ウマ娘の頭悪いサイド   作:にゃんこぱん

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テイオーッ! どういうことか説明してくださるのですわよね!? あなた、今一度自分の立場を思い出す必要があるのではなくて!? もう一度{自主規制}されたいのかしら!?

 週末の予定は? と、聞かれるたび、仕事ですと答えていたので、いつしか誰にもそう聞かれなくなってしまったが、もうそろヤバいな。前の一件でハッキリ自覚した。おれには休養と癒しが必要だ。この週末は流石に休もう……としたが、ゆるふわから妙なことを言われてしまった。

 

 アイドルのライブぅ?

 

「取引先の方から頂いたんです。グランドライブの運営にあたって、何かの参考になるかと思って……よければ、柊木さんもいかがでしょうか?」

 

 話を聞くに、割と人気めのアイドルグループの関係者席を貰ったとか……それが今週末にあるらしく、貰った手前行かないわけには行かないらしいのだ。貴重な週末に何故そんなことをしなければならんのか、おれならゴメンだが、今回は事情が違う。

 

 ……グランドライブのファーストライブの準備は着々と進んでいる。大枠は決まりつつある。出演者はカレン以外に特に決まってないが、そこら辺から拾って来ようとも思っている。しかしなにぶんおれにもライブ運営の経験がない。

 

 別にガキどものライブを貶すわけではないが、流石に本職のアーティストと比べると、演出なり歌なり、劣るのは当然のことだ。とはいえ裏方であるURAやら学園やらにはノウハウもスタッフも機材も十分揃ってる。おれは一応聞いてみた。

 

 お誘いはありがたいんだが、参考に出来るような部分があるんですかね。学園のライブも結構レベル高いんじゃないスか。

 

「ええと、確かにそうなんですけど……でもっ! 演出にとても評判なグループだと聞いてます! 運営に携わる立場として、得られるものがあると思います! あ、もちろん、お忙しいようでしたら、無理にとは言いません」

 

 ……イヤ、ご厚意に甘えますよ。おれもあんましライブって見たことないンすよね。

 

「ありがとうございますっ! 実は私も、1人で行くのはちょっと心細かったんです。柊木さんが来てくださると、私も気が楽というか……」

 

 で、そのライブってのは……

 

「えっと、今週末です。急な話で申し訳ないです」

 

 イヤ、大丈夫ス。じゃあよろしくしゃす。

 

 その後、集合時間とかを話しているうちに、いつの間にかおれたちはデモライブの打ち合わせをしていた。既にスケジュールは決定している。ゆるふわのやる気が高く、スケジュールは結構キツい。特に……ガキどもの練習期間は結構短くなるかもしれない。しかしデモライブはあくまでデモ。本命はその先にあるグランドライブである以上、これにそこまで時間を掛けられないとの判断だ。

 

 その後帰っていくゆるふわを見送ったのち、おれは……今日が金曜だということを思い出したのだ。部室のおれの机の前で、淹れたばかりのコーヒーを眺めてふと思った。今日は久々に家帰ってゴローと戯れたい……そうしたい。おれは急ぎの仕事だけ速攻で片付け、そしてガキどものトレーニングを見守り、そして……家に帰ったのだ。

 

 残業時間が天元突破しているおれにとってこれは実際のところ、驚くべき進歩だったと言っていい。個人にとっては小さな一歩でも、人類にとっては偉大な一歩なのである。おれはそんな堂々とした気持ちで帰路に着くのであった(尤も、トレーナー寮まではたった徒歩数分なのだが)。ゴロー、待ってろよ……。

 

 

 

 

 しかしそんな堂々とした気分は玄関を開けた途端に吹き飛んでしまった。玄関口におれのものではない靴が揃えてあったからである。そうだった……。

 

 おれは苦い思いでワンルームのドアを開けた。想像通り、いる……。

 

「……ケイ? 珍しいわね──おかえりなさい」

 

 アヤベちゃんである。そしてその横に……イヤ〜なヤツが、いる。クソガキ1号である。自分では大して使った覚えのないキッチンに並んで、何やら料理をしている。

 

「お兄ちゃん? え〜、帰ってきたんだ。珍しい〜! おかえりなさーい!」

 

 アヤベは……まあ、ゴローの世話もあるだろうし、いるのは納得の範囲だが横! 横のそいつが勝手におれン家に上がり込んで……オイ、出てけクソガキ。おまえを招いた覚えはない。

 

「ひどいひどいひど〜い。お兄ちゃんったらまたそんなこと言って。素直じゃないな〜、も〜」

 

「カレンは私が家に上げたの。その、一緒に料理をしようと話していて……ごめんなさい、どうせ今日も帰って来ないと思っていたから」

 

 ふむ……。おれはベッドに寝転がって、こちらを気にも掛けないゴローの姿を捉えた。そして吸い込まれるように近寄っていく。

 

「……猫と戯れるのは、せめて着替えてからにしなさい。服に毛玉が付くでしょう」

 

 オメーはおれのカーチャンか。はいはい分かったよ、ハァ……メシ作ってんなら、おれの分も頼んでいいか?

