幻覚がゴジラがないので漫画を描けとか言ってくるので悩んでいる 作:袴紋太郎
そういうのでいいんだよ。
とある一室、そこには俺と伊月ちゃん、編集者達、そして…
「ご要件は、なんでしょうか」
顔色の悪い佐々木氏だった。
大丈夫? とりあえず水いっぱいどうぞ。
「はぁ、貴方は…」
ゴジラ書かせてもらってるもんです、こっちはアシスタントの一人。
まぁ長々と話すのもアレなんで、単刀直入にいかせてもらいますが。
佐々木さん、「ホワイトナイト」が盗作だというのはご存知…ですかねぇ。
「…ッ!」
強ばった表情に、血の気が失せていく様子を見てため息が吐きたくなった。
少なくとも本人は完全に黒じゃん。
「そ、その、何故貴方が、関係ないじゃないか!」
『見苦しい…』
いえ、関係があるのはこっちの…
「はじめまして、藍野伊月と申します。学生ではありますが、アシスタントとして先生の所でバイトさせてもらってます」
「アイノ、イツキ…!?」
愕然とする佐々木氏、伊月ちゃんもこれ結構キてるなぁ。
「ホワイトナイト」は藍野さんが漫画コンクールに出展し、最優秀賞を受賞した作品です。
この時点で著作権が成立し、貴方はその権利を侵害、不当な利益を得たとして提訴する予定でした。
しかし、ご両親が未成年である彼女の将来に悪影響を及ぼすのではと危惧された為、関係者を集めて話し合いの場を設けさせて頂きました。
今回、私は高知にいらっしゃる藍野さんのご両親の代理、雇用主と保護者として参加させて頂きます。
『え、なにお前ガチじゃん』
ガチだよ、色々と。
「まぁ、そういうわけでしてね佐々木先生…我々もこの一件に関しては共犯者ですからねぇ」
「藍野さん、確認を怠り貴女の作品を盗用してしまい申し訳ありませんでした…!」
菊瀬編集を除いた編集者たちは、編集長と共に伊月ちゃんへ深々と頭を下げた。
佐々木さん、本件に関しては以下の条件を被害者側は提示します。
・三百万円の賠償金
・「ホワイトナイト」の連載を即刻停止
・関係者への説明
・「ホワイトナイト」で得た全ての利益を藍野伊月に返却する
「そん、な…」
というのが、当初の条件だったのですが。
藍野さんとも話して、色々と変えることにしました。
端的に言えば、貴方にはこれからホワイトナイトの”正式”な作者になって頂きます。
「僕が、ホワイトナイトの」
賠償金1千万、藍野さんに対して支払うのであればホワイトナイトの著作権をお譲りしましょう。
人気低迷による打ち切りをさせず、1年以上の執筆にて完結させるのであれば三百万に減額。
その後ホワイトナイトによる全利益の内、約半分を藍野さんに譲渡する。
賠償金、利益返却を除き藍野伊月とその関係者に対して一切の接触を禁ずる。
この提案を呑んでいただけるのであれば、この一件を手打ちとする…如何でしょうか。
「あ、貴方は漫画による問題を金銭で解決するのか!?」
そうです、それが最も円満に解決出来る手段であれば。
若輩なれどプロとして、漫画の執筆で生活している身です。
その仕事を補助する藍野さんは、プロの仕事に携わっているということ。
彼女の作品が盗作されたというならば、私は全力で戦います。
これまでゴジラという作品を支えてくれた彼女が、アシスタントの方々が不当な損害を受けるというのなら。
黙って見ていることは出来ませんし、望まないならば自分の意見を通す事はしません。
これが私なりの筋です。
佐々木さん、ご不満であれば次は法廷の場でお会いしましょう。
『あ、これは一歩も退かねぇって目だわ』
うん、退かない。
最初は流れで始めたゴジラの執筆。
でも、俺はゴジラが好きなんだ。
それに携わった人の描いた漫画を、好き勝手されたらやるしかない。
これだけは絶対に譲れない。
膝から崩れ落ちる佐々木氏に、俺は怒りを視線に宿し続けた。
佐々木さん、これは私個人の質問です。
何故、貴方は「ホワイトナイト」を自分なりのアレンジを加えて出さなかったのですか?
「…………」
読み切りを受けてもらわなければ後がない、それならば最初の持ち込みは理解出来ます。
しかし、その後も完全に藍野さんの画風を模倣し、佐々木さんのホワイトナイトを執筆しなかった理由を教えてください。
「…感動、したんだ」
…
「ストーリーも、キャラ描写も、設定も構成も素晴らしかった、感動したんだ! だからこれを世の中に見てもらいたくて」
「それが、俺の使命なんだって、だから」
「ふざけんな!!!!」
い、伊月ちゃん?
