自分のことを工藤新一だと信じて疑わなかったヤツ(黒歴史)   作:はごろも282

12 / 22
前回のあらすじ
全てをアキラに託して一人で帰った。
よって久々の他者視点です。嬉しいか?

それと今回アンケートをとっています。結果次第でこの作品の今後が大きく変わる可能性もあります。


演芸少女の懊悩

「ちょっとおねーちゃんどーいうこと!?こんな時間にどーいうことなの!?」

 

「ルイも一緒に夜ふかしする!夜ふかし!」

 

 私がアキラ君たちを連れて帰ってくると、レイとルイはそう騒ぎ出してしまった。許してレイ。私にもよく分かっていないの。

 

「サンカク、ううんヨンカクカンケーなの!?ダメだよ許さないよレイ!おにーちゃんのことはどうしたの!遊び!?遊びだったの!?」

 

「ルイも一緒に遊ぶ!寝る時間エンチョーする!〈9時までに寝る〉ルールははきしてください!!」

 

 どうして先輩は帰ってしまったのか。こういうときはいつも先輩が相手してくれるから助かっていたのに。

 後レイ、ヨンカクカンケーじゃないし先輩ともなんともないの。というか何処でそんな言葉覚えてきたの?え?黒山さんと先輩?……へぇ、そうなの……。

 数カ月後、壁に頭から埋まる男性二人が見つかった。

 

「はは、遅くにごめんね」

「カレー食べたいな。夜凪カレー作ろうよ」

 

 私が必死に宥めているのに呑気にそんなことを言ってくるアキラ君と阿良也君。アキラ君はともかくとして、阿良也君に関してはアナタのせいだという自覚はないのかしら?

 

 

 

 なんとか二人を寝かしつけて言われた通りカレーも作ってやった。先輩以外の男性に作るのははじめてかもしれない。

 

「そういえば堀くんはなんでここにいるんだっけ?」

 

 もくもくとカレーを食べていた阿良也君が、ふとそんなことを言い出した。堀くんとはアキラ君のことだろうか?

 

「星です。江藤君に絶対に付いていけと言われました。それに僕も是非阿良也さんの役作りについて伺いたくて……」

 

「ふーん、夜凪カレーおかわり」

 

 何杯食べるんだこの人。というかアキラ君先輩にそんなこと言われてたのね。確かに阿良也君と二人なのは流石に嫌だったから助かった。でも欲を言えば先輩に一番来てほしかったわ。私アキラ君と熱愛してないもの。

 

「というか阿良也君、本当に役作りの仕方教えてくれるつもりある?」

 

 カレーのおかわりを渡しながら聞いてみる。これでもし無かったら5発は許されるだろう。何処にするべきか……。

 

「もちろん、俺嘘つくの大嫌いだからね」

 

 良かった。ちゃんと教えるつもりはあったらしい。しかし殴ってはおきたかった。少し残念だ。

 

「ところで夜凪って弟妹のこと疎ましく思ったことある?」

 

 ……え?

 

 質問の意図がよく理解できなかった。

 

「阿良也さん何言って──」

 

「さっきのチビっ子たちのことだよ。疎ましく思ったことない?」

 

 アキラ君が止めようとしてくれたけどそんなのお構いなしに阿良也君は話を続ける。とりあえずよく分からないが答えるべきだろう。

 

「二人共とてもいい子だし全然手はかからないの。さっきのは私が誰かを家に招くのが先輩くらいだったか「そうじゃなくてさ」?」

 

 話が遮られる。じゃあ一体何だというのか。

 

「三人ぐらしでしょ?だってこの家君達の臭いしかしない。まだ10代なのにあの子達のせいで大人になることを強いられたんじゃない?」

 

 何を言っているんだ。そんなことあるわけが……ある、わけ……。

 

「夜凪よく思い出してよ。自分の感情に正直であることは役者の条件だからね。二人を恨んだ夜もあったんじゃない?本当は弟妹なんていなければ良かったって──」

 

 アキラ君が阿良也君の胸元を掴む。阿良也君の話が止まる。

 

「なんのつもりですか……!」

 

「……星くん。どうして怒ってるの?」

 

「どうして!?あなたは人の気持ちがわからないのか!?」

 

 アキラ君は多分私の為に怒ってくれている。なのにどうしてか私から阿良也君への怒りが全く湧いてこない。

 

