ゲラート・グリンデルバルド成り代わり主がDC世界でスーサイドスクワッドに入る話 作:抹茶アイス大好き
うわぁ、2022年終わっちゃった。
雨が降っている。弾丸の雨が。
ウォラーを輸送するためのヘリは、ハイジャックされていた。
フラッグは屋上の室外機の陰から顔を出し、ヘリから銃を乱射する男の顔を視界に収める。
悪趣味なピエロの仮装をした男の名をフラッグは知っている。
ゴッサムシティの犯罪界のプリンス。悪を憎むバットマン最大の宿敵。そして、何よりハーレイの恋人。
ジョーカー
金メッキで塗装された銃は、彼の凶悪さをより際立たせている。
凶悪犯ばかりの特殊部隊Xの面々にも引けを取らないイカレ具合だ。
ジョーカーから視線を移すと、軍人の死体がいくつも転がっている。
それはヘリを迎えるべく、前に出ていた部下たちだった。彼らは逃げることも許されず、無情にも銃撃を前に倒れた。
しかし、彼らが的になることで稼いだ僅かな時間は、後方にいた面々に隠れる時間を与えてくれた。
そうして、冒頭へと戻る。
特殊部隊Xは頭上を掠める銃弾に、なすすべもない。
どうすればいいか
焦りがフラッグに募る。
が、そこでクラウチがデッドショットに問いかける。
「あれは誰だ?」
「ジョーカーだ!ハーレイの恋人の!」
銃撃に負けぬよう、大声で答えるデッドショット。
その答えを聞いたクラウチは改めてジョーカーの顔を見て、ハーレイの顔を見る。
「……お似合いのカップルだな」
「でしょ!プリンちゃーん!」
叫ぶハーレイ。
ハーレイは、今日一番に上機嫌だった。
そんな会話をしているとピロンっという音がハーレイのスマホにメッセージが届いたことを伝えた。
スマホの画面には『今だ!』と表示されている。
そのメッセージを見たハーレイの喜び一色だった心に、ほんの少し迷いが現れる。
愛しの彼が迎えに来たということは首の爆弾はもう心配しなくていいのだろう。
しかし、ここで仲間を見捨ててもいいのだろうか。
たかだか、数時間の関係。しかし、共に死線を潜り抜けてきた仲間たちだ。自分を狙うバケモノを彼らは倒し、彼らを狙うバケモノを私は倒した。
そんな彼らを裏切って逃げ出していいのだろうか。
ハーレイの久しく動かなかった善心が声を上げる。
デッドショットは行くなと首を横に振る。
しかし、
「好きな方を選べ」
クラウチとハーレイの目が合う。
そして──
「プリンちゃーーん!!」
ハーレイは満面の笑みで叫ぶと、隠れていた室外機の陰から飛び出す。
「殺せ!」
ウォラーが隣のフラッグに叫ぶ。
その命令にフラッグは本能的に従い、ハーレイの起爆スイッチを押す。
だが、表示されるのはFAILの文字だけ。
ハーレイに埋め込まれた爆弾は、開発した技術者本人の手によって無力化されていた。
無論、技術者も自らの意思ではない。妻子を人質にとられたうえでの行動は、謀略においてジョーカーがウォラーより数枚上手なことを示していた。
そうしてハーレイは室外機の上に立つ。
銃弾がいくら掠めようが、その笑顔に微塵も傷をつけることはできない。
そんな彼女を見たジョーカーもまた、答えるように笑みを浮かべ手を伸ばす。
その手に向かって彼女は走り出し、そして飛んだ。
大ジャンプとは言い難い、一般人よりは飛んだと言える程度の、極々平凡なジャンプ。
しかし、そのジャンプは彼女にとっては正しく自由への飛翔だった。
ハーレイがヘリから吊るされたロープを掴むと共に銃撃は止み、ヘリはビルから脱兎のごとく逃げ出す。
翼を持たない人間にできることなど何もなく、ただ小さくなっていくヘリを見つめることしかできない。
それを知ってか、ビルに取り残された面々を小馬鹿にするようにハーレイはロープで見事なエアリアルティシューを見せびらかす。
それに対しウォラーは手札を切る。ここにハーレイを処分するために。
「デッドショット、ハーレイクイーンを撃ちなさい」
