ウマ娘の頭悪いサイド   作:パクパクですわ!

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ナリタタイシンの憂鬱:エンドレスディセンバー 前編

ふむ。忘年会……。

 

「ああ。実はさっき決まった話でな。色々忙しい中、他の連中と予定が合えばってことで、今から」

 

随分急な話……というか、もう明日には年が変わってると言うのに、またなんとも慌ただしい。店の予約も出来んだろうに。

 

「なに、食材を買い込んでくればいいさ。職場でやる忘年会もあったっていいだろ?」

 

うむ……いいだろう、おれも付き合うよ。

 

「心強いな! 美味い飯、任せてもいいか?」

 

この天才にすべて任せるがいい。あ、沖野さんは手伝えよ。

 

「分かってるって。で、担当のウマ娘たちなんだが──」

 

うむ。それが問題だ……。

 

あのガキ共がいると酒が飲めん。これが何よりの問題──おれはいやだぞ、ガキどもとコーラで年を明かすのなんて。サッポロがいいんだ。

 

「まあ、部分的に同感だ。アルファードのメンバーは? 帰ってるのか?」

 

まあ大体はな。ただ年越し前だってのにボッチでフラフラしてるのが1人いる。面倒だが面倒を見てやらんといかんかもしれん。

 

「1人だけか?」

 

うむ。それぞれで年明かしをするって連中は、寮で騒ぐつもりだろうし、そういうのを除いてこの部室にふらっと来そうなクソガキが1人。

 

放っておくわけにもいかんが、放っておきたい。だが放っておけん。

 

「んー、どうするか。あのおハナさんも参加するって話だし、他にも5、6人来るそうだ。こんな機会は滅多にないが、ウマ娘が優先だし……。だがお前の料理の腕は欠かせない。どうにか出来ないか?」

 

おれを誰だと思っている。天才だぞ。間に合わせて見せよう。

 

「オーケーだ。信じるぞ、先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

──と。

 

安請け合いだったかもしれない。

 

「……ねえ。ちょっと付き合いなよ」

 

なんだ。

 

「いいから付いて来て。たまにはいいでしょ」

 

ふむ、よかろう。

 

おれは最近ギシギシ音が鳴るようになってきた回るタイプの椅子から立ち上がって、年末ぼっちを体現しているクソガキ4号の後を付いていった。

 

どうやらこのクソ寒い中、このぬくぬくとした部室を出るつもりらしい。突然やって来てなんだと言うのか。

 

ターフに積もった雪に反射した日光。まるで日光に焼かれるゾンビが如く、おれの両眼に突き刺さってクソ眩しい。除雪してほしい……。

 

今年は少しだけ、雪が積もった。

 

どうせ東京の雪なんぞ積もったって大したことはあるまい。すぐに溶けるか除雪されてしまいだ──そう考えると、ターフの雪もちょっと可愛く思えてくるような気がする。冬にしか生きられぬ、儚き存在……。

 

クソガキは階段に雪の足跡を残しながら登っていく。おれは黙ってついていくが、そのうちに数台ほど並んだ自販機が目に入る。

 

「奢って」

 

おれも無粋な言葉は言うまい。コインを突っ込んで暖かいやつのボタンをポチっと。

 

ほれ、お汁粉缶をくれてやる。

 

黙ったままクソガキ4号は受け取った。おれは自分用のコーンポタージュ缶を買うと、近くのベンチに腰を下ろす──てか熱い。あったかい缶って超熱いな。湯たんぽにするにも熱い。

 

で、なんだ。

 

「……」

 

奢ってもらったくせに、プルタブを開けもしない。両手で缶を包んで黙ったままだ。

 

実家には帰らんのか。

 

「……いい」

 

ふむ。ではぼっちだな。BNWの他2人がいなければ随分静かになるものだろう。

 

それにしてもテイオーは速かったな。流石と言うべきか……。

 

「……」

 

先日の有馬記念。一着はトウカイテイオーだった。あいつは完全に復活を果たし、その存在を再び世間に思い出させた。まあ天才たるおれが面倒を見てやったのだから当然だな。クソガキとはいえ、この世に天才は存在していたらしい。

