前作『週末TSロリおじさん(https://syosetu.org/novel/222237/)』の番外編です。

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イチャコラでちょっとえっちなの欲しいので書きました。




EX.週末TSロリおじさん

 季節は移ろい、冬。

 初雪こそまだだが、木枯らしと山々から吹き下ろす風は日々その冷たさと勢いを増し、誰もが服を厚くして肩を縮める季節。裕司のアパートでは、年季の入った単身者向けコタツが早速稼働を始めていた。

 

「なあなあ」

「んー?」

 

 座椅子に座る裕司の足の間にすっぽり収まった瑞稀が、彼を見上げて言った。

 

「いつになったら手ぇ出してくれんの?」

「ングゥ」

 

 あまりに唐突かつデリケートな内容のため、目を白黒とさせて硬直する。そんな裕司の顔へ手を伸ばした瑞稀が「面白い顔」と笑いながら彼の髭をくしゃくしゃにした。

 

「あ、あのですね、瑞稀さん。……そういうのは、なんか、雰囲気とか大事じゃない?」

「この距離感で雰囲気もクソもあるかよぉ。むしろ逆にヤってないのが驚きだよぉ」

「ンーンーンー」

 

 瑞稀による髭弄りはエスカレートし、彼女の小さな両手で裕司は頬ごともみくちゃにされている。

 しかし、裕司が渋るのも致し方ない。なぜなら瑞稀家へ二人の交際を報告した際に、兄である芳樹とその両親の連合軍に拉致されお高くて美味しいご飯をお見舞いされた上、瑞稀のことをよろしくお願いする的なことを言われ頭を下げられたのだ。さらにその帰り、別れ際の芳樹が裕司の肩に手を置き無駄にいい声で「妹をよろしくな、裕司くん! な!」との念押し付きだ。肩に置かれたその手にはかなり力がこもっていて、裕司は心底ヒュンとなった。

 

 いい歳をした、互いに想い合う二人である。特別裕司が堅物すぎたり奥手過ぎたわけではない。もちろん彼にも性欲はあるし、瑞稀に対して魅力を感じていないわけではない。ただ、初手で食らったプレッシャーが強過ぎて慎重にならざるを得なかったのである。それに、身体の小さな瑞稀を気遣ってのこともある。そんな思いから肉体関係を持てずにいたが、なんだかんだこうやってグダグダしているのも心地よいとも感じていた。

 

「……やっぱおれがちんちくりんすぎるから」

 

 声のトーンを暗くした瑞稀が、裕司の顔から手を離す。

 

「バカ。そんなの関係ないって」

「じゃあ抱けよ! 抱けーっ! 抱けーっ!」

「うるさっ」

「ンーッ!」

 

 流石にこのポジションで暴れられては裕司のジュニアが危険で危ない。彼は足の間でジタバタし出した瑞稀の口を慌てて手で押さえた。ちなみに、二人とも晩酌程度にはアルコールが入っている。裕司はまだ頬の赤みが増したくらいだが、瑞稀は首まで真っ赤にし、目は据わり始めていた。

 

えおえお(レロレロ)

「うわっおまっ舐めるなバカタレ!」

「これが、ゆうくんの味なのね……」

「えぇ……」

 

 口を塞ぐ裕司の手のひらを舐めることで拘束から脱出した瑞稀は一度しなを作ると、勝手に一人でケタケタ笑い転げ始めた。

 己に体重を預けて大笑いする瑞稀に対して、苦虫の群れをたっぷり噛み潰したような顔になる裕司であった。

 

 

 ****

 

 

 こぢんまりとした浴室に、シャワーが流れる音が響く。その水流の下では、裕司がシャンプーを泡立てていた。どんどんと嵩を増していく泡を両手に感じながら、彼は小さくため息をつく。

 

 あの後、瑞稀は早々に寝落ちしたためベッドへ寝かしつけていた。大した量は飲んでいないはずだが、以前の彼女より、圧倒的に酒に弱くなっている。

 あくまで裕司の推測に過ぎないが、今までは男の方の瑞稀が諸々肩代わりしていたのだろう。だいたい、そうでもなければ一般的な成人男性と一緒になって居酒屋をはしごしたりできないだろうと裕司は考える。だがしかし、今となってはその理屈は誰にもわからない。

