年度代表ウマ娘とは、年間でもっとも活躍したウマ娘に送られる賞である。その栄誉ある賞は、タマモクロスでほぼ決まっていた。というよりは、タマモクロス以外が選出されれば暴動が起きるだろう。
それくらい、今年のタマモクロスの活躍は突出していた。
表彰式自体は年が明けてからだが、高松とタマモクロスにはURAから事前に通達されていた。賞金などはなく、渡されるのは表彰状とトロフィーだけで、いわゆる名誉のみだが、貰えるものは貰っておく。
そして目録に通例である新勝負服がないことに気づいた高松は、ああ、そういうことかと察した。
そのことが実際に告げられたのは、年末の理事長室だった。
「まずはおめでとうと言わせてもらう。タマモクロス、高松トレーナー」
祝着と書かれた扇子をバッと広げ、トレセン学園の理事長である秋川やよいは豪快に笑った。
「ありがとうございます」
「どうもです」
祝いの言葉は散々言われたので少々食傷気味だが、トレセン学園のトップの前でそんな態度を見せるわけにはいかない。
とはいえ、タマモクロスは疲労もあって辟易していたようだったが。
「ふむ。前置きは
それを敏感に感じ取ったのか、やよいはすぐさま本題に切り込んだ。
「
「ああ、それなんだがな」
高松は困ったようにこめかみを掻くと、やよいに視線を向けた。それを受けたやよいは、隣にいた秘書に目を向ける。
「はい。タマモクロスさん、おめでとうございます。あなたのドリーム・シリーズ昇格が正式に決定しました」
パチパチパチと控えめな拍手を送りながらたづなは告げる。それを受けたタマモクロスはなんとも微妙な表情を浮かべた。
「あ~、それはまあ、嬉しいんですけども。うーん、あと1年トゥインクル・シリーズで走るっちゅうわけにはいきませんか?」
タマモクロスはオグリキャップとの決着がついたとは思っていない。走ったのは2000m、2400m、2500mだけ。他の距離ならば分からない。3200mで負ける気はしないが、マイルならば分からない。
オグリキャップの本領はマイルでこそ発揮される。だからこそタマモクロスは、マイルでオグリキャップと勝負したいという気持ちもあった。
「いきません」
しかしそれはあっさりとたづなに却下された。
「あなたにはふたつの選択肢があります。ドリーム・シリーズに昇格してレースを続けるか。引退するかです。無論、引退後の進路については最大限配慮致します」
「引退て……なんでそんな……」
困惑するタマモクロスの肩に、スッと手が置かれた。
「俺が説明しよう。タマモ、キミは強くなりすぎてしまったんだ。トゥインクル・シリーズはキミの草刈り場ではない。若い世代の芽を潰しかねないんだ」
事実、前走の有馬記念でもタマモクロスの威に当てられたウマ娘は、少なからずいた。スターウマ娘が集う有馬記念でさえそうなのだ。
本人に自覚はないだろうが、URAの判断は妥当であろう。
ドリーム・シリーズに昇格するための条件は、未だに秘匿されている。だが当然ながら、URAには確たる指標があるのだろう。タマモクロスはそれに引っかかった。認められた。そういうことである。
「せやけど、オグリはこれからもっと強うなるで」
「だろうな。怪我や、大きく体調を崩すことがなければ、オグリキャップも来年昇格してくるだろう」
タマモクロスという目標がなくなることがどう影響するのかは分からないが、彼女には多くのライバルがいる。闘う意欲が無くなるといったことにはならないだろう。
「怪物退治は中断だ。来年は皇帝の玉座を狙いに行く。無論、キミの同意が必要だが」
選ぶのはキミだ、と高松は続けた。
数多くのレースを優勝し、タマモクロスの
テーブルの上にあるブラックなんちゃらというチョコ菓子もそうだ。
つまり、ここで競走生活を終えて、のんびり過ごすというのもひとつの選択肢ではある。
レースには大きな危険が伴う。骨折程度ならまだしも、
その危険性はタマモクロスも、いやタマモクロスだからこそ理解している。
だからこそ、ここで引いてもいい。高松はそう思っていた。
だがタマモクロスの中に灯る火は消えていなかった。ドリーム・シリーズを駆け、宿敵の到来を待つ。
彼女は高松に向けて、スッと手を差し出した。
「これからも、よろしく頼んますわ。トレーナー!」
オグリキャップとの出会いが宿命なら、彼との出会いは運命だと感じた。
栄光と凋落を共にし、死生契闊の道を歩んできた。
温かく、ゴツゴツした手を握りしめながら、彼女は笑った。
というわけで完結です。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。