自分のことを工藤新一だと信じて疑わなかったヤツ(黒歴史) 作:はごろも282
爺さんが俺を呼び出したのは理由があった。何かを俺に気づかせること。だがその何かはよく分からない。現状では手がかりさえ掴めやしねー。
とりあえず今までに起きた出来事をまとめて整理してみる。
天球に新たに星アキラが入ってきた。努力の跡が分かる役者。個人的にはそういう奴は嫌いじゃないし、実際モチベーションも上がった。
けどジジイの目的はコイツじゃないはずだ。コイツが入ってきたのはスキャンダルからのただの偶然。俺を連れてきたときには決まっていなかったはず。
夜凪景。メソッド演技を駆使した天才的な役者。有り余る才能を持て余し気味だがそれにかまけず努力する良い役者。俺の後輩でもありジジイも気に入る根性もある奴。
だが夜凪と俺が高校で同じだったのも偶然だ。ヒゲ経由で夜凪を連れてくるにしてもそこに俺が入ることはなかったはず。多分夜凪と俺が連れてこられたのはそれぞれ別の理由。
ジジイが今回の舞台を最後に引退する。単純に考えるならコレが最たる要因だ。自分の最後の前に俺を後継として呼び出し、教えること。ソレが目的になる。
だがソレにしては不可解なことが多すぎる。どうしてわざわざ最後の舞台まで俺を放置していた?やろうと思えばいつでも連れてくることは出来たはずだ。単純に人手が足りなかったっていうのが一番ありえるのがやばい。絶対ありえないのに。
「……駄目だな。情報が足りてなさすぎる」
考察しようにも手がかりがない。しばらく観察もしていたが俺に与えられる仕事もほとんどない。これじゃなんの為にここにいるのか分かったもんじゃない。
「亀さん、今の大げさ過ぎだ。本番それだと多分浮く」
「あ?何処がだよコレくらいでちょうどいいだろ」
「マジでそう思ってんならアメリカ行ったほうがいいよ。多分B級映画で引っ張りだこだぜ」
「バカにしてんのかテメー!?」
実際オーバーが過ぎるって。夜凪に大げさにやれとは言ったけどそれはアイツが自然な演技しか出来ないからだ。アンタくらいだとソレは悪手だ。
今俺がしてるのはこんな感じの芝居の指摘のみ。それもあんまりないけど。全体練習も始まってない段階でやることはほぼない。
「今の演技コナンで言えば『あれれー?おっかしいぞー?』くらいにはイタい。他の役者とやってたら絆創膏じゃどうにもならないレベルの致命傷だと思う」
「そこまではいかないだろ!!……え、いかないよね?」
あーもう面倒くさい。ここの人たち芝居は凄いんだけどそれ相応に自信持ってるからな。言っても聞いてくれない時がよくある。そろそろ稽古も本格的にはじまるっていうのに。これは良くない。
「今の俺は巌裕次郎の補佐として言ってる。発言には責任持ってるから安心してくれていい」
「……わかったよ。信じるからな?」
良かった。なんだかんだで話が通じてよかった。巌裕次郎最後の舞台を絶対に成功させたいという気持ちが強いのが理由だろうか。
「おいシン、今後の確認だ。こっち来い」
そんなことを考えていると、その巌さんから招集がかかった。
「へーい。じゃ、そういうことで」
さて、今日こそなにか分かるだろうか。
「ここの演出だが、登場のタイミングで煙を使って──」
「それならここの音響は少し下げたほうがいいのか?」
「まかせる。それとここの照明だが、一旦右にピントを──」
うーん、言ってることが細かい。これを担当スタッフに伝えるのも俺たちの仕事のひとつ。今はその指示内容の共有だ。演出の補佐として関わる以上はある程度把握しておくことも必要だ。
「了解。ソレで、セットについてだけど……」
「ああ、セットは今回使わない。椅子と煙だけで行く」
は?何いってんだこのジジイ?
「悪いな爺さん。もっかい頼めるか?セットはなんだって?」
「だからセットは作らねぇ。今回は役者の力でどうにかする」
どうやらボケてしまったようだ。*1森谷帝二レベルでイカれたこと言ってるよアンタ。
「無茶すぎだろ。役者への負担がデカすぎるって。アイツらなら出来るかもしれないけどリスキー過ぎる」
「黙れ。何度も言ってんだろ。出来る出来ないじゃねぇんだ。だいたい銀河鉄道なんて誰も見たことねぇんだ。だったら誰でも見えるセットなんかに頼る必要もねぇ」
そりゃ理屈はそうかも知れないけどさぁ……。
言ってることは理解できる。できるけど納得できるかと言われればそれはまた別だ。
「演者のコストがデカすぎるのはどうするんだ?もし不評であればソレは俺たちじゃなくて演者の力量不足に直結する」
「そうさせないのが俺たち演出の仕事だろうが。読み合わせが始まれば芝居の細かいとこまで指摘していくことになる。今までみたいなヌルい指摘で済ますんじゃねぇぞ」
ヌルい指摘なんてしてきたつもりないんですけど?結構厳しめで見てきたつもりだったんですけど?
