続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
第二回ディスカッション終了後、誰も口にしなかったが、全員が同じ感覚を抱いていた。
――もう、この試験は「静観」では終わらない。
各々が部屋をゆっくりと出ていく。
清麿は一瞬だけ円卓を目線だけで見回す。
有栖は穏やかな笑みを浮かべたまま、龍園は獰猛そうに笑いながらも、
――櫛田桔梗。
櫛田は相変わらず柔らかな表情を保っているが……
(……指先が震えている)
ほんの些細な違和感。
だが、清麿はそれを見逃さない。
清麿は、場の“流れ”を感じ取る。
そして確信する。
(この流れのままいけば……BかCが、踏む)
最悪なのは、BとCが“勝ち筋”を共有してしまうこと。
クラスポイントの奪い合いではなく、“主導権”の独占。
それだけは、避けなければならない。
(保険を――かけておく)
清麿の視線の先に、Dクラスの堀北鈴音がいた。
◆◆◆
清麿はディスカッションが終了した後も一人部屋に残っていた。
彼は脳裏で今朝のやり取りを思い出す。
『皆、相談したいんだが……この特別試験はどうするべきだと思う?』
清麿が意を決してAクラスの面々へ相談すると、帆波から質問が返ってきた。
『……質問に質問で返すようで悪いけど、清麿君としてはどうしたいの?』
『そうだな。正直に言えば、今のクラスポイント差は極力崩したくないというのが本音だ』
『つまりは現状維持……ということか?』
『ああ』
神崎の確認に清麿は頷く。
『あまりポイントを取りすぎても各クラスを刺激してしまうだけですしね……』
浜口も腕を組みながら考える。
『どうしたものか……』
『どうするかにゃー……』
神崎と帆波も頭を悩ませていた。
そんななか、一人の少女がそんな四人を呆れたように眺めていた。
『別にそんな今すぐ結論出して決めなくてもいいんじゃないの……?』
姫野ユキである。
『つーか、まだ試験ってあと四日も続くんでしょ?なら、各クラスの出方を見てから、Aクラスの方針を決めても遅くはないでしょ?』
『姫野の言う通りかもしれないぞ、高嶺』
姫野の言葉に神崎も同意する。
『正直、現時点で方針を決めるのは些か早計過ぎる気もするからな』
『まずは各クラスの出方を見てみる……か。分かった。とりあえずクラスの皆には、一旦様子見するように伝えといてくれ』
『分かったよ』
『了解した』
清麿の言葉に、帆波と神崎が頷く。
(姫野の言葉通り、様子見してみるものだな。おかげで各クラスの出方がなんとなくだが分かってきた)
清麿の見立てでは、BクラスとCクラスは裏で繋がっている。
そして、AクラスとDクラス同様に同盟を組んでいるかもしれない。
(その目的は間違いなく、Aクラスの打倒。そして今回の干支試験、BCクラスは互いの情報をある程度は共有しているはず。その証拠に有栖と龍園は、優待者が櫛田だと確信していた)
有栖と龍園のどちらか、はたまた両方かは分からないが、優待者の法則を見破り、各クラスの優待者を把握している可能性は高い。
(だからこそ、打てる手はすぐに打っておくべきだ)
様子見をし過ぎて、後手に回っては目も当てられないからだ。
すると、部屋の扉が開かれる。
そこに立っていたのは、堀北鈴音であった。
「……まさか一日に二度も呼び出されるとは思わなかったわ」
「悪かったよ。ただ、そう悠長な事も言ってられなくなってな……」
「……それで重要な話って一体何かしら?」
「率直に言う」
清麿は、前置きを捨てた。
「このままだと、BCクラスが優待者を当てに来る」
鈴音は即座に理解する。
「……それは、Aクラスにとって最悪ね」
「ああ」
清麿は頷く。
「だから提案がある」
一拍置いて、続ける。
「Dクラスに、“Aクラスの優待者”を当ててもらいたい」
鈴音は、一瞬だけ目を見開いた。
「……本気で言ってるの?」
「本気だ」
清麿の声は淡々としていた。
淡々としているからこそ、重い。
「BCに当てられるより、Dに当てられる方がマシだ」
「つまり……あなた達は、意図的にクラスポイントを失う」
