元柳斎の養子(1900歳)   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 日間ランキング1位、お気に入り1700件突破

 えぇ……(困惑) 嬉しいけど、五年近く続けてた作品を一日半で超えられてちょっと複雑よ私……

 やっぱみんなBLEACHが大好きなんですねぇ(わかりみ)


 あと本作、時代考証とか考えちゃダメよ(今更)




四話:元柳斎の養子(孫)、鍛えられる(-約1900年)

 

 

 秋が過ぎ、体の芯から冷える冬が来た。

 しんしんと霊子の雪が降り積もる日々が続く中でも日々は絶えず過ぎていく。死神の仕事は年中無休で、家主たる男・山本元柳斎重國は殆ど居ない。一番隊隊長としてだけでなく、総隊長として貴族の集まりである《中央四十六室》とのやり取り業務もあり、普段から多忙を極めているためだ。

 それでも夜になればこちらに帰ってくる。夕餉に間に合わずとも、就寝までには邸宅に戻ってきていた。

 だがこちらに霊圧(あつ)を掛けてくる女性・卯ノ花八千流という十一番隊隊長が来た日は夜遅くになっても帰って来ない。流石に日を跨ぐ頃になったら帰ってくるが、そういう時の山爺は大体疲れ果てていた。何をしているのかと聞いた事はあるが仕事だ用事だの一点張りで具体的に教えてもらった事は無い。あまり触れない方がいいのかなと思い、それ以上は触れないようにしている。

 そんな日々を過ごしながら、俺は死神統学院の入学を目標に勉学と鍛錬に励んでいた。

 

「――悠璃、おはよう。いま良いかの」

「山爺? うん、模写をしてただけだから大丈夫だけど」

 

 だが、とある日は違った。お湯を入れた革製の袋――湯たんぽと言うらしい――を抱えながら、今日も今日とて書字に勤しんでいた時、山爺からお呼びが掛かった。

 今は朝食に呼ばれるまでのわずかな時間。いつもなら朝食の席で顔を合わせるのに、わざわざ珍しいと思いながら山爺を出迎えた。

 

「まず、明けましておめでとうじゃな」

 

 既に死覇装、隊首羽織姿の山爺は、いきなりそんな挨拶を告げてきた。

 それに聞き覚えがあるような無いような――奇妙な感覚に囚われながらも、少なくともどういう意味かよく分からない俺は首を傾げる。おめでとう、と祝う言葉だから悪い意味ではないのだろうが……

 この反応で意味を理解できていないと分かったらしい山爺は、新年を迎えた時にする挨拶なのだと教えてくれた。どうやら一年を十二等分した月日が一巡りし、今日がその最初の日のため、それを迎える事への祝いの言葉を友人知人にしていく事が礼儀になっているらしい。

 それを聞いた俺も挨拶を返すと、山爺は満足げに頷いた。

 

「それと、渡す物もあってな」

 

 そう言った山爺が懐から取り出したのは小綺麗な白い紙袋だった。

 

「新年を迎えた時、大人は子供に小遣いを渡すそうじゃ。これで好きな物を買うといいじゃろう」

 

 どうやら新年祝いのお金らしい。受け取った紙袋の感触からするに、それなりの額の貨幣が入っている事が分かった。

 

「ありがとう、山爺」

「うむ」

 

 素直に嬉しくて、お礼を言う。また満足げに山爺が頷いたところで、階下から俺達を呼ぶ声が聞こえた。どうやら朝食の支度が済んだらしい。

 いったんお金の入った袋を部屋の卓上に置いた後、俺は山爺と一緒に食卓に向かった。

 

 

 朝食後、山爺が隊舎へ向かうのに合わせて俺も邸宅を出る。

 尸魂界は凡そ三つの地域に区画分け出来る。

 一つ目は《瀞霊廷》。貴族や死神の住居区が存在する場所で、この尸魂界の中心地に存在している。巨大な崖を囲うように展開された構造物のどこかに隊首会を開く場所があると聞いたので、護廷十三隊の拠点である事は明白だ。

 二つ目は《流魂街》。死者の魂魄が暮らす場所で、東西南北の四方それぞれ1~80までの地区に区分されている。この地区の数字が小さいほど治安が良く、商業施設なども発展しているという。逆に数字が大きいほど治安が悪く殺人、窃盗などが横行しており、非常に危険だと聞いた。

 そして最後は『それ以外』。森や荒野など、およそ人が暮らしていない無人の地域である。考えようによっては流魂街80地区の範囲になるのかもしれないが、時々虚が現れて非常に危険なので、余程腕に自信のある荒くれ者でなければ森に踏み入らないため無人地域になっているという。

 ちなみに俺が目覚め、山爺に拾われたのもここだ。

 

 そして、いま俺がいるのは流魂街1地区。

 瀞霊廷の端に沿うように並ぶ1地区の商業施設を、俺は時間を掛けて歩いて回った。東西南北すべての店を回っていいものが無いか冷やかすのも中々楽しい。歩く距離はかなりのものだが、足に霊力を込めて歩く鍛錬だと思えばそう苦でもない。足が疲れにくくなるから疲労自体少なかった。

