元柳斎の養子(1900歳)   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 能動的に起こす変革より、一人を中心に自然と起きる変革の方が凄いよねって話

 短めです




六話:元柳斎の養子(孫)、変革を齎す(-約1899年)

 

 

「……今頃は入学式ですかね」

 

 月日は過ぎ、春。

 桜の木々が芽吹き、瀞霊廷のそこかしこで桃色の花びらが舞う今日、死神統学院の入学式が行われている。そこに自身の教え子が入ると考え、隊長室の窓から学院の校舎に視線を投げた。

 全死神で最強の総隊長の拾い子、山本悠璃の成長は著しい。

 意欲は高く、素質も上々。中でも特筆すべきはその記憶力。その眼で見たものに限られはするが、一度目にした技術は決して忘れない。そこに辿り着くまでに必要な知識と技術が集まれば自力で習得する――それは、類稀なる才能と言っても過言ではない。

 

 惜しむらくは私の剣術を授けられなかった事だろう。

 

 彼が師事してから約三ヵ月、私は走術と鬼道を中心に指南した。

 他者の霊力を鋭敏に感じるらしい彼は総隊長の瞬歩を真似したらしく、霊力の調整を助言する程度だったため、特に力を入れたのは回道だ。

 回道には先天的な才能を必要とすると統学院で習うが、厳密に言えばそれは違う。他者の霊力、および霊子構造をも把握する高度な霊圧知覚能力を持っている者だけが、他者を癒す回道を扱える。つまり後天的に習得する事も不可能ではない。

 そもそも尸魂界に存在する全ては《霊子》で構成されている。

 この霊子と霊力は似て異なるものだ。

 有体に言えば、前者は構造物を形作るもの、後者は不可視の力場である。これらはまったく同じものではない。

 ――しかし、同じものにはなり得る。

 これを証明しているのは鬼道だ。破道、縛道の中には物質的なものを作り出す術も存在する。鬼道の行使に霊力を用い、霊子構造物を作り出している――そう考えればこの話はおかしなものではない。

 尸魂界に《器子》の構造物である物質は存在しない。あるのは全て、霊的なものである。

 魂魄は自らの霊力で体を構成する。つまり、霊力で霊子は作り出せる。回道は対象の霊子構造に合わせて己の霊力を練り上げ、補完する技術なのだ。故に霊圧知覚の高い者でなければ扱えない。

 つまり本来魂魄となった存在に霊力を持たない者は居ない。霊力を体外に出す調整弁《鎖結》や霊力を自力で生み出す《魄睡》を持たない者を、十把一絡げに『霊力を持たない』と言っているだけなのだ。

 これらを知らない死神は非常に多い。自分達が扱っている破道、縛道の中で物質的なものを作り出す時、なぜそれが現出しているかを考えない。そこまでを教える教師も少ない。そして使えさえすればいいからそれを隊長格もわざわざ訂正しない。

 

「これでは救護班が増えないのも当然です」

 

 ふぅ、と息を吐く。

 護廷十三隊の中でも好戦的な者ばかりが集まる十一番隊は、他の隊士――特に、救護・治療に特化した四番隊隊士を見下す傾向にある。

 四番隊は心優しい隊士が多い。他者に共感する感性が、結果的に他者の霊子構造を把握する知覚能力に貢献しているためだと私は推察している。しかしその隊は霊圧が低く、戦闘能力も低い。それを我が隊士はあげつらっていた。

 私自身はこの現状を嘆いている。

 戦闘に於いて力が無ければ戦死する。死んでは元も子もない故、私ですら回道を会得した。他のどの隊よりも戦線に赴く事が多い十一番隊は必然的に怪我をする機会が増える以上、四番隊とは切っても切れぬ関係にあるのだ。

 ――手元の書類を見る

 四番隊隊長、副隊長以下、席官を含む連名での苦情だ。

 他の隊への苦情をはじめ、何かしらのやり取りが発生する場合は一度総隊長を通す事が定められている。総隊長が全体を見てその是非を決め、却下するか対象の隊に書類を通すか決めるのだ。これがここにあるという事は、つまり総隊長もどうにかしろと考えているという事だ。

 

「ふむ……一案、練ってみましょうか」

 

 窓の外――彼方に見える建造物を見やってから、筆を取った。

 

***

 

 悠璃が統学院に入ったその日の昼下がり。

 昼食を済ませた儂は、昼一番に隊長室に足を運んできた十一番隊隊長・卯ノ花八千流と対峙していた。視線は手渡された書類――四番隊からの苦情に対する対応案の部分に固定されている。

 

「……貴様、正気か?」

「私はいつでも正気です」

 

 間髪入れずの返答。こやつの気が触れた時の事など考えたくもない。現状それが起き得る事態も無いから、その答えが返ってくる事も予想済みだ。

 だからこそ、疲れるのだが。

 ――書類には対応案が二つ書かれている。

 一つ目は四番隊に卯ノ花八千流が移籍する事。回道の技術体系化を為した人物から直接指導された一人であるこやつは、四番隊に属する条件を十二分に満たしている。十一番隊を統べていた者が四番隊に移れば確かに直近の問題は解決できるだろう。

 護廷を設立して百余年。当初に比べれば狂暴性もやや収まった故、無理に十一番隊隊長を卯ノ花が務める必要は無くなったと言えよう。

 無論移籍した後しばらくは暴れるかもしれぬが……

 その時のための対応案が二つ目。

 それは”剣八”の名の世襲だった。

 ”剣八”は卯ノ花自身が名乗り始めた二つ名だ。幾度斬り殺されても絶対に倒れない――その畏怖を体現したあだ名。今でこそ回道を使っているが、護廷に入る前は傷だらけのまま立ち向かっていた。この名は大罪人時代の畏怖を体現したものでもある。

