ウマ娘の頭悪いサイド   作:にゃんこぱん

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わたくしの出番がありませんわー!

 

 日本にはお年玉なんてよく分からん文化もあるもので、出費が控えていそうな身からするとまあ歓迎はし難い。しかしおれにも当然親戚の一人や二人いるもので、集まりがあるんだとかカーチャンに言われたが、実はもう帰らなければならなくなった。マックに呼ばれたからだ。

 

「マックイーンさんに? どうしたんですか?」

 

 マックというか、メジロ家か……。なんか新年のなんちゃらパーティーだかがあるらしくてさ。メジロのばーちゃんに挨拶しに来いとか言われたらおれも断れん。

 

「随分急な話なんですね。いつですか?」

 

 明日だってさ。前日に連絡入れるかね、フツー……。そんなわけで、おれァもう荷物まとめて向こうに戻らにゃならん。

 

「えーっ、そんなの急に言われても困っちゃいます。あたしだって準備とかあるんですからね」

 

 ……。

 

 おまえ、なんでいるの?

 

 おれは布団の上で目を擦った。なんでおれは朝っぱらからこんなクソガキの顔見なくちゃならんのだ。今日ぐらいダラダラ過ごそうと思っていたのに……。

 

「ダラダラ過ごせないのはあたしのせいじゃないですよ。何時ごろ出ますか? アヤベさんにも伝えてきます」

 

 別におれと一緒に帰る必要もないだろ。急いで帰ってもなんもねーぞ。

 

「……ケチ」

 

 ……え、おまえもメジロ新年明けましておめでとうございますの会に行きたいの? 

 

「行ってみたいです! あたし、マックイーンさんとも仲良くなりたいし!」

 

 はぁ。まあジャリガールが一人増えたとこで問題ねーだろうけど。飯食ったら準備すんべ。おれは体を起こして着替えることにした。

 

 ……いや、だから着替えることにしたんだって。ねぇ。出てって?

 

「……追い出してみればいいんじゃないですか?」

 

 なんなんだよ! また同じことやんのか!? このっ、くそ! 全然動かねェな、この……っ! おい!

 

「着替えたらいいじゃないですか。別にあたし、気にしませんよ」

 

 おれは釈然としなかったが、まあ別におれも気にしないので着替えることにした。クソガキがパンツ一丁のおれをニコニコと眺めている……なんなんだよ。顔赤いぞ、おまえ……。

 

「……聞こえないでーす」

 

 一体何がしたいんだ。おれはクソガキを放ってさっさと着替えて居間に出て、カーチャンが朝飯食べながらダラダラ駅伝見てたから、今日には帰ることを伝えた。したら、

 

「あっそう。ところであんた、部屋の片付けは終わったんだろうね」

 

 それね。まあなんだろ、全部捨てちまおうと思ってたんだけどさ、やっぱあのまま残しといてくんない?

 

「バカ言ってんじゃないよ。モノが多いと掃除が面倒なんだ。どうせしばらく帰ってくるつもりもないんだろ」

 

 まあね。でも使わねーだろあの部屋。また帰ってきた時に片すことにするわ。

 

「……フン。まあいいけどね。まったく、出てくならさっさと出てきな」

 

 言われんでもそうするわ。まったくカーチャンは素直じゃない。間違いなくおれの肉親である。

 

 

 

 で、結局アドマイヤ家に車を出してもらうことになった。

 

 いいのかよ、アヤベ。三が日も終わらねーうちにトレセン戻ったってつまらんぞ。

 

「……別にいいのよ。あなたと違って、私は定期的に帰っているし」

 

 そうかい。そんじゃ親父さん、頼ンます。おれは助手席に座ってドアを閉めた。親父さんは任せてくれと言ってハンドルを切った。……おれも免許取ろうかな。

 

「それにしてもケイ君も忙しいんだね。名家のパーティーに呼ばれたんだって?」

 

 世話になった人がいるんスよ。それに放ってる仕事が山積みになってて。

 

「それなら仕方ないね。せっかくケイ君も成人したんだし、一緒にお酒でも飲みたかったんだけどね」

 

 ……また帰ってきますよ。美味い店、教えてください。

 

「……そうだね。家族に内緒の隠れ家に案内するよ」

 

「お父さん? そんなところがあるなんて、聞いてないけど」

 

「は、はは。冗談だよ、冗談。なあ、ケイ君……」

 

 そうだぞアヤベ、冗談だって言ってるぞ……。

 

「はぁ。どうだか……」

 

 車はまっすぐ駅の方に向かっていくが、おれはふと思い出して親父さんに言う。

 

 ……ちと寄って欲しいとこ、あるんスけど、いいですか?