「……了解。稽古の時は誰を見てればいい?夜凪か?」
「お前は全体的に見てろ。夜凪については気にしなくていい。俺が個人的に担当する」
わーお。爺さん直々に教えることなんてそうそうないぜ。よほど期待してると考えていいのか?流石にこの歳で下半身に従ってるなんてことないだろうし。……え?ないよな?
「と、歳の差考えろよ?」
「お前ホント一回シメてやろうか?」
ああ良かった大丈夫そうだ。最近の夜凪はモテ期だからな。ちょっと先輩として心配になってるんだよ。
「それでこれが最後の確認だけど、アキラはどうするつもりだ?」
「アキラの方も俺が見る……と言いてぇが俺も夜凪につきっきりになる可能性があるからな。ある程度はお前の方へ回す。あの手の奴は得意だろう?」
得意とかじゃない。ああいうのが相手じゃないと張り合いがないから相対的にそう見えるだけだ。
結局、アキラに関しては俺にもある程度発言権があると考えて良さそうだ。主体はジジイになるだろうけど。
にしても、あのタイプは爺さんは好まないハズだけど、一体どうしたというのか。分からないことが多すぎる。
「……というか、セットも作らないとなるといよいよ俺の仕事なくなるんだが」
「……そのうち出てくるから待ってろ」
アンタ今何も思いつかなかったから適当に濁したろ。
とりあえず人手不足だったという線は消えた。前進……か?
「ところで、夜凪たちはどこ行ったんだ?」
「知らねぇ。アキラと出てったのは見たぞ」
「わりぃ爺さん。役者一人減ることになるかも」
「何する気だテメェおい待て!」
野郎ぶっ殺してやる!人が真面目にやってるのにッ!!
ソレから2日。実は夜凪が明日で降板になるかもしれないことを初めて知った。いつの間にそんな話が進んでいたんだ……?
というかそんな重要な話が進んでいたなら教えるのが筋だろう。
仲間ハズレか?いいのか?泣くぞ全力で。
「約束の日まで残り一日、こりゃ逃げたな」
あ!え!い!う!え!お!あ!お!
「来れない日だってあるでしょ。私も昨日まで公演だったし」
か!け!き!く!け!こ!か!こ!
「いーや違うね。巌さんが怖くて逃げたに決ま「さ!せ!し!す!せ!そ!さ」うるせぇよ星アキラ!!先輩が今喋ってるだろうが!コレだからイケメンは!!」
「えっ?すいません……」
「謝ることじゃないから」
そうだぞ。見苦しいぞクソ童貞フツメン野郎。イケメンが腹立たしいのは心底同意するけどね?そんなチンピラみたいな突っかかり方むしろダサいから。ここは後輩が優しく教えてあげるべきだろう。
「亀さん、流石にソレはダサいっすわ。チェリー丸出しです」
「ああ!?お前はこっち側じゃなかったのか!?」
「バカだなぁ。チェリーの嫉妬は醜いだけですよ。それにしても……もうすぐ23なのに(笑)」
「テメー表出ろゴラァっ!顔の割に彼女もできたことねぇ奴が調子のんなカスがッ!!」
ハッハッハ!何言われても痛くも痒くもないね!なぜなら君の方が恥ずかしいからっ!!23チェリーより下はないからっ!
それはさておき次言ったらタマ潰すからな?
「──心配しなくても夜凪君はすぐ戻ってきますよ。勝手に力をつけて」
先程の亀さんたちの話への返答だろう。俺たち格下の小競り合いには目もくれずアキラはそう言うとその場を去る。彼の言葉に周囲の人は固まってしまう。
「……やっぱあの報道ガチなん「おい待てやクソイケメン」
俺以外は。先日は結局ジジイに捕縛されたが、今は違う。そんな簡単に逃がすわけにはいかない。
「えっと……なにか?」
若干震えながらアキラは尋ねてくる。なにか?じゃねーだろ?
