元柳斎の養子(1900歳) 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
オリ主のタメ口、敬語がぶれぶれなのは子供故の仕様です
偉大な先人への敬意と親代わりの山爺への親愛をまだ分けれてない(つまり公私分別がまだ出来てない)だけです。幼さの発露
これを叱っていない時点で山爺は既に甘いです
※山爺の見た目が老人である事前提なので、この時点で数百歳という前提です
つまり原作時点で2200~2500歳くらいになる計算です
「騙された」
うー、と不貞腐れた顔で子供が唸る。不満たらたらなその視線をまっすぐ向けてきていて、明らかな抗議の意志が見て取れた。
理由は明白。
儂が統学院入試の時期を教えていなかったからだ。
統学院は春真っ盛りの頃に入学式を行う事となっている。そして入試はその一月前に行われる。
しかしながら、現在は夏。現世で言えば六月から七月といった頃か。入試を迎えるまで半年以上ある。しかしそれを教えておらず、来る日も来る日も模写と勉学、刃禅だったことで入試まで時間が無いと悠璃は思っていたらしい。
まず最初に教えろ、と不満に思っているという訳だ。
「……まぁ、確かに教えていなかった儂も悪いが、これはちと理不尽じゃろ。思い込みまでは流石の儂も分からんぞ」
「むー……」
儂の弁解も聞く耳持たずか、まだ悠璃は不満げだ。
――しかし、珍しい。
悠璃を拾ってはや一ヵ月。この間にここまで不満たらたら――というか、どこか我儘を言っているような姿は見た事がなかった。まぁそれも入試に合格しようという気概が原因なのかもしれない。この姿は、ずっと我慢していた事へのぶり返しなのだ。
そう思えば、好きにさせた方がいいのだろう。
よくよく思い返せば、この子は記憶を失っているのだ。統学院入試の時期は流魂街でもちょっとした噂になるくらいには注目されている行事の一つ。それ故、自然と誰もが春の入り頃に入試があると認識していた。その意識で居たから今回の事に繋がったと言えよう。
悠璃からすれば、自分だけ蚊帳の外にいるように感じてもおかしくない訳だ。
その疎外感を嫌がってこうも我儘ぶっているのかもしれない。
この反応をする者は初めて相手にするのでどうすることが最善か分からない儂は、とりあえず話を切り替える事にした。なんだかんだこの一ヵ月でおおよその性格を把握しているため今回の不満もそう長引かないだろうと考えていた。
「仕方ない。詫び代わりと言ってはなんじゃが、悠璃に貸した教本にはないコトを今日は教えてやろう」
「……!」
よく言えば詫び代わり。悪く言うなら思い付きで発したこの言葉は、儂が思っていたよりも悠璃の琴線に触れるものだったらしい、不満げだった顔が途端ぴんと興味津々のそれに変わったのが見て取れた。
死神になろうという気持ちは本物らしいから、その意欲がそうさせるのだろう。
「よろしくお願いします!」
「現金なヤツじゃのぅ……」
呆れたように半眼を向ければ、悠璃は頭を掻きながらはにかんだ。改善する気は無いらしい。
……まぁ、それでもいいか、と儂は思考を放り投げた。死神になる事に意欲的なのは良いコトなのだから。
卓上にあった湯呑を傾け茶を啜った後、儂は隅に置いていた筆を手に取り、用紙にサラサラと文字を書く。合計二枚に『鎖結』、『魄睡』とそれぞれ書いた。
「これらは『
筆を取って内容の筆記に取り掛かる悠璃と代わるように筆を置いた儂は、まず『鎖結』を指し示した。
「鎖結は霊圧の強弱を調整する役割を持つ。肉体で例えるなら、血の巡りの速さ、強さを担う心臓が最も近いと言えよう」
鎖結は、言葉にした通りの役割を持つ。これが失われれば死神は霊圧を扱う能力を喪う事になる。喩えるならそれは、呼吸をするための口を喪ったようなもの。あるいは血を巡らせる心臓を喪ったも同然。
部位としては胸の上部、喉のやや下部――鎖骨と胸骨が合わさる部分にそれは存在する。
