、あたしは気になっていたことを聞いた。

 

「あの、さっきの話なんですけど。このお家に住み続けているのって、さっき言ってた理由が全部なんですか?」

 

「どういう意味だい」

 

「なんていうか、別の理由があるような気がして」

 

「……」

 

 この人は間違いなくトレーナーさんのお母さんだと、あたしは確信していた──いや、別に実は養子なのかとか、そういうことを疑っていたわけでは無いけど、本当にそっくりだから。

 

 多分、この人もとことん素直じゃ無いんだろうなって、あたしはそう思う。

 

「……はン。今更どこぞに行くのが面倒なだけさ。それに、あんなバカ息子にも帰る場所が必要なんだよ。家ってのはそういうもんさ」

 

 やっぱり。何故だか嬉しかった──聞きたい言葉が聞けて、あたしは軽い足取りでトレーナーさんの後を追う。

 

「あのバカね。毎月毎月、頼んでも無いのに結構な額送ってくるんだよ。いらないつっても聞きゃしない。それで残りは全部どっかの医療機関だかに寄付してんのさ。てめェのことも満足にやれてないのに、全くバカな子だ。見ず知らずの誰かより、まずはてめェのことを何とかするのが先だろうに」

 

 不思議なことに、あたしはその事実を聞いても、あまりびっくりしなかった。むしろ、すとんと胸の中に入って来て納得した。

 

「……バカ息子をよろしく頼んだよ、キタサンちゃん」

 

 あたしはなんていうか、柊木家は全体的にオーナーゼフとサンジみたいな感じなんだな、って思って──でも、頼んだって言われたら、あたしの答えは一つだけ。

 

「はい! あたしに任せてください!」

 

 行ってきます。そう元気よく叫んで、トレーナーさんを追いかけた。

 

 

 

 

-

 

 

 

 

「ふふ〜ん、ふふふ〜ん〜」

 

 クソガキの機嫌が妙にいい。なんなんだ、気味の悪ィ……。不吉の前触れか?

 

「あはは。殺しますよ」

 

 やめろ! なんなの、情緒不安定なの!? 笑顔で言うな!

 

 クソガキの感情がまるで読めない。怖い笑顔で脅してくるとかではなく、楽しさ100%の笑顔だ。体半分寄せてくる……おれは距離を空けようとしたが、道が狭くて無理だった。

 

「ねぇ、どこ行くんですか?」

 

 ひっつくな、離れろ。おまえはおれのこと好きなのか嫌いなのかどっちなんだ。

 

「どっちだと思います?」

 

 面倒なことだけは確かだ。だいたいなぁ、その手の質問ってどう答えりゃいいわけ? どう答えてもニヤニヤされるだけじゃねーか。女ってのはほとほと面倒だ。

 

「だって聞きたいんですもーん。ほらほら、答えてくださーい。答えなさいっ」

 

 謹んでお断り申し上げる。最後にはどっちもでーすとか言われたらキレる自信があるからな。

 

「トレーナーさんはいつもキレてるじゃないですか」

 

 どっちかといえばいつもブチギレられてる側だけどな。おまえがこの前おれにキレたのは結構生命の危機を感じたぞ。

 

「あれはどう考えてもトレーナーさんが悪いです。そのうちシュヴァルちゃん、アルファードに移籍してきたりしないですよね?」

 

 いやぁ、流石に無いだろ。テイオーじゃあるまいし。というか普通に断る。

 

「……もしアルファードに来たいって言ったら、断っちゃダメですよ」

 

 えぇ……。

 

「カレン先輩のこと聞いて、トレーナーさんひどいなって思いました。可哀想ですよ、あんなの」

 

 どこをどう切り取ったらそうなる。おまえホントに事実を聞いたんだろうな。あいつのネジれ具合はとんでもねーぞ。サスケみたいなもんだからな。はぁ、サスケはホントにどうしようもねーな。それに引き換えナルトの健気さよ。

 

「なんでもかんでもジャンプ作品で例えないでください。言っときますけどどうしようもないのはトレーナーさんの方ですからね」

 

 あのねぇ。おまえも夜遅くに襲われてみ。考え変わるでほんま。夢に出るぞあれは、今でも恐怖で飛び起きれる。

 

 つーかおまえ、暇なの?

 

「え? はい……じゃないや。忙しいですよ、トレーナーさんを見張ってなくちゃいけないんですから」

 

 はいって言ったぞコイツ……。

 

 はぁ、コイツは一体何しに来たんだ。年末だぞ年末、貴重な休みをこんなクソ田舎で無駄にしやがってよ。謝れ。

 

「えっと、ごめんなさい?」

 

 なんでだよ、謝るなよ。ライスさんなの?

 

 おれはクソガキをトコトコと引き連れて市街地を歩いていく。別にバスとか使ってもよかったんだが、いかんせん暇だったし、別に歩いていける距離である。ここらでちょっとはカロリー消費しとかんとな。

 

 つーかよ、おまえ次のレースどうすんの?

