夢を見ている。
朝から仕事に行って、なんかよくわからん仕事をして、夕方には帰って、なんか大人になってるアヤベが玄関でおれを出迎えて、まだ小さいおれのガキがママの後ろからペタペタ歩いている。
見たことなどないのに酷く懐かしい心地がする。この地におれの敵はいなくて、おれに努力を強制させる者もいなくて、おれは穏やかさと安心感の中で暮らしている。
幼い頃遊んだ公園が帰り道にあった。通ったゲーム屋もそのままだ。立ち読みを許してくれた本屋の看板も残ってる。ここはおれの育った場所。ここはあいつが生きた町。
安心だ。ここにいれば、怖いものは何もない。恐ろしいものばかりの町の外に出る必要もない。おれはここで生まれ、ここで育ち、ここで眠る。いずれはここで死ぬ。不自由なことは何もない。全ては満たされていて完璧だ。
帰る時、おれは早足だった。早く家に帰りたいと思っていた。扉を開ければ、アヤベが居てくれると思って、実際に居て、彼女は穏やかな笑顔を見せてくれる。
"──おかえりなさい、"
そこで、おれは目が覚めた。
────ッ!! ッ、夢──……ハァ、ハァ……ッ、クソ……。
無意識のうちに上半身を跳ねおこし、目を見開いておれは目を覚ました。夢だったことに安堵し、荒れた呼吸を整えるため、片手で頭を抑える。しばらく肩で息をして、ようやく落ち着いて、長い息を吐き出し呟いた。
……ひでェ悪夢だ。
なんて最悪な夢だ。恐ろしさで身が震えるようだった。これが夢でよかった、心からそう思った。
ところで、もう夢見心地だった時から薄々は気がついていたが、頭がガンガンと痛い。胸焼けが酷いし、体が怠くて動きたくもない。気持ちわりィ。予想通り二日酔いだ。
そして……あれ? ここどこ? ほ、ホテル……か……? しかもなんだこの、妙にピンクでいやらしい装飾……べ、ベッドが、円の形をしている? もしかして、ら、ラブホ……?
おれは冷や汗が止まらず横を見た。イヤな予感は当たっていた。
ゆ、ゆるふわ……。
そこには、シーツを纏って眠っているゆるふわの姿があったのだ。しかもシーツの端から見る限り、肩が露出している──……あかん。
アカーーーーーン!!! おれは雷に打たれたような衝撃により茫然自失とした。
や、やったか? やっちゃった、か? やっちゃったのか……!? おれァ……う、ウソだろ? 昨日のことなんてさっぱり覚えてない、おれ、おれが、う、ウソだろ、ウソだよな。
顔が青ざめていく。心臓がドクンドクンと心拍数を上げて行く。緊張と恐怖によるものだ。
おおおおおおおおお落ち着け。落ち着け柊木、おまえは冷静沈着で知られる男だ、まままままだ慌てるような時間じゃない。おおおおおおおお落ち着いて考えろ。論理的に、ロジックに従って考えるんだだだだだだだ。
いいか? 昨日の夜、おれはいっぱいお酒を飲んで気持ち良くなった。この辺りから記憶が飛んでる、それはいい。いやよくはないが。ともかくおれは短時間でパカパカ飲むと記憶は飛ぶ、それは知ってる。
おそらく気持ち良くなったおれはそのまま二件目だかに行ったに違いない。そして……おそらくこのゆるふわもアル中だ。昨日のイカれた情緒からして、おれと肩を組んで歌を歌いながら二軒目に行ったに違いない。まず間違いない。
一定のラインを超えると人は自分を制御できなくなる。飲んでは喋り、喋っては飲むということを繰り返すうち、いつしか自我はアルコールの中に溶け、言語野の残り香みたいになったおれたちは、自分の家への帰り道も忘れ、1番近かったホテルに行こうとし、一緒に寝ましょうみたいなことを言った……とか、か? 正確なことはわからない、なぜなら何も覚えていないから。
……よ、ヨシ! そんだけ酔っ払ってたらまあ、逆にレッドラインは超えてないまである。男は酔うとアレがアレになるって言うしな! 大丈夫だ!
