さて、どうしてこんなことになったのか。時系列順に辿ってみるとしよう。
というかまず、語らなければならないことが多過ぎる。順にあげて見る事にしよう……
まずはおれの家結局どうなった問題だな。おれはホワンホワンホワン……という漫画的表現で回想シーンに入った。
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晩御飯を食べてお腹いっぱいである。自分で言うのもなんだが、おれは多分店出してもやってける。己の腕一つで料理界を成り上がるルートも間違いなく存在した。まあやるなら渋めの居酒屋がやりたかったところではある。
渋いおっさんとか影のあるお姉さんとかそういうのがやってきて、なんかこう、酸いも甘いも噛み分けたような過去の体験とかを語りながらウイスキーをロックで流し込むわけよ。おれはカウンターで静かにその話を聞いててさあ、思い出の料理とかをサッと作って出してやったりするわけ。それで大将、頼んでないよ、とか言われてもサービスですっつったら大将には敵わないなっておっさんがフッ……って苦笑いしてな。いや誰が大将だよ。だいたいそんなに年食ってねえっての。
「アンタって喋ってないと死ぬの? あとマジでなんの話?」
「せんせーも好きだねー、お酒。実はアタシの実家ってスナックやってるんだけど、よかったら一回来てみない?」
それな。マジで一回行ってみたいんだけど時間が取れなかったんだよね。今度行ってみていい?
「え……ホントに?」
おれは社交辞令はあんまり言わない方だ。
「えと、じゃあウチ来るってことだよね。わ、分かりました。こっちも準備しておくから、予定決まったら教えてよ……?」
準備は別に普段の営業でいいが。あ〜、でもまぁ、ご両親にちゃんと挨拶ぐらいはしとかんといかんか。
「あ、挨拶!?」
ガキどもが驚いたように目を丸くしている。いや挨拶は大事でしょ、古事記にも書かれているし。あのね、おれも一応トレーナーとして、大切なお子さんを預からせて頂いてる的な立場があんのよ。トレーナーによっちゃ契約したときにわざわざ挨拶しに行くこともあるぐらいな訳よ。
「え、じゃあトレーナーさんも!?」
いや……。まあ義務ってわけでもないし、どっちかといえばマナー的なとこだからな。後回しにさせて頂いている。おれは気まずくなって目を逸らした。ここを突かれるとおれは反論出来ない。仕事が半端じゃなく忙しかったのと、後は単純に億劫だったのである。普段からクソガキ共がとか悪態ついてるからな。
「……あの。ウチには、いつでも来てもらっていいから。アタシの実家にはホントに、いつでもウェルカムっていうか、ほら。普段からお世話になってるし? 別に、いつでも……?」
おれァどうもそういうの苦手でさぁ。ちゃんとしなきゃとは思ってるんだが、流石に真面目にやらんといかんやん。後はさ、おれぐらい若いとちょっと親御さんたちを心配させかねないというか。そういう懸念もあって行きたくないというのが本音なのだ。
「心配し過ぎですよー! せんせーはちゃんとしてたら格好いいんですから。自信持っていいですよ、それにアタシの両親にもせんせーのことは色々話してるんだから」
そりゃどうも。でもちょっと怖い。何を話されてるか分かったもんじゃないし。ネイチャよ、あんまりおれの悪口とか言っちゃダメだぞ。
「い、言わないケド!? だいたい、せんせーこそアタシのことなんだと思ってるの! ほんっとにもう、目を離した隙に次々と……」
「今に始まった事じゃないでしょ。そういやさ、キタサンも帰省についてったんでしょ。そいつどうだった?」
「えっ。あー、えっと。そうですね……まあ、トレーナーさんは、トレーナーさんでしたよ」
「そりゃそうでしょ。いやそういうことじゃなくて、何かこう、ないの。アヤベも黙ってないで」
「……次の機会に話すわ。それまではひとまず、保留ということにしておいて」
「そ──ちょっとアンタさ、ゴローが嫌がってんじゃん。噛まれる前に離れときなよ。いい加減にしとかないとホントに嫌われるよ」
タイシンの忠告におれは従う事にした。悲しいが、ゴローに嫌われる可能性は少しでも下げておきたい。ただし視界にゴローが映るだけでおれ的にはプラスだ。最悪嫌われても、それはそれで美味しい。無敵か、おれは。
ところで、ガキどもがおれには分からんような会話をすることは今に始まった事ではないし、気にするだけ損する事ばかりだ。女子ってのは内緒話が大好きだからな。無理に突っ込んだ途端に一致団結して反撃を食らわせてくれる。大変ありがたい事なので、おれとしては遠慮願っているわけだ。でも除け者にされたみたいでちょっとさみしい。
というかこいつらを放っておくとこのままいつまでも喋り倒しそうだ。女ってのはほっとくとお喋りしかしない。というかちょうどいい機会なので聞いておくか。おまえらレースどうしたいとかある?