 彼は食べる量も飲む量も分相応になってしまった今の瑞稀に、少しだけ寂しさのようなものを覚えた。

 

 そして泡を流そうとシャワーヘッドへ手を伸ばそうとした時、彼の背後のドアが急に開いた。

 

「お背中流しましょうかーッ!!」

「ワァー!?」

 

 声の主は、酔い潰れて眠り込んだはずの瑞稀であった。裕司は驚きのあまりシャワーを手から落とすと、疑問の声をあげた。

 

「なっ、ちょ、いつの間に!?」

 シャンプーの途中ではあったが、もし脱衣所で服を脱いだりしていたらそれに気づけないということはない。つまり、物音を立てないよう息を潜めていたのか。あえて誤用のままだが、まさに確信犯というやつである。

 しかし、タイミングがタイミングだったので目を閉じていた。幸か不幸か、瑞稀が今どんな格好をしているかはわからない。

 

「いいじゃんかよいいじゃんかよ〜」

 

 慌てて髪を濯ぐ裕司の背中に、流れるお湯よりはるかにあつい肌が触れた。

 

「ぬおおお」

 

 彼の想像以上に柔らかくなめらかな肌の感触。瑞稀と自分の間にシャンプー混じりの温水が流れ込み、滑りがよくなる。

 彼女は細い腕を裕司の首に回すと、体全体を押し付けるように身じろぎした。触れただけで伝わってくる、他人の肉の柔らかさを実感する度、えも言われぬ心地よさのようなものが全身の神経を駆け巡る。

 ほとんど反射的に、下腹部の血流が増加する。マズい。このままでは、男としての沽券に関わる。そんな、つまらない強がりのようなことが頭に浮かんだ時だ。耳元に、あつい息がかかった。

 

「……なんだ、しっかり勃起してんじゃん」

「ふええ……」

 

 肩口から首を伸ばし、股間を覗き込んだ瑞稀が耳元で囁く。

 裕司はしこたま震えた。

 

 

 **

 

 

 快適とは言えないサイズのバスタブの向かい側、瑞稀は水温を確かめるよう、左足からゆっくりとお湯に身を沈めていく。彼女は肩甲骨の下あたりまで伸びた髪をタオルで纏めている以外に何も身につけていない。節々の丸っこい、ちいさな足が水面に沈み、女性的な柔らかさを内包した太腿もまた湯に沈む。すこしだけ気恥ずかしいのか、片手で遮るように隠した陰部には、細い陰毛がうっすらと生えているように見えた。

 

 瑞稀はいちど肩までお湯に浸かると、実に日本人的にたっぷりと息を吐き出した。

 

 しばらくの間、浴槽で向かい合う。そもそも狭いバスタブだ。成人男性として平均的な背丈の裕司の脚をまっすぐ伸ばすことも叶わない。そのため彼は膝を折り、中途半端な体育座りのような姿勢で入浴していた。そして、瑞稀はその脚の間すっぽりと収まっている。狭くはないだろうかと裕司は思うが、当の本人は自分を挟み込む彼の脚を撫で、ニコニコと上機嫌そうにしていた。

 

 止むを得ず一緒の入浴を受け入れた裕司だったが、全身を包み込むお湯の心地よさには抗えない。これくらいは些事の範囲内かと思いつつ、彼はぼんやりと、ちょっとでも腕を伸ばせば届く距離の瑞稀を眺めた。

 汗ばむ鎖骨に、控えめだが思いの外しっかりと膨らみを主張する胸元と、その先端の慎ましやかな桜色。だが、メリハリの乏しい身体の輪郭はそれでも未成熟に思え、倒錯感めいたものを覚えた。

 

「ん?」

 

 ふと、瑞稀が水中で裕司の手を取った。己のものとは全く異なる肌触りの指が、一本一本絡みついてくる。細い指と、小さな手のひらはそれでも柔らかく、裕司の手の形を確かめるように輪郭をなぞった。

 

「あ、あのさ」

「うん」

「おれ、やっぱその……セックス……したい……」

 

 徐に、単語を区切るように瑞稀はそう言う。

 

「……そうは言ってもなぁ」

「どうせおれん家から何か言われたんだろ? んなの気にすんなって」

 