じゃあ、解決……とは、ならんか。流石に? 無理? 無理か? ダメ? ダメなの? 覚悟決めなきゃいけない? 責任取んなきゃいけない? え? マジで? あわわわわわ……。
もぞもぞとゆるふわが体を揺らして、目を覚ました。あっ……。
ゆるふわはひどく気だるげで気分の悪そうな表情でゆっくりと目を開き、薄目で何回か瞬きをしつつ、おれの存在を認めると、一度目を閉じた。
まだはっきりとしない意識の中でもう一度薄目を開けておれを見て、首を軽く動かしてあたりを視線だけで見回し、ぎゅっとシーツを握り締めると、隠れるように体を隠した。
……。
…………。
………………。
「……え? ええっ!? えええええっ!!??」
ゆるふわは唐突に跳ね起きて、先ほどまで感じていたであろう二日酔いの気持ち悪さなど吹っ飛んでしまったかのような表情を浮かべている。
「あ、え、あ……な、なんで、はだ、はだかっ」
裸ぁ? おれはゆるふわの視線を辿って自らの体に視線を落とした。……あっ、おれ、パンイチやん……。にゃぁ〜。
まるで気がつかなかった自分のアホさが本当にアホらしい。そのせいで、おそらくは、強烈な誤解(あるいは誤解ではないかもしれない)を与えたらしい。ゆるふわの顔が、だんだんと真っ赤に染まっていった。
「うそっ、うそ、うそ、うそ……わ、私、わたし、本当に、え、ええっ……!?」
おれは何を伝えるべきか頭を悩ませていた。先ほどの考えを説明することもできるが、はっきり言ってそれは想像にすぎない。ゆるふわの方は多少なりとも事実を覚えているかもしれず、その場合、おれは何かしらの事実を隠蔽しようとするカスの男みたいになってしまう懸念が拭いきれず、ふさわしい第一声を考え続けていたのだ。
「ひ、あ、え、えっと、えっと、あ、その、わたし、わた、あの、えっと、あう……」
極度の混乱状態に陥っている。このままではとんでもないことを言い出しかねない。
あー、おはようの前に、誤解なきよう伝えておくが、おれはこれでも誠実な方でな。アンタが想像しているようなことは多分していないし、これからするつもりもないってことは、伝えさせてもらう。
「…………。ふ、不束者ですが、これからよろしくお願いします」
にゃぁぁ〜! 違うにょ〜〜〜! 多分違う! 多分やってない! 早まるな、お願い! ちゃんと話そう!
「……実は、私も、何も覚えていなくて……」
あるいはそれでよかったのかもしれない。半端に覚えられていると余計に話がややこしくなりそうだ。それだったら、お互いに何も覚えていないほうがやりやすい。
……まあ、なんか、すみませんでした(?)。おれは深々と頭を下げた。
「い、いえ。私の方こそ、すみませんでした」
なんで頭を下げ合ってるんだ。顔を上げて目が会い、おれはちょっと笑ってしまった。ゆるふわの方もようやく緊張が解けたように顔色が緩んだ。
「……それで、その。ど、どうしましょう……?」
ちなみにだが、おれがパンイチになっているのは多分暑くて全部脱いだせいだと思われる。ゆるふわの方も、多分、多分だが似たようなものだと思われる?