「ちょっと詳しく聞かせてくれる?どうしてお前が夜凪の事情について知ってるわけ?あ、そういえばジジイから一緒に出ていったって聞いたなー」
「い、いやアレはそういうことじゃなく……」
「そういうこと?どういうことかな?もしかして逢引ってこと?えー、それは困るよなぁ。ただでさえ熱愛報道されてるんだから。そうだ!いいこと思いついた!迷惑かける前に俺がその下半身の割り箸切り落としてやるよ!」
「話を聞く気がまったくない!?ちょ待って、やめて……離せぇッ!!」
暴れんじゃねークソが!ふざけんなクソゴミバーローが!イケメンだから何でも許されると思ったら大間違いだぞ!?
「やめな童貞。嫉妬全開でだらしないよ」
「離してくれ七生さん!このクソイケメンの!この性病野郎の【自主規制】を切り落としてやるんだッ!ソレが平和の為なんだ!!」
「傍から見るとよく分かるな。コレが嫉妬丸出しで情けない童貞……なんて醜い」
「というか性病なんて患ってません!!だいたい僕はまだ未経って何言わせるんですか!?」
「ソレはお前が勝手に自爆したんだろ」
畜生離せコラ!許さねぇ!許さねぇぞ星アキラァ!練習終わりには気をつけやがれ!
「離せ!この際熱愛はどうでもいいッ!【自主規制】だけ切らせてくれッ!それ以上は何も望まない!」
「それ以上も何もそれが一番重いと思うんだが!?仮に誤報だったときの被害が僕だけ大きすぎる!?」
結局無事鎮圧された俺は大人しく仕事をこなして一日を終えた。宣言通り練習終わりと同時にアキラに襲いかかったが察していた七生さんに撃退された。
星アキラめ、お前だけ演技指導スパルタ決定だバーロー!
翌日を迎えて、今日で夜凪がどうなるのかが決まるという日がやってきた。やることは喜怒哀楽の表現らしい。最後に見たのは阿良也にボロクソに言われていたときだったが成長したのだろうか?俺は若干心配しながらスタジオに向かった。
結局の所、結論から言えば、出来ていた。バッチリだった。すごい成長していた。何故か両手によく分からない人形を着けていなければ、だが。
「夜凪」
「は、はいっ」
爺さんが微かにだが笑った。よほど満足したみたいだ。
「明日から台本に入れ」
夜凪は正式に舞台に参戦が決定したようだ。おめでとう。俺からすれば地獄への片道切符に等しいが、お前にとっては喜ばしいことのハズだからな。明日からも頑張れ。
「なるほど、ビックリだな」
いい感じで終わりそうだった雰囲気に水を指すような声が聞こえた。阿良也だ。
「俺人のこと見誤るの久しぶりなんで正直ちょっと苛ついてんだけど自分に。でもそれ以上にありがとうって気持ちです」
どうでもいーよお前の自分語りなんてキモいな。自分大好きか。
「な……何が?」
ホントだよ。夜凪の疑問が正しすぎる。コナンに推理されて自ら全部自供しだす犯人かお前は。
「それで相談なんだけどさ夜凪」
「な、なに?」
「今度夜凪の家行っていい?」
速報、夜凪モテ期到来。
「なっ、何言って……」
アキラがすごく驚いている。落ち着けよ彼女が寝取られかけてるだけだろ?ザマァねーなバカが!!Fooooo!!!!
さて、足がつかない人の殺し方は……と。
俺は落ち着いてスマホで検索をかける。アキラの不幸は嬉しいが、阿良也の行為を許したわけじゃない。どちらも地獄へ送ってやる。
「いや」
俺がスマホを触っている間に、阿良也は見事に断られていた。ハッ!俺が手を下すまでもなかったようだなこの変態が!気軽に女の部屋に入れると思うな!
