My Hero Battlefront ~血闘師緑谷出久~   作:もっぴー☆

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感想をいただけて大喜びなので第三話です。



第3話:何も持たない、何もない

 拝啓、母さんへ。元気ですか?僕は転移してからというもの元気かはともかく何とかやっていけています。

 今はとある組織に身を寄せることになりました。組織名はライブラ。魑魅魍魎が跋扈する人界と異界の間で世界の均衡を保つべく、日夜裏で戦い続ける所謂秘密結社というやつです。僕がそこに身を寄せてから一ヶ月ちょっとが過ぎました。

 

 最初はかなり大変でした。なにせここは元とは言えニューヨーク(紐育)。共通言語が英語であるためまともに会話が出来なかったのです。だから最初に英語を覚えるべく必死で勉強し続けました。幸い日系のサトウさんが付きっきりで教えてくれて、まだまだ拙いながらも英語が喋れるようになってます。

 

 身を寄せさせてもらってる以上恩を返すために雑用もさせてもらってます。主な内容は買い出しの荷物持ちやザップさんの配達代行、チェインさんの家の掃除にザップさんのお昼作り、ギルベルトさんの手伝いとかザップさんのストレス発散、ちょっとしたことだとK・Kさんの子供に日本語を教えたり、他にもザップさんにパシられたりなどの色々……。

 

 ……ええ、ザップさんが容赦ないです。アレやれコレやれコイツもやっとけと面倒で、でも僕でも問題ない雑用を押し付けてきて……。いや、いいんですけど。あの人には何度も助けてもらってますし。

 でも護衛料と言ってご飯を奢らされたりお金巻き上げられたり、拒否したらプロレス技がとんでくるし……かっちゃんの苛めも大概だったけどこっちも相当酷いです。陰毛頭なんて言うし……その呼び名は勘弁してください心にきます。

 

 とにかく大変だけれど皆さんに助けられてなんとか生きていけてます。

 そんな僕の今はといいますと――――――

 

 

 

 「ようやく見つけたぞ兄ちゃんよう。この前はよくもサツなんて呼んでくれたな。礼といっちゃなんだが全部の指でボコってやるから覚悟しやがれ!」

 

 「なあに安心しなさいな、抵抗しなけりゃ楽に逝けるわよ!」

 

 

 

 はい、チンピラ達に絡まれています。頼まれた配達の帰り道に路地裏から複数の手に掴まれそのまま連れ込まれました。

 いや待って!?僕なにかやった!?僕みたいなのがこんな怖い人達になにかやれるわけないっ……て待って。サツ?

 

 ……あ、やってた。この人が前カツアゲしてる場面を目撃して警察呼びに行ったんだった。

 どうしよう、みんな僕から見て強面だし、あの巨体の人に至っては指一本一本が腕になってるし……あの指全部で殴られたらあっという間にあの世行きだろうな……って現実逃避してる場合じゃない!このままじゃあ死ぬ、死んじゃう!

 しかしもがいても襟首を掴まれ浮いてる状態じゃどうすることも出来ず、チンピラ達は僕を殴りだした。

 

 「ガッ!ゴホッアガッ!や、やめ、でっ!」

 

 「あぁん?だれがやめてやるかよ!」

 

 「まだ喋る余裕あるの?ならもっと強くなっても問題ないよね!」

 

 バキッ、ゴッ、ドスッ、と鈍い音を鳴らしながらチンピラ達は殴り続ける。相当お冠なのだろう、一撃一撃がとても重い。殴られるたびに骨がきしみバラバラにされるような痛みに襲われる。

 身体中が悲鳴を上げて痛くてたまらない。あまりの痛みに涙も出てきた。それを見てチンピラたちは楽しそうに殴り続ける。

 そうして何度も殴られた時、腕だらけの男が後ろから蹴り飛ばされ、その拍子に僕の身体は解放された。

 

 「ボァッハァッ!?い、いでぇ~!」

 

 「だ、大丈夫ヌズルバ!?ちょっとアンタなにしちゃってんのよ!!」

 

 「ああ?テメエがそいつをボコってるからだろうがこんカス共が」

 

 「ザ……ザップさん……!」

 

 「ったく、こんな所でなに死にかけてやがる陰毛」

 

 顔をあげるとそこには僕を陰ながら守ってくれている頼もしい先輩がいて、

 

 「まだ今日の昼飯もおごらせてねえうちから勝手に死のうとしてんじゃねえぞゴラァッ!!」

 

 とても最低な発言を躊躇いなく吐き捨てた。感動した僕が馬鹿だった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 「助けてくれてありがとうございますザップさん……」

 

 「礼はいらねえから今日の飯代はお前もちな」

 

