幻覚がゴジラがないので漫画を描けとか言ってくるので悩んでいる   作:袴紋太郎

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楽しくなければ書けないって話

 

「アニメ映画第二弾だ、これが受ければ実写化の話が本格化するぞ」

 

嘘だろおい。

 

昨年の映画化からすぐに映画化とは思わなかったぞ。

 

しかし疲れてますね菊瀬さん。

 

「…そう見えるか」

 

うっす。

 

『なんかミスでもしたんかおい』

 

「…近々、お前の担当から外されると思う」

 

あれま。

 

色々と理解がある貴方が外れると面倒なんですが。

 

なんです、週刊誌に激写されました?

 

「編集の顔なんて誰も撮らねぇよ…才能ないと思ってたのが、とんでもねぇもん持ってきてな」

 

「それが編集長の目にとまって、後はまぁ完全に俺が無能だって空気で会議が進んだ」

 

えぇ…それはちょっと無理があるんじゃ。

 

「来週号で読み切りが出るから見てみろよ…じゃあな、お前との仕事は楽しかったよ」

 

力なくデスクから離れる菊瀬編集の背中は、随分と小さく見えた。

 

どう思う?

 

『まぁ才能開花って話だろ? それにしてもたった一つだけで無能扱いってのは違くね? ゴジラの編集ぞ、神の御技ぞ』

 

だよねぇ。

 

…業界厳しいわぁ。

 

◆◆◆

 

「先生! これ読んでみてくれませんか!」

 

あいよ伊月ちゃん、今更だけど名前呼びになっちゃったねぇ。

 

で、新作? ホワイトナイト地味に楽しみにしてたんだけど。

 

「はい! これが私の新作―――ANIMAです」

 

おっし、アッシーズ休憩入れるべ。

 

「藍野ちゃんの新作っすか」

 

「相変わらずの鬼作画かな」

 

「というか先生の作り込みがバイヤーなんすけど」

 

まぁまぁ、また今度焼肉奢るから。

 

んじゃま、読ませてもらいますかねぇ。

 

『…』

 

「すっげぇ…」

 

「これは…」

 

「おほう…」

 

ん~面白いねこれ。

 

作画やシナリオも特上、さらにキャラ描写が秀逸だ。

 

これ今出しても連載行けると思うよ。

 

「~~~~~~~~~~ありがとうございます!!!」

 

でも個人的にはホワイトナイトが好きかな。

 

喜びを噛み締める伊月ちゃんには悪いが、これは個人の感想なのだ。

 

面白いよ、うん、もしかしたらゴジラも超えてしまうかもね。

 

でも、ホワイトナイトの方が好きかな。

 

「…ど、どうしてですか」

 

その前にアッシーズにも聞きなよ、読者は多いんだからさ。

 

「僕はこっちが好きですね、技術の向上が見て取れるし癖がなくて読みやすい」

 

「俺も先生と同じでホワイトナイトかなぁ、こう冒険を楽しんでるって感じが好き!」

 

「ゴジラの方が好きっす」

 

最後は要らないよもう!

 

ん~伊月ちゃん、これは技術とかそういうのじゃなくてさ。

 

これ書いてて、楽しかった?

 

「…いいえ」

 

これ読んでて、面白かった?

 

「……いいえ」

 

作家のポリシーとかそういうのは特に無いんだけどさ。

 

自分が面白いって思えるものを出さなきゃ、ちょっと違う気がするね。

 

勿論、そういったものを抜きにして書くのも仕事さ。

 

だから何が悪いとかじゃなく、個人の感想でしかないよ。

 

『誰が読んでも面白いな、これ』

 

『でもきっと、誰が書いても同じだぜこいつは』

 

『再現出来るか否かを解決出来れば、きっと誰にでも描ける』

 

「…先生」

 

うん。

 

「私、弟子入り志願に来たとき、言いましたよね。全人類が楽しめる漫画を作りたいって」

 

言ってたね(ガチだったか…)

 

「未熟、でした。先生のようにはいきませんね」

 

伊月ちゃん。

 

「で、ですけど、これからもそれを目標に! ANIMAよりもっと!」

 

泣きそうな顔で、それ言っちゃダメだよ。

 

作り手が、自分の作品を否定しちゃダメだ。

 

自分が本気で書いたのを、自分で投げ捨てちゃ悔いが残るよ。

 

「でも! ANIMAよりホワイトナイトが好きだって感想が出ちゃったじゃないですか!」

 

「ANIMAじゃ、理想には届かないってことじゃないですか!」

 

ねぇ伊月ちゃん、君の理想の漫画ってどういうものだい?

 

「書き手の癖も、思想も、作家の「個性」です。個性の出る漫画にはどうしても合わない人が出てしまう!」

 

「それじゃ意味がない、もっと客観的に作らなきゃ」

 

無理なんだよ。

 

客観的ってのは、要するに他人の主観なんだ。

 

自分以外の主観が集まって、客観的と呼ぶんだよ。

 

伊月ちゃん、漫画の一番最初の読者は作者だ。

 

個性が入らない作品というのは、全人類70億全ての「主観」を統合して初めて作れるものだよ。

 

「………………ぁ」

 

うん、無理だよね。

 

だからさ、せめて楽しく書こうよ。

 

「たの、しく?」

 

うん。

 

「無理ですよ…」

 

どうして?

 

「空っぽなんです、私…中身がない、技術ばかりあって、作品に込める想いもない、漫画家失格の」

 

でも君の漫画は面白いよ。

 

「ぶっちゃけ、ゴジラ無かったら僕は藍野さんの所で仕事するね」

 

「読んでてワクワクするし、満たされる作品ってのは十分だと思うぜ」

 

「………ウルトラマンの方がおもしれーし」

 

もうJKに対抗心燃やすなって。

 

俺はさ、ゴジラ書くの好きだよ。

 

グッズとかアニメとか、売れまくりってニュース出たらにやけちゃうよ。

 

読者がワクワクして考察して二次創作とか考えたらもう最高!

 

MADとか見てるだけで時間が過ぎるね!

 

「……私も、ゴジラ好きです」

 

ありがとう。

 

中身が無いなら、これから注げばいい。

 

伝える思いも、これから作っていけばいい。

 

焦ることはない、なにせ人生だいたい百年はあるんだから。

 

よぉーしアッシーズ、とりあえず焼肉行くかー

 

これから正式に4人目のアシスタントの歓迎会だ、酒はあかんぞ!

 

「「「えええええええええーーーーーーーー!?」」」

 

おやかましいわ!

 

創作活動は楽しんでなんぼ。

 

それでええやん。

 

「―――はい!」

 

 




楽しくないものは書けない!
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