「じゃあ君はどうして自分が怒ってるのか分かってるの?ちゃんと説明できるの?例えばさ──」

 

 その後も阿良也君の言葉は続くけれど一向に頭には入ってこない。昔の、まだ先輩と出会うより前の記憶が脳内を巡る。

 

「──だからそういう役者は臭わない。"嘘つき"は臭わないんだよ」

「あったかもしれない」

 

 唐突に口が開いた。

 

「『どうして私だけ』そう思っていたことがあったかも知れない」

 

 一度話しだしたらもう止まらない。止められない。誰にも話したことのないコトが溢れ出す。まるで懺悔のようだ。

 

 お母さんが死んで私達は三人になって。二人の為に悲しい顔は見せられなくて。映画だけが心の拠り所になっていた。

 

 いつも私は辛いのに画面の中のみんなは楽しそうで、ソレが羨ましくて。映画の世界へ逃げてしまいたいって思っていたことがあったと思う。

 

 そんなようなことがすべて吐き出される。確かにレイとルイを疎ましく思ったことはあった。

 

 それでも、そんな私を救ってくれたのもルイとレイだった。

 

「でも、そんな私をルイとレイが救って──」

 

「ジョバンニは母親に救われていたのか」

 

 私を遮るように阿良也君が呟いた。阿良也君の方を見ると、彼は泣いていた。

 

「ジョバンニが病気がちな母親をどう感じていたのかずっと掴めないでいた。夜凪にとってそれは自分が支えるべき二人の弟妹だと思っていた。てっきり疎ましく思っているものかと……」

 

 私の語りから自分の役について掴んだらしい。あぁ、これが役作りというものか。

 

「ありがとう夜凪。少しジョバンニに近づけたよ」

 

 この日、私はレベルの違いを思い知った。

 

 

 

「お皿後で洗うからいいって言ってるのに。アキラ君」

 

「ご馳走になったんだ。これくらいやって帰るよ」

 

 阿良也君は既に帰った。外は大雨だけど、大丈夫なんだろうか。私はというと、机に突っ伏していた。ぶっちゃけるとなんのやる気も湧かなかった。

 

「自分の感情って自分だけのものだと思っていたの。でも、そんなはずなかったのね」

 

 私の感情は阿良也君に食べられてしまった。あれが私に必要な役作り。文字通り身をもって体感した。

 

「他人の感情を自分のものにする。あんな真似が私にできるなんて思えない」

 

 今まではなんとなく出来るような気がしていた。でも今回は話が違う。そもそもやり方が分からないんだから。

 アキラ君に言ったって仕方ないけど、思わず弱音を吐いてしまう。現在の天気同様に私の心もブルーだった。

 

 コンコンッコンコンッ

 

 そんなとき。唐突に、ドアを叩く音が聞こえた。こんな時間に一体誰が……?阿良也君だろうか。雨が酷くて戻ってきたとか?とりあえず玄関に向かう。アキラ君も後ろから付いてくる。

 

 

「はい、どちら様でしょう……うそ」

 

 扉を開けた先にいたのは、どう考えてもここにいるはずのない人物だった。え?なんでここにいるのホントに。

 

「なぜ……君がここに。てっきり突然の雨で阿良也さんが引き返して来たのかと……」

 

「えー、『うそ』とか『なぜ』とか二人共ひどいなー。なに?もしかしてホントに熱愛してた?友達なのに連絡ないから来ちゃったよー。……というわけで、今日泊めて?」

 

 扉の前の人物、百城千世子はそう可愛らしく首をかしげてお願いしてくる。とりあえず、よく理解できてないんだけど……

 

「い、いいけど、熱愛はしてないわ」

 

 熱愛はしてないことだけは伝えておくべきだろう。

 

 

 

 ど、どうする?千世子ちゃんに粗茶なんか与えてしまった。舐めてんのか私。相手は天使だぞ。バカな先輩と同じにするなよ。

 

「ありがとう夜凪さん。あったまるよ。骨から」

 

 骨から!?そんな表現する人初めてみたんだけど!?溶けてるんじゃないのその骨!

