過去最高文字ですね。
正直、ここターニングポイントなのでマジで不安です。もしも解釈違いやおかしな点があれば容赦なく指摘して下さると嬉しいです。
あと、総合評価1000を突破しました!
皆さん本当にありがとうございます!
これからもよろしくお願いしますー!
龍園がCクラスの王を宣言した次の日。
教室へ入るや否や視線が一気に俺へと集中した。原因は考えるまでもなく、昨日の俺の行動だな。流石に悪目立ちし過ぎたか、と思わないでもない。
気にする素振りを見せず、俺はまっすぐと自分の席へと向かいながら気づかれないよう教室を見渡す。
やっぱりそうか。かなりの人数が顔に湿布やガーゼを当てている。その表情は恐怖、あるいは怒りに染まっていて、昨日あれから何があったかは想像に難くねぇ。
教室内には監視カメラはあるが、それでもやりようがある。龍園がこれまでやっていたことを考えると、そういう場所を知っていてもおかしくはねぇしな。
実際、現段階で大きな問題にはなっていないようだし。揉め事が起きると、組織全体の空気が大きく変わるからな。
龍園に最も反発していた奴……忘れた。とりあえず、そいつはかなり噛み付いたのか、他の奴らよりも怪我が多い。
どうやら、俺の想定以上に早く龍園は支配を進めてるみてぇだ。遅かれ早かれ龍園の支配は完了すると思っていたが、この分だと今日明日で支配は終わると言ってもいい。
そして、事の発端である龍園は既に席に着いていた。悪どい笑みを浮かべ、俺の方をギラギラとした眼で見ている。どうやら、メインディッシュは俺のようだ。
伊吹もこっぴどくやられたみてぇだ。痛々しく頬にガーゼが貼られてある。ただ、その目は死んでいねぇ。怒りに満ち満ちている。
いいね、気の強い女は嫌いじゃねぇ。
席に着くや否や、龍園が立ち上がり俺の席の前に立つ。
既に指示していたのか、俺の背後には石崎とアルベルトがいた。
「クク。これはこれは。俺にビビって飛び降り自殺を測った伏黒くんじゃねえか。もう学校に来ることはないかと思ったぜ」
「オマエみたいな三下にわざわざ俺の時間割くのも勿体なくてな。思わず飛び出しちまった。あと、俺皆勤賞狙ってんだ」
「なんだと! おまえ龍園さんに──」
「付き従うってんなら感情的に口走らねぇ方がいいぜボンクラ。オマエを従えてる奴のお里が知れるからな」
石崎を煽るように言う。
揶揄い甲斐がある奴だ。
「てめ……!」
「黙ってろ石崎。クク、俺が三下ね。随分と自信があるみたいだな伏黒」
心底愉快だと言わんばかりに龍園は笑う。
「自信、ね」
自信か。確かにある。
少なくとも、俺は龍園に負ける程度の柔な人間じゃねぇ。身体能力もあるが、たとえ条件が互角としても、積み重ねてきた経験と鍛錬の量が大きく違うからだ。
ただ、自信なんてものは無意味だ。自信はあれど、俺はそれを過信したことはいつだってねぇ。
だからこそ俺は、確実に勝てる環境を作り上げ、ありとあらゆる手段を用いて術師どもを葬ってきた。
ま、そんなことを語ったところでコイツが俺に対しての興味を失うわけがねぇ。
心底面倒なことに。
「見た感じ、クラスの支配はもうほぼ完了したみてぇだな」
「ああ。まぁ、全員が心から従ってるってわけじゃない。ただ、昨日の一件で俺が『本気』だと理解した奴は多い。時間の問題だ」
「だろうな。このまま行けばCクラスのリーダーは間違いなくオマエだ。けど、悪いな。俺はタダで動くつもりはねぇんだわ」
俺の行動原理は結局いつもと変わらねぇ。
タダ働きはゴメン。
初対面の時、龍園は俺を拝金主義者だと罵ったが当たり前だろ。何だってメリット無しで動かなくちゃならねぇのか。
「タダ働き? 少なくとも俺に従えばそれなりの生活は保証出来る。それに、俺は必ずAクラスへと全員を到達させてやる。メリットは十分だと思うが?」
「本気で言ってんのか? それなりの生活もオマエに従わなくたってこのクラスにいる限り、その恩恵を俺は受けられる。Aクラス云々に関しては、どうでもいいことだがな」
Aクラスへの到達──現段階のヴィジョンは不明瞭だが、不可能ではないだろう。たった1日でクラスのほとんどを掌握した手腕は中々だ。暴力行為を学校側に問題視されていない時点で頭もキレることは間違いねぇ。
「確かにテメェの言う通りだ。だが、俺も言わせてもらうぜ。本気で言ってんのか?