「翻って、魄睡は霊力そのものを生み出す役割を持つ。肉体の血そのものを作る訳じゃな」
次に隣の用紙を指し示しながらそう説明した。
実際の肉体では人骨の中枢にある『骨髄』が血を作るので、正確な表現をするならそこまで言及すればいいだろうが、医学知識をまだ学んでいない悠璃にはまだ早いと考え、敢えて省いた。喩えはあくまで理解促進の材料に過ぎないからこれでいいだろう、と自己完結する。
ちなみに魄睡は胸の中央――心臓とほぼ同位置に存在している。
そう考えている間にも、悠璃は自身の用紙にいまの説明を素早く書いていく。
勤勉なようで大変よろしい。
「纏めると、強大な霊圧を持つには魄睡を、それを用いて強力な攻撃をするには鎖結を鍛えなければならん訳じゃ」
「なるほど……でも、霊圧の操作精度は……」
「個人の気質に依るが、概ね鎖結を鍛えると霊圧知覚は向上すると言われておるな」
操作精度とは、つまるところ量の調節に等しい。それを適切にしてやれば己の意に反したところに攻撃が飛んでいく事は無くなるからだ。
これは死神の基本戦闘術《鬼道》に最も関与する内容でもある。
鬼道は詠唱を必要とするが、それは自身の霊圧操作精度を言霊による付加価値で補っているから。無詠唱とは霊圧操作を極めて得意とする者が可能となる高等技術なのだ。強い霊圧を持つ者――隊長格が時に無詠唱を行うのも、鎖結と魄睡が共に自然強化されているに他ならない。
つまり隊長格級の霊圧を持つ者は、ある程度の無詠唱鬼道の行使が知らない内に可能になっている。
ただし上位鬼道は言霊を介し霊子を操ることを前提にするほどの大規模術式であるため、理論上は霊圧を極大まで上昇させれば無詠唱でも威力減衰を起こさないと言われるものの、そうもいかないのが実際のところである。
それらを
途中から学院生が習うところをいくらか飛び越えている――無詠唱に関しては隊士すら知らない――内容になったが、悠璃にとっては難易度はどうでもいいらしく、意欲は衰えるどころか増すばかりの様子だ。用紙の上で踊る筆の速さがそれを表している。
「どうじゃ。わかったか?」
「はい! ――あ、でも質問!」
ぴしっと学院生もかくやのきれいな挙手を見せてくる。時に教鞭を執る事がある身としては、家にいる筈が学院で講義を行っているような錯覚を抱き掛けてしまいそうだ。
それを臆面にも出さず、なんじゃ、と問いかける。
「まずこの二つって戦闘で破壊されても治る?」
「否じゃ。原則、破壊されれば二度と治らんとされておる……まぁ、この二つだけを狙って破壊するというのは、瞼を閉じたまま針の孔に糸を通すようなものじゃがな」
極めて高い霊圧知覚を持つ者なら霊力の源たる魄睡は感じられるかもしれないが、それを調整する鎖結に関しては感じられない筈だ。余程内心を揺さぶられていれば調整弁のそれの部位も感じられるかもしれないが……
ともあれ、実質不可能な事には変わりない。
そもそも魄睡は心臓と同位置にあるので、そこを壊された時点で死は確定したも同然である。
そこまで答えると、納得した表情を悠璃は浮かべた。
質問はまだあったようで、じゃあ次は、と言葉を続けた。
「ずっと前に、霊圧の増大は戦闘技術の反復と斬魄刀の解放って言ってた。この戦闘技術って《斬拳走鬼》だと思うんだけど……斬術と白打に、霊圧がどう関わるの? あとこの二つで霊圧って鍛えれるの?」
「うーむ……そうじゃな……」
自分なりに教本を読み込み、解釈しているのだろう。だからこその質問に拾い子の成長を見た気がして感慨を感じながら儂は思考を回した。
「まず白打に関しては、霊圧を四肢へ集中的に回すことで肉体強化を図るために関係するのぅ」
基礎霊圧が高まれば――つまり魂魄の体全てに濃密な霊圧が巡っている隊長格なら、意識せずとも高い身体能力を発揮し、また滅多な事では傷を負わなくなる。肉体強化とは、体の耐久面をも含んでいるのだ。
だから岩を殴れば粉砕できるし、それで拳を痛める事もない。