 

「いっ、いえ!お粗末様です!」

 

「で、なんでアキラ君はここにいるの?夜凪さんと何してたの?熱愛なの?あんまり自制利かないようなら去勢しとく?」

 

「もうそれ本当に勘弁してほしいな。仕事の関連だよ。……え?去勢?去勢って言った今?おい!千世子君!?」

 

 どうして幼なじみ揃って発想が似ているんだろうか。多分先輩のせいだな。こんど蹴り飛ばしておこう。千世子ちゃんに悪影響が及んでいる。

 

「仕事の関連で夜凪さんの家にいるっておかしくなーい?怪しいなー?」

 

「ご、誤解だ!コレは彼女の先輩から頼まれたからで……」

 

「?なんでシン君がそこで出てくるわけ?」

 

 ……?あぁ、そっか。千世子ちゃんは先輩が手伝いしていることは知らないんだ。

 

「千世子ちゃん。今回先輩は巌さんに呼び出されて助手として芝居に参加してるの」

 

「……へぇ〜。全然知らなかったよ〜。じゃあなんでシン君はココにいないの?アキラ君に任せるなんてことアレがする?」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!話についていけない!まず江藤君と千世子君は知り合いなのか!?」

 

 アキラ君が会話に割り込んできた。もしかして千世子ちゃん、先輩と幼なじみって伝えてないんだろうか。

 

「あれ?前にも言わなかった?仲いい幼なじみがいるって。それ、アレのこと」

 

 どうやら前から伝えていたらしい。アキラ君は忘れっぽいのかしら?その年で大変そうだ。

 

「え、えぇ!?噂に聞く頭のネジの代わりに綿棒詰めてる精神異常者って彼だったのかい!?確かに少し触れ合えば分かるレベルの性格の汚さと言動のぶっ飛び具合だったが……」

 

 酷い言われようですよ先輩。後アキラ君そんなふうに思ってたのね。先輩たちにあんまりな言われようだったから少し可哀想だったけどどっちもどっちね。相性いいと思うわ。

 

「まあまあそれはいいじゃん。で、シン君はどこなの?まさかホントにアキラ君に任せて帰っちゃったの?」

 

「そうなの。どうしてもやらなきゃいけないことがあるからって、アキラ君の出演作品貰ってすぐ帰っちゃったわ」

 

「へー……ん?アキラ君の出演作品をもらったの?」

 

 千世子ちゃんは何かに思い至ったような顔をしてそう尋ねてきた。

 

「あ、ああ。他にもスタジオ天球の人たちの作品も借りていたから、多分観るつもりなんじゃないかな?指導もするようだし」

 

「あちゃー……。……一応聞くけど、次の集合はいつ?」

 

「え?全体集合は明後日だったハズだが……」

 

 一体千世子ちゃんはなにを心配してるんだろう。よく分からないけれど、重要なことなんだろうか。

 

「ま、別にソレはいいや。じゃあさ、夜凪さんはどうしてそんなに落ち込んでるの?誰に何されたの?私が遊びに来てるのにそんな顔されるの、へコんじゃうなぁ」

 

 えっ、ちっちがう!さっきのことも気になるけど、今はそれよりも勘違いされる前に誤解を解かなきゃ!!

 

「ちっ、違うの!それはとっても嬉しい!ただ──」

 

 全然言うつもりじゃなかったのに、どうしてか千世子ちゃんに悩みを話してしまった。私はそれほど弱っているのだろうか。

 

「ただ、とても凄い役者さんがいて……あんなの私真似できなくて……このままじゃ私、カムパネルラを演じられない」

 

 どこまで千世子ちゃんが理解できているのかも分からないのに、ろくな説明もしないまま悩みをうちあけてしまった。千世子ちゃんも困惑しているに違いない。あぁ、私は本当にダメダメだってイタイイタイ!!何事!?

 

「あ、ごめんね。思わず愛情表現が」

 

 なんで!?愛情表現で暴力ってこと!?過激すぎるわ千世子ちゃん!

 

「今日は泊めてもらうね。そして明日は付き合ってもらうよ夜凪さん。私が遊びに来たっていうのに、そんな顔されるの許せないからね。友達といるときは笑ってるものだよ」

 

 えぇ……。唐突に現れた千世子ちゃんに、唐突に明日の予定を決められてしまった。

 

 

 

 翌日、結局千世子ちゃんに連れられて私は渋谷を歩いていた。お互いに格好は強盗するんじゃっていうモノだったけど。千世子ちゃん曰く有名人だから仕方ないだそうだ。

 役作りも出来ていないのに遊び回るのは流石に……ということで断ろうとしたんだけど、千世子ちゃんの泣きの演技にあっさり陥落したなんて事実はない。ないったらない。

 