龍園の返答は予想出来たことだ。
コイツは敵にも味方にも容赦はしねぇだろうが、その割合は圧倒的に敵の方が多い。
俺が従わない限り、コイツはあらゆる手段を講じて俺を追い込もうとする筈だ。
だが、それは。
「それが通用するのはオマエの暴力が相手を上回っている時だけだ」
「ほう? つまり、テメェは何が言いたい?」
龍園は俺が言いたいことを理解している。だからこそ、こうして愉しそうに笑っている。
「オマエは俺には勝てねぇって言ってんだ。少なくとも、オマエの得意な暴力じゃな」
◆◇◆
「それでは、ホームルームを終了する。ではまた明日」
午後のホームルーム。坂上は午前同様、Cクラスの怪我人の数を特に指摘することはなく、そのまま教室を後にする。
俺も普段ならこのままさっさと帰宅する予定だが、生憎と今日は予定がある。
俺を遊びに誘った張本人である男──龍園が俺に話しかける。
「クク。今日は逃げなかったみてぇだな。いよいよ覚悟を決めたか?」
「ああ。大事なクラスメートをボコす覚悟をな」
「ハッ。大口叩けるのも今だけだ」
付いて来い、と龍園は教室の外へと向かう。俺もその後を追う。背後には石崎とアルベルトが立っており、俺の逃げ道を塞いでいる。無駄なことだが、言ったところで無駄だろう。
伊吹はこちらを見ているが、特にアクションはねぇ。敗者になった以上、龍園には嫌々ながら従うつもりなんだろうな。
廊下を歩いていると、他クラスの視線がこちらに向いていた。
昨日の今日で龍園の悪行が広まったとは考えにくい。ただ、噂というのは何処からともなく広まる。それ抜きにしても、このガラの悪いメンツだ。目を引くのも無理はねぇか。
とりあえず、何処行くか分からんから暇だ。適当に雑談でもするとしようか。
「なぁ龍園、これから何処行くんだ?」
「処刑場が気になるか?」
「オマエもバカじゃねぇからな。これから物騒な真似するってんなら、カメラには気をつけんだろ」
「まぁな。ま、最悪そんなこと関係なく俺はやろうと思えばやれるがな」
龍園はそう語る。
実際、コイツはやる奴だ。カメラなんぞにビビって行動に移さねぇ玉じゃねぇだろ。そういう状況になった場合の対策も練って動くタイプの人間だろうしな。
事前準備をしっかりするという点では俺と似たタイプの奴だ。
それから歩くこと10数分。辿り着いたのは、特別棟の真下。辺りを見渡してみたが、監視カメラが設置されている気配はねぇな。
事を起こすには十分だってこった。
「ここでいいだろ。気づいたか? ここには監視カメラもねえし人通りもねえ。荒事に適した場所のひとつだな」
「オマエがこの1ヶ月、ちまちまと練り歩いた結果だな」
「ああ。まだまだ探し尽くせていねえが、校内の設備で俺が知らねえことはほとんどないさ」
恐るべき行動力だ。
努力なんて似合わない男だが、目的のための労力は厭わないらしい。
「さて。これからテメェとの楽しい時間だ。相手が男ってなら心はそこまで踊らねえが、オマエの顔が苦痛に歪む姿を見れるなら話は別だ。その飄々とした態度がいつまで続くか楽しみだぜ」
「ひとつ聞いとくけどよ。龍園。オマエに俺を見逃すという考えはねぇのか?」
俺は龍園に問いかける。
とはいっても、分かりきっている答えだ。
「ねえな。テメェがそのまま大人しく俺の軍門に下るなら構わねえ。だが、テメェはそんな選択はしねえ。じゃなきゃ、朝の時あんな発言したりしねえだろ」
「そうだな」