 

タイシン。おまえ、見事に負けたな。勝負もできなかった。

 

「……うっさい。黙れし……」

 

うむ。

 

今年の冬は冷えるな──。

 

結果だけがすべてを肯定する。その過程など、敗者からすれば慰みにもならんのだ。レースに頑張ったで賞なんてないからな。

 

だがおれはあってもいいと思うよ、頑張ったで賞。

 

「……黙れっつってんじゃん。そんなの、レースに出てる全員をバカにしてる……!」

 

ふむ、やはりそう思うか。

 

こればっかりは誰に話しても納得されたことはない。一着だけが勝者で、あとは二着、三着と並べば残りは横並びでみんな負け犬だ。犬と言ってもウマなんだがな、ははは。

 

「……」

 

やれやれ、まだだんまりか。おまえがなにも話さんのなら、おれが勝手に話していくほかあるまい。

 

タイシン、おまえは他の誰に肯定されても大した価値を感じない。おまえを肯定するのは、おまえを納得させうる"結果"だけだ。

 

そう珍しいことじゃない。結果は嘘をつかないし、はっきりしているからな。だが頑張ったで賞がないのなら、結果を得るのは一人だけしかいない。

 

十何人いる中で、一人だけしか結果を得られんのなら、それを得るのは難しい。

 

だから、勝てない凡人はどうにか折り合いをつけていくものさ。自分を肯定するための材料は、はっきりとした結果から、曖昧な過程へと移っていく。勝てなかったけど、自分は頑張ったんだって。

 

それを逃げと呼ぶヤツもいる。だがおれはそうは思わない。

 

おまえはどう思う、タイシン。

 

「……そんなの、弱いやつの言い訳だ。勝てなかったヤツがうだうだ言ってるだけだ……!」

 

おまえはそう言うと思ったよ。

 

コーンポタージュの優しい味と温かさが染み渡る。外が冷たいだけに、暖かいものは格別の味がする気がする。

 

過程を認められんのなら、結論など最初から分かっているだろう。次こそ勝てるように努力する。それだけのことである。

 

「分かってる……」

 

とか口ではいうが、本当に分かっているやつの表情ではない。

 

クソガキの相手というのは難しい。単に納得させればいいというものではなく、相手がなにを求めているのか知る必要がある。ひどい時はなにも求めてない可能性もある。

 

……。

 

どうしよ。こいつだけ忘年会に連れていくことも考えたが、どう考えたって逆効果だ。正直こいつのケアは明日にでも回して、今日だけは酒が飲みたい。もう二ヶ月も飲んでいないのだ。そろそろ中毒症状が現れても不思議はない。

 

ただその場合、初詣に誘ってくる連中が山ほどいるだろう。手が回らん。

 

「……あのさ」

 

なんだ。

 

「……今日、部室に居てもいい?」

 

だめだ。

 

「だめっていうの禁止。なんか美味いご飯作ってよ。あんた得意でしょ、そういうの。大晦日なんだから、どうせなんか作るつもりなんでしょ」

 

ふむ。

 

「カフェテリアは閉まってるの知ってるでしょ。朝から何も食べてなくて腹減ってる」

 

めんどくせー……。

 

「……今日くらい、いいじゃん。作ってよ、お昼ご飯」

 

甘え下手か。もっと素直に甘えられんものかね。

 

「……黙れし。どうせ今更でしょ」

 

分かった分かった。少し早いが年越しそばでも作ってやる。

 

「昼から? そばはいいけど、普通夜じゃないの? あんた、そういうところは細かいヤツだと思ってたんだけど」

 

ぎくっ。

 

……夜は忘年会だ。正直今年はクソ忙しく、今日も仕事漬けになることを覚悟していたおれたちトレーナーにとって、この忘年会は降って沸いた僥倖……。幸運……っ! 後回しにできる作業ばかりだったのが幸運であった。火急の用件がある時はこうは行かない……。

 

実は、そばの仕込みは済んである。沖野さんに誘われなければ、このクソガキでも誘ってエビ天そばでも作って食おうと思っていた。

 

そう、本来であればそうするつもりだった……。

 

「……。もしかして、なんか予定でもあんの?」

 

言いづらい。とても言いづらい。有馬でボロ負けして落ち込んでるナリタタイシン(年越しぼっち)を放って忘年会に行くなんてとても言えない。

 

ないよ。やっぱり昼は別のものにして、夜にそばを食べようか。

ところでシャンプー変えた?