 

「もちろん。どこに行けばいい?」

 

 墓地まで。帰る前にあいつに会っときたいんです。

 

 親父さんは了承してくれた。後ろの二人がやけに静かだったのが妙に気に掛かったが……そんなことは些細なことだった。

 

 

 

-

 

 

 

 その瞬間は多分、もう少し緊張したり、あるいは罪悪感に押しつぶされると思っていたが、想像よりも大したことはなかった。

 

 なんの事はない、ただの石だ。その下に死者の骨が入ってるってだけで、魂まで留まってるとは、昔の人たちは想像力が豊かなもんだ。

 

 よう。久しぶりだな。

 

 自然とそんなことを口にしていて、自分でも驚いた。おれはどうやら、こんな石の塊を、天国に繋がるマイクだと思っているらしい。そんなわけがないと理屈じゃ分かってる。だが、もしかしたら幽霊になって聞いてる可能性もゼロじゃない。可能性だけであればな。

 

 まったく、おれは本当につまらん大人になっちまった。こんな理屈を捏ねてやがる……。

 

 このザマを見て笑えよ。おれァ今やトレーナーになっちまった。おまえの望み通りにな。そんでおまえが憧れてたレースに担当が出たよ。結果はロクでもなかったがな。それでもまあ、最近考えが変わってな。レースってのも悪くないかもって思ってる。

 

 とはいえ、結果的におれの考えは正しかった。やはりと言うべきか、トレーナーになってからロクな目に合ってねーよ。やっぱ労働は悪だな。担当の連中にもロクなやつがいねーよ。

 

 おれは両隣からゴンと頭をブッ叩かれた。ほらな、ロクなヤツじゃねーだろ。おまえのねーちゃんまでそうなっちまって……。

 

「ホントにトレーナーさんは……空気読んで黙ってたのに台無しですよ」

 

「本当に。憎まれ口でしか会話が出来ないんだから」

 

 まったく、見ての通りだ。

 

 ……ここにおまえが加わっていたかと思うとゾッとするよ。ああいや、その場合はおれはトレーナーにゃ多分なってねーか。悪いが、ここはおれがおまえのトレーナーになる世界線じゃなかったらしい。

 

「……どうかしら。もしもあの子が生きていたら、結局あなたにワガママを言っていた。それで結局あなたが折れて、同じようになっていた。……そうよね」

 

 アヤベは──ふっと、優しく笑みを溢した。

 

 ……やっぱり、顔が同じでも、似てないもんだな。

 

 おれはしばらく石の塊を眺めていると、キタサンが一歩前に出る。

 

「……初めまして! あたし、キタサンブラックって言います!」

 

 きみ、元気いいね……。

 

 正月から墓参りするような辛気臭いヤツがおれたち以外にいなかったので、幸い注目を集めることはなかった。

 

「トレーナーさんの、担当ウマ娘です。トレーナーさんのことは、あたしに任せてください。変なことしたりしないよう、代わりにちゃんと見張っておきますから!」

 

 いえ、結構です。

 

「トレーナーさんは黙っててください。……だから、安心してください! トレーナーさんは、全部、大丈夫です!」

 

 大丈夫ではありませんが。まあとやかくは言うまい。クソガキにも苦労をかけたしな。

 

「……そうね。キタサンには感謝しているわ。ありがとう、キタサン──心から、お礼を伝えさせて」

 

「そんな、いいですって。あたしが勝手にやったことですし──」

 

