My Hero Battlefront ~血闘師緑谷出久~ 作:もっぴー☆
なんとか納得できたんで第十六話です。
ハロー、ザップさん、ツェッド君。元気ですか?僕は元気です。
こちらに帰ってから早いもので5ヶ月経ちました。そちらではどれだけ時間が経過しているのでしょうか?
こちらもこちらでイベントが目白押しでした。
和解した翌日、なんとかっちゃんが我が家にやってきました。
理由は母さんに謝罪するためです。ずっと二の足を踏んでたらしいけれど、僕と和解したことで踏ん切りがついたらしいです。かっちゃん自身は話がついた後のタイミングでみみっちいがやらねえよりマシだと言ってますが、謝罪自体することに貴賤はありません。
会うやかっちゃんは母さんに土下座をし、謝罪を述べました。言葉の一つ一つに誠意が込められており本物だとわかります。僕としては土下座するかっちゃんに天変地異の前触れかと怖かったですが。
母さんは二人が和解し納得しているのならもうとやかく言うつもりはない。それに息子を追い詰めていたことは私も同じで、さらに自業自得とはいえ私の言葉で勝己君をこの半年追い詰めてしまっていたのもわかっている。今の私にこれ以上あなたを責める資格はない、それでも償いたいのだったらこれからは息子を裏切らず、良好な関係を築いていってほしい。そう言ってくれました。
言いたいことはたくさんあるだろうに、僕らの間で既に和解しているならそれでいいと、僕たちの思いを呑んでくれた母さんに深く感謝しています。
それからかっちゃんは約束を守ってくれて、噛みつくような反応や弄ってきたりはしますが、敵意はもうありません。普通に話したりしている僕たちを見て、クラスのみんなは驚いていました。とはいっても調子に乗って肩を組んだりしてもアームロックで返してくる程度の仲ですが。かっちゃん、それ以上はいけない。
海浜公園の清掃も変化がありました。あれからオールマイトも頻繁に手伝いに来てくれるのですが、いつの間にかかっちゃんも参加していました。クソジジイが一緒にやろうってうるせえから鍛えるついでに仕方なしだとかなんとか。素直じゃないですが少しずつ前へ進もうと頑張ってて嬉しいです。
廃材をドンドン積み上げていく姿や、手合わせしては日に日に鋭さが増すかっちゃんを見ていると、僕も対抗心を燃やして力が入っているあたりやっぱり競争相手がいるというのはいいことです。また兄弟弟子の二人と競える日が来ることを切に願ってます。
こうしてかっちゃんとオールマイトが増えたおかげで掃除が捗っており、これなら中学の卒業前には掃除が終わりそうです。
ちなみにかっちゃんのお父さんは夢が叶ったことを喜んでいました。本当によかったですおじさん。
そして驚きの発表があります!
なんと背が伸びました!背が伸びました!!
年を越して今年で20歳になる身としては割と諦めていましたが、まさかここにきて身長が伸びるとは思いませんでした。なんと現在!165cmまで!伸びました!!4cmもです!!うひょー!!
