クソガキがパーティ用の一張羅なんか持ってるわけがなかったので、仕方なく買い出しに連れて行ったはいいものの、当たり前みたいな顔してネイチャとアヤベもついてきた。ここまで来ればチームは道連れ理論に乗っ取りタイシンを呼び出すのも当然のことだ。
「……新年早々、なんでアタシ、こんなアホに呼び出されなきゃなワケ? 帰っていい?」
「まあまあ、せっかくですし。あたし、タイシン先輩とも、もっと仲良くなりたいんです」
「……まあ、キタサンが、そう言うなら……」
別にダンスパーティーというわけでもないんだがな。あれだぞ、親戚一同で集まってメシ食おうってやるのの金持ちバージョンってだけだぞ。そんなに気合い入れなくてもいいんだぞ、とか言ってみたはいいものの、当初の目的を忘れガキどもは普通にショッピングを楽しみ始めている。普段あんまり着ない感じの服を漁るのが楽しくて仕方ないらしい。
「せっかくですし、普段着ないような服を試してみるってのはいかがかな? ここはひとつ、お互いに服を選びあってみるってのはどうですかね〜?」
おれとしては勝手にしてくれっていうか、もう早く終わらせてくれないかなって気持ちで一杯だった。その上ファッションチェックまでされてはかなわん。更にはどっちが似合いますかゲームに強制参加だ。そこからおれの貴重なご意見に対してそれはないでしょとかセンス腐ってんじゃないのとか好き勝手に言われ続けておれはキレた。
オイクソガキどもよ。おれに色々言ってくれたが、随分立派なセンスをお持ちのようだなァ! じゃあ勝負しようぜ勝負! テメェらのファッションセンスがどんなもんか見てやるよォ!
「トレーナーさんはファッションセンスが死んでるってテイオーさんが言ってましたよ?」
「そうね。ケイのファッションセンスは中二で止まってるから」
表ェ出ろォクソガキども。好き勝手言ってくれちゃってよォ。てめーら全員後悔させてやっからな。理解らせてやるよ……
「売り言葉に買い言葉。アンタはほんとに学ばない……」
「まあ良いんじゃない? それならさ、せんせーに選んでもらおうよ、アタシたちの格好」
「もしかして、ネイチャさんは天才なんですか?」
「確かに良いアイデアね。似合う服装というのはすなわち、私たちのことを、どれだけ理解出来ているのか……よく分かりそうね。ふふ、大口ばかり叩くだけのことがあると良いのだけれど」
話がよくわからん方向に転がっていく。オイ待て、そりゃちょっと違うんじゃないのか。
「私たちを分からせるのでしょう? それとも自信がない?」
上等だ。まずアヤベ、おまえから片付けてやるよ。ファッションチェックだッッッ!
そういうことになった。
とは言ったものの、もう薄々分かっていたことではあるが、おれの前世は高反発枕なのであらゆるものに逆張らなければ気が済まない。夏目漱石かな?
「あっ、親譲りの無鉄砲で子供のころから損ばかりしている、ですね! トレーナーさんにぴったりです!」
誰が坊っちゃんだ。いやもう分かってる。おれは頭を抱えた。もう何回目だこのパターンは。もうやめたい。
ガキどもがハンガーにかかったヒラヒラした服を手にとって眺めたりしながら、わいのわいのと楽しそうにしている。おれは勢いのまま飛び出してきたは良いものの、実際のところファッションの心得などあるはずもない。まして女物となれば尚更だ。おれは今から適当なファッション誌を読んでこようと思う。
「あ、ズルしちゃダメですよ。トレーナーさんがうんと悩んで、考えてるってことが大事なんですよ、別にそれでちょっとセンスが悪かったからって怒りませんって」
そういうもんかねぇ。そもそも女物売り場でジロジロ商品眺めてるってのもおれとしちゃ気まずいんだがな。ところでおまえはなんでおれにくっついて来てるんだ。
「……ダメ、ですか?」
こ、このガキ……。こいつ、なんて白々しいんだ。おれは戦慄した。
指摘されなくたって分かってる、おれはガキどもに甘い。口でどうこう言おうと結局は行動が全てだ。お願いしますとか言われてちゃんと断れたことがない。トレーナーとしての仕事という言い訳が立つならまだしも……。
これはあれか。おれはこいつらに優しくしたくして仕方がないのか? アホなのか。つけあがるのが目に見えてるのに。
おれはなんてダサいんだ。ホント口程にもないなこれは。かと言って今更優男路線はムリだ。この後小娘どもに散々おれのセンスをこき下ろされると思うとハラワタが煮えくりかえるぜ……。
よし、キタちゃんよ。おまえのセンスを生かしておれに協力してくれ。
「あっ、ダメですよ。あたし、トレーナーさんがウンウン言って悩むの楽しみにしてるんですから」
おまえな……。
「まずアヤベさんの服を選ぶんですよね。さあさあ、まずどんなイメージにするかってことからですか? トレーナーさんの好みが白日の元に晒されちゃいますねっ!」
晒すなそんなもん。おれはイヤイヤながらも己のファッションセンスに向き合うことにした。さっさと終わらせて帰ってゴローを撫でよう。
アヤベさんは……そうすね。もう一周回ってパンクロック系で行こう。北斗の拳の世紀末モブスタイルしかない。思い詰めていると頭をゴンとぶっ叩かれた。
「やめなさい。キタサンも、面白がってないで止めて」
「あはは、ごめんなさい。でもアヤベさん、カッコいい系も似合いますよ絶対、素材がいいですもん」
「……ほ、褒めても何も出ないわよ」
【悲報】我らのアヤベさん、チョロすぎる【照れてる】
「照れてない」
おお、我らのアドマイヤベガよ。なんてチョロいんだアドマイヤベガよ。捻くれ者のアヤベさんにキタサンの特効が入っている。これぐらい面倒臭くなると、真っ直ぐな素直さに弱くなるんだな。
「自分のことを棚に上げてよく言えるわね……!」
ミス・アドマイヤが青筋を立てておれに迫ってくる。からかい過ぎた。ご、ごめんって。いくら本当のことだからって怒るなよ……ヒィッ! おれは壁に押し付けられた。いつになくアヤベさんがバイオレンス。ほわーッ!