 そう言って僕たちは路地裏から表へ出た。今日は手持ちが少ないけど助けられた手前従う。

 ちなみに絡んできたチンピラたちはあの後ザップさんに叩きのめされ、ついでに財布の中身も持ってかれていた。最初の頃はさすがにお金まで取るのはどうかと思ったけど、この街じゃあよくあることで何度もその場面を目の当たりにしてから考えないようにしている。

 

 「しかしいっつもくだらねえことに首つっこんで痛い目にあってるなこら陰毛頭。アレか?実は痛めつけられて喜ぶ変態なのか?ドMちゃんなのか?」

 

 「そ、そんなわけないよ!?ただ、あの人たちが弱い者いじめをしてて……そしたらほっとけなくて……」

 

 つい先日、さきほどのチンピラ達が別の人からカツアゲをしているところを目撃した僕はすぐに近くにいた警察を呼んだ。力を持たない僕にはこれくらいしか助ける方法がなく、少なくともその時の最善の選択をしたと僕は思っている。ただ自分の心配をするのを忘れて今回のような目にあったりするのだけど……。

 そんなことを考えて歩いていると不機嫌な声でザップさんは喋りだす。

 

 「……外の世界、つーかテメエの世界じゃどうなのか知らねーがよ、この街じゃテメエのやってるくだらねえ善意は格好の餌でしかねえんだぞ。そんな甘いことばっかしてっとマジで死ぬぞ。それをわかってんのか?」

 

 「で、でも危ない時はザップさんが助けに来てくれるじゃ―――」

 

 「おいクソガキ」

 

 ザップさんのこちらの言葉を遮りそう告げた瞬間、背筋が凍るような錯覚に襲われた。

 

 「おめえなんか勘違いしてるようだから言っておくがよ、俺達はおめえが言うヒーローみてーな組織じゃねえ。あくまで俺たちの最優先事項は世界の均衡を維持し続けるっつー事だ。そのためなら敵味方無関係な奴にも犠牲が出まくろうとも割り切れるし、仮に俺やお前や身内の誰かが生きてるせいで世界の危機に直結するなんてことがあったら旦那はともかく、俺や番頭は迷いなく殺すし殺される。それを忘れるな」

 

 殺す、そう告げた時のザップさんは目はとても冷たかった。その言葉にはもしその時がきたら本当に実行するという覚悟を感じた。

 今なお背筋は凍ったように冷たく、真綿で首を絞められるような感覚に襲われている。

 僕にもなんとなくわかる。きっとこれは「殺気」というものだろう。

 

 殺気が消えて体の感覚が戻ってくる。それと同時に僕の肺は空気を取り込もうと必死に呼吸を始めた。どうやら息をするのも忘れていたようだ。

 

 「だいたい俺達はテメエを仲間だと認めてねえ。旦那の善意で保護されてるってことを忘れるな。テメエ自身金やコネもなけりゃ、特化した技術や戦闘力もねえ。分析能力はあるたぁ聞いたがそれも素人に毛が生えた程度。出来ることと言ったら雑用と簡単なお使いくらいだ。

 ついでに言うが人材が不足してる状況ならあの時俺はテメエを保護するのを反対していた。なんせ今、俺という特級戦力をお前なんかのお守りに回してるんだからな。今お前は俺たちだけじゃなく世界にも迷惑をかけながら生きてるんだ。せめて自分のことくらいどうにか出来るようになりやがれ」

 

 そう言ってザップさんは僕を置いて歩いて行った。すぐにでも追いたいが殺気に当てられたせいか肩で呼吸するのがやっとでしばらく立ち止まっていた。

 ザップさんの言っていることは正しい。自分が今クラウスさんに助けられてからというもの身の安全はあの人によって保たれているし、恩を返すためにライブラで働いているとは言うが、やっていることはアルバイトどころかそのお手伝い程度に等しい。得意の分析能力は鍛えればものになるとは言われたが、彼らの取り扱うモノがモノだから僕が触るわけにもいかない。つまり僕は未だにライブラに必要な働きをしていないのだ。

 

 でもそれは仕方がないことだと思う。僕は一ヶ月前まではただの中学生で、個性(ちから)を持たない無個性少年。ヒーローに憧れるも身体を鍛えることもせずに分析と称してヒーローの追っかけをしていた所謂オタクだ。しかもその今までの蓄積もこの世界じゃ、個性のない世界じゃ意味がない。

 この世界の僕は何も持たない、何もない。いや、元の世界だとなおさらないだろう。皆から嘲られ、母さんにも涙ながらに否定され……オールマイトにも否定された。

 

 気が付けばすでに呼吸は整っていた。どれくらい経ったのかと時間を見るとまだ3分と立っていない。ザップさんも近くにおらず、急いで走り出す。見失ってはいるもののザップさんが僕におごらせる時は決まってダイアンズ・ダイナーで食事を取る。あそこは手頃な値段で多く食べれて僕としても助かっている。ただザップさんが食べるバブラデュゴバーガーはまだ慣れないけど……。

 

 置いてかれはしたがあそこまでの道はここからでも問題なくわかる。なんだったら近道だって知っている。

 待たせた腹いせにと容赦ない注文とかされても困るためはやく合流しようとT字の曲がり角を―――

 

 ドガアアアァァァァン!!!