ああ、椅子も蹴っ飛ばして…
「世の中に読んでもらいたい!? 使命!? ふざけんな、誰が頼んだ!」
「私はホワイトナイトをこれ以上出さないと決めた、望んだものじゃないと机の中にしまいこんだ…」
「でも! 誰かが御託並べて好き勝手されていいなんて思ってない!!!」
あわわわわわわ、いかんよ伊月ちゃん暴力はいかんて。
『あっちゃ~』
「精々、私の後追いで満足してろ! このプリンターめ!!!」
頭から湯気を出す勢いで、部屋から出ていく伊月ちゃん。
アッシーズ、悪いけど伊月ちゃんに飲み物あげて宥めといて。
佐々木さん、先ほどの内容で問題ないならば一度お帰りください。
詳しいことは、後々ということで。
一気に活力を失った佐々木氏を帰すと、編集者たちは下を向いて退室していった。
「…迷惑かけたな」
菊瀬編集がすれ違いざまにそう呟いて、残ったのは俺と編集長…一応、幻覚。
正直このまま帰りたいんですけど、一応確認しなきゃと思いまして。
編集長、盗作だってこと分かってたんじゃありませんか。
「…なんでそう思うの」
違うって言ってほしかったわーそう聴いてる時点でクロだわー
いえね、コンクールの最優秀賞、それも自分のところが噛んでるものを出されたら顔潰れる人いるじゃないですか。
だから暫く様子見してたんですが、一向に出てくる気配無し。
これって、たぶん編集部だけじゃないんじゃないかなーって。
違うなら鼻で笑ってくださいよ、俺にミステリーは無理だって割り切れるんで。
「…ゴジラの影響力が予想以上でさ、本誌や単行本の売り上げ凄いよね。アニメに映画もだ」
どうも。
「だけど他の漫画に対する興味が低くなってるのを危惧した”偉い人”がいるわけ」
「ゴジラに並ぶ~っていって出した肝いりの作家も似たような結果、だから仕込みをしろってうるさいんだ」
「菊瀬を外して新人つければ、経験の薄い君なら調子崩すんじゃないかって」
『うっわ、マジかよ』
ひえぇ…
「勿論、こっちだって潰れられちゃ困るさ。今までの貯金があれば大崩れはしない、足踏みしてる所で他のをプッシュして整合を取る」
「そう考えてた矢先に、彼が来たわけ」
会議中、警備員押しのけてでしたか。
もうちょいそこらへんを書く方に回してほしかったな~
「実際凄い良かったし、問題ないならそれでいこうって話になった…だけどそれが盗作だって分かった時は焦ったよ」
「そこを偉い人がご登場、関係者に手回しして読み切り枠で掲載、人気上昇万々歳」
「都合のいいスケープゴートの誕生というわけだ」
あーあーあーあーなんとも、闇が深い。
「娘がまだ学生なんだ、断れなかった…のは言い訳だけど、どうするこのネタ」
勘弁してくださいよ、これで手打ちだと決めたんです。
…ところで、伊月ちゃんのご両親にも手回ししました?
明らかに提訴するの渋い顔されたんですが。
「当たり、諭吉さんたんまり持ってったらしいよ。結局受け取らなかったみたいだけど」
漫画家なんて安定しない職業、親としては反対したかったでしょうしねぇ。
夢からさめて、別の道を…親心ですね。
本人には絶対に聞かせられないことを除けばよぉ~!
あーはいはい、世の中ブラックで逆に安心ですわ。
「どうする、今度はこっちを訴えるか?」
だから勘弁してくださいって、墓までもってきますよ。
だけど流石にこのままってのは無理なんで、今度の映画で一度切って他誌で再スタートしますわ。
「上手くいくかねぇ」
最悪は同人誌で自腹切りますんで。
まぁ、アレですよ。
もし俺がダメでも、誰かがその人のゴジラを始めたのなら。
自分の出る幕はありませんし、大勝ちってことで。
んじゃ! 来週分は新人クンに渡しましたので!
ひとり残される編集長は、ボリボリ頭をかいて。
「仕事するか…」
他誌に移動したのか
10年後には完結したのか
そもそも別の世界線なのか
それは貴方次第…(まるなげ
追加
いや、流石にここで完結はしないよ?
個人的にも後味悪いし