武術の才能を持つものと持たざるもの、互いのスタートラインは違っていて、持つものが圧倒的に有利である。
武術の才を持たぬ持たざるものがする百の努力は、確かに一つの才に劣るかもしれない。
だが千の努力ならば追いつける可能性があり、万の努力ならば追い越すこともできて、億の努力や兆の努力ならば才を持つものよりも更に先へと進めるだろう。
なぜ武術が何千年もの間伝えられてきたのか、それは武術の世界において、努力は才能を凌駕するからだ。
それを実証する例として穿彗の弟子である鍜冶摩里巳は、武術の才能を持たざるものでありながら達人へと辿り着いている。
もう一つの例として鍜冶摩里巳よりも武術の才能が無い身であっても妙手に至っている梁山泊の弟子、白浜兼一という例もあった。
特に白浜兼一は武術の才能を持たざるものであるが、才能に溢れた闇の弟子集団のYOMIに勝利をして生き残ってきた少年だ。
恐るべきは武術の才能が無い白浜兼一をそこまで鍛え上げていた梁山泊の弟子育成能力であると言えるだろう。
日々行われる非常に過酷な梁山泊の修行に耐えてきた白浜兼一の真っ直ぐな信念は折れることはない。
新白連合の隊長で武術の才能が無いものは白浜兼一と宇喜田孝造だけであり、他の面々に遅れていることに自覚がある宇喜田孝造だけはそのことを特に気にしているようだった。
しかし風林寺美羽と喫茶店で色々と話したことで、ある決意をした宇喜田孝造は動く。
どうやら宇喜田孝造はバルキリーをかけて白鳥かおるに決闘を挑むことにしたらしい。
決闘の立会人として白浜兼一と風林寺美羽に武田一基も向かうことになったが、梁山泊の修行で疲れきった白浜兼一と白浜兼一を待っていた風林寺美羽は決闘に立ち会うことが遅れてしまっていたようだ。
始まった決闘を見守っていた武田一基とバルキリーの前で白鳥かおるのバルキリーより威力が高い蹴りを喰らいながらも立ち向かい続ける宇喜田孝造。
武術の才能がある白鳥かおるに喰らいついていく武術の才能がない宇喜田孝造は白鳥かおるを掴もうとしたが避けられて、強烈な上段廻し蹴りを顔面に喰らって倒れ込んだ。
意識が飛びそうになりながらも気合いで立ち上がると白鳥かおるに挑んでいく宇喜田孝造へ白鳥かおるも手を抜くことなくバルキリーと同じテコンドーの動きで蹴りを放つ。
白浜兼一と風林寺美羽が到着した頃には身体がボロボロになっていた宇喜田孝造だが、それでもしっかりと根性で立ち続けて白鳥かおるに勝負を挑んでいた。
宇喜田孝造と白鳥かおるの決闘を見守っていた白浜兼一と風林寺美羽に武田一基とバルキリーは、近付いてくる複数の殺気に気付いて臨戦体勢になり、現れた複数人の相手を油断なく見ていく。
なんだいアンタらはと聞いたバルキリーに、ただのプロさ、志場の弟子を囮として捕まえて志場を誘きだしてから始末しにきただけのな、まあ、目撃者にも消えてもらうつもりだがと答えたプロの殺し屋の1人。
複数人いる殺し屋がそれぞれ得意な得物を構えて武田一基以外を殺そうと考えていたところで風林寺美羽が真っ先に動き、攻撃を放ったが準達人級の殺し屋が攻撃を受け止めた。
それぞれ殺し屋と戦い始めた白浜兼一と武田一基にバルキリーだが複数人いるプロの殺し屋は、それなりに実力があるようで少し手こずっていたらしい。
2人がかりで殺しておくかと言い出した殺し屋がバルキリーに狙いを定めて集中的に攻撃をしていく姿を見た宇喜田孝造は、ボロボロの身体を動かして殺し屋に抱きつくとそのまま押していきながら柵を超えて捨て身で殺し屋ごと飛び降りる。