その通りだ。俺は今回、龍園の遊びに付き合ってやるつもりだ。
俺がやることはひとつ。
龍園と契約を結ぶこと。そのために、龍園と決闘を行うことは必要なことだった。
「ま、手間は増えるがそれならそれでいい。下手な策謀のしあいよりもそっちの方が単純明快だしな」
それは賛成だ。
「最後にもう一度聞く」
これが最終警告だ、と龍園は言外に語る。
「大人しく俺の軍門に下れ──伏黒甚爾」
「タダ働きはゴメンだって言ってんだろ」
龍園の笑みが更に深まり、俺も同様に笑う。
これからは策略なんてねぇ。
ただ、強い奴が勝つ──たったそれだけのシンプルな答えだ。
「やれ──石崎」
龍園の指示。
しかし、実際に動いたのは石崎ではなくアルベルト。そして、アルベルトは龍園の指示よりも早く動いていた。視界に入っている石崎へ命令を下すと見せかけたフェイントとアイコンタクトによるブラフ。
言葉での命令で反応すればタイミングにズレが生じ、対応が遅れることになっていただろう。
単純に腕っ節が強いだけではなく、暴力においても戦略を組み込み効率化している。
一介の高校生が辿り着ける発想じゃねぇな。
無論、俺には通じねぇ。龍園の視線には気づいていた。だが、敢えて奴の策に乗っかることにした。
振り返り、アルベルトの方を向く。
日本人とは大きく異なる巨体。高身長である俺よりも更に高い身長に、鎧のように盛り上がった筋肉。
アルベルトは殴る、蹴るなどの手段は用いず、単純明快に自分の肉体を最大限に活かした攻撃を行ってきた。
──タックル
100kgにも迫るであろう巨体であれば、殴るよりもそっちの方がダメージは大きい。
並の人間──いや、それこそ格闘技のプロであろうとコイツのタックルを真正面から受け止めれば一発でノックダウンすることは間違いねぇ。
だが、それはあくまで常人の範囲の話。
迫るアルベルトに向かって左手を伸ばし──
衝撃が腕を通り抜けるが、まぁ大したことはねぇな。
「……は?」
石崎か、龍園か。
どちらかは分からねぇが、そんな声を零した。サングラスの下にあるアルベルトの表情も驚愕に満ちたものとなっている。
俺はそんな奴らを見て笑う。
驚くのも無理はねぇわな。受け止めることが出来る奴はいるかもしれねぇ。ただ、微動だせずに腕一本で止めるなんざ不可能といってもいい。
居ても一握り。俺と同様の規格外の化け物だけだろうさ。
……いや、俺みたいなイレギュラーじゃないとしたら、
動揺するアルベルト。
その隙を見逃さず、瞬時に跳躍し、アルベルトの顔面に向かって膝蹴りを放つ。アルベルトは反応出来ず、大きく仰反る。
血が飛び散った。俺はそのまま顔面を掴み、思い切り地面へと叩きつける。
アルベルトは悲鳴すら上がることが出来ず、地面に沈んだ。
その光景を石崎は呆然と見つめ、龍園は変わらず笑っている。
「おい、嘘だろ……!? あ、アルベルトが……」
「何も暴力はオマエらの専売特許じゃねぇってことだ。片鱗は体育の授業や昨日の放課後に見せてた筈なんだがな」
水泳の授業での俺のタイム。
記録は18秒24。
後々調べた結果、どうやら世界記録を更新しちまっているようだった。手加減はしたつもりだったんだが、その辺は俺の知識不足だな。
ただ、調べれば俺の身体能力が異質であることはわかることだった。
運動が出来ることと喧嘩が出来ることとは大きく異なる。龍園はそれに気づいてたようだが、正確な数値までは把握していなかったようだ。