 

 曲がった瞬間。近くにあった車が爆発を起こし、轟音と爆風により僕は吹っ飛んだ。

 

 「うわああ、あぐっ!い、いたた……な、なに?今度は何が起きたの!?」

 

 爆風により飛ばされる。華奢な身体なため大きく飛ばされたが幸いダメージは少なく、目立った怪我は両手を擦りむいたくらいで後は軽い打ち身程度だ。

 確認のために爆発した方向を向く。するとそこでは警察と大量の継ぎはぎだらけの人間と、それにザップさんが混ざって戦闘をしていた。赤い刀を振り回し継ぎはぎ人間を両断していくザップさんだが、こちらを見つけるや驚いた表情でこっちに走ってきた。

 

 「おいこら陰毛頭!テメエなんでこっちに来てやがる!!」

 

 「ザップさん!ぼ、僕は見失ったから急いで合流しようと……それよりもいったい何があったんですか!?」

 

 「優先対処組織に指定してたヴェンジェンズ・デイゴンが大量のフレッシュゴーレムの召喚に成功しやがった!我々を産み落とした世界へ復讐の時だ~だのなんだのウンコみてえなこと吐き散らして無差別テロ中だ!わかったならとっとと下がってろ!!」

 

 ヴェンジェンズ・デイゴン。確か死霊術を使って犯罪を犯してる組織だとスティーブンさんが言っていた。技術力が高くそのうえ勢力拡大も目覚ましい。異界側の死霊術師と結託してる可能性もあり、これ以上大きくなる前に優先して叩くと聞いていたがまさか向こうがこんなところで無差別テロをするなんて予想出来るものじゃない。

 ザップさんの言われた通り戦場から離れだす。後ろを見やるとザップさんがゴーレムを切り伏せているが如何せん数が多く、周囲には警察だけじゃなく一般市民もいるため派手な攻撃が出来ず、敵、警察、市民の三重苦を味わっている。

 避難誘導でもして一般市民の退去を優先するべきなのだろうがこうも混乱している状態じゃみんな耳を傾ける余裕もない。そもそも何故こんな往来の場で無差別テロを?ここで召喚を行うほうがおかしいぞ普通だったら屋内や地下であらかじめ召喚して一斉に蜂起したほうが成功率は高まるはずだこの場所になにかあったのか?そういえばこういう儀式的なものには地脈かなにかが関係しているのもあってそこに近い程安定するとか聞いたことがあるような?そういうタイプの術式でここが召喚に適してる場所だとしたら?いやもしかしたら似たような場所は複数あって他でも発生してる可能性もあるぞなにも無差別テロがここだけで起きてるとは限らないしその場合同時多発テロになるからクラウスさん達も対応に追われるはずだマズイぞこれ出来れば警察とも連携したいけどそれが許されるほどつながりがある人がここいるかもわからないしブツブツブツブツブツブツブツブツブツ…………」

 

 「早く下がれっつたろうがクソガキャアッ!!」

 

 「はっ!すみま……うわあっ!!?」

 

 しまった、また癖で分析していてザップさんに怒鳴りつけられてしまったと思い振り向くと、怒りの形相でこちらに向かって走ってくるザップさんと、ザップさんと警察の攻撃をかいくぐりこちらに迫ってきているゴーレムの姿が映った。

 

 まずい、あのゴーレムは僕を狙っている。早く逃げないと。だというのに身体は動かない。思考と身体が追い付いてないから?それだけじゃない。恐怖で身体が竦んで動かないんだ。

 

 何をやってるんだ僕。今動かないとあの巨大な腕が振り下ろされて僕は死ぬぞ?それでいいのか?もう父さんや母さんにも、かっちゃんにも会えなくなるぞ?

 

 そう頭で理解はしている。だが理解をしていても竦んで固まってしまった身体は逃げようとしてくれず、僕にその右腕が振り下ろされる。

 

 カチカチと歯が鳴るだけで叫ぶことも出来ず、涙で歪んだ視界に映る腕を見続けそして―――身体に鈍い衝撃が、視界には鮮血が広がった。

 




なおヌズルバ氏、アニメの方でもザップにカツアゲして返り討ちにあってる模様。
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