 

「あー。えっと、トレーナーさんがビシッと決めてください」

 

 めんどくせーなぁ。だいたいなぁ、おまえは二度とあたしを負けさせないでくださいーとか言ってたがな、おまえマジで無茶苦茶言ってるからな。分かってます? 無理だぞ。

 

「……ダメです。そんなの絶対ダメ。トレーナーさんはなんでもあたしの言うこと聞かなきゃなんですよ」

 

 あのね。おれはドラえもんじゃねーんだぞ。そりゃ仕事はするがな、走ンのはおまえじゃん。いいか、オメーががんばンだぞ。

 

「ふんだ。つまんないことばっか言って。あたしやっぱ、トレーナーさんのことキライです」

 

 そりゃどーも。あと一応言っとくが、新年明けたら平常運転戻るからな。トレーニングのやり過ぎはもう禁止だし、いつもみたいに飯食いにきてもなんも出ねーぞ。

 

「えっ、ダメですよそんなの。今更ズルいです」

 

 いやいやいや。おはようからおやすみまでコースは期間限定なのよ。いい加減おれを家に帰らせろ。だいたい学園の食堂のメシも十分美味いだろ……。

 

「そういえば、この前トレーナーさんが食堂にいたとか聞きましたよ。何してたんですか?」

 

 レシピ提供の件でな。そういやめでたく採用されたぞ、おれの唐揚げレシピ。柊木さんちの晩ご飯シリーズとして提供される予定だとよ。

 

「おおー。すごいです! アルファードのみんなで一緒に食べに行きませんか!?」

 

 おれはパスだ。あんなとこ行ったらまた新しいレシピを提供させられかねない。最悪料理対決をする羽目になる。

 

「えぇ……」

 

 はぁ……おれはため息をついてばかりだ。冷えた大気を太陽が照らしていても吐息は白い。さむい……。とはいえ、ここまでやることに追われることがない時間も久しぶりだ。多分半年ぶりくらいのまともな休みとなるだろう。あっという間に12月も過ぎていった。

 

 この一年は全体的にロクなことがなかった。御大がまた無茶言い出したのはいつものことだったが……チームを持つってのは想像以上に苦労が多い。アルファードが近隣病院と提携を始めたことで、おれの負担は多少減って、年末も無事に休むことが出来ているが……。

 

「そういえば、トレーナーさんは結局どうするんですか?」

 

 チームの件な。どうするもこうするも……おまえを放り出していいんなら、レースチームとしてのアルファードなんか解散一択だ。若さでなんとかなってるが、普通にこれ続けるのは無理。

 

「……今更やっぱり担当契約無しで、なんて言うつもりですか? あたしを放り出したら恨みますよ、カレン先輩みたいに」

 

 やめろ! あんなのが2人に増えたらしぬる!

 

「っていうか、この前エリさんに、どっちもやるみたいなこと言ってませんでしたか?」

 

 ああ、クリスマスね……というか。おれを尾行してた件について、まだ謝罪を聞いてないんだが?

 

「はいはい、ごめんなさーい。で、どうなんですか? トレセンに医療部を立ち上げる、でしたよね」

 

 それね。所詮は計画段階もいいとこだ。作りたいですオッケーです出来ましたとはならん。多分、相当時間がかかるだろうな。そもそもいけるかどうかもだいぶ怪しい。

 

「……それがトレーナーさんの本当にやりたいこと、なんですか?」

 

 本当にやりたいことなんかもう残ってねーよ。大体、世の大人にゃそんな青臭い考え残ってねぇ。あるのは打算と妥協だけだ、自分の能力の許す範囲のな。おれは人より少しばかりそいつが広いだけだ。そうはなるまいと思っていたが、結局はサラリーマンとなんも変わらねぇ。つまんねぇ大人になっちまった。

 

「え、でもアヤベさんと3歳? しか違わないんですよね。大学に通っててもいいような年と見た目で、そんな分かったようなこと言われても……」

 

 おいおいおーい。キタサンちゃーん。台無しですよー。

 

「それに、さっきの答えをまだ聞いてないですよ!」

 

 はぁ……。こうやってため息ばっか吐いてると、幸せが逃げてっちまうんだがな。幸せってのは一体どこにあるんだか。山のあなたになほ遠く、幸住むとひとのいふ……はぁ。結局山の向こうにも無かったんじゃ世話ないな。

 

「?」

 

 キタサンよ。おまえを放り出すと後が面倒そうだ。これ以上の面倒はご免被る。

 

「え、じゃあ……!?」

 

 あまりおれに苦労をかけてくれるなよ。ぶっ倒れたらおまえのせいだからな。

 

「……やったっ!」

 

 おれはだらだら歩いているうちに見えてきた総合病院を見上げて、入り口へと歩いていった。

 

「病院に何か用事があるんですか?」

 

 言ったろ、おっさんのスカウトだってな。おれはそう言って受付に向かった。……こんな病院じゃスタッフも変わってないらしい。

 

 総合病院だけあって、入り口ホールは広かった。ジジババが大勢座って待っている。忙しく行き交う看護婦さん、入院衣の患者、かぜ予防に努めましょうのポスター……。

 

「……あれ、柊木くん? 君、柊木くんじゃない?」

 

 うーっす。おひさっすー。ヤブ医者います?

 

「そんなのウチには山ほどいるよ。どのヤブ医者?」

 

 1番くたびれたヤツで頼ンます。

 

「はーい。ちょっと待ってね」

 

 受付のおねーさんが内線を手に取った。

 

「……トレーナーさん、ここって、もしかして」

 

 おまえの想像通りだよ、たぶんな。

 

 少し話しておねーさんが顔を上げた。

 

「屋上に来てくれって。奥のエレベーターね」

 

 おれは軽く会釈して、その言葉に従った。クソガキもおれの真似をして、周りをキョロキョロと見渡しながらついて来た。

 

 チーン、とエレベーターの扉が開いた。

 

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