「なんで?いいじゃん一日だけ」
「嫌」
「夜凪の部屋の匂いも知りたいし」
「絶対嫌」
マジで変態じゃねーか。めちゃくちゃ粘るじゃん。
一体何を考えてるんだ?本当に気持ち悪いよアラヤ。
「まずいね景。完全に阿良也に好かれちゃった」
「確かに、本番前にこういうのは……」
「そうじゃなくて、アイツ一度共演者に惚れたら理解するまで相手嗅ぎ回るの。ほとんどストーカー。ソレがアイツの"役作り"なんだよ」
速報。カメレオン俳優さん、まさかのガチストーカーだった。
"読み合わせ"
演劇の稽古のひとつ。台詞のみのやり取りで芝居の感覚を掴む試み。夜凪が台本に入ったことで、今日からその読み合わせが始まった。
そんな中、俺は今、
「あー、その服ですけど。ジョバンニは貧乏な設定なんでもうちょいボロい方がいいかもです。そのザネリ用のも、彼はお調子者なので、少し崩した感じで設定しておくべきかも」
舞台での衣装などの打ち合わせを行っていた。そしてソレに合わせて香盤表の作成もだ。
演出助手の仕事は大きく分けて4つ。1つ目に稽古スケジュールの調整、2つ目に香盤表の作成、3つ目が衣類スタッフ等といった他セクションとの調整、最後に稽古補助だ。
今俺がやっているのが2と3。
香盤表とは、出演者の出番を記したいわば出番表。どの場面で誰が出演しているのかが一目で分かるようになっているため、準備段階から本番まで非常に重要な資料になる。
これは役者だけじゃなくてスタッフにも必要なものだから、適当に作成するとほぼ確実に舞台はグダグダになる。
そして一番重要と言っても過言ではないのが他セクションとの調整。稽古での様子を見て稽古の追加をスタッフと検討したり、衣装や小道具の確認をする。また、演出家の指示をスタッフに伝達、逆にスタッフの意見を演出家に伝えたりするのも含まれる。
コレからは稽古補助が主になってくるからな。そろそろ他の作業を仕上げて置かなければ支障が出てくる。
とはいえ、今回の俺は途中参加だったから香盤表や稽古スケジュールはある程度組まれた状態からのスタートだったわけだが。俺がやったのはちょっとした細かい修正のみだ。楽な作業で最高だぜぇ!
「すいません、ここの衣装についてなんですけど……」
「あ、はい。……大丈夫だと思います。でもジョバンニの背を小さく見えるよう工夫しておいた方がいいかも知れません。ジョバンニがイジメられる理由の一つとして視覚的情報は多いほうがいい」
「わ、分かりました!あ、それと、ザネリの羽織の袖とか後ろの部分、少し広くとったほうがいいと思うんですけど……」
スタッフの人は真剣に相手してくれるから非常に助かる。それでいて意見もしっかり言ってくれる。とてもやりやすい。
「構いませんけど、どうしてですか?あんまり必要ない気もしますけど」
袖が目立ちすぎることになれば視線がそっちにズレてしまう。芝居の中に違和感が生まれる原因にもなるだろう。
「いや、亀くんってイキイキした演技するじゃないですか、身体全体を使って。間抜けな役柄だからこそブンブン揺れる衣類はちょうど役にハマると思うんです」
なるほど、流石だ。キャラの特徴と演者のスタイルがよく分かっているからこそできる発言だ。素直に尊敬する。確かに大きく揺れる衣類はザネリの騒々しさとか間抜けな感じを伝えるには丁度いいかも知れないな。
「分かりました、それで行きましょう!それにしても流石ですね!俺には全然思いつきませんでしたよ!」
「いやいや、江藤くんも久しぶりだというのに凄いですよ。ただ、彼ら役者も成長していますからね。君のいなかった2年間の差が出たというだけでしょう」
……確かにその通りだ。分かった気になっていたが、もう一度ちゃんと見ておく必要がありそうだ。
アキラも含めて。
「はは、その通りですね。俺も気を引き締め直します!」
とりあえず、気合入れ直さないとな。
「で、アイツなにやってんの?」
衣類系統のあと、照明、音響と回ってあらかたの調整と確認を済ませて稽古場に合流してみれば、何故か突っ伏した夜凪がそこにいた。
「分からない。最近彼女ああやって悩むんだ」
だからなんでオメーが知ってんだオラ?この際付き合ってるならもうそれでいいから彼女の作り方教えてくんね?ワンチャンあるかと思ってた奴らがみんな有名になって手が出せなくなってきたんだ。
昔から千世子とか何回かイケる気がしてたんだがなぁ……。いつも気がつけば俺の命が危うい状況になってんだよなぁ。脈消しに来てんだもんなぁ……。
いや、そんなことはどうでもいいんだ。どうでも良くないけど。全然どうでも良くないけどッ!!