「理由がない」
デッドショットの返答は当然だった。彼の仕事は重要人物、つまりはウォラーの救出。依頼された仕事以外のことをやることは、彼の仕事人としての流儀に反する。しかし──
「狙撃手として雇ったのよ、殺せば娘と自由に暮らさせてやる!!」
ウォラーはここまでコケにされて何もしない女ではない。
部下を殺してまで隠そうとした失態。それに加えて、再び自分の配下に置いたはずの、
そんなこと、許せるものではなかった。
娘を人質に取られているデッドショットはすぐさま銃を構え、スコープにハーレイを捉える。
そして照準を踊るハーレイへと合わせ、引き金を引いた。
放たれた弾丸は──空を切った。
「悪いな、ミスった」
ウォラーを小馬鹿にする笑みを向けるデッドショット。
だが、ウォラーの手はそれだけではなかった。
自分の権限を最大限に使うべく無線を繋げる。
『飛んでいるヘリはジョーカーにハイジャックされていた。直ちに撃ち落としなさい』
『了解』
無慈悲な命令。都市近くに待機していた戦闘ヘリは、その命令を受けるとジョーカーたちの乗ったヘリをロックオンし、すぐさま対空ミサイルを発射する。
当然ように当たるミサイル。火を吹きクルクルと駒のように回転しながら落ちていくヘリコプター。
『目標、撃墜』
攻撃ヘリからの連絡に、ハーレイの乗ったヘリが墜落するのを見ていたウォラーは当然とばかりに頷く。
『ご苦労、私を迎えに来て』
『急行します』
通信を切るとウォラーは特殊部隊Xに向き直る。
「ジョーカーとハーレイは死んだ」
デッドショットに突き放つようにに言い返すとウォラーは迎えのヘリを待つ。
「残念だったな」
慰めるようにブーメランがデッドショットに言う。
そうして、ウォラーはヘリに乗る。
それを確認したパイロットは、猛スピードでヘリをビルから離れさせていく。
それを見ていた誰もが、任務はこれで終わりだとそう思っていた。
あとは、自分たちを──ウォラーの言葉を信じるなら──迎えに来るヘリを待つだけ、だと。
しかし、そう物事はうまくいかない。
ウォラーの乗ったヘリは、他のヘリの運命を辿るかのように、異形の手によって地面に引きずり降ろされた。
side グリンデルバルド
空中からハーレイちゃんの彼氏が現れた!
ハーレイは迷っている
クラウチの説得
効果は抜群だ!
ハーレイは逃げ出した!
という流れで逃げ出したジョーカーとハーレイクイン。
ハーレイ連れて即退散とはとんだ腰抜け──と名台詞がこみあげてくる状況だったが、残念ながら敗北者は誰の目にも明らかだった。
当然、逃げ出すハーレイを恐ろしい形相で睨む上司様だ。
爆弾を作った博士を利用して、ハーレイを自由の身にする策略。ウォラーが警戒しないわけがないが、上手くやられたのだろう。
しかし、撃ち落とされてしまったのは残念だ。
一応、私にはハーレイがヘリが爆発する前にビルに落下するのが見えていた。
恋人のジョーカーが彼女だけでも助けるべく突き落としたのか、もしくは偶然落ちたのか。そこまでは見えなかったが少なくともハーレイは生きている。
まぁ、それを私が教える義理はない。
ゆったりとウォラーがヘリに乗り込むのを眺める。
が、ヘリに乗り込むウォラーが抱える、どこか見覚えのあるアタッシュケースが目に留まった私は察してしまった。
あっ、このヘリ落ちるな…と。
こういうのは基本上手くいかない。
まるで、乗り込んだ豪華客船の名前がタイタニック号だったり、乗客に眼鏡をかけた探偵がいたら覚悟を決めるしかない。
それと同等の行為が今、ウォラーのやっていることだ。
この場合は、
1. 敵が狙っているものを持って
2. 安全と思われるルートで
3. 味方より一足先に逃げる。
完全スリーアウト、チェンジだ。
さよなら、ウォラー。
最後に辞世の句とかどう?あっ、それとも──
別れの言葉はなしか?