 

「もっちろーん! 大丈夫だよね、アヤベさん?」

 

「そうね。作り置きで少し多めに作るつもりだったし……」

 

 おれはさっさと着替えてゴローと戯れることにした。ぺろぺろと手を舐めながら、撫でられるまま抵抗しないゴローを眺めていると心が満たされる。しかし……おれはチラッとキッチンの方を盗み見た。アイツら料理できるんだな。

 

 は〜。しかしゴローはかわいいな〜。かわいいな〜! かわいいな〜! かわいいな〜! かわいいな〜! 毛玉の手触りを味わいながらおれはニコニコした。口元がどうしたって緩んでしまう。かわいいな〜!

 

 そんな至福の時間を過ごしていると、だんだんといい香りがしてくる。ほどなく、ローテーブルに晩飯が並べられた。カレーである。

 

 しかし一人暮らし用でそう大きくもないローテーブルだ。3人では……狭いな。オイご苦労だったなクソガキ、狭いんで帰っていいぞ。

 

「……ぐすん。アヤベさ〜ん、お兄ちゃんが冷たいよ〜……」

 

「ケイ。やめなさい」

 

 ……どうやらおれは数的有利を取られているらしい。旗色が悪い。アヤベが嗜めるような目でおれを見る背中に隠れて、クソガキがウソ泣きをころっと変えてほくそ笑んでいる。許せねェ……。しかし夕食を作ってもらった手前、これ以上強くは出れない。サーセン。

 

「でも狭いのは、確かにそうだね。だったら詰めて座ったらいいんじゃないかな? こんな風に〜」

 

 クソガキがぐるっと回り込んでおれの隣に座り込み、グイグイと横から体を押し込んでくる。おれはそっと体をずらした。くっついてきた。おれは以下略……当然、横に座ってるアヤベが壁になる。挟まれたので、おれは立ち上がってテーブルの反対側に逃げようとしたが、両側から肩を抑えられた。ええい離せ、食いづらいでしょうが。

 

「……そっちに座ると、テレビが見えないわ」

 

「そうそう〜。急に帰ってくるくせに文句言っちゃダメだと思いまーす」

 

 おれは興味もないバラエティから視線を動かして、行儀良くエサにありつくゴローを見つけた。え、かわいい……。おれは無言で携帯を取り出してカメラを起動した。素早く可愛いの化身を撮影するが、カワイイの化身(ウマ耳)が割り込んで来る。オイどけ。ゴローが映らん。

 

「え〜? カワイイのが撮りたいんでしょ〜? カレンの姿も〜、お兄ちゃんのギャラリーに入れて欲しいな」

 

 お断り申し上げる。おれはサッとクソガキを避けてゴローを写そうとしたが、よそ行きの笑顔を崩さない鉄壁のディフェンスだ。チッ……はいチーズ。じゃいただきまーす。

 

「よろしい。じゃあ食べよっか! 美味しく作れたかな、アヤベさん?」

 

「……人に食べられるというのも、案外緊張するものね」

 

 クソガキのことは一旦隅に置いて、アヤベの作ったメシには実際興味がある。作った側はまるで、自作の美術作品をコンクールに出されたかのような緊張感を感じるが、食う方としては気楽なもんだ。もぐもぐ……。

 

「……どうかしら」

 

 うまい。

 

「……そう」

 

「やったねアヤベさん! バカ舌に美味しいって言わせられたよ!」

 

 誰がバカ舌じゃい。あのねぇ、言っとくがな──

 

「だってお兄ちゃん、人のために料理するときはちゃんとしてるのに、自分用に作るのは味付けメチャクチャだもん」

 

「……そうなの?」

 

 一応言っておきますけどね。単にそれはオメーらの好みに合わせているだけで、自分用に作るんなら味濃い方がウマいってだけだ。更に言えば1番好きなのがカップ麺ってだけだ。メシの好みにケチ付けンのはやめろ。そうなりゃ戦争だぞ……。

 