――つまるところ、白打は霊圧の強弱が如実に表れる。
言霊による強化が含まれる鬼道に比べ、白打は小細工抜きの霊圧勝負になるためそこのところはより顕著と言えよう。斬魄刀を喪った時の緊急戦闘手段という趣きが強いためあまり見向きはされないし、虚を倒すのも本来は穢れを浄化し、輪廻に魂を戻すためなので、あまり対虚に於いて白打を使う事は推奨されない。
とは言え、蔑ろにしていい訳でもないのも事実だ。
「次に斬術じゃが、これは幾つかある。単純なもので言えば斬魄刀の能力が鬼道系である場合じゃな。儂のもその一つじゃよ」
炎熱系最強と謳われる儂の斬魄刀《流刃若火》は、自身の霊圧を猛火へと変換し、それによる攻撃を可能とする鬼道系斬魄刀である。刀としての切れ味に霊圧の炎を足した攻撃力を強みとする。しかしこれは消耗時に強みである炎を喪うものでもある。
鬼道系斬魄刀は、本来の鬼道と違って詠唱の有無を問わないため、純粋に霊圧量がそのまま攻撃力となる。
だから斬魄刀を用いた戦闘術《斬術》を実践するほど鎖結、魄睡は刺激されていき、霊圧量は増していく。今や最強最古となった儂も、その流れで全死神で最大の霊圧量を誇ったのだ。
「山爺すごい……あれ、でも他の人が鬼道系斬魄刀を持っても同じようになるんじゃ……?」
「それはそうなんじゃが、そもそも斬魄刀の解放……始解を行える者もあまりおらんからの。卍解に至っては現状儂を入れても片手で足りる程じゃよ」
斬魄刀の能力解放には二段階存在する。
一段階目は己の斬魄刀の完成に伴い、名を知る時である《始解》。
これには斬魄刀に宿った半身との対話と同調――一説では目的意識の認識、理解とも言われる――が必要となる。基本、刃禅を欠かさず行っていれば対話までは辿り着けるが、もう一つの同調は中々難しいものがあるとされる。
『他人のふり見て我がふり直せ』とも言うように、誰しも己の事をよく理解していない事が殆どなのだ。
そして斬魄刀の意志は、己の事を誰よりもよく知る存在。彼らの訴えには己に欠けているものを気付かせる意図が込められている事が少なくない。それに気付けるか否かが始解を行えるようになるかの分水嶺とも言える。
悠璃に斬魄刀を渡したのは、同調を為すために不可欠な対話において、己が半身から過去について聞けるかもしれぬと考えたが故だった。
本人はあまり気にしていない風だが――学院に通い出せば、悩むだろう。
その姿に半身が応えようとすることを願うばかりである。
そして、第二段階は《卍解》という。
これの会得には斬魄刀の意志本体の具象化、およびそれの屈服を要する。半身の姿を具現化させ、それに耐えられる霊圧と霊圧操作を有し、更に半身が提示する試練を乗り越えて実力を認めさせる必要があるのだ。
そして、護廷十三隊創設以来、未だこれを会得した者は全死神数千人の内たったの数人。儂と一番隊副隊長、それとほかの隊長格が何人かだ。
卍解は百年に一人しか会得出来ない――そんな話が流れる程に、席官級隊士にとっても至難の業として知られるようになった。
気付けば教本にもその一文が書かれるほどだ。
まぁ、元が荒くれ者の集いであるから、精神修行や自省などとは程遠い。時代が移ろうにつれて堅実に修行を行う者も増え、卍解習得者も多くなるだろうと儂は予想している。
尚、我が副隊長は一週間で習得したが、普通は数十年単位の修行を要する。隊長職に就いていながら未だ卍解を会得していない者も、そろそろ会得し得るだろう。
「――話が逸れたの。纏めると、直接攻撃型は強度と切れ味を上げるために霊力を込めるため、鬼道系は使うほどに霊力を消費するため、鎖結と魄睡を刺激する訳じゃ。鬼道系は直接攻撃型の場合に加えて鬼道分の霊力を消費すると考えれば、儂が高い霊圧を持つのも分かるじゃろう」
軌道修正を掛けた儂は、そう話を締めくくった。
一息入れるために少し温くなった茶をずず、と啜る。ここまで脇道に逸れてまで熱心に語ったのは久しぶりだなとふと思った。