バタンッと激しくスライドされ閉められたヘリのドア。
はい、別れの言葉は無いみたいですね。
猛スピードでフレアをバラまきながら低空飛行で逃げるヘリ。
案の定というか攻撃を受けて速攻で撃墜されました。
あぁ、あれが地下鉄でテロをしたメタヒューマンね。
人より大きめの図体。頭には角が二つ、体は仄かに発光している。肉体と呼べるものは見えず、エネルギーが鎧のおかげで人の形を保っていると言える。
じっとその姿を見ていると、視線を察したかのようにこちらに顔を向ける。が、一睨みするとヘリへと向かっていく。それと同時にヘリが落ちるのを待っていたかのようにゾロゾロとバケモノが湧き出ている。
ウォラーが必死に銃を撃っている光景に高見の見物を決め込む。ところが、フラッグはそうはいかないらしい。
「救出に行くぞ」
「もう俺たちの仕事は終わった」
「ウォラーをまだ、救出していない」
「……仕事だからやるんだ。あの女を助ける義理はない」
「助かる」
心の底からの言葉を放つフラッグ。
そこに、任務が始まったばかりのころにいた犯罪者を嫌悪する軍人の姿はない。
人間、変わるものですね。
溜息をつくデッドショット。
うん、私もつきたい。
全く、国に仕える人間にはなるもんじゃねぇな。
上から無茶ぶりと責任の押し付け、民衆からは不満のスケープゴート、安い報酬、ろくに手に入らないやりがい。どこぞの大隊の募集要項よりもひどい。
少しずつ雨が降り始める。
ビルから降りた私たちを出迎えたのはバケモノではなく、死んだと思われたハーレイだった。
気丈に振舞っているが、これは……泣いてはないね。うん、それは雨だ。
フラッグを先頭にヘリの墜落現場に到着する。
痕跡を漁るフラッグを置いて、私はヘリの内部を覗く。
幸運なことにウォラーのカバンは手付かずの状態で放置されている。
カバンを漁ると……あーあったあった。表紙に赤い判子でTOP SECRETと捺された機密資料が二つ。
自分にも見せろと言ってきたデッドショットに片方の資料を手渡し、もう片方の資料を読み始める。
ファイルに入れられており、雨に濡れても問題ないと考えガンガン読み進める。
そこにはアメリカを中心とした世界中の犯罪者やメタヒューマンに関する情報が記載されていた。へぇ、最近は色んなメタヒューマンがいるのね。
元槍投げ選手がいるのおもしろ。
他にもサメみたいなやつやイタチ、挙句の果てには宇宙人までいる……宇宙人!?
これはいい。こっそり持って帰ろうかな。
んで、そっちの資料には何が記載されとるんじゃ?デッドショット?
表紙には特殊部隊X計画。なるほど、これでウォラーの悪だくみは全部暴かれるな。
「エンチャントレスだと、知ってるか?」
「知っているな、まぁ会ったことはないが」
「んじゃ、こっちはどうだ?」
ぺらりと捲られる資料の束。現れたページには一人の男の顔写真と名前がデカデカと載っていた。
ゲラート・グリンデルバルド
……情報ガバガバすぎんか?
─────────
降り出した雨音だけが、静かに音を奏でる。
デッドショット自身、確証があるわけではない。というのも、彼はグリンデルバルドの名前しか知らない。その男が世界中の人々を恐怖させただとか、信奉者を率いて国家転覆しただとか、そんな話は自分が子供のときには既に昔話だった。無論、話している本人たちにとっては忘れられないことだったのかもしれないが、自分たちからすればバットマンやらスーパーマンの方がよっぽど身近な存在だった。
ただ、ウォラーの遺した……残した資料にあった名前を見た時、自分の中に引っかかっていた何かの答えな気がした。
メタヒューマンにしては、明らかにおかしな能力。
車を吹き飛ばすだけなら念能力なのだろう。なら、鍵開けは?