「そういうわけには行かないわ。ケイ、あなたもキタサンにはよくお礼を伝えておきなさい」

 

 オメーはおれのカーチャンか。まぁ、面倒に付き合わせたことにゃ、悪かったと思ってる。

 

「……具体的には? 詳しく教えてください、どういう意味なんですか?」

 

 やめろ、恥ずかしい……。こんなクソガキに慰められて嬉しかったなんて一生の恥だ。墓まで持ってくほかない。あるいは、このクソガキの口をどうにかして塞ぐしかない。死人に口なしと言うしな。

 

 おれは両側からゴンと頭をブッ叩かれた。

 

「不謹慎にも程がありますよ。ホンットに、トレーナーさんは、もう……」

 

「先にケイの口を塞ぐ方が早いかもしれないわ。夜道には気をつけることね」

 

 オメーらの方がおれよりフィジカル強いんだから、わざわざ闇討ちするなよ……。

 

 はぁ。まあ見ての通りだ。最近気づいたが、おれァどうやらどうやっても苦労するタチらしい。こりゃもう一生モンだ。いい加減おれも諦めた。

 

 そんなわけだ。まぁ、見守っててくれよ。

 

「……また来るわ。今度は、いい土産話を持って来れると思う」

 

 なんだよ、土産話って?

 

「内緒。その時が来るまでね」

 

 なんなんだよ。アヤベはキタサンと視線でチラッと会話して、二人とも優しい表情をしていた。

 

 ……まあいいか。

 

 そんじゃあな。おれもまた来るよ、次はもう少し面白い話をしてやる。

 

 そう言っておれは石の塊に背を向けた。ポケットに手を突っ込んで歩き出すと、後ろからクソガキが並んで来て、おれの顔を覗き込む。

 

「なんですか、面白い話って?」

 

 さぁな。おれもまだ知らん。

 

 未来の話は分かんねえ、だろ?

 

「……はい、そうですね! じゃあ──帰りましょう、トレセンに!」

 

 親父さんが待つ車に向かっておれは歩き出した。

 

 長い遠回りをしたような気がする。おれって男は、まったく情けねえ男だ。絶対助けるって誓って助けられなくて、次は絶対忘れないって誓って……少しずつ、おまえの表情も忘れていくんだろうな。結局変化には抗えなかったわけだ。

 

 ……それも人生か。思い通りになることなんて一つもない、だけどそれも悪くないって思ってる。それも大人になるってことなのか?

 

 まったく憂鬱だ。トレセンに戻ったらどの面倒ごとから手をつけるべきか。そういやスカーレットから鬼電来てたんだよね。怖かったから全部無視したんだけど、どうするべきだと思う?

 

「……。トレーナーさんほんと、一回死んで反省した方がいいですよ」

 

 おい! 冗談にならんぞ!

 

 そう叫んだおれの声が、澄み切った空気に溶けて、消えていった。

 




一体どうやって口を塞ぐんでしょうねぇ

・アヤベのお父さん
 ケイくんに対するお父さんとお母さんの感情は複雑なものがありますが、優しく送り出してくれたことでしょう。つまり公認ってことだな!!
 この辺りで書きたいシーンもあったんですが、キリ良かったのでボツです。勝手に想像していただけると助かります。そのための行間。あとそのための拳。

・過去編のテーマ
 カンザキイオリ氏のハグという曲を聞きながら書いたせいでこんなに重くなっちゃいました。雰囲気はかなり影響されてるというか、正直テーマがはっきりしたのでかなり書きやすかったり。あらき氏のカバーを当て書きというほどでもないですけど、まあ私の中では勝手にメイン曲みたいにさせてもらったりしてました。というか単に私が好きだっただけです

今回短めですまんな。多分もうシリアス展開やることは(あんまり)ないと思います。頭空っぽにして読める感じの作品を目指しているというか、むしろ私が頭空っぽで書ける作品を目指していたのにいつの間にかこんなになっちゃった。でもシリアスも正直好物です。

そんなわけで、ここまで読んでくれてありがとうです。
よければ感想置いてってください。ニヤニヤしながら読ませてもらいます。
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