 瑞稀は江戸っ子のように鼻を指でこすると「おれとお前の仲じゃないか」と嘯いた。その言動の軽さには、アルコールの影響が残っているように感じられる。

 

「いや、まあ。それもあるっちゃあるけど」

 

 裕司の視線が泳ぐのを聡く感じ取った瑞稀は、はにかみながら言葉を続けた。

 

「……あー、おれの身体? なら、ええと、なんの問題もないぞ」

「おん?」

「あの、そのな? おれ、もう膜とかないから、遠慮しなくていいというか、多分大丈夫というか……」

「……は?」

 

 裕司の気の抜けた声が、浴室の中で短く反響した。

 

「うう……。そのぉ、あのですね裕司くん。おれ、君に片思いしてたじゃないですか。それなりに長く」

「うん」

「それで、こう、ムラっとくるじゃないですか。いや、来ちゃったんですよね、こう。フヒッ」

「おう」

「そんでぇ……おもちゃを、買いましてね? いやはや好奇心と性欲には勝てませんで。それでこう、ズッポシと、貫通というか……」

「えぇ……」

「つまり拡張済みでいつでもウェルカムトゥパラダイスというわけだから」

 

 裕司の脳内のどこかで、アメリカの三人組ポップパンクバンドの音が鳴った。

 ドゥーキーでバスケットケースでアメリカン愚か者なヤツである。

 

「はえぇ」

「うぅー。ま、まあ、そんな感じなので、何の問題もなく致せると思うんですよね、おれ達」

 

 瑞稀は水面を見つめると、唇を不安げに尖らせ「もちろん、君が嫌じゃなければ」と言った。

 

「瑞稀……」

「……やっぱ、おれのこと、彼女として——」

 

 裕司は、瑞稀の言葉を遮るように彼女を手繰り寄せた。瑞稀が元いた場所へお湯が流れ込み、バスタブに波が立つ。裕司は両腕で彼女のことをひしと抱きしめると、濡れたうなじに鼻先を埋めた。

 水に濡れてもなお、胸の奥底をピリピリと刺激するような甘い匂いがする。突然の行動に強張った瑞稀の体を、言葉にしきれない思いが伝わるよう、彼女が苦しがるギリギリまで力を込めた。すると、瑞稀も恐る恐るといった動きで裕司の背中へ腕を回す。

 

 大事に思っているだけでは足りないんだな。裕司はそう思った。

 人懐っこそうなまるい瞳が魅力的だ。

 柔らかくてしなやかな髪が好きだ。

 ボーイッシュからフェミニンまで、いろんなファッションを楽しむ姿勢が好きだ。

 

 でもそれは、言葉にして、行動にしなければひとつも伝わらないのだ。わずか数ヶ月前にそう心に刻んだのに、無様なものだった。挙句、瑞稀を不安にさせてしまった。裕司は自省する。

 

 彼は瑞稀のうなじから顔を離すと、赤く染まる小さな頬を通り過ぎ、彼女の唇を奪った。いまさら言葉で繕うより、行動で示そうとしたのだ。実際には、まだ面と向かってあれこれ言うのが小恥ずかしいという逃げもあったが。

 一方、キスより一歩進んだ関係を自分から迫った割には、瑞稀は裕司の行動に面食らってしまっていた。うわあ、背中おっきいとかデレデレしていたところに先制キスである。彼女の脳ミソは一瞬でフリーズし、されるがままになってしまう。だが、瑞稀が特に無反応であることを合意と受け取ったのか、最初は触れ合うだけだった口付けがどんどん本格的になっていく。そこまでいくと、流石の瑞稀も我に返り、歓喜とともに裕司のことを受け入れた。

 

 

 同時に二人も入ると手狭になる浴室に、これまでとは毛色の異なる水音が響く。

 

 

「んっ……っはぁ……ちゅっ」

 

 目の前には、とろんとしたふたつの瞳が。

 瑞稀は幸せそうに目を細めて微笑み、裕司の胸元へしなだれかかった。

 

「えへへ、お髭チクチクするー」

「ん、剃った方がいいか?」

「ううん。大丈夫。好き」

「そっか」

 

 彼はちいさく頷くと、慈しむように彼女の唇へキスを落としていく。控えめに、しかし愛情を確かめるように、啄むような。

 ちいさなバスタブの中、一糸まとわぬ姿のふたりがひとつになっていく。

 しかし、いくらもしないうちに瑞稀のほうから腕をつっぱり離れてしまう。

 

