「キャ~!」
夏の女神は海に向かって駆け出した。
砂紋に君の足跡が残っていく。
バシャン
「キャッ、冷たい!
でも気持ちいい!」
波が君の身体にあたったらしい。
君は楽しそうに波と戯れている。
「ねぇ、来ないのォ?」
君はそう言って、僕を呼んだ。
「あぁ、いや、海パン履き忘れてきちゃって。」
そうだ。あの騒ぎで僕は海に行く用意が出来てないまま、ここまで来てしまったのだ。
「えぇ、海に行くのに何やってんのよォ!」
という君に、
「いやまぁ、そんな時間無かったし…とりあえず、足だけでも入るよ。」
と僕は言って、すね辺りまで海水に入る。
冷たい、でも、気持ちいい。
そのまま立っていると、足元の地面が波に引っ張られて行き、立っているのか、浮いているのかわからなくなる。
これはこれで楽しいかな?とか思っていると、波と戯れていた君が、僕のそばまでやってきて、
「もう、何やってるの?」
と言った。
「や~、海パン無いし。
でも、これはこれで楽しいよ。」
と答えると、君はいたずらっぽい笑みを浮かべると、
「えいっ!」
と言って、バシャリと海水を掻き、こっちに飛ばした。
「あっ!」
バチャン
避けきれずに、服に海水がかかる。
「あぁ、濡れちゃったじゃん!」
僕の抗議にも、君は知らん顔で、
「もう、海に来たのに、服が濡れるのを躊躇って、そんな事してるからです。」
と言うと、
「えいっ!えいっ!」
とバシャバシャと波音立てて、海水をこっちに飛ばしてくる。
あぁもう、びしょびしょ。
「もう、びしょびしょじゃん!
よくもやったな!」
と言うと、僕はきみにやられたように、バシャバシャと君に向かって海をかき揚げて、海水を浴びせる。
「キャー」
と悲鳴とも歓声ともつかない声があがり、君もまたバシャバシャと波だてて反撃してきた。
波と波がぶつかって、飛沫が飛んで、キラキラと輝く。
二人は
「アハハッ」
と笑いしながら、
お互いに幾度も幾度も波をかきたて、お互いに海水を飛ばしあっているうちに、
男の力に勝てなかったからか、いつしか君は僕のたてる波から逃れるように海の中を走り始めた。
「まて~」
バシャバシャと波蹴たてながら、僕は楽しそうに笑顔を浮かべながら逃げる君を追いかけた。
追いかけっこをしているうちに、気がつけば、すねくらいまでだった海の深さが
いつのまにか、お腹のあたりまでになってきていた。
君はニコッと笑うと、ピュッと飛んで、海中に飛び込み消えた。
僕はベッチョリと濡れて肌に張り付くシャツを脱ぎ捨て上半身裸になると、僕も海に飛び込み、君を追った。
夏の女神はマーメイドになった。
透明な海水は軽やかに泳ぐ君の姿を青いスクリーンの向こうに写し出す。
追いつこうと君に向かって伸ばす僕の手を、君はするりするりと身体をひねるように泳いでかわして行った。
追いつきそうで追いつけない。