 それから私と千世子ちゃんは、

 

「コレがクレープ。初めて食べたわ。甘くて美味しいけど食べづらいのね……」

 

「夜凪さん、口もとすごいことになってるけど大丈夫?」

 

「え?わぁ!?見ないで!?」

 

 クレープを食べに行ったり、

 

「ご、ゴメンね千世子ちゃん。私カラオケなんて行ったことないし、歌もあんまり歌わないから下手くそで……って泣いてる!?そんなに聴くに堪えなかった!?」

 

「ち、違うの。感動して……ただの音痴って最高だよね。ちゃんと声聴いてても大丈夫なんだもん。コレから絶対上達できるよ。あの生ゴミと違って」

 

「生ゴミ?生ゴミが歌うの?千世子ちゃん生ゴミとカラオケ来たの?というか私生ゴミと比べられているの今?」

 

 カラオケに行ったり、

 

「ち、千世子ちゃん!二つ!二つ同時だわ!?百円なのに二つも取っちゃっていいのかしら!?赤字になっちゃうんじゃ!?」

 

「アハハ、大丈夫だよ夜凪さん。私の知り合いに百円で四つ落とした後店員さんにイチャモンつけてフィギュアまで貰ってた人もいたから」

 

「なにしてんのその人。犯罪じゃないのそれ?」

 

「よくわかんないけど、どうせ何かあったんだよきっと。その前の月は五万近く溶かしてたし」

 

「えぇ……」

 

 クレーンゲームをしたり、

 

「ほら夜凪さん。もっとこっち寄って?写んないよソコじゃ」

 

「こ、こう?」

 

「こうだよっ!はいポーズとって?」

 

「近い!近いわ千世子ちゃん!?」

 

 プリクラを取ったりした。人生初めてが多すぎたけど楽しかった。

 

 そして今、私達はオシャレなカフェにいた。

 

「えー、プリクラ撮ったことないのケイコ?ここに貼ればいいよ」

 

「すぐ剥がれちゃうと思うわ千世……カレン」

 

 人の目が多いところでは本名ではなく違う名前で呼ぶようにすることを千世子ちゃんから言われていた。見つかると千世子ちゃんくらいの有名人だと大騒ぎだから仕方ないだろう。

 

「プリクラもクレープもスタバも友達と街歩くのも初めてなんてまるで化石だね。シン君とは行かなかったの?」

 

「う、うん……。基本的にバイトとかで忙しかったし、先輩もそういうのは誘ってこないから」

 

 あの人勝手に行って感想だけベラベラ喋ってくるし。わざわざ伝えてくるなら私も連れてけって何回蹴り飛ばしたことか。唯一誘われたのは昆虫博物館だった。女の子のことなんだと思ってんだあの猿。

 

「へー、そんなんじゃ普通の女子高生役やれって言われたら大変だね。できないじゃん」

 

「……うん」

 

 千世子ちゃんは優しい。私を元気づけようと今も色々気を遣ってくれている。おかげで今日一日ずっと楽しかったけれど、改めて分かったことがあった。

 

「ありがとう千世子ちゃん」

 

 千世子ちゃんの話を遮るようなかたちになってしまった。けれどここまで気を遣って貰ったんだ。思ったことはちゃんと伝えよう。

 

「千世子ちゃんはいつもキラキラして遠くを見ていて、でも本当は誰よりも優しくて。やっぱりカムパネルラみたい」

 

 そうだ。カムパネルラは千世子ちゃんみたいな人にぴったりだ。私にできるとは到底思えない。

 

「私、千世子ちゃんに……ううん、カムパネルラにはなれそうにない。きっとみんなに迷惑をかけてしまう。そうなるくらいならいっそ降ばわぁあ!?」

 

 急に千世子ちゃんがもっていたコーヒーを握りつぶした。なに!?コーヒー飛び散ってびちゃびちゃになってるよ!?コーヒーのシミは取れないんだよ!?

 

「ち、千世子ちゃん。コーヒーフラペチーノがこぼれて……大丈夫?」

 

 主に頭。

 

「大丈夫?それはこっちの台詞だよ」

 

 いや、こっちの台詞だと思うんですけど(名推理)

 

「降板?なにそれ?」

 

 千世子ちゃんが変装に使っていた道具をすべて外していく。同時に周りがざわつく。え……ちょっと怒ってる……?