「面白えじゃねえか伏黒。どうなってんだ? 筋肉量も明らかにアルベルトよりは下。だが、その出力はアルベルトよりも上をいっている。どうやらテメェは、俺らの知る常識とは外側にいる類の人間らしい」
「!」
ほう。
飛躍した考えだが、外れちゃいねぇ。寧ろ正解と言ってもいいな。俺の身体能力は埒外のもの。
単純な常識で測れるものじゃねぇからな。
「りゅ、龍園さん……!」
「狼狽えんな石崎。確かにコイツは規格外だが、付け入る隙は意外とあるもんだ」
「へぇ?」
アルベルトがあっさり打ちのめされたことで動揺している石崎を龍園は落ち着かせる。
龍園は笑いながら、俺へと近づいてくる。悪い判断じゃない。俺なら一瞬で距離を詰めれる。なら、わざわざ距離を取っても意味のないことだ。
そして、俺と龍園の距離が1m程度に縮んだ刹那──俺の視界から龍園が消える。
正確には違う。龍園が消えたのではなく、俺の視界を奪われた。龍園は上着を投げ、視界を塞いだ。
が、こんなものはただの子供騙しだ。強化された五感がなくとも容易く対応出来る。
「ッらぁ!」
掛け声と共に目前の気配が大きく動く。
回し蹴り。
俺はそれを見ることなく片手で受け止め、同時に上着を振り払う。しかしその刹那、俺の視界に砂塵が舞う。
砂かけ。
単純な小技だが、目潰しという点では非常に優れた技だ。
まぁ、俺には効かないけど。
砂塵が俺の目に到達するよりも早く、掴んでいた足を振り上げる。頭上の龍園と目が合う。龍園は驚愕に満ちた表情を見せる──ブレる。龍園を地面に叩きつけたからだ。
かはっ、と息を漏らす音が俺の耳朶を打つ。
「龍園さんっ!」
背後から石崎の叫びが聞こえた。俺はそのまま龍園を持ち上げ、腕だけの力で石崎へとぶん投げる。
石崎は慌てて飛んできた龍園を受け止めたが、衝撃をカバーすることは出来ず、地面を引っ掻くようにして倒れる。
受け止められた龍園は、よろよろと立ち上がる。そういや、叩きつけた時に受け身を取ってたな。想定よりダメージが少ねぇのはそのせいか。
「ッ、ハァ……! ふざけたゴリラだ……どんな筋力してやがる」
「これでも手加減してる」
「ハッ……化け物が」
息を切らせながらも、龍園は笑みを崩さねぇ。
余裕を崩すことはねぇ。
「だが、そのイカれた……身体能力もやっぱり完全ってわけじゃねえな。
っ、は……テメェも人間だ。如何に肉体を鍛えようと…鍛えられねぇ部分ってのはある。目、喉、鳩尾、股間……流石のテメェも、そこを狙われりゃキツイだろ……?」
「……」
間違ってはいねぇ。
俺の身体能力は怪物じみちゃいるが、構造は人のそれと変わらねで。致命傷を負えば死ぬし、龍園の言うように急所と呼ばれる部分は確かに存在する。
常人よりも遥かに丈夫だが、多少のパフォーマンスの低下は否めない。
あの砂塵はそのテストだった。
わかってて乗ってやったわけだが。
「……ま、それがどうしたんだって話だ」
龍園との距離をゆっくりと詰める。先ほどのダメージがよほど芯に響いているのか、立っているのがやっとといった様子。それでも龍園の戦意は消えちゃいねぇ。
龍園は俺に向かって拳を放つが、容易く受け止められる。ガラ空きとなった顔面へ右フックを炸裂させ──それと同時に俺は龍園の胸ぐらを掴み、逃がさないよう固定する。
何度か手首のスナップで龍園の頬を打ち抜く。本来なら大したことない一撃だろうが、俺のそれは手加減していたとしてもそれなりのダメージは入る。
「ぐ、てめぇ……!」