「な、なんというか……お互い、酔っ払ってましたし、ちょっと間違えちゃうことも、あるじゃないですか?」
全面的に賛成する。何もなかった、それで済ませるのが大人の賢いやり方というものだ。知らんけど……。
おれもだんだん冷静になってきたが、この部屋には物的証拠が残ってない。具体的にそれが何かは表現を差し控えるが、特に何もないので、多分ベロベロになって寝ただけという線が濃厚だ。というか多分、お互い恐ろしくベロベロだったので、そういう行為に及ぶ前に寝たと思われる(なんだかとても言い訳じみてしまうが、おれはそこまで責任感のない男ではない、はず)。
「そ、そうですよね……」
ゆるふわは気まずそうに愛想笑いすると、そそくさとシャツを着て、身支度を始めた。おれも流石にいつまでもパンイチでいるわけにはいかない……。無言で、なるべくお互いを意識しないようにしながら、おれたちはさっさとこのピンク色の部屋から出たのだ。
別れ際までお互いに無言を貫いていたが、流石に別れ際に挨拶ぐらいはする。そんじゃ、また……。
「……は、はい。あの……また、一緒に飲みましょうね、ケイさん」
……ああ。またな、ハローさん。
おれは片手を上げてクールに去った。次は……もし次があるのであればだが、この女に酒を飲ませるのはやめておこう。URAさんの有望株に手ェ出したなんて御大に知られたら反省文じゃ済まされない。
……だが、昨日は久々に楽しかったな。何話したかなんて覚えてないが、それだけは覚えている。ハローさんもそう思ってくれていればいいんだが。
唐突にポケットのスマホが振動した。取り出してみると、クソガキから電話らしい。保留中のまま端末を操作してみるが……うげぇ、昨日の夜から鬼電来てんじゃん。何十件も……鬼ラインも飛んできてる。
……ハァ、一気に現実に引き戻された。おれは重い気持ちで電話に出た。はい、柊木ですが。
『やっと出た。お兄ちゃん? 今どこ?』
今から帰るとこですが。
『……そうなんだ、じゃあ早く帰ってきて。待ってるから』
はい。有無を言わせぬ恐ろしい声だったので、おれは大人しく帰ることにした。二日酔いの体を引きずって。
-
家に帰ってくるなりおれは頰をブッ叩かれた。腕を振り抜いたままのクソガキが恐ろしく冷たい顔をしておれを睨みつけている。なんだってんだよ。
「……お帰りなさい。遅かったね」
まずなんでおまえがおれン家いんだよ。おれは聞いてみたが無視された。腕を掴まれてそのままワンルームにエントリーし、クソガキはベッドに腰掛けて足を組んだ。おれは空気を読んで正座した。
「何してたの。昨日」
ゆるふわと飲み行ってた。
「どうして帰ってこなかったの」
潰れて寝てた。
「そんなの知らない。どうしてアヤベさんを放ったままにしたのか聞いてるの」
構う必要ないからな。そう口にするや否や、目にも留まらぬ速度でクソガキはおれを掴み上げた。
放した方がいいぜ。こっちはゲロ吐きそうなんだ。
「……じゃあ吐いて。何もかも吐き出してッ! それがお兄ちゃんの本心なの!? 本気でそんなこと言ってるの!?」
嘘でしたと言えば納得するのか?
「どうして? どうして……アヤベさんのこと大事じゃないの? 仕事の方が大事? なんで? アルファードはアヤベさんのために作ったんじゃないの?」
そりゃ思い込みだな。おれがそう言ったのか?
「なんで……ダメだよ、そんなのダメ、アヤベさんはすっごく傷ついてる……分かってるでしょ!? アヤベさんを突き放して……何がしたいの!? どうして!?」
突き放したつもりはない。単なる意見の相違があっただけだ。人が二人いれば当たり前に起きることだ。
「そんなことじゃないっ! アヤベさんが傷ついてるのは、お兄ちゃんが……こんなこと言われても、顔色一つ変えないからでしょ……」
なんでィ。おれも傷ついた感じ出しとけって? 大体なぜそんなにムキになる。
「お兄ちゃん言ったよね、アヤベのこと頼むわって……分かってたんでしょ? 一体何がしたいの?」
変な企みなんかしてねーよ。まあ良かったんじゃねーの。言いたいことも言えないような関係は健全とは言い難い。
「……言いたいことを1番言ってないのはお兄ちゃんでしょ」
言っても聞かねー連中ばっかだからな。
「お兄ちゃんが本気でそう言わないからだよ。だから分からなくなる、お兄ちゃんはアヤベさんのことどう思ってるの。……カレンのこと、どう思ってるの」
幼馴染と、元担当のクソガキだ。これで満足か?