「はいはーい。なんか勝ちたいでーす。ここのとこテイオーが存在感強いしさー。アルファードでトゥインクルシリーズを支配しちゃうっていうのは?」
ネイチャがちょっとヤバいこと言ってる。おれとしては、テイオーが我がチームに入った事実を認めたくない気持ちでいっぱいだ。ヤツはまるで磁石のようにトラブルを引き寄せる。
「っていうか、テイオーさんとトレーナーさんがセットになった瞬間にワケわかんないことが始まる感じですよね。あれ分かってやってるんじゃないんですか?」
そんなワケねーだろ。クソガキめ、おまえいつまでも無関係でいられるなんて勘違いだからな。このアルファードに在籍している以上、トラブルと無関係でいられるはずもない。
「それはそれでどうなんですか……」
いつまで余裕が保てるか見ものだぜ。いっそ賭けるか? おまえが根をあげるまで思い知らせてやる、というかおれがそうするまでもなくそうなる。確実にな。
「どうだか。言っときますけどあたし、ここ一年でだいぶ耐性つきましたからね! もう今更トレーナーさんに振り回されたりなんてしないですから!」(特大フラグ)
キタサン以外があっ(察し)という顔をしたが、何も言わなかった。それは優しさだったのか、諦めだったのかは分からないが。ともかくキタサンは最近調子に乗ってる。おれは当然、良識ある大人として調子乗ってるヤツは許せないので、近いうちにとんでもない目に合わせるつもりではあるが、地元じゃ借りが出来ちまったからやりづらさもある。
「っていうかさ、この家の当番どうすんの?」
「今までと一緒でいいんじゃない?」
おい待て、そのことだ。
いいかよく聞け。おれはガキどもを見渡してはっきりと言った。その当番? だかなんだか知らんが、ゴローの世話はもう結構だ。長い間世話になったな。お疲れ様でした。
「あっそうだ、あたしも当番に参加する事にしたので、よろしくお願いします!」
「はーい。じゃあ一応、改めてスケジュール組み直そっか。アヤベさん、割り振りは任せていい?」
「分かったわ」
分かったわじゃない。おい無視するな、そもそもおまえらはなぜウチに住みたがる。家主の意思を無視するのは良くないぞ、っていうかおまえらが居るとおれが寝れないだろ。ベッドを占領しやがって。
おれの悪態はガン無視された。この問題は正直おれも頭を悩ませている。というかガキどもがまともに取り合おうとしない。
流石にこんなガキどもと一つ屋根の下で夜を越すってのもちょっと問題だ。別におれとしては男女のあれこれを起こすことはないし、そもそも大した興味もないのだが、学園側の立場的なアレで明らかな面倒が舞い込みそうだ。当然、御免被る。
「あんた信用ないんだよ。ゴローのお世話、ちゃんと出来んの?」
聞くに、ゴローは朝の登校とともにトレセンに遊びに行き、ウチに帰ろうとするとどこからともなく現れて、一緒に帰るのだそうだ。あまりにも賢すぎる。ゴローの存在はトレセンでも知られる存在となり、今や幸運をもたらす猫として有名だ。マジでか。
おれは正直、まともに早い時間に帰れた試しがない。ということはつまり、ガキどもの手を借りる必要がある。ふむ、理論的にはおれの言い分は通らんな。え、じゃあ無理だな。
「別に心配しなくても、せんせーが帰ってきたらちゃんと寮に帰るつもりですって」
そんなら別にいいか。まあ助かってるのは事実だしな。
ということで、いい時間だしそろそろ帰れよ。
「……アンタに指図されたくない。明日も休みだし」
タイシン〜。なんだおまえは〜!? おれはタイシンちゃんのほっぺをつまもうとしたが、あっさりと躱された。
おれはあの手この手でガキどもを帰らせようとしたが、これが全然帰らない。しまいには交換条件を突きつけてきやがる。
「帰らせたかったら、アタシらがこの家いてもうだうだ言うのやめてくんない?」
どういう交換条件なんだ……?