石崎が怒りに震え、立ち上がろうとする。もちろん俺はそれを阻止する。龍園を手離し、その刹那に石崎の鳩尾へとつま先を蹴り込み、サッカーボールを蹴るかのような気軽さで蹴り飛ばす。
特別棟の壁にぶつかり、ずるずると腰から崩れ落ちる。それ以降起き上がる素振りは見えない。気を失ったか。
「っ、伏黒ォ!」
龍園が吼える。振り抜かれる右アッパーを俺は上体を逸らして避ける。
その直後、龍園の体が大きく逸れる。
サマーソルトキック。上体を逸らした際の勢いをそのまま利用して、龍園の顔面を蹴り抜いた。
龍園は背中から地面に倒れ伏せる。
「っ、ま……だ……!」
だが、まだ終わりじゃねぇみてぇだな。
閑静な特別棟に響く布擦れの音。
目前には息も絶え絶えといった様子の龍園翔が立っている。
その姿に俺は素直に驚いた。龍園はとっくに限界を迎えている。今の奴は気合いだけで立ち上がっている。
俺という圧倒的上の
肉体はボロボロ。
されど心は生きている。
目は死んでおらず、不敵に笑っている。
「……どう、した? 俺が立ったのが……そんなに予想外か?」
「ああ。オマエの上限を測り違えてたらしい」
「ハ……ざまあ…ねえな」
コイツの精神力は異常だ。
これまで戦ってきた術師の中でもコイツと同等にタフな奴は中々に見なかった。
呆れを通り越して感心しちまう。
「オマエの負けだ、龍園。オマエの信じる暴力は、俺には届かねぇよ」
「は……そうかもな。だが、そいつは……
「あ?」
俺は訝しげに龍園を見つめる。
「……俺は、諦めねえ。コイツは俺の持論だがな……過程で何度も負けようと、最後に勝ったやつが……立っていたやつが勝者なんだよ。
今回は負けた。完敗だ。なら、この敗北を糧に俺は『次』へ繋ぐだけだ。
『次』で負けたら『その次』だ……何度負け続けてもいい。最後にテメェが屈せば、その時点で俺の勝ちなんだからな……!」
なるほど。
龍園翔──コイツは己の才能に驕り、つけ上がるタイプだと思っていたが……どうやら違ったみてぇだな。
その逆だ。
多くの敗北を経験し、ソイツを糧にしてコイツは成長を続け、強者も弱者も問答無用で喰らい、成長を遂げた。
強靭な精神力──不屈の暴君
それこそが、龍園の自信の源。
「俺は勝つことを絶対に諦めねえ! 伏黒甚爾。テメェは俺がこれまで会ったどの人間よりも最強だ。規格外だ。だが、テメェがどんなに規格外で最強で怪物だったとしてもな……テメェは人間だ。
人間である以上、必ず隙が出来る。
クソをしている時、飯を食っている時、寝ている時──ありとあらゆるテメェの隙を俺は突く」
龍園は笑う。
「その過程でどんなに痛い目見ようとも、無様に地を這い蹲ろうとも構わねえ。
最後に勝つのは──この俺だ。
それは決定事項なんだよ」
大した精神力だ。
その考えは俺にはないもの。俺は別に勝とうが負けようがどうでもいい。こちらが不利と分かれば尻尾巻いて逃げることにだって躊躇はねぇ。二度と戦いたくねぇと感じたら、そいつとの関わりは完全に消す。
あらゆる手段を用いて勝利を目指すという思考は似ているが、俺には勝利への執念はねぇ。
俺と龍園を区別するなら、きっとそこだ。
龍園は、最終的に自分が勝つことを信じて止まない。それを手に入れるための執着は、呪いといっても差し支えねぇ。
だったら、俺は
現実という奴を、コイツに教えてやる。
「龍園、オマエは何か勘違いしてるみてえだな。オマエに『次』がある保証が何処にある?」