「カップ麺ばっかり食べるのは良くないよね。そうだ、カレンがお弁当作ってあげるね! お兄ちゃんの健康的とは言い難い食生活を治してあげる!」

 

「カレン、この人にそこまで手間をかける価値はないわ」

 

 酷すぎる。やっとまともに家に帰るようにしたらこれだ。おれの安息の地は一体どこに……。パパッとエサを食べ終えたゴローがカレーに興味を示したらしく、いつの間にかスンスンと鼻を鳴らしてカレーを凝視している。カワイイ! しかしゴローはクソガキによりぐいっと持ち上げられ、ヤツの膝の上にされるがまま収まってしまう。ズルい……。

 

「……いいから食べなさい。冷めてしまう前に」

 

 ……おまえ、なんか厳しくない? 

 

「マックイーンさんと婚約した上に、アルダンさんに手を出すような男には、妥当な態度よ」

 

 アヤベがとても冷たい瞳をおれに向けている。そこらのガキンチョに誤解されるならともかくとして、コイツにまでそう思われるのはちょっと逃げ場がない。

 

「最近、お兄ちゃんのみんなの間での評判、ちょっともうダメかもって感じになってるよ。お兄ちゃんはもうおしまい!」

 

 おしまいではない……。おれはスプーンを口に運びつつ、半分ほどもう諦めていた。人の噂も七十五日、下手に手出しすると痛い目を見る。もう学んだ。

 

「だからカレンを連れてけばよかったのに〜。ねえねえ、カレンならお兄ちゃんの行き詰まった評判も、消してあげられるよ?」

 

 一応聞くが、どうするつもりだ?

 

「お兄ちゃんはカレン一筋ってことにするの。腕を組んで〜、ラブラブで歩いていれば、そのうちみんなの印象なんてガラッと変わっちゃうよ?」

 

 冗談じゃない。もうヤダ、こんなヤツばっかりだ。ハァ……おれはこの頃ため息ついてばっかだ。着実に疲労感が溜まっていくのを感じる。でもゴローがいるからおれはそれだけでいいんだ……。

 

「……ケイ。帰ってきたのなら、週末は休むのでしょう? 少し付き合って欲しい場所があるの」

 

「え〜? お出かけ?」

 

「ええ。実はキャンプに行くつもりなの。少し遠出になるけれど、リフレッシュには丁度いいと思う。疲れが溜まっているのなら、自然豊かな場所で星空を見上げるのは、いい休暇になると思う」

 

「! カレンも行きたーい!」

 

「ええ、もちろんそう言うと思って、準備は済ませてあるわ。……それで、ケイ。どう、かしら?」

 

 あー……。泊まりがけか?

 

「……他に予定が?」

 

 先約がな。実はかくかくしかじかでな。泊まりってのはちょっと厳しいンで、誘ってくれたのは嬉しいんだが、悪いな。

 

「……ライトハローさんというのは、仕事の関係の人でしょう? 休日まで一緒なの?」

 

 アヤベがじろっとおれを見て、疑うように聞いてくる。勘弁しろい、一体何を疑ってんだ。

 

「ふーん……。お兄ちゃんってば仕事熱心なんだねー、カレン、知らなかったなー」

 

「そうね。口では働きたくないだのなんだの言っておきながら……仕事の関係の女の人と、休日に、2人でライブにお出かけとは、随分楽しそうなお仕事なのね。羨ましいわ」

 

 両側から嫌味を浴びせられている。おれは自らの名誉のために反論しなければならなかった。イヤそういうんじゃない。あのゆるふわがマジで仕事にやる気がありすぎるだけで、おれは単に付き合わされているだけだ。

 

「お兄ちゃんさ〜……ホントに言い訳する気ある?」

 

 ハァ……キャンプのお誘いを断らざるを得ないのは、まあ、悪い。行きたかったよ、また誘ってくれるとありがたい。

 

「なぜ謝るの。あなたがそうすると決めていたのなら、それは私には関係ないことよ。そのことで、思ってもいない事を喋らなくてもいいわ」

 

 お、怒ってる……? とんでもなく冷めた声でそう言って、アヤベさんはスプーンを動かした。テレビなどまるで見ていない。

 

「怒ってないわ。私に関係のないことで、どうして私が怒るの?」

 

 おれはゆっくりとクソガキの方に首を動かして、視線で問いかけた。怒ってるよね? クソガキは笑顔で頷いた。

 

「お兄ちゃんはさ〜、ダメじゃない? 大事な大事なアヤベさんを怒らせたりしちゃったら、お兄ちゃんもトレーナーしてる甲斐がないでしょ?」

 