はぁ。まあいい、もう好きにするがいい。おれァもう寝たい。ゴローと一緒にな……。おれはさっさとシャワーを浴びる準備を始め、一向に帰らずダラダラ喋ってる小娘たちを横目にさっさとシャワーに入った。
正直上がるころにはもう帰ってるだろとか思ってたが、もちろんワンルームの扉を開ければお菓子を摘みながらダラダラ喋っている。タイシンがぎょっとしておれを見た。
「ちょ、アンタさ、何その格好!? ちゃんと服着てくんない!?」
あ? おれン家だぞ。楽な格好して何が悪ィ。
「トレーナーさん! だ、ダメですそんな薄い格好しちゃ、ダメ、ダメですっ!」
おれは寝る時はなるべく薄い格好をしたい派だ。例えそれが冬でもな。布団に包まれば関係ないしなんなら気分良く寝れるまである。
「……風邪をひかれては困るわ。せめてシャツぐらい着て来なさい」
「そうだよ! 本当にそういうの良くないと思います!」
なんで気まずそうに視線を逸らしているんだ? 恥ずかしそうな表情を浮かべているが、どちらかと言えばおれの立場だろ。
「なんか着てください、えっちですっ!」
どういう意味? ただの薄着だけどね。最近ちょっとクソガキのおれを見る目がやばい時があって危機感を覚えている。
はあ。もうなんか面倒だしほっといて寝るか。ゴロー、おいでー。呼んでみたはいいもののゴローは部屋のすみっこに置かれたキャットタワーからおれを睥睨している。ちなみにキャットタワーを買った覚えはないが、ゴローが可愛いので許す。
「……あの、せんせー。一応ですけどね、そのベッド、アタシたちがいっつも使ってたやつなんですよ」
まあそうでしょうね。そんで?
「そんでじゃなくて。え、いや。あるじゃん、あるでしょ!? 照れとかさ、恥じらいとかさ!」
知らんがな。じゃあ上条さんよろしくバスタブで寝ろって? おれは嫌だぞ。大体別に一緒におねんねするってわけでもねーのに、何をそんなに……。
あーもう分かったよ。照れる照れる。じゃあおやすみ。さっさと帰れよー、あと鍵締めといてなー。おれは妙に甘い香りのする毛布に包まって寝ようとした。ぐえっ!
腹部に衝撃。目を開けるとなんか、ガキどもの顔がいっぱいに広がっていた。な、なんだ!?
「……少しは躊躇の一つもしたらどう?」
に、睨むなよ。おまえが寝てたからどうとか別に知らんがな、特に関係ないだろ。おれァこの一年ずっと睡眠不足だったんだぞ。正月くらい遠慮なく寝させろ。
もう勘弁してくれ。思春期の多感さは分からんでもないが、ちょっとは鈍感になったほうがおれとしてはありがたいものがある。トレーナーってのは思ったより面倒が多い。ウマ娘としての側面が強いせいで忘れがちだが、こいつらは単なる高校生に過ぎないのだ。
おれは正直、体験したことがないので、普通の高校生という存在がよく分からん。高校も一年くらいでパスしたしな。ましてやJKの心内など知るなど笑止、察するなど不可能。いやトレーナーとしてそれはどうなんだ。セルフツッコミを入れつつもおれは面倒になった。ゴローと二人きりにさせてくれねーかな。
「ゴローのことはもう諦めなさい。少し話したけど、あなたのことは好きではないみたい」
ね、猫と話したのか……? 猫に大真面目な顔でにゃんにゃん喋ってるアヤベちゃんが実在したのか? マジかよ。おれはどうやってこいつを止めればいいんだ。最近ちょっとこいつは面白路線に舵を切っていて、もうおれにはどうしようもない。誰がツッコめる。誰がこいつを救ってやれるんだ。
「えと、アヤベさん。猫と会話するのはやめましょ?」
う、嘘だろ? おまえか。おまえなのか、キタサン。おまえがアルファードの柱になるのか……?
アヤベは無表情を保っていたが、そのうち沈黙に耐えられず普通に顔を赤くして俯いた。こいつマジか。どうやらにゃんにゃん喋ってたのがバレて恥ずかしいらしい。なあアヤベ、おまえ猫と話せるんだってな。ちょっとやってみてくれよ。
かあっと顔を赤くしてアヤベが睨んでくる。わなわなと口を震わせて言った。
「に、にゃ〜ん……!」
ヤケクソになったアヤベにおれは笑いを堪えきれずに吹き出してしまった。すかさずゴッと顎をぶん殴られておれは脳震盪により気絶してそのままノックアウトした。