インターホンが鳴った。玄関カメラには……お、お姫様が、笑顔で立ってやがる……。
「御機嫌よう、柊木さん。それに、カレンさんも」
「おはよう、アルダンさん。せっかく来てもらって悪いんだけど、取り込み中だから帰ってもらってもいい?」
「ええ、お邪魔いたします」
……なんだか混沌としてきたぞ。なんてタイミングで来やがるんだ。大体コイツにトレーナー寮の部屋番号教えた覚えはないんだが……。
笑顔と笑顔が強烈なオーラを放ちながら衝突している。おれは腕組みをしながら、未知の客人の様子をみようとやってきたゴローに気がついた。ゴローは首を傾げている。ぬお〜ん……。
「まあ。そちらがアレキサンドライトさんですか? なんて可愛らしい……」
……ゴロー、おまえ宝石だったのか。道理でかわいいと思った。お姫様は牽制するクソガキに視線を流してあっさりとワンルームに入り込んだ。
「こちらが柊木さんのお部屋なのですね。殿方のお部屋に入るなど、初めてです。随分可愛らしい装いですね。そういうご趣味だったとは、知りませんでした」
天然なのか? あのな、おれがベッドをクッションだらけにするような人間に見えてンのかよ。目ェ腐ってんのか。
「アルダンさんは知らないかもしれないけど、実はカレンも住んでるんだ。それで改造しちゃったの」
ウソつくな。おまえ出禁だぞ。
「ん〜? お兄ちゃんは〜……黙・っ・て・て・ッ!」
クソ睨んでいる。目が欠片も笑ってない、怖。
「……お取り込み中でしたか?」
「あれ? さっきもそう言ったよね?」
「いえ。柊木さんの口から聞いていないものでして」
い、イヤだな〜。なんかキズってるじゃん。よそでやってくれねーかなぁ。しかし……分かってんな、みたいな鋭い視線を向けてくるクソガキと、どこ吹く風で清楚な笑顔を浮かべているお姫様……。
どうやらお邪魔なのはおれの方みたいだな。後はごゆっくり……グェーーーッ!?
「どこ行くのかなぁ。お兄ちゃんのお家はここなんだし、気を遣わなくたっていいんだよ?」
おれは二日酔いでガンガンと痛む頭を抑えて振り返る。このクソガキは……たまにはマトモなところもあるんだなとか思ってたらこれだ。
クソガキが……上等だ、ヤッてやるよ。さっきオメーのことを単なる元担当と言ったが訂正する。オメーはやっぱクソガキだ、目上への敬意が足んねーぜ。怖い顔で睨んでりゃ済むとでも思ってんのか?
そもそもおまえ、言うほどアヤベのこと分かってるわけ?
「は?」
あのねぇ。そりゃおれだって悪いトコありますよ。だが今回の件は、どっちかと言えばアヤベさんがワガママなだけだ。
「……そうは思わないけど」
「ええ、私もそう思います」
オメーは黙ってろッ! 関係ないんだからッ!! ややこしいッ!!
「んぅっ……ええ、はい。黙っております」
ゴローが空気を読まずにぬぉ〜んと鳴いて、お姫様の足元にすりすりと頭を擦り付けた。恐る恐る頭を撫でるとゴローはあっさりと体を許し、どころか抱っこまで許す始末だ。そんなことは放っておいて、おれはクソガキと対峙した。
賭けろよ。アヤベの内心は実際どうだったのか、お前に分かンのか?