「あ……?」
「オマエのその
龍園の語っていたのは理想だ。次があるという前提で話を進めている。
「絶対に諦めない。勝つまで挑み続ける──立派なこった。
けどな、それはオマエの相手がオマエの人生の先を潰す覚悟のねぇカス共が相手だったからだ」
次があるなんてのは、ただの甘えだ。
まぁ、二度こうして生き返った俺が言うのもなんだけどな。
「何を言って──ッ!?」
考える暇は与えねぇ。
首根っこを掴み、そのまま俺は持ち上げる。
宙吊り。
龍園の気管は俺の手が完全に掴んでいる。コイツの脳に酸素は回らねぇ。このまま時間を過ぎれば龍園は死ぬ。
「ッ、ァ……ッ! ……!? ……!」
龍園は俺の目を見て、驚愕したように瞠目する。
俺が本気であることを悟ったのだろう。
「ひとつ教えといてやる。暴力が通じるのは、それが通じる
俺とオマエじゃ勝負にすらならん。基礎能力も経験も俺の方が段違いに上だからな」
暴力は単純でいい手段だ。ただ、通じねぇ相手というのは存在する。
龍園が暴力で俺に勝つことは逆立ちしてもありえねぇ。振り切れた暴力を振るわれたところで、俺にはノーダメージだからな。
これまで、龍園にはそういう相手がいなかっただけのこと。
龍園の顔色が赤から青く変色していく。
流石にまずいか、と思い、俺はそのまま龍園を放り投げる。先ほどとは違い、受け身すら取れずに龍園は地面に這い蹲る。
「っ、は……がは……! っあ……!」
「俺は別にオマエが何を企もうと構わねぇんだよ龍園。俺にとっちゃ『今』は暇潰し。ボーナスステージみたいなもんだからな。それなりに自由を満喫したいと思ってる」
「……けほっ、ぁ……はぁ……はぁ……」
呼吸が落ち着いてきたのか、龍園の顔色が良くなっていく。
「ひとつ教えといてやるよ龍園。何でも暴力で解決しようと思うなよ。俺は既に答えは言ってんだ」
「な、に……?」
嗄れた声で龍園が疑問を投げかける。
「オマエは頭が良い。暴力が通じねぇ相手を従えるにはどうしたらいいか、よく考えるんだな」
もうこの場に用はねぇ。
満身創痍の3人を放置し、俺は背を向ける。
教師共を呼ぶような真似はしねぇ。
◆◇◆
伏黒が去った後、俺は痛む体に鞭を打ち、石崎たちを叩き起こして一旦その場を離れることにした。
体の至る所が痛えし、重い。
伏黒の野郎、想像以上に俺たちの体をぶっ壊して来やがった。これほど痛めつけられたのは初めての経験だ。
とりあえず、何とか寮に辿り着いた俺たちは、アルベルトの部屋に集まった。壁一面に国旗が飾られた部屋。アルベルトの趣味が浮き彫りになっている。部屋にはそいつの個性が出ると聞くが、本当らしいな。
「龍園さん……これから、どうするんすか?」
部屋に着くや否や、石崎が俺にそんなことを問いかけてきた。
──これからどうするのか
えらく抽象的な言葉だが、その意味は理解出来ている。石崎とアルベルトの目には恐怖が刻まれている。
そして、それはこの俺にも例外はなかった。
──伏黒甚爾
今回、俺たちが大敗を喫した男。
飄々と掴めねえ人柄で、卓越した身体能力とキレる頭を持っていた。
俺は何としてもコイツを手駒に加えたかった。
間違いなく伏黒は俺たちの切り札になる。Cクラスのほとんどはボンクラだが、あの野郎は他とは違う存在だ。
俺と同タイミングでSシステムの真相に気づき、俺の行動の目的にも奴は勘づいていた。
そして今日、アイツは暴力が一級品であることも見せつけられた。