キサラは俺が守ると決意していた宇喜田孝造はバルキリーを守る為に命をかけていた。
高所から逆さに落ちていく宇喜田孝造と殺し屋は、このままでは確実に死亡することは間違いないだろう。
殺気に反応して偶然近くを通りがかっていた坂田金時が居なければ死んでいた宇喜田孝造と殺し屋の2人。
跳躍して、落ちてきた宇喜田孝造と殺し屋を掴んだ坂田金時は、2人が落ちてきた高所の柵に立つ。
落としものだよと言いながら宇喜田孝造と殺し屋を置いた坂田金時は、一瞬で複数人居た殺し屋を気絶させていった。
助かりました金時さんと言ってきた武田一基に、きみたちなら倒せていた相手だったとは思うけどねと言った坂田金時。
とりあえず宇喜田くんを治療した方が良いんじゃないかなと言うと坂田金時は、岬越寺接骨院で診てもらおうかと言いながら宇喜田孝造を担いだ。
岬越寺秋雨に身体のあちこちにある打ち身の治療を受けていた宇喜田孝造は気を失っているだけで特に酷い怪我もないようで安心した面々。
ジェームズ志場先生を狙う殺し屋が以外と強かったことを語った武田一基に、志場っちが恨みを買いやすい性格をしているとしても今のきみたちが手こずる殺し屋を送り込んできた相手が少し気になるかなと言った岬越寺秋雨。
裏ボクシングで私がジェームズ志場に勝った後に、リングから移動させられていた気絶しているジェームズ志場を殺そうとしている連中がいた、と坂田金時は言う。
どうやらそいつらはジェームズ志場の対戦相手の勝ちに大金を賭けて大損したからジェームズ志場を逆恨みしていたようだったね、今回も恐らくはそいつらが雇った殺し屋だったんじゃないかなと岬越寺秋雨に説明した坂田金時。
そんなことで子ども達まで犠牲にしようとするとはなんとも身勝手な連中だ、今回のようなことが起きないように制裁をくわえねばなるまい、そいつらの居場所はわかりますかな坂田金時殿と言ってきた岬越寺秋雨は間違いなく怒っていた。
気配は覚えているので居場所はわかりますよ岬越寺秋雨殿、私が案内しますから着いてきて下さいと言うと坂田金時は岬越寺秋雨を連れて走り出す。
その後殺し屋達にジェームズ志場の始末を依頼していた連中は坂田金時と岬越寺秋雨により、あくまでも活人拳的に凄まじい制裁を受けることになったらしい。
ジェームズ志場を狙っていた連中は制裁によってジェームズ志場を狙うことはやめたようで、今では裏ボクシングや地下格闘場で賭けごとをすることもなく静かに生きているようだ。
武術の才能がなくても達人に到達した鍜冶摩里巳は、夢であった達人になってからも鍛練に励み、新しい夢である師匠の穿彗に勝つことを夢ではなく現実にする為に激しい修行を積んでいく。
修行の量と戦いの数で、武術の才能がないことを捩じ伏せてきた鍜冶摩里巳の身体は傷だらけであり、今まで鍜冶摩里巳が経験してきた戦いや修行の激しさが一目で理解できるだろう。
今日も修行をしていた鍜冶摩里巳は師匠である穿彗に、たまにはわたし以外の強者と戦って経験を積みにいくぞ里巳と言われて梁山泊まで連れてこられていた。
ここには以前来ましたが、梁山泊の達人とは戦ったことはありませんでしたねと言った鍜冶摩里巳。
ああ、そうだ、今日は活人拳の達人達と戦ってもらうと言って梁山泊の門を開けた穿彗。
梁山泊の面々に挑戦料を支払った穿彗は、里巳を、弟子をよろしくお願いしますと言うと下がる。
師匠の穿彗が下がると同時に梁山泊内にある道場で前に出た鍜冶摩里巳は構えを取ると、よろしくお願いします梁山泊の方々と言ってやる気に満ちていた。