「星くん。お前自分の出た作品どれだけ持ってる?すぐ持ってこれるモノだけでいいんだけど」
「え?えーと、十数本くらいならすぐ持ってこれると思うが……」
十数本か……。少し足りないがまぁいいだろう。
「よし、今日からソレ貸してくれない?」
「あ、ああ。別に構わないけど。何に使うんだい?」
何に使うってお前決まってるだろう。お前は役者で俺は演出家だぞ。誠に遺憾ながら。
そう答えようと口を開いたときだった。
「あ」
うつ伏せになっていた夜凪が急に起き上がった。そのまま俺は話すタイミングを失った。
「……え?うそ?……彼に聞くの?私が……?」
めちゃくちゃか細い声だった。劇場版で新一に助けを求める蘭でもそんな声出さないぞ。
ひとしきりウンウンと唸った夜凪は苦虫を噛み潰したような顔をしてこう言った。
「背に腹は代えられないわ。ちょっと役作りの方法について聞いてくる」
「よく分かんねーけど苦肉の策を見つけたらしいな」
そんな家族の為に水商売に手を出す人みたいな顔で言うことか?
心配だな、ついていくか。アキラは行くみたいだし。
俺はアキラからモノを借りるんだから一緒にいる必要がある。だからコレは奴らが二人きりになることへの嫌がらせではない。違うんだ。違うはずだ。違うに決まってる。
「役作りの方法を阿良也さんから教えてもらう?」
「うん、阿良也君出かけてるみたいだから探しに行くの。アキラ君は私達熱愛してないのに何故ついてくるの?先輩も」
「引っ張るね君も……」
何だテメー文句あんのかゴラ?オメーらがどんな関係だろうがこっちにはこっちの予定があんだよ。
「もともと俺と星くんは外出の予定があるんだよ。だからお前はついでだ。だからといって目の前でイチャついたらぶち殺すからな」
「だから話聞いてた?熱愛なんてしてないから」
分かってるよ。そこまで何度もお前が拒絶するなら本当に熱愛はウソなんだろう。お前とは割と長い付き合いだからな。流石にもう理解できてる。今のもほんの冗談だ。
ただ、もし本当ならアキラの命はないと思えよ?
「それで?阿良也の場所に心当たりはあるのか?」
「分からないわ。でも役作りのためだもの。探さないと」
場所も知らないで一人で探すつもりだったのかよ。そういう無鉄砲なところが心配になる原因だよバーロー。これは俺たちも手伝ってやった方が良さそうか……?
「丁度良かった。俺もその用件で君を探してたんだよ」
俺たちも予定を後に回すべきかと二人で話していたときだった。丁度目の前に阿良也が現れた。今戻ってきたようだ。タイミングが良かった。けどなんでそんな濡れてんのお前。
「ど……どうして濡れているの阿良也君?」
「?ああこれ?ジョバンニについて悩んでたんだ」
何言ってんのお前キモくね?
夜凪がこちらに助けを求めるような目を向ける。そんな目で見ても誰も理解できてないから意味ないぞ。
まあどうせ役作りでイカれたことやってきたんだろ。それで何でそうなったのかは理解もしたくないけど。
「役作りの仕方、俺で良かったら教えるよ」
「ホント!?ありがとう!」
おお、なんだか早く話が進みそうだ。良かったな夜凪。これで俺たちも本来の目的に移行できる。
「そのかわりやっぱり、今日夜凪の家行っていい?俺もジョバンニを夜凪から教わりたいんだ」
ヤバこいつ、ガチでキモいんですけど。
ここまで悪質な行為ははじめてみた。役の為だということが分かっていたとしてもコレはキモい。キモい超えて怖い。
漆黒の追跡者*2の内容よりも追跡者してるよ今のお前。
「……夜凪。頼むからこっちを見ないでくれ。俺も極力は関わりたくないからイヤマジで。さ、星くん。早く作品を取りに行こう」
「え?で、でも……」
やめろそっちを見るな引きずり込まれたいのかバーロー!お前らやっぱ熱愛してんだろ!?
クソっ!オメーのせいで夜凪に腕掴まれたじゃねーか!!
「お願いよ先輩!二人はホントに無理!先輩と一緒じゃなきゃ嫌!助けてお願い何でもするから!」
「よ、夜凪君!落ち着いて!江藤君の腕が大変なことになってる!」
「ねー早く家行かない?もう四人で行けばいいじゃん」
「元凶はオメーだろバーロー!ちょ、ホント腕痛いんだけど離してくんない!?ねぇ、ちょ……離せコラァッ!!」
しがみつくならもっと雰囲気を作ってくれ!!胸が当たってラッキーよりも腕への心配が勝ってるから今!!
3時間後、夜凪の家の前には三人の男女がいた。結局夜凪は悪質な変態からは逃げ切れなかった。
余談なんですけど、アクタージュ原作の総合評価順にするとこの作品は上から四番目なんだそうです。上三つは多分本職の方々なので実質僕が一位ですね。本当にありがとうございます。