「……お兄ちゃんには分かってるとでも言いたいの? 冗談でしょ」
アヤベの本心を正確に理解していた方の勝ちだ。簡単だろ?
「いいよ。お兄ちゃんなんかに負けるわけないし。それで、負けたら坊主にしてくれるんだよね」
なんでだよ。嫌だよ。
「自信ないの? アヤベさんのこと分かってるんでしょ?」
はン……。乗ってやるよ。その代わり、おれが勝ったらおまえ、二度とアルファードに来るな。
「……そんなに、カレンに会いたくないの? お兄ちゃん、カレンのこと嫌い?」
別に。おめーのことは、どうとも思ってない。
「……、……いいよ。はっきり決めよ。お兄ちゃんがそう思ってるなら、それでいい。でも、カレンが勝ったら……もう一度、カレンのこと、受け入れて」
分かった。おれは全く表情を変えず、穏やかに微笑んでいるお姫様をちらりと見た。オイお姫様、立会人頼むわ。
「承りました。このメジロアルダン、ここに両者の決闘を認めます。お互いの命を掛けて、存分に戦ってください」
イヤ違う。勝手にデスゲームにするな。真面目にやってくれる?
「ふふ、冗談です。それでは両者の望みを賭けた決闘を認めます。アルファードへの加入の是非、それから柊木さんの頭髪を賭けて」
坊主はなんとかならんの? 普通に嫌なんだけど……。イマイチ締まらないままなんか成立してしまったが、まあ勝てばいいか。クソガキのうっとおしいちょっかいともおさらばだ。
「……勝負は週明けでいいよね。一応言っておくけど、カレンは手段を選ぶつもりないよ。そういうやり方を教えたのはお兄ちゃんだから」
おれがそいつを教えたのなら、当然おれもそういうやり方が出来るとは思わないか? まあ精々頑張ンな。
「……後悔しないでね」
クソガキは捨て台詞を残してようやく帰ってくれた。はぁ、大体なんであいつはおれン家居たんだ。おれはため息をついてベッドに座った。お姫様が真横に座って、肩に体重を掛けてくる。おれは普通に押し返し、そのままお姫様はベッドに倒れこんだ。
「柊木さんはいけず、です。せっかく邪魔者がいなくなったのですから、私に甘い時間を与えてくださいませんか?」
頭が痛くなってきた。イヤ元々痛いんだった。おれは二日酔いの感覚を急激に思い出し、頭を抑える。まずお姫様、おれァ住所教えた覚えはないし、イキナリ来られると困るんだが。
「まあ、そうでした。実は折り入って相談したいことがあり、直接お話するために参りました」
お姫様は体を起こし、一応は真面目な表情を作っている。おれは警戒した。相談だと……? 厄介ごとの香りがするぞ。
「そんな顔をしないでください。実は、マックイーンさんのことなのです」
う、うーん……。まあ、内容次第、だな……。
「実は先日の一件以来、マックイーンさんが私を目の敵にしているのです」
う、うーん……。そ、そうなの……? おれとしてはなんともコメントしづらい。厳しいものがある。
「真正面から、その、柊木さんは渡しませんと宣言されてしまって。私もつい意味深なことを言ったりして、マックイーンさんを煽ってしまったのですが、それで余計にムキにさせてしまって……」
こ、この、こいつ、このバカ……このおバカ!! やめてくれ! そういうの! すっごい困るの! そういうことされッとさあッ! ただでさえおれァ悩んでんだぞ!
「まあ。柊木さんらしくありません、いつもはっきりとされているではありませんか」
あのね!! マックの背後にオメーんとこのババアがいるでしょうが!! 分かりなさいそんぐらい!
「しかし、私も一応メジロの一員なのです。そう言った意味では平等では?」
ンにゃァ〜〜〜!! 平等では? じゃねェよ! おれが困るの! すっごく!! 落とし所が!! 難しくて!!