 それを十一番隊隊長に継がせていくと言うのだ。

 尸魂界に於いて空前絶後の大罪人のあだ名を継承させる。ある意味、歴史の汚点を残していくようなものだ。

 本来であればそんな事を受け入れる者は居ない――

 

「総隊長も分かっている筈です。我が隊の隊士達は、己を脚色する異名に強く執着しています。これを拒否する者は居ないでしょう」

「……じゃろうな」

 

 そう、本来であれば。

 しかし十一番隊は護廷きっての荒くれ集団。卯ノ花が言ったように、異名を持つ事に執着を見せる。喧嘩など茶飯事のあそこでは名が売れる事こそ強さの証明の一つになると信じられているのだ。

 その思考を理解していたからこそ、儂は卯ノ花をその者達の隊長に据えた。

 理に適っていると言えよう。

 更に腹立たしい事に、卯ノ花は全死神の中で最も回道に優れた使い手。四番隊を率いる者としては的確だ。

 その人間性と本性は別だが。

 

「聞いておくが、二代目の剣八を誰にするかは決めておるのか」

「目星は付けております。まぁ、十一番隊隊士全員といま一度刃を交え、その実力を測り直そうと考えていますが。その結果は後ほど書類で提出します」

「うむ……まぁ、順当に行けば副隊長かの」

「さて、どうでしょう。最近威張り散らしてばかりで腕を鈍らせているようですし……あの者なぞに”剣八”の名を譲るのは業腹ですね」

 

 ふふ、と酷薄に卯ノ花が笑む。

 口ぶりからも分かるが相当腹に据えかねているようだ。まぁ各所の副隊長からも評判は良くない。これから隊を引っ張っていく者としては不適当であるのは間違いない。

 

「よかろう。一先ず、この案を四番隊の隊長にも通してみる事にしよう」

「ええ、よろしくお願いします」

 

 案としては悪くは無い。

 問題があるとすれば、世紀の大罪人と知られる卯ノ花が来るかもしれぬと聞いた四番隊各員の反応だろうか。あまりに拒絶反応が強いようなら代案を考慮しなければならない。

 卯ノ花が十一番隊隊士を叱責したところで効果が無いのは目に見えている。

 さて、どうしたものか……

 

「ああ。それと、もう一つ用件が」

 

 これで終わりかと思っていれば、卯ノ花の話はまだあるらしい。思案を一時中断し、視線で先を促す。

 

「もし四番隊への移籍が決まった時、私は《卯ノ花烈》と名を改めます」

「……理由は?」

「私の意識を切り替えるためですね。流石にあの隊で八千流の名はそぐわないですから」

「……相分かった。その事も含め話を進めておこう」

「ありがとうございます」

 

 婚姻をはじめ、何らかの理由から改名する者は少なくない。かく言う自分も一度名を変えた事がある。名を変えて意識を切り替える――それを経験した事がある身故に卯ノ花の言わんとする事は理解できた。

 あの隊では剣の鬼としてではなく、死神随一の、回道の使い手として隊を率いる気でいる。

 

()()、変わったのぅ」

「お互い様ですよ」

 

 その変化が何を契機としたものか。問わずとも知れた事に、どちらからともなく口の端を吊り上げた。

 

 

 






・霊子、霊力はほぼ同位存在という独自設定
 霊力→霊子:『卍禁』などの物質的鬼道
 霊子→霊力:滅却師の霊子隷属能力


・回道に関する独自設定1
 原作で定かではないが、本作では『麒麟寺天示郎』が開発したものとした
 なぜなら彼だけ零番隊になった理由が判然としていないため。上記の『霊力で霊子を作れる』設定にした場合、無から有を作り出せるため、零番隊になってもおかしくないと思ってこの独自設定を採用した経緯がある
 ちなみに原作で浦原が作った『浸かるだけで回復する温泉』は、麒麟寺天示郎が作ったものを真似たものらしい


・回道に関する独自設定2
 回道は霊力で霊子を補う、死神における霊子隷属能力? のようなもの
 対象の霊子構造を把握(医学知識的な人体理解)する能力に長けていなければ使用不可。感覚的なところが大部分を占めるため共感性の高い心優しい者の適性が高い
 これをかみ砕いて、戦闘用霊力と治療用霊力と呼ぶ本作設定
 なので十一番隊(戦闘特化)と四番隊(治療特化)は水と油の関係

 尚、これを両立させるヤベー死神がいるらしい()


・死神になれない魂魄について
 前提として、霊力が無い魂魄=現世で霊感を持たない人
 虚が吸魂して力が増大するなら、霊力が無いとされてる魂魄も実際は霊力あるんじゃね? 霊子構造の肉体あるならむしろ持ってないとおかしいよね――という考えから鎖結、魄睡が無いだけという独自設定になった
 異論は認める


・なぜ初代剣八が四番隊になったのか
 その理由は原作では明かされていないので独自設定
 上記のように十一番隊と四番隊は水と油の関係なので、それを両立させ、且つ十一番隊を抑え込める卯ノ花が隊長になるのが的確だったのではないか――そんな妄想の下に今話は作られた


・改名について
 山爺も自身の副隊長の卍解により傷が十字になった後、『元柳斎』という呼び名を付け足した改名をしている
 原作で副隊長を亡くした時の怒りを考えると、この改名でも何らかの心境の変化があった事が伺える
 それ故、卯ノ花の改名にも賛同的だったのではないだろうか


・悠璃の能力
 目視した技術に対する記憶力
 周囲の人間を穏やかにする能力?


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