 

いや二つ目。そうなの? シャンプー変えたの? ほらもう一個くらいあるだろう、選択肢。出せや。

 

実はかくかくしかじかでな。すまんがぼっちで過ごせ。

 

鬼か。

 

……どうしよ。まあ実際のところ選択肢はこのくらいである。

 

タイシンはツンデレでシャイのくせに臆病なところがある。拒否られるのが怖いので、そうなる前に身を引く。おれに予定があると知った時、こいつは表面上は何も思ってない顔をするだろうが、内心はちょっとしょんぼりするであろう。

 

ないよ。やっぱり昼は別のものにして、夜にそばを食べようか。

 

「……あっそ。じゃあ早く作ってよ、腹減ってるっつってんじゃん」

 

か……可愛くねぇ〜! このガキ、ちょっと下手に出りゃあこれだ!

 

こらえろ。こらえろおれ、おれは大人だ。おれは大人、おれは優しい、おれはつよい、おれは器が大きい男……! 怒らない怒らない、怒るなよ……! 忍耐力のスキルを発動して持ち直し、おれはベンチから立ち上がる。

 

ついて来い、買い出し行くぞ。

 

「は? 何の?」

 

メシを食いたいのなら働け。荷物持ちくらいできるだろ、皐月賞ウマ娘。

 

「……。なんか、気に食わない……このっ!」

 

ぐあああああ! 痛ってぇ! てめえこのクソガキ、何しやがる!

 

「あんたがあたしを顎で使おうなんて二千年早いっての。買い出し行くんでしょ、さっさとすれば?」

 

こ、このガキ……!

 

カッとなって麻袋を振り下ろすが、クソガキはヒョイっと避けた。おちょくるような駆け足だ。

 

「お〜にさんこちらっ、てーのなっるほうへっ」

 

手拍子しながら歌っている。おれの堪忍袋(容量200mL)が破裂した。

 

てめえこのクソガキ、待ちやがれやぁ〜!

 

「あっはは、遅い遅い! どうしたのトレーナー、天才なんじゃなかったの〜!?」

 

人間を無礼(ナメ)るなよ……!

 

とっ捕まえて泣いて謝るまで説教を食らわせてやる。捕まえられなかったら今日の昼飯にハバネロぶち込んで泣かせてやる。

 

「ほらほら遅い遅いっ! そんなんじゃ百年かかっても捕まらないんだけど!?」

 

……。くらえ。

 

油断して振り向いたクソガキへと投げる秘中の策……!

 

「わぶっ!? つ、冷たっ!?」

 

雪玉……。それは日本が産んだ戦争兵器……!

 

「あんた、やったね……っ!? だったらこっちだって!」

 

薄く積もったとはいえ、年末年始で人のいないトレセン学院の雪は未だ手付かず。つまり雪は豊富に存在する……!

 

片方が投げれば始まる……戦争……っ! 終わりの見えない雪合戦……!

 

ほれほれどうしたさっきまでの威勢は!? 口だけか、ぉおん!?

 

「このっ、この……! ウマ娘舐めんな、人間風情が!」

 

口が悪いどころじゃない。ここがウマッターなら大炎上する発言だ。

 

が、無駄……! どれだけ足が速かろうと、筋力があろうと……! 雪玉の軽さでは、スピードの限界がある……! 必然……! 命中など論外……! 当たるはずがない……っ!

 

「これでも食らってろ!」

 

ぼへっ!?

 

鼻面にもろに命中した。とても痛くて冷たい……。冷たく凍える怒りが湧き上がる。ふつふつと……!

 

てめえやりやがったな、戦争じゃあ〜ッ!

