元柳斎の養子(1900歳)   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 ルキア入学時は『真央霊術院』でしたが、設立当初は『死神統学院』だったそうです


※山爺の見た目が老人である事前提なので、この時点で数百歳という前提です
 つまり原作時点で2200~2500歳くらいになる計算です




一話:元柳斎の養子(孫)、学を身に着ける(-約1900年)

 

 

 山爺こと、総隊長・山本重國に引き取られた後、俺は豪華な邸宅に暫く住みながら死神のための学校――死神統学院に入学するための準備に追われた。

 その名も――勉強だ。

 山爺曰く、霊力だけでなく基本的な学力も測るため、それなりに勉強しておかなければ入学は出来ないらしい。とは言え今は死神の数が足りないため、余程の問題児でなければ大体は隊士になれるという。

 

「じゃが虚も強力になりつつある。誰もかれも入隊という訳にはいかん。いたずらに犠牲を増やすばかりか、その者を護ろうとする者達をも犠牲にしかねんからの」

 

 厳しい面持ちで山爺が言う。何故だか、言わんとすることは理解できた。こちらの頷きを見て、更に最強の死神は続ける。

 

「無論真面目に鍛錬を積んでもどうにもならぬ事もある。まだ己では届かぬ段階、という奴じゃ」

「今の俺と山爺みたいな感じ?」

「うむ。例えば悠璃が斬魄刀を儂に突き立てたとて、儂は傷一つ付かぬ。お主より濃密かつ膨大な霊圧を儂が持っているからじゃ」

「……つまり、俺も大きな霊圧を持つようになればいいと」

 

 俺の言葉に、然り、と重く頷かれる。

 

「基本的に死神の霊力……もとい、霊圧は肉体的成長と鍛錬によって自然と増大する。更にそこから増加するのは斬魄刀の解放くらいじゃ。逆に言えば、それ以外の手段は殆どないに等しい」

「なるほど……でも、鍛錬って?」

「霊力を扱う戦闘技術の反復練習じゃ。限界まで霊力を使い、それを回復させる。これを日々繰り返すことで僅かながら限界量の増大が見込める」

 

 とは言え――と、山爺の言葉が続く。

 

「儂を始め、隊長格ともなれば霊力が膨大過ぎて使い切る事そのものが無くなるのじゃが」

 

 とどのつまり、そんなに使い切る機会が無いから、どうしても頭打ちになる頃があるとのこと。理論上は無限大に上げられるが、使い果たす機会が無いらしい。

 霊力残量イコール霊圧は、残量が多ければ多いほど強力な力へと変換され、周囲に及ぼす影響が甚大になる。そんな高みにある隊長格が力を振るっては、守るべき魂魄を傷つけてしまうという本末転倒な事態になりかねない。だから使う訳にもいかず、結果頭打ちに会うという理屈だという。

 

「むむ……じゃあ、隊長格の霊圧はみんなどっこいどっこいなんですか?」

「下限はの。上限に関しては、やはりまちまちじゃ。気持ちによっても左右されるから一概には言えんしのぅ」

「へぇ……」

 

 凄く怒っている時は霊圧がより強大になるが、悲しい時は普段より弱くなる、そんな変化を霊圧知覚から読み取ることも出来るらしい。それの応用で、相手の出方を探って先手を取るなんて事も出来るという。

 虚相手にそんな読み合いはまずしないがの、と山爺は補足を付け足した。

 悪霊になった虚は、胸に空いた孔――欠けた心を埋めるために他の魂魄を喰らう。その様は正にケダモノのそれで、理性を保っているものはごく少数に限られるらしい。そしてそのごく少数も、たいていは本能的に動くため理知的とも言い難いのだという。

 

「――さて、ここまでが前振り。本題はここからじゃ」

 

 そう言って、さらりとした綺麗な紙をこちらの机に置く。更にその隣に綺麗な(すずり)、筆もコトリと置かれた。

 

「お主にはまず読み書きを覚えてもらう。既に読みが出来る事は分かっているから、特に書字の方じゃな。未だ識字に困る隊士も多い故、悠璃はそうならぬよう備えておかねばならぬ」

「字が解らなくても隊士になれるんですか」

 

 それは実際どうなんだ、と思いながらの問い。それに、山爺は途端に顔を顰めた。

 

「うむ……だからこそ、書類仕事が溜まりやすくての。その隊を率いる者が決めなければならぬものもある故、隊長格は必然的に字を覚えなければならぬのだが、問題はそれ以外じゃ。隊長以外にも行える事務すらマトモに行える者が少ない」

 