そんな鍜冶摩里巳を見て、武術の才能がない身でありながら達人に至っていることを見抜いた梁山泊の面々。
白浜兼一を呼び出して戦いを見るように指示しながら岬越寺秋雨は鍜冶摩里巳の動きを見ていく。
兼一くん、きみと同じく武術の才能がない身で、19歳という若さで達人にまで辿り着いている彼をよく見ておきたまえと言った岬越寺秋雨。
ボクと同じ境遇の人でありながら既に達人にまで至った人がいるなんてと言って驚いていた白浜兼一。
1番手は、おいちゃんが行っとくねと言い出した馬剣星が鍜冶摩里巳と離れていた間合いを瞬時に詰めると技を繰り出す。
馬家羅刹勁という見た目が同じ突きでありながら横への勁と下方への勁を行う2つの突きを暗勁として放つ馬剣星。
まともに喰らえば終わっていたその攻撃を避けた鍜冶摩里巳は馬剣星に印相、蹴合の印を組んで向上した脚力で蹴りを打ち込む。
弟子クラスなら一撃で沈んでいた鍜冶摩里巳の蹴りを良く練られた内功によって弾いた馬剣星は、素晴らしい脚力ねと鍜冶摩里巳を褒めた。
鍜冶摩里巳が真摯に武術へ費やしてきた時間がわかるような一撃であった蹴りを見ていた岬越寺秋雨は、これまで彼が凄まじい努力を重ねてきていることがよくわかる蹴りだったと内心で思っていたらしい。
馬家千通浸透撃という突きと同時に浸透勁を繰り出す技を使った馬剣星の拳を、足印相を組んで腕力を向上させて払いのけた鍜冶摩里巳。
馬剣星を掴んだまま飛び上がる鍜冶摩里巳は投げ技である鶚落としを繰り出そうとする。
掴んだ相手と一緒に凄まじい速度で螺旋回転して落ちていきながら相手の脳天だけを、地へと強烈に叩きつける技こそが鶚落とし。
しかし鍜冶摩里巳の鶚落としは馬剣星が空中で身体を魚のように激しく震わせて掴まれた状態から脱出したことで失敗に終わった。
流石は梁山泊の達人ですねと言って笑った鍜冶摩里巳は達人として馬剣星に挑んでいく。
攻防を繰り広げる鍜冶摩里巳と馬剣星を見ていた白浜兼一は、あれが武術の才能がなくても達人になった人の動きかと思っていたようだ。
あの人が達人になったように、武術の才能がないボクでも達人になれるんですかね岬越寺師匠と岬越寺秋雨に聞いた白浜兼一。
そうだね兼一くん、達人になるか、それか死ぬかってところかなと答えた岬越寺秋雨。
そのおまけのようについてくる一言が凄く気になるんですけどと言いながら顔をひきつらせた白浜兼一は師匠である岬越寺秋雨を見ていた。
馬剣星の半歩崩拳を喰らってしまって膝をついた鍜冶摩里巳の眼前で拳を寸止めした馬剣星は、まだやるかねと鍜冶摩里巳に聞く。
いえ、俺の負けですと負けを認めた鍜冶摩里巳が立ち上がれるようになるまで少し待っていた梁山泊の面々。
次は誰が行くかねと言った馬剣星に応じるように前に出た逆鬼至緒が、次は俺だぜと言って空手の構えを取るとへへっと笑う。
腕を使って放つ腕刀、足を使っていく足刀、指を完全に伸ばさず猫手というように少し指を曲げた状態で手刀を作り手刀背刀打ちを繰り出していく逆鬼至緒。
それら全てをなんとか避けていく鍜冶摩里巳は無月の舞いを披露して逆鬼至緒に立ち向かっていった。
逆鬼至緒の夫婦手を印相、肘収の印を組んだ鍜冶摩里巳は腕1本で捌き、しなやかな肘捌きを逆鬼至緒に見せていく。
やるじゃねーか、ならこいつはどうだと言った逆鬼至緒が放つ正拳突きに練鍛鎧を使って身体で受けた鍜冶摩里巳。