 

「ははっ、いい機会じゃん! どっちが上か教えてやるよ。もう二度とあたしにデカい口なんて利けないようにしてやる!」

 

上等じゃクソガキが〜! トレーナー様にかかってこいやぁ〜!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……おれの勝ち。

 

「……絶対あたしの勝ちだし」

 

おれだろ……。

 

結局雪でびしょびしょになった。シャワーを浴びたおれと、替えのジャージに着替えてきたタイシンは不毛な争いをしていた。

 

いや、争いというのは正確ではない。なぜなら争うほどの体力が、もう残っていないから。

 

「……あのさ。あんたよく子供っぽいって言われない?」

 

言われたことがない。

 

「じゃあバカっぽい……いや、バカってよく言われるでしょ。つかあんたバカ」

 

アスカかな?

 

クソガキはこたつに引きこもったままうだうだと続けている。

 

「てか余計に腹減ったじゃん……。なんか買ってきてよ、もう限界……」

 

ぐぎゅるるるるって聞こえた。腹の虫が鳴いている。おれも泣きたい。なんだって大晦日にこんなガキみたいにはしゃぎ回らなきゃけないんだ。仕事もあるんだぞ……。

 

「ご飯……もうなんでもいいから……」

 

くそ。カップ麺しかない。こんなモンをウマ娘に食わすのはおれの面目が立たん……が、まあ別にクソガキだしいいか。ほれ、どっちがいい。カレー味とシーフード味、あとは辛さ百倍アンパンマンマックスロード〜お前をあの世でまた殺す〜味ぐらいしかない。

 

「最後の以外ならどれでもいい……」

 

完全に気力を失っている。こたつに吸い込まれたままテーブルに突っ伏しているので、そう遠くないうちに気絶するだろう。冗談じゃない……。

 

ヤカンのお湯を沸かしてカップに注ぐ。そのあとに冬の乾燥対策でヤカンをストーブの上に戻しておく。この光景は嫌に庶民的だ……。

 

起きろ。食え。食ってから寝ろ。

 

「ん……」

 

激戦の雪合戦を経てへろへろになって、こたつの攻撃力が加わったために今にもダウン寸前だ。半分目を閉じたままカップ麺を食べ切ると、そのまま後ろに倒れて目を閉じた。

 

……ええ。マジでここで寝るの? 帰れよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、沖野さんには断りのメッセージを送った。

 

大晦日くらい酒が飲みたかった。もうどれだけ長い間飲んでいなかったか……。

 

キーボードを叩いて考えて、プリントアウトしたデータと睨めっこして(紙と睨めっこして負けたことは一度もない)、メール来て、メール送って、メール来て、電話来て、電話かけて──とか何とかやってたら、もう時計の針の大きい方が10を指していたことに気がついた。夜飯を食べてないことに今更ながら気がつく。

 

「……ん、あれ……あたし……寝てた。え、寝てたっ!?」

 

今更ながら飛び起きやがった。えー、昼ごろからだから……大体9時間近いお昼寝である。もう今日は寝なくていいね、よかったね。

 

「……マジ? え、ちょっと……ねえ、アタシなんか寝言とか言ってなかったよね!?」

 

あ? 知るか。

 

「は? ちょっとは気にしとけっての」

 

いびきかいてたぜ。

 

「いッ、嘘でしょ!?」

 

うむ。嘘だ。

 

「………………こ、殺す」

 

どうどう。どうどう。落ち着きなさい、タイシンさん。冗談です。可愛らしい寝息でしたわよ。

 

「か、かわっ!? つかきもっ、その喋り方やめろっ!」

 

大声を出すな。もう夜です。

 

新年まであと2時間くらいだってのに、どうにも騒がしいやつだ。ちょっとからかっただけだというのに……。

 

腹減ったろ。そば食うぞ、そば。

 

「え。マジで作ったんだ……」

 

そりゃあ作るだろ。年越しなんだし、日本人だし。

 

つかあれだな、おまえ今日おれの邪魔しかしてないし……準備手伝え。

 