 

「んー……なにか無いかなぁ……」

 

 霊力を使ってお腹が空いては買い食いをして、それからまた商店巡りを再開した俺は、どうしたものかとふと足を止めた。

 ――正直、買いたいと思うモノが無いのだ。

 あまり食べ過ぎては昼食、夕食に差し支える。それに食べ物もほとんど肉にタレを掛けて焼いたものばかりですぐ飽きてしまう。

 服の替えは用意してもらってるもので事足りているから無し。着飾るのも、興味は無い。

 筆や(すずり)も山爺が予備のものをくれるのでわざわざ買う必要がない。

 どうしたものかと悩みながら歩き続けること暫く。

 

「――本、か」

 

 俺が唯一興味を持ったのは、大きな本屋だった。

 大店(おおだな)であろうそこの蔵書量は途轍もない筈で、これなら家でも読んでない本を見つけられると思った。家では山爺から読んでいいもの、いけないものを分けられていたし、ほぼ全て教本だけだったから他にどんな本があるのか俺は知らない。

 何があるかとワクワクしながら、俺は本屋の敷居を跨いだ。

 

***

 

「おかえり山爺! それと見てこれ見てこれ! 今日買い物に出かけたら、本屋で凄いの見つけた!」

 

 新年の夜。

 隊士達とも新年のあいさつを交わし、常と変わらない業務を済ませ、帰途についた儂を出迎えたのは非常に興奮した様子の悠璃だった。ここまで喜びを露わにするのはかなり珍しく、思わず面食らってしまった。

 こちらの様子に頓着した様子もなく突き出してきたのは、一冊の本だった。

 

「初級鬼道の心得、じゃと……?」

 

 思わず目を見開いた。

 それは悠璃がせめて統学院に入学するまで教えないようにと思い、彼の目の届かないところに隔離した本の一つだったからだ。

 なぜ鬼道を教えないのか。それは統学院で必要なものを学べるため、今は斬術、白打、走術の三つを習熟した方がいいと考えたからだ。とは言え悠璃にそれを語った事はないため、今まで見た事が無い本を見て興奮し、衝動的にそれを買ってしまったのだろう。

 これは厄介な事になったやもしれぬ、と内心で唸りを上げた。

 ここまで興奮し、喜んでいる様子からおそらくこの本を取り上げる事は敵わない。それで他の鍛錬への意欲を損なっては本末転倒だ。

 

「山爺、これで鬼道の鍛錬していい?」

 

 思った通り、悠璃の興味は既に鬼道に向いている。なんなら明日から――いや、静かなものを選んで今夜からでも鍛錬を始めるかもしれない。

 

「待つのじゃ。鬼道の鍛錬をする前に、一つ試験をするぞ。これに合格すれば指定した番号の鬼道に限り鍛錬を許可する」

「わかった!」

 

 こうなっては仕方ないと、妥協案で納得する事にした。

 鬼道は攻撃用の『破道』、補助の『縛道』で九十九種類ずつ存在する。それらを一つずつ慣れていくにしても、詠唱を覚え、言霊に霊力を込め、適切に発動する――その全ての段階に習熟すると考えれば、時間はどれだけあっても足りない。元々教えないと決めていた理由は、鬼道は他の三つ以上に繊細な調節を必要とし、習熟にとても時間を要するからなのだ。

 ――逆に言えば、他が既に高水準であれば問題ないのだ。

 

「斬術、白打、走術の全てを使い、儂に一撃当てる事。それが試験じゃ」

「……えっ」

 

 試験の内容を告げた途端、さぁっ、と悠璃の顔から血の気が引いた。

 

 

 その夜から、儂と悠璃の一騎打ちが始まった。

 たった一撃当てるだけ。

 言うは易く行うは難し事だ。伊達に荒くれ者どもを束ねる総隊長を務めていない。儂に従うことをよしとしない者、あるいは儂を下す事に執着する者も少なくなく、それらを返り討ちにしてきた儂を捉えるのはそれだけで高い実力を必要とする。

 それを考えれば、悠璃はまだまだ実力が足りていない。

 経験が足りない。

 霊力が足りない。

 そもそも、素地となる能力が足りていない。

 何もかも足りていない悠璃には無理難題。無論、儂はそれを理解している。そうと分かっていながらその条件を提示したのは、三つの能力を実戦で鍛えるためだった。

 命の危機に瀕した魂魄は、動けないほど消耗するか、あるいは奮起して急に霊力を高めるかのどちらかの反応を示す。ある程度の力を持っている者ほど後者に傾く傾向にあると経験則で学んでいた儂はそれを意図的に起こそうと考えた。

 食らいついてくるなら御の字。入学前に霊圧をより高め、高水準の技術を身に付け、一撃当てれば鬼道も習得できる。

 だがここで諦めても構わないと儂は思っていた。”入学前に鬼道を学べるか否か”を賭けた試験でしかないからこの応酬は悠璃が入学すれば不要なものになる。

 まぁ、おそらくすぐに音を上げるだろう。自分が課す鍛錬をやり遂げた者はほぼいないからだ。

 

