幻覚がゴジラがないので漫画を描けとか言ってくるので悩んでいる 作:袴紋太郎
「春アニメでシーズン2入るぞ、あと夏には映画化するからそれ用のシナリオ頼むわ」
嘘だろおい。
雪解けから春の兆しを待ちわびている所に、菊瀬編集からいきなりの爆弾発言。
どうやらアニメも好調だったらしい、印税うまいっすわ。
『特撮業界の監督さんとかも見てねぇかなぁ』
そっち方面まだまだ全然だからな、焦るなよ幻覚。
『そろそろ認めちまえって』
ええいうるさいうるさい。
しかし映画かーちとペース早すぎないっすか?
「それだけ期待している人間が多いんだよ、作品の人気ってのは単純に面白さだけじゃない」
「流行りだから、周りも知ってるから、ネットやテレビで見た、まず最初に興味を惹かなきゃ始まらないんだよ」
「ファンが増えればアンチも増える、その結果知名度が上がって次のステージに登る、この繰り返しだ」
なるほどねぇ…ん? なんすかその原稿。
「可燃物」
そりゃ紙は燃えますわ。
「…お前これ読んでみろ」
渡された原稿をペラリペラリ…う~ん、言っちゃ悪いけど。
『つまんね』
ああうん、こんにゃくをそのまま切り取って皿に出されたような味気なさ。
何がしたいのか、何を伝えたいのか分からん。
「何度も描いては持ち込んでくるんだが、いい加減ウンザリだ。漫画に限らず創作物ってのは何かしら傾向やら特色がある」
「”何もない”、空っぽだ」
よくある展開、演出、それを使うことは間違いじゃない。
斬新なアイデアを出せるのは才能だ、しかし使われてきた技法を用いることが間違いか?
器が同じでも中身が変われば品は変わる、要はどう使いこなすか。
70億人もいる人間が、百年以上も重ねてきた漫画という概念。
斬新なネタなんてそうそうありはしない。
『つーかこんな読んでもつまんないモノ、書いてて楽しいんか?』
漫画の最初の読者は書き手である。
漫画家という職業故、売れる漫画を書くのが最前提。
しかし自分が楽しいと思えない作品を読んでもらいたいというのは、何処か違う気がする。
この人とは合わなそうっすわ。
「アレと意気投合できる奴がいるかよ、どんなつまんない人間だ」
◆◆◆
「中学卒業して東京の高校合格しました! 春から一人暮らしです!」
『マジかよこいつ』
嘘だろおい。
帰り道、ス○バでくっそ長いラテでも飲もうかと思案していたら、藍野ちゃんと遭遇。
あれだけ濃いと忘れられないなぁと口元を引きつらせていた所、何故かファミレスで相席。
先ほどの発言にあわせて、「ホワイトナイト」がとある漫画コンクールにて最優秀賞を取った事を知らされた。
スマホで調べれば嘘だろおい、集英社が絡んでるじゃんやべぇよこいつ。
『おい、条件大半クリアしてんぞこの女』
嘘だろおい。
OKOK、落ち着こうじゃないか。
受賞だけでも凄いのに、最優秀賞とは凄いじゃないか!
「えへへ、ありがとうございます」
照れる様子の彼女は言うまでもなく美少女だ、通報されるかもという思考を脳の隅へ。
それにしても凄い行動力だ、だからこそ問わねばならない。
藍野さん、どうして私なんだい?
デビューしてすぐの、コネも何もない私の元で何がしたいんだい?
「――――全人類を楽しませる漫画が描きたいんです」
…
……
………えーと?
『何言ってんだこいつ』
藍野さん、一つ厳しいこと言うけどそれはちょっと厳しい。
人間の感性はそれぞれだ、何が面白いかは皆違う。
全人類が共通して興味と関心を抱き、そこに面白みを感じるというのはまずありえない。
だから私自身は不可能だと言おう、私には出来ない。
「…そう、ですか」
でも目指すのは君の自由だ。
応援しよう、可能な限りの助力もしよう。
だから…うん。
私のアシスタントになってくれないかな(震え声
「…!!! はい、藍野伊月は全力で先生をサポートし技術を学ばせて頂きます!」
『ええんか』
目的はなんだろうと目指すのは自由だし、それに向かって努力するのは健全じゃないか。
それに思春期だよ? そういう年頃なんだから否定するのもアレじゃん(遠い目
約束は約束だし、一応ねぇ?
ま、程々によろしくね。
全人類が面白いと思える作品を作りたい=高校生の台詞なら、普通に子供の夢っぽくて
健全じゃなかろうかねぇ