多分ザップさん達からしたらその程度に思うでしょうけど、僕としては快挙なのです。レオさんもきっと悔しがります。
……みんなが昔苦し紛れに言った、成長する時間を向こうに置いてきたって推論、あれ本当だったのかも。お願いだからこのまま伸びてよ僕の身体。せめて170cmは欲しいです。
それ以外にも学校行事や季節のイベントを楽しみ、時には地域の人たちと奉仕活動をしたり、
『今日は俺のライブにようこそ―――!!!エヴィバディセイヘイ!!!』
「よ、よーこそー!」
シ―――――――――ン
「………………!!?」
大衆の面前で大恥を晒していました。穴があったら入りたい……。
◆◆◆◆◆
2月26日、今日は雄英高校の一般入試の実技試験日である。
数多のトップヒーロー達を排出してきた国立の学校で、偉大なヒーローを目指すのならばまずはここに入るのが絶対条件だ、とも言われる謂わば登竜門だ。そんな雄英に、目標の第一歩であるこの場所に僕は立っている。
本来なら僕がここを受けるのは厳しいと言われた。仕方がなかったとはいえ半年不登校だった僕は内申とテストで好成績を出しても結局受けれるかは半々だったのだけど、ここにきてオールマイトという人脈が本領を発揮した。
あの人に雄英を受けると言ったら「なに?雄英受けるの?でも半年失踪してたけど大丈夫なの?厳しい?よし!せっかくだし少し掛け合ってみよう!なあに遠慮するな少年!」とまるで友達と雑談する感覚で雄英の関係者に電話。推薦入試は無理だが受験自体は問題なく受けれるように掛け合ってくれたのだ。やはりコネは偉大です、外堀が埋まってるような感じがして怖くてたまりませんが。
そうしてやってきたのが小高い丘の上に建てられた全国屈指の高校。
きっとこれから一緒に試験を受ける人たちの中にはものすごい強個性の持ち主もいるだろう。だけどあの街で色んな経験をした僕は負ける気はない。こんなところで敗北なんて斗流の名折れだ。
「だから今日の試験楽しみだねかっちゃん!」
「んなことよりなんでわざわざ並んで歩いてんだよ……」
「いいじゃないか家から出る時間も一緒だったんだから。それにどうせ前に立つなって怒るんでしょ?」
「そう思うんなら俺の後ろ歩けや!」
そう言ってズンズンと試験会場に向かっていくかっちゃん。今日も調子がいいようで。
後ろからついて行く形で歩いていると時折僕やかっちゃんのことを話す人たちを見かける。ヘドロ事件以来たまにあるのだが気にしても疲れるだけなので無視をする。かっちゃんはどうしても耳に入るのか顔をしかめ、足早と去っていく。時間も迫っているし僕も釣られて早足で追いかけた―――のだけど足を滑らせた。
冬も終わりだけど、寒さがぶり返してきているせいか床が凍ってたのかな?なんてのんびり考えているけど、実はかなり危険な滑り方をしている。下手しなくてもこのままじゃ顔からめり込んでしまうので受け身を取ろうとする……が、いつまでたっても地面に倒れることはなかった。
「キミ大丈夫?すごい勢いで滑ってて驚いちゃった」
「え?あ、うん大丈夫だよ、って浮いてる!?なんで?ピピカパ胃空間!?」
「ぴ、ぴぴ、なんて?えっと、私の個性だよ。咄嗟だったからごめんね」
「ああ、なるほど。ごめんねわざわざ、後さっきの言葉は気にしないで」
そう言って僕はクルンと回転して上手く地面に足を着ける。おぉーっと少女から歓声が上がる。慣れてるんだね、似た個性持ちなのかな?と聞いてくるが、似た経験をしているとだけ言っておく。
ちなみにピピカパとは、修行時代の秘境に住んでるカバとヘビを足して割ったような巨大生物だ。捕食手段が丸呑みであり、胃の中が何故か無重力空間になっているというよくわからない生き物だ。何故知っているかは想像に任せます。
「助かったよありがとう。僕は緑谷出久。きみは?」
「私は麗日お茶子。でも本当転ばなくてよかったよ、縁起悪いもんね」
そう言って笑顔で返してくる。今日はお互い頑張ろうね!と意気込み去っていく姿はとても可愛いかった。
……いいなあ、ああいう純朴な可愛さ。