 ちょっと黙ってくれるか? おれは笑顔でクソガキにそう言ったが、笑顔を無言で返されたため、おれは無言で頰をつねろうとした、しかし手首をパシッと掴まれてしまう。静かな攻防を繰り返し、カレーを放っておれはクソガキと負けられない戦いを繰り広げた。

 

「……はぁ。食事中よ、食べてからにしなさい」

 

 チッ……アヤベに感謝するこったな、クソガキが。

 

「お兄ちゃんこそ。アヤベさんに感謝しなよ、細かいチームの取りまとめとか、この家の掃除とかゴローちゃんのお世話とか、頼りっぱなしなんだからね。ちゃんとお礼言ってる?」

 

 痛いところを突くんじゃねェぞ、小娘が……。おいアヤベ、いつも助かってます、ありがとう。

 

「どういう感情なの、それは……」

 

 はぁ、とおれとアヤベとクソガキのため息が重なった。それが珍しかったので、顔を見合わせて、そしておれはアホらしくなってカレーを食べることにした。別に知っててそうした訳ではないと思うが、ちょっと辛めの味付けで、丁度好みな感じである。さっさと食ってゴローと戯れて寝よう。

 

「……そのライブ、私も同行する」

 

 はい?

 

「ライブに興味があるの。だから私も一緒に行く」

 

 イヤ……チケットってもんがあってな……。

 

「ねえねえ! 関係者席って言ってたよね、それって〜、ちょ〜っとだけ融通とか効かせてもらえたりしないかな?」

 

 おい、クソガキ……。

 

「グランドライブの参考にするためにライブに行くんだよね? カレンだって出演者なんだし、立派な関係者だと思うな〜。もっといいライブをするために、カレンも参考にできるようなライブを見に行きたいな〜。でも1人増えるなら2人も同じことだと思うな〜?」

 

 勝手な事ばかりのたまうこのガキの言葉に、マジレスできる箇所など山ほどある。だが……おれの頼みでクソガキがグランドライブに協力している以上、文句があっても言えないのがおれの立場だ。だがそんなホイホイと……。

 

「いいから。ライトハローさんに頼むだけ頼んでみてよ、無理なら諦めるから。ね、アヤベさん?」

 

「……ええ。ありがとう、カレン」

 

「どういたしましてっ!」

 

 おれはゆるふわに電話をかけた。頼むから出ないでくれと願ったが、数コールで出やがった。お疲れやまです。あの〜明日のライブの件なんスけど〜、実はちょっとお願いがありましてェ〜〜〜……。

 

『ええ! もちろん大丈夫ですよ! スタンディングにはなってしまうんですが、大丈夫ですか?』

 

 クソがァ〜〜〜。おれは電話越しににこやかに笑って返事をした。ええ、ええ。はい、カレンも挨拶させますんで。ええ、はい。うい〜っす。ざーす。ちょりーっす。

 

 ……。

 

「じゃあ、明日は朝からデートしよっか、お兄ちゃん! もちろんアヤベさんも一緒だよ! よかったね!」

 

 クソがァ!! おれは悪態を噛み潰した。ンでだよ〜〜〜!! 猫とダラダラ過ごさせろ〜〜〜!!

 

「……その、本当に迷惑なら、やめるから」

 

 おれはしゅんとなるアヤベを見て、苦虫(キングサイズ)を噛み潰したような表情を浮かべざるを得なかった。あ^〜〜〜〜頭がおかしくなる^〜〜〜!! 

 

 内心の発狂を隠しておれは言うしかなかった。迷惑じゃねぇよ、こんなモン日常茶飯事だ、気にすんな。

 

「ワーオ、お兄ちゃんってばカッコイ〜。さっすが〜」

 

 おれは無言でカレーを食べ終えると無言でごちそうさまして、ゴローが寝てるベッドで、ゴローに顔をすりすりしようとして引っかかれた。おれは泣いた。

 




本作は嘘つきばっかりです。はっきりわかんだね

・ケイ
 自覚はないが着実に頭がおかしくなっていっている。長時間労働と睡眠部族のせいです。みんなはちゃんと寝よう!(啓発)

・アヤベさん
 かわいい。真っ正面から素直にデレない理由は、まだ地雷が埋まっているためです。まだあるのか……(困惑)

・カレンチャン
 かわいい。なかなかケイに名前で呼んでもらえず不満気。恨みとデレが同居するため、攻撃力も防御力も高い。無敵か……?

いつも読んでくださりありがとうございます。ここすき、評価、感想等、いつもニヤニヤしながら眺めております。
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