あの部屋の扉の開き方は、力で無理やりこじ開けたものではなかった。
ここまで見てきたクラウチは、どちらかと言えばマトモな部類。ハーレイたちとは対極の、自分やカタナのような、理性のある人間だった。
だが、信頼できるかどうか別の話だった。
少なくとも、目の前に立つ人間は我々に嘘をついていた。それが、事実だった。
目の前の男は、手を上げる。
思わずその手を警戒するが、男はその手を自分の顔へと向け何かを掴むように動かす。
すると男の顔の皮がまるで果物の皮か何かのように剥け、下から別の顔を覗かせる。
そこに俺たちがクラウチと呼んでいた男の顔はない。
もっと年老い、衰えた、それでいてどこか不気味な何かを発するオッドアイの目があった。
「正解だ。デッドショット。」
目の前の男は嗤う。
「そう警戒するな、とって食ったりはしない。するならもうしている」
「そうかよ」
そう言い、背を向ける。
瞬間──
銃を引き抜き、銃口を脅威へと向けた。
向けたはずだった。
「その行動は正解だ。顔を、名前を、能力を偽った人間に背中を預けることなどできん」
男は何事もなかったのように、向けられた腕を掴んだまま話す。
そんな男に対し、デッドショットが何もしないわけがない。
銃を抜いての不意打ち。それが防がれました。はい終わり、私の負けです。
そんなことになるのは三流だけだ。
当然、デッドショットには次の動きを頭に思い描いていた。それこそが、彼を一流の殺し屋たらしめているものだった。
すぐさま、掴まれていない方の腕を使い銃を向けようとする。
だが、その動きを実行に移すことは出来なかった。
デッドショットは見てしまった。
男の目を。
その両目はそれぞれ色が違うオッドアイだった。
その目は今まで見たどんな目よりも、暗く、深かった。
そしてその奥に、何かがあった。見えない、分からない何かが。
冷汗がにじみ出る。
なぜ、この得体の知れない男になぜ気を許していたのだろう。
なぜ、きちんとこいつの目を見なかったのだろうと後悔する。
思えば、自分はこいつを見ていなかった。
そもそもこんな部隊にいる人間が、まともなわけがない。
自分が今までの人生で見てきた上位者は、バットマンだった。
ゴッサムシティに山ほどいる悪党たちを、たった一人で恐怖に陥れた男。
スーパーマンが正義の味方ならば、バットマンは悪の敵だった。
だが、この男は間違いなくバットマン以上だ。
「チッ」
舌打ちと共に掴まれた腕を荒々しく振り払い銃をしまい、距離をとる。
それに対しクラウチ──否、グリンデルバルドは一歩後ろに行くと二人を囲んでいた特殊部隊Xとフラッグに向き直る。
「では、改めて自己紹介だ」
雨音が響く中、よく通る声でグリンデルバルドは続ける。
「ゲラート・グリンデルバルド。魔法使いだ。あまり長くはないと思うが、よろしく頼む」
グリンデルバルドの宣言。
それに対する特殊部隊Xの反応は、淡泊だった。
「あっそ、んじゃよろしく。グリンちゃん」
ハーレイが、明るく手を差し出す。
クラウチと名乗っていた男の本当の名前にブーメランとディアブロは頷き、カタナは聞き覚えのある名前を思い出すのに注力する。
フラッグは戸惑うが、デッドショットとは違い銃を向けるようなことはしない。
昔、自分の仕える母国と戦争をした親玉が目の前にいる。
そんな状況で、すぐさま自分のすべきことを考えつける者はいないだろう。
彼らにとって、グリンデルバルドは過去の遺物。
恐怖の対象にはならない。
そして、デッドショットと異なり欲望に忠実に動く、仕事人ではない。
故に、自然体のまま正体を明かした男に近づく。
むしろ、彼らには男の正体よりも気になることがあった。
「んで、ありゃなんだ」
ブーメランが指さした先には空へと伸びていた光が、エネルギーの奔流を伴い大きく脈打ち、巨大なスパークを散らしていた。
間違いなく連れ去られたウォラー、というより無くなったウォラーの持ち物が原因であることが明白。
この場でそれを説明できるのは、一人だけだった。
「フラッグ、説明しろ。何もかもな」
デッドショットがフラッグに命令する。その手には、資料があった。
最早、隠しても無駄。フラッグは観念して話し出す。
魔女の憑依体である女と恋人になったこと。
現れた謎の生命体を倒すべく、自分が魔女を引き連れたこと。
そして魔女が逃げ出したことを。
「じゃあ、なんだ。俺たちはお前らのくだらない尻ぬぐいに命を懸けてたってのか!?」
改めて直接言われて事でフラッグは罪悪感に蝕まれる。
しかしフラッグがウォラーを、愛する人を助けるには魔女を倒さなければならない。
そして、魔女を倒すには特殊部隊Xの助けが必要だった。
「俺は降りる。そのスイッチを押すなら押せ」
だが、特殊部隊Xのリーダー格だった。デッドショットは降りる。
そしてデッドショットは、丁度目に留まった酒場に向かう。
彼の叫びは、他の面々の思いを見事に代弁していた。
ハーレイが、ブーメランが、ディアブロが彼に続いて酒場へと入る。
常に任務に忠実で、フラッグを護衛してきたカタナもそれに続く。
雨が降る中残ったのは、グリンデルバルドとフラッグだけだった。
くっそ長くなってしまったので、グリンデルバルドのカウンセリング教室は次回に行きます。