気の炸裂によって経絡の一時的遮断現象を起こす鎬断を身体で行う技である練鍛鎧に拳を打ち込んだ逆鬼至緒だが、拳に痛みを感じた程度で逆鬼至緒の気血は完全には断たれておらず鍜冶摩里巳は逆鬼至緒の正拳突きで吹き飛んだ。
格上の相手の気血は完全に断つことができないということがわかりました、ありがとうございますと感謝した鍜冶摩里巳に、中々面白い技を使うじゃねーかと言った逆鬼至緒は前蹴りを繰り出す。
凄まじい威力がある前蹴りを回避した鍜冶摩里巳は逆鬼至緒と距離を縮めると掴みかかり、坂田金時から教わった力をほとんど使わずに相手を技で投げる投げ技である嵐車を放つ。
投げられながら蹴りを繰り出した逆鬼至緒の蹴りが腹部に直撃した鍜冶摩里巳は倒れ込んでしばらくまともに立ち上がれず、嵐車で投げられてから立ち上がった逆鬼至緒が立ち上がれねーなら俺の勝ちだぜと鍜冶摩里巳に言った。
倒れたまま、俺の負けですねと言って敗北を認めた鍜冶摩里巳が立ち上がれるようになるまで待つ梁山泊の面々。
鍜冶摩里巳が立ち上がってきたところで最後はわたしが行こうと言って前に出た岬越寺秋雨。
アパチャイは?と完全に準備万端だったアパチャイ・ホパチャイが岬越寺秋雨に問いかけてきたところで、流石に連戦でアパチャイくんはやめておいたほうがいいと判断させてもらったよ、すまないがアパチャイくんは見ているだけにしていてくれたまえと岬越寺秋雨は言い聞かせていく。
では、始めようかと言った岬越寺秋雨が入り身で間合いを詰めて鍜冶摩里巳に接近すると投げを繰り出していった。
数回投げられた後に、再び投げられる前に岬越寺秋雨の手を外した鍜冶摩里巳は、突貫二連砲という重ねた両腕をコークスクリューのように回転させながら拳を相手に打ち込む突き技を披露していくが、岬越寺秋雨に掴まれて止められてしまう。
武術の才能がない身で、よくぞここまで技を練り上げたものだと鍜冶摩里巳を褒めた岬越寺秋雨は岬越寺流柔術の投げを使っていき、鍜冶摩里巳を投げ続けていたようだ。
鍜冶摩里巳は身体を掴んでいた岬越寺秋雨の手をなんとか外して投げから脱出すると、坂田金時から学んだ技の1つであり、今まで穿彗に学んできた暗鶚の技ではない技の構えを取る。
その構えはと鍜冶摩里巳の構えを見て、親友である風林寺砕牙が放ったことがある技を思い出した岬越寺秋雨。
両腕を交差して身を深く沈めて片膝をついた状態から全身のバネを使って跳躍し、両腕を頭上に突き出した状態でドリルのように凄まじい勢いで全身を回転させながら突撃して相手に両拳を叩き込む技である風林寺千木車を繰り出した鍜冶摩里巳。
身に付けていた衣服を少し破られながらも風林寺千木車を避けた岬越寺秋雨は、素晴らしい、武術の才能がないとしても、これまできみが積み重ねてきた努力は決して無駄ではないと言い切った。
かなり完成度の高い鍜冶摩里巳の風林寺千木車を岬越寺秋雨が避けることができたのは、以前風林寺砕牙が放っていた同じ技を見たことがあるからであったらしい。
完全に初見であるなら直撃していたかもしれないと思った岬越寺秋雨は、彼は立派な達人と言える実力は持っているようだねと考えながら鍜冶摩里巳に接近していく。
それから岬越寺秋雨は岬越寺、輪廻煉獄手鞠という相手を鞠に見立てて鞠つきのように何度も地に叩きつける技を放ち、鍜冶摩里巳を畳に連続で叩きつけてから気絶させたようだ。
鍜冶摩里巳が気絶から目が覚めたのは数分後であり、岬越寺秋雨は繰り出した技を絶妙に手加減していたようである。