 そもそも死神の絶対数が少ない上に戦死する事も少なくないため、学院卒業と共に隊士になる数を込みにしても総数は増えるかトントンがせいぜいらしい。長らく務めている者の中には識字を覚える者もいるが、間違って覚えている者もおり、その修正に手を回している……というのを繰り返しているという。

 修正をしている間にも書類は増えるため、結果仕事が皆無になる事は極めて稀らしい。

 ちなみに俺を拾った今日は、その極めて稀な日だったと山爺は言った。

 

「悠璃が隊長格になるかは分からんが、読み書きは出来て損は無い。少なくとも仕事場の仲間から嫌われる事も無かろう。ここに学院入試用の教本があるから、それの書き写しで覚えていくとよいじゃろう」

 

 その言葉と共に、山爺の死覇装の懐から一冊の本が取り出された。表紙に『学院入試用教本』と書かれているそれは、少々年季の入ったものなのかところどころ色染みが見える。

 それを受け取った俺は真っ先に表紙を捲った。

 

「うぁ……」

 

 表紙を捲った一ページ目は目次だったが、二ページめからつらつらと達筆な筆文字で書かれているのを見て、くらっと眩暈がした。文字を読み解くのもそうだが、こうも崩れていては模写するのも手間である。

 しかし、やらなければならない。

 出来なければ学院に入れないのだ。

 頑張ろうと、俺は気合を入れて模写に取り掛かった。

 

 

 山爺に拾ってもらってから七回月が沈み、太陽が昇った。山爺曰く、一日を七個分揃えると一週間という呼称になるらしい。

 なんとなく知っている気がしたが、どこで聞いたかはやはり思い出せない。

 ともあれこの一週間、只管教本の模写と勉強に励んだ俺は――いま、居候している邸宅の中庭に連れ出されていた。

 俺の手を引く山爺は反対の手で刀を一本持っていた。いつもは木の杖なのだが、今日はそうではないらしい。

 

「山爺、それって山爺の斬魄刀?」

 

 中庭の中央について手を離された後、俺は問いを投げた。

 しかし、帰ってきた答えは否、の一言。

 

「これはな、悠璃の斬魄刀じゃ」

「……俺の? でも、学院にまだ入ってないけど……」

 

 斬魄刀は寝食を共にし、練磨を重ねて己の魂を移していくことで、真に”己の斬魄刀”を形作るもの。つまりこの【浅打】に自身の魂を写し取り、己の斬魄刀へと進化させる。

 しかしこれは死神候補生――つまり、統学院に入学できた生徒全員に貸与され、護廷十三隊に入隊すると同時に正式授与されるものだ。だからまだ入試も受けていない俺が持つべきものではない。

 俺の考えを読んだか、うむ、と山爺は一つ頷いた。

 

「確かに悠璃は入学しておらん。じゃがの、あの学院は儂が創立したものでな、多少の融通は利かせられる。流石に無条件入学はさせられんが……入試合格域を超えておるからの。ちと特別待遇じゃ」

 

 それと、と山爺は続ける。その視線は刀ではなく、俺に定められていた。

 

「悠璃も知っての通り、コレは己の魂を写し取り、己の斬魄刀として形作るものじゃ。つまり……己の半身とも言える存在と出会えば、悠璃の記憶の手掛かりを得られるのではないかと思っての」

「……!」

 

 そこまで言われれば、流石に分かった。先の特別待遇の真意は、俺の過去の記憶を思い出す一手になればという山爺なりの気遣いだったのだ。

 先に斬魄刀を与えて発破をかけるつもりだったのかと思っていた。

 

「いや、それもあるにはあるがの」

「あ、あるんだ……」

 

 やっぱりあったらしい。

 でも――それはそれとして、素直に嬉しかった。

 山爺に差し出された刀を両手で受け取る。形状は以前亡くなっていた隊士から失敬したモノと同一だが――どうしてか、ズシリとした重みを感じた。

 

「今日からそれはお主のものじゃ。己の斬魄刀を形作るべく、寝食を共にし、練磨を重ねるように。それと一日一度は刃禅を組むんじゃぞ」

「はい」

「うむ……さて、ではこれから茶を飲むとするか。茶菓子は何がいいかの?」

「醤油煎餅!」

「かっかっか! 悠璃はそれが好きじゃのう! どれ、まだ棚に残っていたか」

 

 帰り道は逆に俺が手を引いた。笑いながら家に戻り、お気に入りの湯呑にお茶を淹れて、煎餅を食べて話す。

 その時間が、この一週間で俺は堪らなく好きになっていた。

 

 






 ローテンポだけどそれでいいかなって。ほのぼのでいきたいんや

 好々爺してる総隊長殿を見たいというのが本音

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