シリウスに連れられて、共に森に入ったレンは、どことなく異変を感じ取っていた。
「(この森…俺達以外の生き物がいない…?)」
陽の光が差し込んで明るいはずなのに、鳥の鳴き声はおろか生き物の気配すらしないのが、ひどく不気味に感じる。
レンはなんだか不安になってしまい、前を歩いているシリウスのマントを軽く引っ張る。
「ん?どうした、レン」
引っ張られた感覚で、シリウスが後ろを振り返る。
「あのさ…。ここ、俺ら以外の生き物…いないよな?」
「へぇ…レン、分かるんだ」
レンが少し怯えた様に言うと、シリウスがおもしろそうにニヤついている。
レンはその表情にムッとして、また軽くマントを引っ張る。
「……。どうなんだよ」
「うん、当たり。この森に俺等以外の生き物はいないよ。
多分、魔物もいないだろ。森の外にもいなかったから、ここら一帯は武器も持ってないレンでも安全だろうな」
「そうか…」
「大丈夫だ。一緒にって誘った以上、何かあったら俺が守るよ」
そういうと、シリウスはニッと笑って見せる。
その笑みを見ると不思議と安心したレンは、そっとマントを離す。
そして、悪戯っ子のような笑みを見せる。
「そうだな。誘って連れてきた以上は、何が何でも守ってもらわないとな」
「ああ、だから安心してついて来い」
シリウスは再び前を向き歩き出す。
レンも森に入った時とは違う、しっかりとした足取りで後を追う。
少しでも何か思い出せたらと、シリウスがレンにこの世界の事を話して聞かせたり、レンが疑問に思った事を質問したりしながら歩き続けていくと、小さな池がある開けた場所に着いた。
「お、こんな所に池がある。ちょっと休憩して行こうぜ」
シリウスが嬉しそうにそう言うと、ナヴィが駆け出して池に突っ込んでいく。
程よい木陰ができていて、丁度よく切り株が2つあったので、池でナヴィが水浴びをしているのを眺めながら、そこに腰掛ける事にした。
「ふぅー……。結構、歩いたな。小さい森でも奥深いし…。
レン、大丈夫か?起き抜けで歩き回って、疲れてないか?」
「大丈夫。意外と体力あるみたいで、全然疲れてない」
「そうか、よかった」
周りの木々が、風によって静かに揺れる。
「そういえばさ…。入り口で起きた時は色々混乱してたから聞かなかったけど。
シリウスって、なんでこの森の奥調べに来たんだ?」
何もいないのは確かに不気味だけど、それだけなら、わざわざ奥に行かなくったっていいだろ?」
レンはナヴィから視線を外し、傍に座るシリウスに問いかけた。
問われたシリウスはキョトンとした顔をしたが、何かを思い出したように手を叩く。
「あ、そっか。まだ理由離してなかったな。悪い悪い」
また水遊びをするナヴィへ視線を戻す。
「普通、このぐらいの森でも生き物はいるだろ?せめて、鳥ぐらいはさ。
でも、ここには鳴き声すら聞こえない。
近くの町で噂を聞いて、その原因がもしかしたら俺の探し物と関係があるかもって思って、調べに来たんだよ」
水の流れる音の中に、小さなしぶきが響く。
「シリウスの…探し物」
「そ、探し物ー。何かは、今は話せないけどな」
「そうか…」
話を聞いて、レンは表情を暗くする。
「(探し物で大変なはずなのに、俺を連れてなんて…)」
―――いくらあんな場所で寝ていたからといえど、記憶が全くない人間を連れて歩くのは邪魔なはずだ。
―――それなのに、彼は声をかけて起こし、ここまで連れてきた。
―――この森の探索をするまではいい……。でも、その後は…?
レンはこの先の事を考えるのが怖くなってきた。
座っているはずなのに、足元が崩れていくような感覚になり、立ち上がる事もできなくなるような……。
「レン、なーに考えてんだ」
知らないうちに、深く下を向いていたらしい。
恐る恐る顔を上げれば、シリウスが少し困ったように微笑んでいた。
「今はちょっと事情があって離せないだけだから、近いうちに話してやるよ。
…別にそんな大切って程でもないし、急ぎとか大変ってわけじゃないから、自分が邪魔になってんじゃないかーとか重たく考えんな」
そう言って、レンの頭を軽く撫でる。
レンはしばらく固まっていた。
「……シリウスって、心でも読めんのか?」
「えー?そんな便利な能力があったら、人間関係で苦労しないさ。
……なんとなくだよ。話題に対しての暗い顔、そういう事考えてんじゃないかなーって。
本当に気にすんなよ。俺がやりたくてやってる事だ。拾った以上、適当にほっぽり出すなんて事しねーよ」
撫でていた頭から手を離すと、軽く額を小突く。
不思議とその行動は、強張ったレンの体をほぐした。
小突かれた額を抑えながら、自然と笑みがこぼれる。
「わかった、気にしない。まずは、森の探索が終わるまでよろしく頼むよ」
シリウスにしっかりと笑い返して見せた。
それからは、先程の重く静かな空気はなく、二人で何気ない会話を続けた。
会話がひと段落した所で、シリウスが腰を上げる。
「さあ、そろそろ行こうか」
水遊びをしているナヴィに声をかけると、素直に池からあがり、体をふるって水を飛ばす。
そして、嬉しそうにシリウスたちの元へ駆け寄ってくる。
シリウスは屈むと、しっぽを振るナヴィの頭を撫でる。
「気持ちよかったか?」
「きゅっきゅっ!」
「そうか、よかったな」
ナヴィも撫でられて、気持ちよさそうにする。
「あと少しだろうから、もうちょっと頑張ってくれ」
再びレン達は奥へと進んでいく。