「あなたを大人しくさせるにはどうしたらいいか、よくあの子とも話し合ったりしたわ──つまりは脅せばいい。具体的な内容について知りたい……!?」
ない! ないです! 聞きたくないです! はい! すいません! おれはあっさりと負けた。アヤベはしばらくおれを睨んでいたが、ため息をついて腕を組んだ。普段優しい分(おれ以外に限る)怒ると怖いのである。
「……別に。真面目にやるのなら、少しくらいあなたのセンスに付き合ってあげてもいいわよ」
「トレーナーさんトレーナーさん! これはつまり、真面目にちゃんと服を選んで欲しいってことですからね! もっと言うと、トレーナーさんの好みが知りたいってことなんですから!」
「きッ、キタサン!」
おお、先輩をからかってる。こいつもちょっと人間関係のラインを超え始めた……関係性の変化というやつか。まあアヤベも構い過ぎるくらいでちょうどいいみたいなとこあるし。微笑ましいね。
はぁ。おれはまたもや諦めて、この面倒なイベントからさっさと解放されるべく己のセンスに向き合うことにした。
そして結果的にファッションショーfeat.アルファードが開催された訳だが、おれの新年セレクションは恐ろしいほどの酷評を受けておれは泣いた。メンタルがボロボロになるほどの酷評だった。
「じゃ、これ買って来まーす」
いや買うんかい。ガキどもがぞろぞろとレジに並ぶ中で、おれは自尊心を保つのに必死だった。おれはそんなにセンスがないのか……。
-
で、だ。
実際のところ、おれがガキどもに好き勝手言われるのはいつものことだ、それ自体は別にどうということもなかったのだ。問題は別のところにあった。
そりゃ憂鬱だ。主にはスカーレットさんのこととかスカーレットさんのこととか。出会い頭に殺されるんじゃないかとビビってる。テイオーあたりにボディーガードをさせるつもりだったが断られたのだ。あのガキ。
そう、実際のところおれはそっち側の警戒というか覚悟というか、もうどうにでもなれというう気持ちもあるけど、ともかく注意はあったのだ。
まさかあんなことになるなど──
「……柊木さん。あなた今、結婚は?」
してるわけないでしょ。
「お付き合いしている方はいらっしゃる?」
いるわけねーだろ。オイばーちゃんよ、なんなんだよ。
「そう。では提案です──我が娘孫、メジロマックイーンと結婚しなさい」
はい?
「おッ、お祖母様!? な、何を仰っているのです!? わ、私が、ここ、こんな、優雅さの欠片もない男と、け、けけけ結婚ですって!?」
マックが顔を真っ赤にして叫んでいる。おれをチラチラ見ているが、そんなことよりおれは信じられなかった。マジでかこのバーちゃん、もうボケちまったらしい。
なんかマックが怒ってるわりに妙にそわそわしているのは気になるが、おれはまた面倒ごとの気配を感じていた。嫌な感覚ばかり研ぎ澄まされている気がする。
これは……間違いない。次回もろくなことにならないか。おれの平穏な生活は一体どこにあるんだ。
誰か助けてください。崖っぷちのトレーナーより愛を込めて。
最近あんまり投稿出来んですまんな……
文字数も少なめですが、とりあえず投稿するの精神でやってます
・マック
かわいい。
次回からはマックの婚約騒動編です嘘です
ついにメインヒロインの風格を見せつけるときが来たんやで
・キタサンブラック
かわいい。
実はこっそりすんごいイカれてます。もう私にもよくわからない境地に至ってるかも……