「だるい。パス」

 

おれは未だにこたつから出れない怠け者の後ろに回って、ガシッと掴んで引き摺り出そうとし──ぱしっと手を払われた。

 

……意思は硬いようだ。

 

おれは今日一日で何度仕方ないといえばいいのか……。ああ、今頃はもう忘年会始まってるんだろうなぁ……。魔王とか獺祭とか買ってきてるって話だったし、美味い酒飲んでるんだろうなぁ……。

 

はあ、蕎麦食って年越すか……。

 

おれはとぼとぼとキッチンの方へ歩き──どうして部室にキッチンがあるのだろう──湯に火を沸かし、揚げ物の準備をする。やはりそばはえび天に限る……。

 

「で、なにやればいいの」

 

……お。やる気になったか。

 

「っさい。なんか、してもらってばっかだと気持ち悪いじゃん……」

 

ツンデレが。最初からそうしとけばただの萌えキャラなのに。

 

「このっ!」

 

ぐあっ! ちょ、キッチンで暴れんな!

 

「……次同じこと言ったら、殺すから」

 

分かった分かった……。じゃあお湯沸いたらそば茹でとけ。出来ンだろ。

 

「分かった」

 

油があったまってきた。えびを衣から出して突っ込んで出汁を火にかけてうんたらかんたらとかやってれば──。

 

「……おお、美味しそう」

 

うむ。そうだろうそうだろう。あー腹減った、いただきまーす。なんか面白い大晦日スペシャルやってるチャンネルあったかなー。

 

「……ねえ、もしかしてなんだけどさ」

 

なんだ。

 

「その……えっと、もしかして……」

 

あ? 歯切れ悪りぃな。いつものタイシンちゃんはどこへ行ったのだろうか。

 

「……あたしが起きるまで、年越しそば作るの待っててくれたの?」

 

……。そんな訳がないだろう。たまたま思い出しただけだ。

 

「どっちがツンデレなんだか……」

 

っせーな。さっと食え。

 

「いただきます。……え。うま」

 

天才だからな。

 

……。あー、なんだろう。暖かい部屋、暖かいこたつ、そして年越しそばとテレビ……実家を思い出すような気がする。

 

あ、タイシン。

 

「なに?」

 

いい時間だからそれ食ったら帰って寝ろ。

 

「は? なんで? すっごい寝たし、年越しまでは起きてるに決まってるじゃん」

 

おまえな。おれが寝れないだろうが。

 

「寝ればいいんじゃない。電気は消しとくから」

 

うむ……。

 

「いいじゃん。どーせ帰ったって、クリーク先輩は実家帰ってて誰もいないんだし。どこでも一緒だよ」

 

これだからぼっちは……。ため息をグッと堪えてやった。

 

こたつで寝るなよ。風邪引くから。

 

「分かってる。寝るときはちゃんと帰るに決まってんじゃん」

 

どうだかねぇ……。

 

──とか。

 

なんとかやりながら、おれは結局クソガキに付き合わされて、オセロだのソシャゲだの音ゲーだのをやりながら年越しまで起きる羽目になった。

 

「あ、年変わった」

 

お。やっと新年が来た。おせーぞ。

 

「……その、あけおめ。……ことよろ」

 

はい、あけおめことよろー。じゃ、寝るわ。おやすみ。

 

「……もうちょっと付き合えし」

 

おれは明日も仕事なんだよ……。元旦だぞ……元旦から仕事っておまえ、普通に絶望するが。

 

「どうせサボってるだけじゃん……。いいから起きてろ、あたしは全然眠くないんだよ!」

 

うぅん……。ええ……眠い……。寝たいいい……。

 

結局2時くらいまで付き合わされて、おれは途中で寝落ちして寝た。

 

ああ……なんで有馬でぶっちぎっちゃったんだ、テイオー……。おまえがぶっちぎっちゃったせいでおれはひどい年越しになったよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#01

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!』

 

…………。

 

『ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!』

 

っせーな、元旦くらい寝させろよ……。

 

寝ぼけた手つきで時計をぶっ叩いて黙らせて、のそのそとスマホに手を伸ばし、なんとなく通知を確認する。

 

……あれ。元旦なんだから、あけおめのラインくらい来てると思ったが、誰一人として送ってきていない。なんということだ、おれの人徳はあけおめラインにも届いていなかったというのか……(高度なギャグ)。

 

仕方ない、こっちから行くか……。この時間から起きてるのは……マックイーンは多分起きてるだろ。

 

『あけおめ。今年もよろしく(スタンプ)』

 

ラインを送った。すぐに既読が付く。早いな……。

 

『トレーナーさん、ついにバカになりましたの?』

 

……あ?