「おいこら道のど真ん中でボーッと突っ立ってんじゃねえ」
「うひゃっ!?かっちゃん先に行かなかったの!?」
「あんなワケわからんこと叫んで浮いてりゃ見に来るわ。ただでさえテメエは目ぇ離すとすぐトラブルに巻き込まれて暴れっからちゃんと見張ってろって折寺のヒーロー共から言われてんだぞこっちは」
「待ってその情報詳しく」
◆◆◆◆◆
解せぬ内容を聞きながらも案内に従い説明会場に向かい待つことしばらく、あのボイスヒーロープレゼント・マイクが壇上に現れ、説明を開始したのだが……、
「ああああああなんで誰も言わないんだよ……ぼくひとりとかはずかしすぎるよ……仕方ないじゃないか、プレゼント・マイクだよ?僕こっちに帰って来てからもラジオ聞いてるんだよ?そんな人のシャウトに反応しない方がおかしいと思うんだよこれから実技試験でみんな緊張してるだろうからプレゼント・マイクも緊張を和らげるためにああやって盛り上げていると思うし実際に緊張を高揚感に入れ替える手段として悪くないしブツブツブツブツ………」
「うるせえ」
『恥ずかしがるな受験番号5963番!お前のあつーいレスポンスはちゃんと俺に伝わったぜー!!』
「そっとしてください……!」
大恥をさらして絶賛羞恥心に大ダメージを受けていました。あまりの恥ずかしさに顔が熱くなる。周りも僕らのやり取りに笑いをこらえているのが逆に効くが説明はしっかり聞いておかないと。
どうやら制限時間内に仮想
「質問よろしいでしょうか!」
恥ずかしさも落ち着いてきたところで、ひと際大きな声が会場に響いた。見ると眼鏡をかけた利発そうな少年が手を上げ立ち上がっていた。
どうやら記載されている内容に誤りがあるらしく、
「ついでにそこの縮れ毛の君!」
そう言って今度はこちらの方に向かって指を差してきた。縮れ毛の君?一体誰だ?後ろを振り向いてもそれらしい人が見当たらない。
「いや君だ!?今後ろを向いた、緑髪の学ランを着た君だ!先ほどからブツブツと気が散るんだ!物見遊山なら即刻去りたまえ!」
「え?あぁ、僕か!そうだった、これ縮れ毛って言えるんだった……。ごめん!いつも陰毛頭って言われてたからその言い方じゃ気付かなかったよ!」
「い、いや待ちたまえ!?その蔑称には決して慣れるべきではない!俺としては個性的で味わいがあっていいと思う!もっと自分の髪に自信を持つんだ!」
叱ってきたと思ったら今度は励ましてきた。忙しいなこの人。ついでに笑いをこらえてた何人かが僕らのやり取りに吹き出した。ちょっと失礼だとは思うけど緊張が解れてるようで何よりです。
とりあえずかっちゃんも無理に我慢しないで笑っていいからね。こらえてるからかすごい顔になってるよ?
『まったく今は説明中だってのに自由奔放なリスナー共だなオイ!まー緊張してるよりマシか!それにそういう気遣いが出来るのは悪い事じゃないぜ受験番号7111番ー!
回答だがそいつは謂わばお邪魔虫!各会場に現れて所せましに大暴れするギミックよ!倒してもポイントにならねえから放置しても問題ないぜ!!』
プレゼントマイクが僕らに注意を促した後説明に入った。なるほどお邪魔キャラで倒してもポイントにならないから放置推奨か。でもこれ倒さなくていいというがいるだけで仮想
それからまばらに出ていた質問も終わり、最後にプレゼントマイクは言葉を送った。
『かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った。真の英雄は人生の不幸を乗り越えていく者と。"
その言葉と共に締めくくられ、僕らは試験会場へ向かった。
◆◆◆◆◆
バスに揺られておよそ五分。僕らは試験会場にやってきたのだけど、降りて早々、スケールの大きさに驚かされた。
それもそうだ、試験会場が街の一区画を丸々詰めこんだような巨大施設とは誰も思わないだろう。それも一つじゃなく何万という数の学生が同時に受けれるほどの数である。これほどの規模を構築、維持するのは正直