「なるほど……でも、これだと戦闘訓練が出来る時にしか刺激できない……静かに出来る鍛錬方法って無い?」
「それこそ刃禅じゃよ」
「えっ」
三つ目の問いに答える。その内容が意外だったらしく、悠璃は驚いたように瞠目した。
気付いていなかったのか……と考えたところで、ふと気づく。
そういえば、教本で知識こそあるものの、霊力を意識して扱った事はないのではないだろうか、と。
「話は変わるが、悠璃よ、お主霊力を感じた事はあるか?」
その問いに、悠璃はぶんぶんと首を横に振った。
勢いにつられて靡く長い黒髪を見ながら、ふむぅ、と顎髭を撫でる。どこから話したものか。
「……霊力は、自らの魂魄から発せられる力。刃禅はそれを斬魄刀へ効率よく流し、半身を宿させ、それを起こす手段なのじゃ。寝食を共にせよというのも普段から己の霊力を流すための文句に過ぎぬ」
感情の影響を強く受けるのは、魂魄が生み出す霊力にも何らかの気質が宿っているからと一説には考えられている。とかく気性の荒い者とそうでない者とを比較すれば分かりやすいので一定の信憑性はある話だ。
斬魄刀を目覚めさせるには、それも必要なのだろう。
そう考えた儂は、統学院の学生達がより己の斬魄刀を目覚めさせられるよう『寝食を共にし』という文言を付け加えた。共に練磨していく、という言葉でそこまで気は回らないだろうが。
「つまり、静かに行える鍛錬とは、瞑想に他ならぬ。まあそれも霊力を扱えればという但し書きが付くがの……今日刃禅を行う時に、斬魄刀へ流れる力に意識を傾けてみるといいじゃろう。それを感じ取ることが出来れば瞑想による鍛錬も十分可能になる筈じゃ」
何を隠そう、戦闘による霊圧増大に頭打ちが来て、更に総隊長としての執務で前線に行かない事が増えた儂は合間合間を縫って瞑想を行い、自らの霊力の流れを操作し、意図的に鎖結、魄睡を刺激している。
老いて尚最強を張れているのもコツコツと積み重ねた鍛錬故だ。
無論、それを広めぬ手はないと考えて瞑想鍛錬法を広めているのだが――再三になるが、護廷十三隊に属する隊士はほぼ全員が荒くれ者である。じっと体を動かさないでいる事が出来ない連中故、この鍛錬法は何十年も昔に途絶えて久しい。
儂としては、だから斬魄刀達が応えないのではと思う。
真剣に打ち込まぬ者に力を貸そうとは誰も思わないだろう。たとえ、それが誰よりも身近な存在であってもだ。
「むー……なんか、いっぱい難しい話ばっかりだったけど。ともあれ、ありがとうございました。早速刃禅して来ます!」
儂の内心を知る由もない悠璃は頭を下げて礼を言った後、素早くこの場を立ち去った。どたどたと二階を駆けあがる音を聞くに宣言通り刃禅を組み、霊力の流れを感じるつもりなのだろう。
「
それには、もっと時間を掛けねばならんじゃろうなぁ……と
・卍解、また瞑想鍛錬法について
原作では『卍解習得者は尸魂界の歴史に永遠にその名を刻まれる』とあり、それを為せるのも数百年に一人みたいな記述がありました
原作開始時だと何人も習得していたので違和感がありますが、かつて荒くれ集団だったらしいから、刃禅組むみたいな精神修行を嫌う者が多い時代だったからそうなっただけ、という独自解釈を挟んでいます。それもしないから実力者の象徴である始解すら至らず、戦死者が多いという流れ
調べ直して、一番隊副隊長・雀部長次郎さんって2000年前から山爺の右腕しようって息込んでたのだと改めて知りました
死神のノウハウの無い頃に卍解1週間習得ってヤベェ執念ですよ……
これには山爺も『あやつは例外じゃろ』という心境
そしてあまり前線に出ていない筈の山爺がなぜ最強に立ち続けられたのか、という疑問に対する答え(自問自答) 序盤のみ出てきた鎖結、魄睡を瞑想で鍛えていたから、という感じ
白ちゃんが原作《千年血戦編》で素振りだけで超強くなったのも、要は瞑想のこれと同じ理屈なんじゃね、と思った次第です
独自解釈なので異論は認めます