「失う。だが、選べる損失なら小さい方を取る」
鈴音は、じっと清麿を見る。
「同盟としては危うい橋よ。Dに“勝ち”を渡すことになる」
「勝ちじゃない」
清麿は言い切る。
「これは“勝つ場所”じゃない。“負け方を選ぶ場所”だ」
鈴音が目を細める。
理屈は理解した。
だが、納得は別だ。
そういう目。
「……Dが踏めば、次はBCが黙っていないわよ」
「だからこそ、先に踏ませる」
鈴音は、深く息を吐いた。
「……いいわ」
そして、はっきりと言った。
「その提案、Dクラスで引き受ける」
「交渉成立だな」
直後、二人の携帯が鳴り響く。
二人はすぐに携帯を見ると驚く。
そこにはこう書かれていた。
『猿グループの試験が終了いたしました。猿グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気を付けて行動して下さい』
「これって……」
「誰かが報告したみたいだな」
鈴音と清麿は驚く。
見ればチャット欄では阿鼻叫喚であった。
帆波や神崎達からも、どうなっているのかと連絡が来ていた。
「この分だと他クラスでも同じような事になってるだろうな」
「……原因が分かったわ。貴方は知ってるかしら?高円寺君と言うのだけど……その高円寺君が報告したみたい」
「……高円寺か」
「……面識があるの?」
「ちょっとした機会があってな……」
先日の無人島試験での追いかけっこが清麿の脳裏に思い出される。
少し胃が痛くなった清麿であった……。
「まあ、あの高円寺の事だ。しっかり優待者を見破った上で報告したんだろうよ」
「……随分と彼を買ってるのね?」
「奴は変人だが、能力は本物だからな」
「貴方がそこまで言うとはね……」
鈴音は少し呆気に取られたようであった。
「だけどよく高円寺が送ったって分かったな」
「綾小路君が教えてくれたのよ。部屋でくつろいでるときに、高円寺君が送ったらしいわ」
「……あまり綾小路をせめてやるなよ?」
「無理ね。同部屋なら暴走を止めるべきよ。同室者なら尚更ね」
「……そうか」
(今度スペシャル定食でも奢ってやるか)
綾小路が鈴音に攻められる場面を想像して、不憫に思う清麿であった。
◆◆◆
「はぁ……」
櫛田桔梗はため息をつく。
(失敗したかなぁ……)
彼女は少し後悔していた。
櫛田はBクラスの坂柳有栖と、Cクラスの龍園翔と、ある取り引きをしていた。
それはディスカッションの場を出来るだけ乱すこと。
二人から前金として少なくない額のプライベートポイントはもらっているが……彼女からしたら全く足りなかった。
(だって、私が優待者なんだから……)
失敗すれば終わる立場で、安い駒扱いは癪だった。
なぜそんな事態に陥ったのか。
時間は第一回ディスカッション前にまで遡る。
第一回ディスカッション開始まで、まだ三十分ほどあった。
櫛田桔梗は、一人で船内の通路を歩いていた。
(……落ち着こ)
笑顔を作る必要はない。
誰も見ていない。
それでも、胸の奥がざわつく。
(優待者……私が)
そんな時だった。
『櫛田さん』
背後から、柔らかな声。
振り返ると、杖をついた坂柳有栖が立っていた。
『……坂柳さん?』
『少し、立ち話を』
断れる雰囲気ではなかった。
二人は、人目につかないラウンジの隅へ移動する。
『緊張していますか?』
唐突な問い。
『え?あ、まあ……』
櫛田は笑う。
有栖は、じっと櫛田を見る。
『この試験、“優待者”は不利な立場ですね』
心臓が、嫌な音を立てる。
『……そう、だね?』
『ええ。疑われるし、動けない』
一つ一つ、丁寧に言葉を並べる。
『……もし、ですよ?』
有栖は微笑んだ。
『その立場にいる人がいたら――私は“早めに保護したい”と思うのです』
櫛田の喉が、鳴る。
『どういう……意味?』
『まだ確証はありません』
有栖はあっさり言う。
『ただ、“動けない人”が一人いる気がしただけ』
櫛田は、必死に表情を保った。
『私、ただのクラスのムードメーカーだよ?』
『ええ』
有栖は頷く。
『だからこそ、価値がある』
その一言で、櫛田は理解した。