梁山泊とは凄まじいですね、達人に至ってもまだ遠い、手加減された状態でもかなり高い壁のようですと言って笑った鍜冶摩里巳は格上の活人拳を相手に戦えたことをいい経験だと思っているようで、とても清々しい顔をしていた。
武術の才能がなくても達人に辿り着いたあの人のように、ボクもいずれはと鍜冶摩里巳の戦いを見て思っていた白浜兼一。
梁山泊に来た目的を全て達成して梁山泊から去っていった鍜冶摩里巳と穿彗の2人を見送った梁山泊の面々。
鍜冶摩里巳がいい刺激になったのか日々の修行に熱が入った白浜兼一は、武術の才能がないとしても、努力を積み重ねて1歩1歩先へと進んでいく。
ちなみに白浜兼一の武術の才能が例えば1だとすれば、坂田金時の武術の才能は1京を軽く越えており、凄まじいほどに武術の才能に溢れている坂田金時。
そんな坂田金時は人のいない静かな山中で今まで覚えてきた技を繰り出している真っ最中であった。
武術の才能があろうと身に付けている技を磨いていく坂田金時が積み重ねた努力を否定することは決してない。
櫛灘流柔術から始まり、山の中の達人に学んだ骨法、後継者2人から見て学んだ天地無真流。
それ以外にも、緒方流古武術、カラリパヤット、中国拳法、空手、裏ボクシング、ブフ、キックボクシング、サバット。
更に、ジークンドー、パンクラチオン、プンチャックシラット、古式ムエタイ、コマンドサンボ、ルチャリブレ等々に加えて他の武術の技までも繰り出していく坂田金時は物凄く多彩な技を持っているようだ。
これまで学んできた全ての武術の技を常人には見えない速度で繰り出す坂田金時は、止まることなく動き続けていく。
坂田金時が動くだけで吹き荒れる暴風が落ち葉を巻き上げていき、宙を舞う木の葉が天高く飛ぶ。
最後に坂田金時が風林寺の体捌きで飛び上がると地面に風林寺押し一手を放ち、掌から膨大な気を発して地面に巨大な掌の跡を深々と残した。
一見豪快に見えるが気当たりを利用した高度な技である風林寺押し一手を完璧に使える坂田金時は武術家としても凄まじい領域に辿り着いている。
両腕を上に上げて背筋を伸ばした坂田金時は久しぶりに全ての技を使ったなと思いながら、本気で動くと山が駄目になるから本気では動けなかったけど少しは身体を動かせたかなと考えていたらしい。
手加減なしに一撃でも喰らえば特A級の達人でも無惨に死んでいた技の数々を繰り出していた坂田金時。
人間相手に使っていた訳ではないので全く手加減していなかった坂田金時の技は殺傷力が凄まじいことになっていたようだ。
そんな危険なことをしていても実際に技を使うときは、妖拳怪皇、坂田金時が人を殺すようなことは決してないだろう。
活人拳として生きると決めて数十年が経過している坂田金時が、これまで人を殺してしまったことは一度もない。
しかし坂田金時が戦った相手を殺すことはなくとも、無敵超人の異名を持つ風林寺隼人から坂田金時が教わった忘心波衝撃で記憶を消し去ったことはかなりの回数があるようであり、坂田金時と戦って記憶を失ったものは多数だ。
それでもこの世界に坂田金時がいたことで失われることがなかった命の数は、凄まじい数となるだろう。
こぼれ落ちそうな命を拾いあげて、より多くの命を救ってきた坂田金時は、これまでの人生で活人拳だと言える道を進んできていた。
迷わず進んできたその道を外れることは間違いなくないであろう坂田金時は活人拳として生きていく。
武術の才能があり神童と呼ばれている櫛灘千影は、師匠である櫛灘美雲の元で櫛灘流柔術の鍛練を積んでいたが、どんな時も冷静に動くことができていたようだ。
