幻覚がゴジラがないので漫画を描けとか言ってくるので悩んでいる 作:袴紋太郎
『なんでゴジラシリーズがないのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?』
目の前の半透明な男?らしき物体が喚きだした。
引越しバイトのシフトを多めに入れたのが仇になったか、まさか幻覚と幻聴に悩まされるとは。
自室のPCを操作し、それを横から覗き込む幻覚を疎ましく感じながらも趣味のWEB漫画を描いていく。
『おい無視するなって、見えてるし聞こえてるだろ? 仕草でわかるんだよ、なぁ返事しろって』
うるさい、黙れ気が散る。
主人公に襲いかかる強大な怪物のデザインが浮かばず、ストレスが溜まっているのだ。
まず、そう…暴力的で、ひたすらにタフ。
口からは炎を吐き、情け容赦のないまるで天災…
『それもうゴジラでいいじゃん』
うるさいな、なんだよゴジラって鯨の仲間かああん?
『だからゴジラ、ゴジラザウルスっていう恐竜の生き残りが水爆実験で巨大化して人間に襲いかかるんだよ』
…
…
…幻覚の癖に設定とかあるのか、続けてどうぞ。
『その為にはまずゴジラについて語らねばならんな』
どこぞの学者の如く踏ん反りがえって、幻覚はヘラヘラと語りだした。
ゴジラとは、特撮怪獣映画として長きにわたって人気を誇っていたシリーズ作品であること。
だというのにこの世界?では、ゴジラのゴの字もない、それどころかまともな怪獣映画が存在しない。
嘆かわしい、この姿ではどうすることも出来ないのが悔しくて堪らない。
そういった前置きを聞き流すも、語られた設定は斬新な内容だった。
昭和、平成と世代ごとに「ゴジラ」という怪獣の設定は移り変わった。
水爆実験の被害者。
最強の生物。
地球という惑星が生み出した兵器。
息を呑む、とはこの事なのだろうか。
ハリウッド化(幻覚は別物、ジラは絶許だそうだ)したとまであれば、世界的にも評価された映像コンテンツ。
しかし、そんな物は見たことも聞いたこともない。
ネット検索してもそれらしき記述はない…やはり自分の妄想なのだろうか。
『ゴジラもモスラもガメラもないとか、この世界終わってるわかぁーかぁー』
しかし、話を聞くだけでも面白そうだ。
精神科にかかるまえに、この幻覚から得た情報を創作として出力するのもいいかもしれない。
『え? ゴジラのデザイン? まず二本足で肌がケロイドみたく黒くて~』
◆◆◆
おかしい、どうしてこうなった。
「では新人読み切り枠として掲載されるから、細部の調整よろしく」
菊瀬と名乗るこの人物、なんとあの週刊少年ジャンプの編集者の一人である。
見た目冴えないおっさんで、切り込みも厳しいが言うこと言うこと正論なので余計キツイ。
『ふっ、ゴジラシリーズを書ききるにはまだ実力不足だがな』
ええいうるさい、1年経ってもまだ消えないのか。
1年前、この幻覚からデザインと設定を聞き出しWEB漫画として投稿すると評価が格段に上昇。
以前のは絵は上手いけどシナリオや設定が陳腐だという書き込みに、何度心折れたことか。
しかし、個人的にも漫画を書くのが楽しかったので試しに新人枠の募集に応募してみたら大当たり。
そこからトントン拍子でここに至る、なんだこれは何処から妄想だ。
「で、だ…これ主人公が毒?爆弾で怪獣を道連れにしてるけど次の構想はあるのか」
菊瀬編集の質問に対し、今後は人間、ゴジラ、それ以外の怪獣という構成で作っていくことを話した。
ガイガン、ラドン、キングギドラ、ほかにも数多くある魅力的な怪獣達。
それを活かせる技量があるのか、ただのフリーターでしかない自分にそれが出来るのか。
『でも漫画だから仕方ないとはいえ、人間の主人公がいなきゃいけないのがなぁーあと機龍の設定どうするかなー』
少し黙ってろ幻覚。
「怪獣を倒す組織のいち戦闘員が、現場と読者によるメタ視点交互に怪獣との戦いを描写すると」
あとはそれっぽいロボットだったり兵器だったりと、こんな感じでして。
「もうほとんどデザイン出来てるのかよ…とりあえず、内容次第で連載するかどうか決まるから」
出来れば作家さんのアシの仕事紹介とか無理ですかね。
「グイグイ来るなお前…考えとくよ、結果次第だがな」
よろしくお願いします。
集英社からの帰り道、幻覚の声が虚空に響く。
『売れるのは確定として約束忘れるなよー、売上は7が特撮化への仕込み、3が報酬だからな』
売れたらな。
まぁ、いい夢は見れた気がする。
就職、頑張らなきゃな。
『漫画家だろてめー』
一生食えるわけじゃないんだ、貰った知識とアイデアで威張れるほど厚顔にはなれないよ。
点滅する街灯の下、幻覚との対話というあまりな姿を見られぬようそそくさと帰宅した。
そして読み切り掲載後、暫くして…
「来月から連載スタートだ、アシスタントはこっちで見繕う」
どうしてこうなった。
漫画版になったゴジラシリーズもいいものだ