俺の右腕に相応しい男だ。
いつものように勝つつもりだった。
アルベルトを上回るパワーを持っていたことは素直に驚いたが、それでもいつものように諦めなければいつか必ず勝てる。屈服させられる──そう信じて疑わなかった。
その結果はこれだ。
俺はこれまで多くの敗北を経験し、そして同時にそれらをすべて覆して最終的に勝利を収めてきた。
それはひとえに俺は恐怖を感じることがなかったから。
俺という『人格』が確立したあの瞬間から、そう信じてやまなかった。だから、数の暴力に虐げられようとも、抗えない暴力に膝を着こうとも、ただただどう攻略するかだけを考えて立ち上がってこれた。
だが──奴には通じなかった
奴は言った。
俺の暴力が通じるのは、それが通じる領域にいる人間だけだ、と。
その通りだった。
認めたくなかった。認めるつもりなどなかった──だが、俺は奴の比類なき暴力を目にし、それを身をもって味わい、理解させられた。
これまで俺が浸かっていたのはぬるま湯だった。
負けてもいい。
最後に勝てばいい。
逆転のチャンスが必ず約束された舞台で、俺はただただイキリ散らかしていただけだった。
だから、あの時。
伏黒に首を絞められ、死を目の前にして──俺は確かに、恐怖を感じた。
存在しないと思っていた恐怖は、確かに俺の中に存在していた。
とんだピエロだ。
俺は結局のところ、井戸の中の蛙だったってことだ。
「正直、伏黒の奴に喧嘩で勝てるとは思えません。アルベルトや龍園さんでさえ、あんなにあっさり……」
「Me too」
「……そうだな」
普段なら叱咤するところだが、今の俺にそんな資格はねえ。
何せ同じ穴の狢だ。
俺たち三人は、あの暴君に完膚なきまでに叩きのめされてしまったんだからな。
ただ。
あの敗北を得て、俺にも得るものがあった。
ひとつは俺の慢心を自覚したこと。
ふたつは暴力が通じねえ相手は存在するということ。
みっつは俺にも恐怖は存在するということ。
そして最後は──
「ああ、伏黒を暴力で従わせるのは無理だ。それは認めてやるよ」
だが、と俺は続ける。
「俺はあいつを別の手段で従わせる」
──そして最後は、俺の心は折れていないということだ。
「ど、どういうことですか龍園さん!?」
「視野が狭くなっていたってことだ。暴力っつう手段に俺は囚われすぎちまってたらしい」
恐怖は俺の中に確かにあった。
だが、だからといって俺という人間は変わらねえ。
俺はこれからも勝利を掴むだけだ。
それこそが──
伏黒の野郎に散々痛めつけられた体。
呼吸をするのすら一苦労だが、こんなものは死の恐怖に比べればマシな方だ。
クク。そういえば、アイツは最初から言っていたじゃねえか。
タダ働きで働くのはゴメンな、拝金主義者だと。
「伏黒甚爾──アイツは金で
思えば、アイツが最も与し易い奴だったかもしれねえな。
実は最後の龍園が言うように、単純に金さえ払えば普通に龍園に従ってたパパ黒。
でも、龍園が納得しそうにないので強硬手段に出たわけですね。コイツは暴力で従えられる存在じゃないよって。
ちなみに龍園がパパ黒を暴力で屈服しようと躍起になってたのは、本能的にパパ黒を暴力で屈させることが不可能であると悟っていたからです。
それを認めたくなくて、こんな手段に出ちゃいました。蛇足的な話ですので聞き流しておいて構いません。
ふぅ。
とりあえず難所その1は書けたので、一先ず満足。あとはとりあえず1巻分書くだけですな。