若く優秀な弟子を見ていた櫛灘美雲は弟子である櫛灘千影に、千影よ、お主は躊躇いなく人を殺せるかと問いかける。
はい、と答えようとした櫛灘千影は交流してきた白浜兼一と新白連合を思い出した。
交流してきた彼等を殺せるだろうかと考えてしまった櫛灘千影は迷っていたらしく、人を殺せるかという師匠である櫛灘美雲からの問いに、わかりませんと返答をした櫛灘千影。
弟子の答えを聞き、そうか、高校に行く前のお主であれば迷うことなく、はい、と答えていたじゃろうな、人との交流は良くも悪くも人を変えるものじゃ、千影も人として成長したようじゃのうと頷いた櫛灘美雲。
とはいえ殺武の時は近い、それまでに進む道を決めておくのじゃ、どのような道を選ぼうと咎めはせぬ、活人拳か殺人拳か、そのどちらでもない道か、選ぶのはお主じゃからのう、と言って櫛灘美雲は櫛灘千影を見た。
千影よ、後悔のないようによく考えておけと言った櫛灘美雲は自分が殺人拳だからといって弟子を強引に殺人拳に進ませることはなく、弟子である櫛灘千影には自由に進む道を選ばせていたようだ。
櫛灘美雲は櫛灘流柔術を受け継ぐ弟子が欲しかっただけであり、弟子を殺人拳の道に誘導することはない。
坂田金時という活人拳の櫛灘流柔術の使い手にも、弟子の櫛灘千影のことを頼んでいる櫛灘美雲は、弟子を見捨てるようなことはしない師匠である。
師匠を尊敬している櫛灘千影は、かつては迷わず殺人拳の道を選ぼうとしていたが、今では迷いがあった。
飛び級で荒涼高校に通い、師匠である櫛灘美雲以外と交流をすることになった櫛灘千影は確実に変化していたようで、冷静な顔とは違う子どもらしい顔をすることも増えていたが、自分では気付いていない櫛灘千影。
弟子の櫛灘千影の変化にはいち早く気付いていた師匠である櫛灘美雲は、それもまた弟子の成長になると判断して特に止めるようなことはしなかったらしい。
闇の九拳の弟子としてYOMIの一員となっている櫛灘千影であるが、殺人拳として闇の武術家となるかは、まだ決められていない櫛灘千影は迷っていた。
もっと幼い頃から武術を学んでいた櫛灘千影は、ほぼ武術ばかりの人生であったが、それに疑問を持つこともなかったようだ。
しかし師匠以外の優しい人々と交流したことで変わった櫛灘千影は進む道を迷う。
師匠である櫛灘美雲は進む道を強制することはないようで、自分で選ぶしかない櫛灘千影は迷いながら修行を続けていき、そうやって日々の修行で疲れると新白連合の元に行ってリフレッシュするようになっていた櫛灘千影。
新白連合に来ていた白浜兼一に、進む道を自分で選ぶように言われたらどうすればよいのだろうかと櫛灘千影は聞く。
聞かれたことを真剣に考えて、そうなったら心から自分がそうしたいと思える道を選んで進むのが一番後悔がないんじゃないかなと答えた白浜兼一。
そんな白浜兼一の言葉は櫛灘千影に届いたようで、礼を言うぞバンソーコーと櫛灘千影は言って迷いが晴れた顔をしていた。
老年探偵団という題名の本を持っていた櫛灘千影は本を開いて椅子に座ると読み始める。
帰ってきた櫛灘千影の迷いが消えた目を見た櫛灘美雲は、どうやら進む道を決めたようじゃなと弟子の決心を悟っていたようだ。
千影がどのような道を選んだとしても櫛灘流柔術は受け継がれていくことは間違いないのうと微笑む櫛灘美雲。
もしもの時は弟子を任せたぞ金時と内心で考えていた櫛灘美雲は、頼りになる幼なじみのことを思い出していた。