「やばい、あつい、クラクラする」

 

 酒気帯び入浴に興奮状態。彼女は頭の先からつま先まで真っ赤っかで、まるい瞳は潤みきり、息も絶え絶えだ。

 

「大丈夫か?」

「うん、だいじょぶ。……続き、お風呂上がったら、しよ」

「ん」

 

 二人は目を合わせ微笑み合う。そして先に裕司が浴槽を出ると、瑞稀の手を取り浴室を後にした。

 

 

 

 ****

 

 

 翌朝。

 カーテン越しに差し込む陽光と鳥の囀りによって、裕司の意識が覚醒した。冬の冷たさを覚えるような日差しは既に上りきっている。どうやら、少し寝坊気味のようだった。壁にかけられたアナログ時計の短針は9と10の間にあり、なんとも中途半端な時間である。いっそこのまま、昼頃まで寝腐ってしまおうか……。

 彼はふと、己の胸元あたりに心地よい温もりがあることに気がついた。

 寝ぼけ眼の裕司が掛け布団を持ち上げると、そこには自分の胸を枕にして眠りこける瑞稀がいた。彼女も自分も、薄い肌着一枚しか身に纏っていない。さらには、自分のものとは異なる、どこか暖かく甘ったるいような匂いもした。

 

「ぬぅん」

 

 その時。

 裕司の脳内に存在しない情景が駆け巡った。派手ではないが幸せな家庭を築き、満ち足りた余生を過ごす自分と瑞稀。縁側でまどろむ彼女の膝の上には茶トラの猫が一匹。今時珍しいくらい牧歌的でオールドスクールな幻覚である。

 

 ありもしない景色を幻視した裕司だったが、彼の胸の奥底には、確かに今まで以上にハッキリとした熱が生まれていた。どうしようもなく愛おしく、手放し難い温もり。

 

 自分にしがみつくように眠る瑞稀の、細くしなやかな髪を左手で梳る。なんとも幸せそうな彼女の表情に、気がつけば己の頬も緩んでいた。しかし、慣れない刺激に気がついたのか、ゆっくりと瑞稀の瞼が開く。

 

「んん……」

「瑞稀……」

 

 驚くほど無意識に、彼女の名前を呼んでいた。

 

「……なに?」

「結婚しようか」

「うぅ……うん、する…………んがっ!?」

「ぐぇっ」

 

 未だ微睡の中だった瑞稀が、呂律の回らないむにゃむにゃとした声で頷く。しかし、裕司の言葉の意味がようやく脳みそで処理されたのか、ガバリと上半身を起こして叫んだ。そしてちょうどその時、彼女の手は裕司の鳩尾にあった。瑞稀の体重プラスアルファが、彼女の小さい手の平に集中する。これは地味に痛い。

 

「けっけけけ、結婚んん!?」

「い、嫌だったか……?」

 

 腹をさすりながら裕司が渋い顔をする。

 

「嫌じゃない!! ないけどね! ないんだけど! おれが言えたことじゃないとは思うけどさ、もっとこう、ムードとかあるじゃん!」

「あ、そっか、いや、ごめんなさい……」

「いやあそんな責めるつもりはないんだけどね!」

「と、とにかく、俺は、なんかこう、結婚しなきゃって、なんか急にそう思って……すまん……」

「んもう……。ま、おれ達っぽいっちゃぽいか」

 

 呆れ顔のままの瑞稀がふっと笑い、ずれ落ちた掛け布団を直した。

 改めて布団へ潜り込んだふたりはしばし見つめ合うと、どちらからともなく微笑み合う。

 そして瑞稀は裕司の腕を胸に抱き寄せ口を開いた。

 

「日曜日だし、暇な大学生みたいな過ごし方する?」

「いいね」

「セックスして、飯食って。ダラダラしてまたセックスしよ」

「ちんこ燃え尽きそう……」

「勃て! 勃つんだジョー!!」

「雑なボケやめてくださる?」

「嫌どす」

 

 ふたりは一枚の布団の中、額を付き合わせながら笑い転げた。

 





ワタクシ、TSっ娘ちゃん性欲旺盛学派です


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