試験に向け準備運動をしているとどんどん受験者たちがやってくる。みんな自身満々で、中には個性に合わせた装備までして気合が入っている人もいる。かくいう僕も今着ているのは向こうの世界で普段着ていたスーツだ。
上は黒に赤のストライプが入ったシャツに緑と黒のベスト、黄色のネクタイをしており、下は黒のスラックスに茶の革靴。両指には師匠とお揃いのデザインの指輪をしている。もちろん血法用の針を仕込んでいたり他にも細工があるちょっとしたサポートアイテムになっている。
ちなみにこの服だけど、デザインしてくれたのはまさかの師匠だ。クラウスさんみたいな光に向かって突き進む存在になりたい僕は、まず形からでもと服のことで師匠に相談してみたら修行の終わりにわざわざ見繕ってくれたのだ。
最初は師匠を見本にしようかと思ったことを言ったが「ワシの模造を踏みとどまった己の決断にむせび泣け阿呆弟子が、仮に憧れだけでワシを模そうものならば無様を晒す度その腐った血袋から生える
あ、一応言っておくと安物です。グッ〇とかアル〇ーニとか、あんなお高いのにさらに術式コーティングしたものをいくつもボロボロにして平気でいられるのは、クラウスさんだけで十分です。
スーツ姿の少年なんて珍しいからかチラホラ見てくる人がいるが気にしない。向こうでも最初の頃は物珍しそうに見られてたので慣れている。
ストレッチしつつ受験生を眺めていると、ちょうど見知った顔を見かけた。麗日さんだ。深呼吸したり、手に人を書いて飲んだりと集中している。緊張しているのだろうな。こういう時知り合いがいると幾分か楽になるものだ。そう思って声をかけに行く。
「待ちたまえ、その女子は精神統一を図っているんじゃないか?さっきといい君は何なんだ?妨害目的で受験しているつもりじゃないだろうな?」
行くのだけどさっきの眼鏡の人に肩を掴まれ阻止された。僕としては知り合いがいるほうが気が楽だろうと善意での行動だったが、どうやら逆効果らしい。
「あー、ごめん。あの子とはさっき知り合って、緊張してそうだしちょっと落ち着かせようと思ってね?それと圧が強いから弛めて」
「む、威圧してしまっていたか、すまない。だが大切な試験の直前だ、今は余計なお節介になりかねん。真剣にヒーローを目指すべくここにいる以上、善意とわかっても君の行為は集中を切らしかねないから今はやめておくといいだろう」
納得はしたがそれでも妨害になるからやめておけと言ってくる。さすがにここまで言われるとお節介を焼くのも無粋か。人それぞれだけどとやかく言うものではない。
「しかし……なんというか、君はその姿で試験を受けるのか?言ってはなんだが試験を舐めてるようにもみえるぞ?」
「これは僕の
「ッ!?」
だが
だけど今は受験中、うっかり怒気を当ててしまい眼鏡の少年を竦ませてしまったのはマズイ、妨害になりうる行為をして失格にされても困るし落ち着こう僕。
「ごめん、僕の方も威圧しちゃった。悪く言われたとはいえこれじゃ本当に妨害行為だね」
「い、いや、僕こそ悪い事をしてしまった。自分で言っておきながら自らも妨害を行うだけじゃ飽き足らず君のコスチュームにまで心ない言葉を送って傷つけてしまうとは……ヒーローを目指すものとしてあるまじき、恥ずべき行為だ!すまなかった!」
そう言って眼鏡の少年は深く頭を下げ謝罪をしてきた。真面目だなこの子。融通が効きづらいだけで決して悪い子ではないだろう。悪い子であったら困るけど。
気にしてないからもういいと言うがなかなか頭をあげてもらえずこっちもごめん俺もすまないと謝罪合戦が始まる。そんな時だった。
『はいスタートー』
「あっ」
合図の声が一帯に響いた。そしてそれと同時に僕は会話を中断し、反射的に飛び出したのだった。
眼鏡の人は突然僕が目の前からいなくなったことに驚いている。悪いことをした、まだ話してる最中だったのにいつもの癖で飛び出てしてしまった。出遅れる可能性もあるだろうし、後で支援しよう。
なにはともあれ、試験の開始だ。絶対合格してやるぞ。
どうしよう話が進まない……!
【誤字報告】
フリムンさん。めそひげさん。
誤字報告ありがとうございました。