「嬉しいです。私のことで頭を悩ませて下さっているのですね」
にょわ〜〜〜〜!! 無敵だ、無敵のスタンドだ!! この女は頭がおかしい!! おれは……おれは、こいつには、勝てない……!!
「誤解して欲しくないのですが、私はマックイーンさんと仲良くさせて頂きたいと思っているんです。ですので、猫のように睨まれるのは、少し……困ってしまいまして。知恵をお借り出来れば、と……」
信じがたいが、一応は本心らしい。じゃあ煽るなよ……。だが考えようによっては、ある意味では、おれに話を持ってきてくれてありがたいと言えるかもしれない。おれの知らないところで訳わからん事になるのが1番怖い。
……ババアに伝えといてくれるか? 近いうち訪ねるってさ。
「……かしこまりっ」
ぶっ飛ばすぞおまえ。よくここでふざけられるな。
「冗談です、怒らないでください。それでは、お祖母様に伝えさせて頂きます。柊木さんは、私と結婚するつもりだと」
おれは無視した。もう嫌だ。二日酔いで気分悪い。寝たい。
「……なるほど。少々キッチンをお借りしても?」
いいけど。
何をするつもりなのかと見てると、お姫様はありもので軽い朝食のようなものを用意してくれた。
「昨夜は随分と飲まれていたと聞きました。まだ朝食も摂っていないのではないかと思いまして」
まあそうだけど。なんで知ってんの?
「ふふ。召し上がってください」
おれは味噌汁を啜ってみた。美味い。染みる……。
「お口に合ったようで、何よりです。ところで、昨夜の女性はどなたですか?」
ハローさんだ。ガンダムの方じゃねェぞ。
「随分楽しそうなご様子だったと聞いています。もしかして、交際されているのでしょうか?」
してない。
「そうなのですね。ところで、こちらの写真をご覧いただけますか?」
お嬢様の携帯の画面を見てみると、怪しいホテルにおれとハローさんが肩を組んで入って行くところが写っている。ヤッバーい。
ヤッバーい!!
「柊木さんがグランドライブなる新企画に関わっていることは存じています。ライトハローさん……URAのイベントプロデューサーですね。しかし……このような関係を持つのは、プライベートといえど、如何なものなのでしょう?」
ヤッバーい!! しゃ、写真……!? な、なんで!? エェ!? は、張られてた!? め、メジロの……情報網!? これが!? どういうこと!? 常日頃からおれを張ってるの!? ヤバない!?
「お祖母様に進言しなくてはなりませんね。柊木さんは、とても……女癖の悪い方だと」
ニャァ〜〜〜。ねこだよ〜〜〜。にゃんにゃ〜ん。お姫様はとてもいい笑顔を浮かべている。
「しかし、私は信じているのです。柊木さんはそのような方では、ありませんよね?」
これには深い事情があってな。実はホテルで夜通し企画会議をしていたんだ。他に使えるスペースがなかったため、仕方なく使用しただけで、他意はない。おれは堂々と嘘をついた。おかしいな、おれは嘘は吐かない(キリッ)とかやってなかったっけ。
「ええ、私もそう信じます。ところで私、行ってみたい場所があるのですが、よろしければお付き合い頂けないでしょうか?」
もちろんだ、お姫様。何処へでもエスコートさせて頂こう。なんでも申し付けてくれ。
「嬉しいです。それでは、朝食を食べ終えたら、お出かけ致しましょう」
おれは致命的な弱みを握られた。さ、最悪だ。どうにかして証拠写真を消すしかない。油断している間に携帯を盗んで消す。クラウドによるバックアップも考慮してハッキングして消す。アカウントを盗んで全て消す。
ミッションインポッシブルだ。その激闘は……語りはしない。だが信じてくれ、おれは必ず……未来を掴み取ってやるぜ。
ぬお〜ん、と、ゴローがエサの催促をする。カリカリをエサ皿に盛ると、ゴローはお礼も言わずに食べ始めた。見習いたい、この生き様。