 そう思っていたのだが。

 

 思いの外、悠璃は粘り強かった。

 

「――参るッ!!!」

 

 自身を奮い立たせるためだろう気迫の籠った声を上げた悠璃が地を蹴った。空気を切り裂く音は瞬歩のそれ。幾度となく試験を繰り返す内に悠璃は儂の瞬歩を見様見真似で体得していた。

 瞬足で迫る黒き幼子が、腰だめに構えた刀を抜刀する。

 真っ向から儂の斬魄刀で迎え撃ち、刃を合わせる――寸前。あちらの刀が(けぶ)り、立ち消えた。

 一瞬後、軌道を変えた悠璃の刀が真下から迫り来た。

 

「ぬっ――」

 

 すぐさま斬魄刀を引き、刃を防ぐ。ぎゃりり、と火花が散った。

 それから間を置かず悠璃が距離を取る。鍔迫り合いでは、力も霊圧も劣る自身が不利だと理解している故、速さと奇策を手札に挑んできているが故の行動。

 ――本当に、粘り強い。

 距離を開ける幼子を見送りながら、幾度とも知れぬ所感を内心で呟く。

 最初は全て躱し、往なせていたが、試験も二十を繰り返した頃から徐々に防がなければならない攻撃が増えてきた。

 力も速さも、そして読み合いも稚拙ではある。

 だが――たしかに、成長している。

 席官級にはまだ届かないだろうが、並の隊士であれば先の攻撃で頸を断たれていたに違いない。

 

「……気配の殺し方が上手くなったのぅ」

 

 それは素直な賞賛だった。

 隠密にはまだ足りないが、攻防の最中にふっと一瞬気を反らす程度は出来てきている。それを儂にも通用するほどに習得しているとなれば褒めない訳にもいかない。

 だが、気掛かりなのは儂はそれを教えた覚えが無い点だ。

 

「誰から教わったのじゃ?」

「強いて言うなら、剣八さんかも。山爺に会いに来るときの剣八さんはいつ来たか分からないくらい静かだから」

「……そうか」

 

 その返答を聞いた儂は、内心でまた唸った。

 十一番隊隊長・卯ノ花八千流。またの名を『剣八』。”幾度斬り殺されても絶対に殺されない”という噂を体現したあの女は、勝負を吹っ掛けに来たあの日から数日に一度の頻度で儂の下を訪れるようになった。それが狙ったように儂の休日と重なっていたのは儂への仕返しも兼ねているだろう。

 何れにせよ確かなのは、あ奴に悠璃が感化され、技量を高め始めているという事。

 本来なら学ぶべきでない相手なのだが、如何せん悠璃に必要な技量を全て揃えてしまっている剣八から学び取るのは理屈の上では間違っていない。ただ剣八の人間性を考慮すると間違いになってしまうだけなのだ。

 止める事も叱る事も道理ではないと判断し、儂はそれ以上追及しなかった。

 

 ――代わりに、内心で燃え上がるものがあった。

 

 それは、こ奴を鍛えるのは儂だ、という忘れて久しい師範としての熱。

 八千流――数多のありとあらゆる剣術流派を我が手に収めたと自負したあ奴は、その自負の通り、無数の剣術を以て敵を圧倒する戦法を得意とする。白打も出来ないではないが、基本は斬術と走術に偏っていた。言わば剣に魅入られた獣があ奴の本性。

 それは儂とて同じだ。

 剣八と違うのは、あ奴が殺し合う事に意義を見出したのに対し、儂は活かし合う事に意義を見出した点。剣八は数多の一を束ねた剣士だが、儂は極限の一を皆に広める剣士だった。

 ……おそらくだが。

 あ奴は、悠璃に潜在する力に目を付け、己の技術を引き金に大成させようと考えている。それが実ろうが実るまいが関係なく、自身が愉しめるかもしれない――そう考えたから実行に移している。

 それが儂は気に喰わない。

 儂が興した『元流』の門下生ではない。しかし、死神としての教え子ではある。悠璃をお前のような殺し合いのみを求める獣にはさせぬ、儂が鍛え上げるという熱意が燃え上がっていた。

 どちらにせよ、悠璃は強くなるだろう。

 その果てに他者を喰らう獣になるか、他者を活かす人になるかは、儂に掛かっている。

 

「――残り四半時(しはんとき)*1じゃ。さぁ、来い」

「ッ――――!」

 

 (いら)えは無い。

 その代わりに聞こえたのは裂帛の呼気。瞬歩で距離を詰め、時に離して攪乱し、儂の意識の間隙を縫って刃を届かせようと迫る。

 それを儂は、斬術だけで凌いでいった。

 

 ――第二十一試験目、制限時間で失格

 

 

*1
2時間の4分の1。30分の事






 剣八さん、ちょっとずつマークしてるの巻

 それを察した山爺が全力で剣八みたいに成長しないよう指導中

 それを知らないオリ主は鬼道の鍛錬したい一心で食らいついていっている

 全員すれ違ってんな()

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