 

『今日はまだ大晦日ですわ。日付も分からなくなりましたか?』

 

………………え?

 

待て。待て待て。なぜだか分からないが、背筋がゾッとした。意識が急激に覚醒していく。

 

スマホの日付は12月31日を表示している

 

数時間前の、ナリタタイシンとの年越しの記憶が蘇る。夢か? 夢オチなのか? まさかの夢オチなのか……?

 

スマホが振動する。電話がかかってきたのだ。通知には"ナリタタイシン"。

 

『もしもしトレーナー!? 起きてる!?』

 

……どうした、朝っぱらから。

 

『ねえ、昨日あたしと一緒に年越ししたよね!?』

 

………………おい。おいおいおい。

 

『なんとか言ってよ、それとも夢だって言うの!?』

 

冗談だろ。冗談だろ。冗談だろ……?

 

まさか、おまえもか……?

 

『どういうこと!? ちょっとだけ眠って起きたら、なんかおかしなことになってるし、もう訳わかんないんだけど……ッ!』

 

か、仮説その1……。

 

おれたち二人は、偶然同じような夢を見た……説。

 

『夢なんかじゃないでしょ!? 確かにあたし、日付が変わるところを見た!!』

 

仮説その2……。

 

何者かにいたずらされている。あるいは、幻覚を見せられている……説。

 

『誰に!?』

 

おれが知るか……。だがこの説は有力じゃない……。

 

今テレビを付けたが、昨日と全く同じニュースが流れている。これはいたずらじゃなさそうだ……。幻覚の方も、あまり現実的じゃない……。

 

『じゃあ、何……?」

 

……仮説その3。

 

おれたちは、タイムリープしている説。

 

『……え? うそ、でしょ……?』

 

………………。

 

いやいやいや、そんなバカなことが有り得るものか。どうせ夢だよ、つか今見てる現実の方が夢だ。全く勘弁してほしいね、こんなのが初夢とか。一富士二鷹三ニンジンくらい見せて欲しかったよ。

 

『……夢なら、どうすれば覚めるの?』

 

もう一度寝ればいいさ。おれは二度寝しまーす。おやすみ。

 

『ちょ、トレ』

 

ぶちっ。おやすみなさーい。二度寝サイコー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#02

 

 

 

 

 

 

 

 

『ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!』

 

っせーなー……寝かせろよ……元旦だぞ……。

 

『ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!』

 

うっせぇ! ポンコツ時計の頭を殴って黙らせた。

 

あー、なんか変な夢見たな。なんだったんだろうあれ。タイムリープ? かなり怖い話だった。夢ながらゾッとしたわ。

 

──ちゃららちゃららちゃららちゃらちゃららん(LINEの電話の音)

 

んだよ新年の朝っぱらから。6時だぞ……。

 

『トレーナーッ!』

 

……。なんだよ。

 

『ねえ、覚えてんでしょ』

 

な、なんの話だよ……。

 

『……何回寝ても、新年が来ない。全部なかったことになってる。寝るたびにリセットされてる。窓を割っても、雪だるまを作っても、その辺にいたウマ娘の尻尾を引っ張って逃げても……寝るたびに、全部元通りになってる。何も覚えてない……。ねえトレーナー、あんたは今──』

 

何回目?

 

 





※この作品はコメディです

・ナリタタイシン
ツ ン デ レ 。か わ い い 。

・トレーナー
特殊スキル:自分含む周囲の人間のIQを100下げる(パッシブ)。


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