(……この子、疑ってる)
『今日は、それだけです』
有栖は踵を返す。
『困ったことがあれば……相談に乗りますよ』
二人は連絡先を交換する。
櫛田に断るという選択肢はなかった。
数分後……今度は、甲板だった。
『よう』
低い声。
振り向くと、龍園翔が手すりに寄りかかっていた。
『……龍園君?』
『緊張してるな』
『そんなこと……』
『ある』
即答。
『“動けない奴”の顔をしてるぜ』
櫛田は、何も言えなかった。
『優待者ってのはよ』
龍園は嗤う。
『一番、孤独な役だ。嘘つけねぇし、誰も信用できねぇ』
櫛田は、拳を握る。
『……何が言いたいの?』
『簡単だ』
龍園は一歩、近づく。
『お前がその立場なら――
『え……?』
『安心しろ』
龍園は肩をすくめる。
『今すぐ裏切れとは言わねぇ。ただ……』
視線が鋭くなる。
『高嶺の野郎は、必ず嗅ぎつける』
その名を聞いた瞬間、背筋が凍る。
『その時――味方がいねぇと、終わるぞ』
沈黙。
龍園は、にやりと笑った。
『考えとけ。試験が始まる前が、一番自由だからな』
一人残された櫛田は、深く息を吐いた。
(……最悪)
第一回ディスカッションが始まる頃、櫛田桔梗は、すでに二つの勢力に目をつけられていたのだ。
ガランガラン……
自販機の前で、缶が落ちる音がする。
「……あ」
櫛田が屈んだ、その横に……何気ない調子で声が落ちてきた。
「優待者ってさ」
心臓が、跳ねる。
「一人で抱えるには、ちょっと重すぎる役だよな」
顔を上げると、Bクラスの橋本正義が立っていた。
いつもの軽い笑み。
けれど、目は笑っていない。
「……なに、それ」
「いやぁ、別に?」
橋本は肩をすくめる。
「たださ。今日の会議、見てて思ったんだよ。これ、誰か一人が踏んだら終わる盤面じゃねぇかなって」
櫛田は、何も言えない。
「高嶺は踏まない。坂柳のお嬢様は踏ませる。龍園は踏むけど……タイミングを見てる」
橋本は指を折る。
「で、一番キツいのが……君だ、櫛田ちゃん」
櫛田の喉が、鳴った。
「……何が言いたいの?」
「簡単」
橋本は、スマホをポケットから出さないまま言った。
「俺と組まない?」
「……条件は?」
櫛田は、逃げなかった。
橋本は、その反応を少しだけ面白そうに見る。
「俺が告発を起こす。そしてそれでもらえるプライベートポイントの半分……君に渡す」
「……それだけ?」
「それだけ」
橋本は笑う。
「俺は勝ちたいんじゃない。混乱した場面で、どのクラスが一番強いかを見たいだけだ」
櫛田は、理解する。
この男は、勝敗より“観測”を選ぶ。
だからこそ、危険。
「……私が断ったら?」
「その場合?」
橋本は即答した。
「俺は君を“観測対象”から外す。誰が踏むか、静かに待つ」
それは脅しじゃない。
“価値が無いなら捨てる”という宣言だった。
櫛田は目を伏せた。
(逃げ場、ないじゃん)
――だったら。
「分かった」
顔を上げ、笑う。完璧な仮面で。
「組む」
橋本は満足そうに頷いた。
「オッケー。じゃあ一緒に……壊そうぜ」
櫛田もまた、心の中で笑った。
(利用されるだけってのも癪だし……存分に引っ掻き回してやろっかな)
こうして櫛田桔梗は、橋本正義と秘密裏に契約を交わした。
数時間後、橋本正義は一人、部屋でスマホを弄んでいた。
「……なるほどなぁ」
独り言のように呟く。
第二回ディスカッションの映像を、頭の中で反芻する。
清麿の“踏まない”宣言。
鈴音の防御的な姿勢。
(Aは、勝ちにいってねぇな)
橋本は気づく。
(いや、違うな。“BCに勝たせない”方向に舵切ってやがる)
そこまで分かれば、後は簡単だった。
(Dに踏ませるつもりだ。BCよりマシだから、って判断だな)
口元が、自然と歪む。
「……ほんと、性格悪ぃなぁ高嶺」
だが――
それ以上に、橋本は“今の状況”が気に入っていた。
誰が踏むか分からない。
誰が裏切るかも分からない。
全員が、疑心暗鬼のまま動けずにいる。
(この混沌……本当最高だわ)
その表情は実に楽しそうだった。
さて、どうなるでしょう?
では、またく(`・ω・´)