 

「要は"役作り"に悩んでるってことでしょ?じゃあ聞くけど夜凪さん」

 

 よく分からないけどなんかスゴみがあるってことだけは分かる。一体何を……?

 

「この人たちが撮っているのは、本当に私?」

 

 …………。

 

「そりゃ美少女とか天使とか、私がそんなふうに見られてるのは知ってるよ。でも私は自分をそんなふうに思ってない。夜凪さんならわかるでしょ?彼らは私を見ているけど、視てないんだ」

 

 天使として、私よりも長く深く業界にいたトップ女優としての台詞。どうしてか、その言葉は私の心に深く刺さった。

 

「今日だってね、実は私夜凪さんを利用して『平凡な女子高生』の"役作り"に来てたんだ」

 

 千世子ちゃんの言葉が続く。一字一句聞き逃しちゃいけない。私は本能的に、そう悟っていた。

 

「いつもキラキラしてて、どこか遠くを見ていて、でも誰よりも優しいだっけ?フフッ変なの。それなら君は最初から私のカムパネルラじゃん。勝手に壁作ってつまんない悩み方してんじゃないよバーロー」

 

 彼女は私の背を押してくれていた。それがよく分かった瞬間で、どうしようもなく嬉しかった。同時に、この期待に応えたいと強く思った。

 

「最後まで逃げちゃダメだよ?*1逃げてばっかじゃ勝てないもん。ぜーったい……ね?」

 

「……うん!」

 

 ありがとう千世子ちゃん。絶対に期待に応えてみせるわ。役者として。友達として。

 

 

 

 

 

「ヤフーニュースとTwitterのトレンドになってる。一体何しに来たんだ千世子君」

 

「デート。だいたい熱愛報道のアキラ君に言われたくないなぁ。君は黙って私のアッシーやってなよ」

 

「…………」

 

 夜凪さんと別れた帰り、私はアキラ君を呼び出して運転をして貰っていた。最近免許をとったばかりの彼だが、こういうときにとても助かる。

 

「というか、夜凪さんも"役作り"に悩んでたんだね」

 

「?知ってて来たんじゃ……」

 

「まさか。本物の天使じゃあるまいし。そんなの名探偵でも分かんないよ」

 

 きっと私がシン君だったとしても分からないだろう。

 

「でも、夜凪さんには一つ嘘ついちゃった。私の演じる役、平凡なんて嘘で、ホントは人を殺したことを隠して友達と遊ぶ女子生徒の役なんだよね」

 

 カバンから赤く染まった包丁を取り出す。アキラ君はあからさまに狼狽えている。驚くのはいいけど事故らないでよ?お願いだから。

 

「君っ!それ本物じゃ……!?」

 

「えー?どーだろーね?」

 

「どうだろうねって……しかもそんな役を君が演じるなんて……」

 

 ちょっと狼狽えすぎでは?そんなにこの役意外?私は結構ハマり役だと思ってるんだけど……。

 

「やー、にしても助かったよ。案外友達といると罪の意識とか忘れちゃうもんなんだね。前のお出かけじゃ分からなかったよ」

 

「前!?前にもやったのかい!?」

 

「うん。シン君と出かけた時にちょっとね。でも全然ダメだったよ。合流して1時間以内には気づかれてたと思う。なのに何も触れずに放置されるからもうヒヤヒヤで。ま、アレはアレで参考になったけどね」

 

 多分役作りの一環だと理解して放置していたんだと思う。その程度には私のことを信頼してくれている証拠だ多分。まさかビビって一切触れなかったなんてことはないはずだ。

 

「……何者なんだ?彼は。その包丁に気づいたということもそうだが、あの巌裕次郎と関わりがあるただの高校生なんて有り得ない」

 

 アキラ君がそう聞いてくる。何者なんだって言われてもね……。

 

「ただの私の幼なじみだよ。思い込みが激しいだけの」

 

 よく考えたらアレの経歴っておかしくない?私よりもぶっ飛んでる気がしてきたよ。ムカつくから今度赤山剛昌先生に会う予定があること自慢しまくってやろう。

 

「あ、アキラ君!ここで下ろしてくれない?」

 

「え?だが、ここから君の家まではまだそれなりに……」

 

「いいからいいから!ちょっと行くところもあるの!」

 

 

 

 目的地に到着した私は玄関のインターホンを押す。

 ……いつもならすぐに応答するハズだけど、やはり反応はない。私は郵便受けの裏に仕舞ってある鍵を使って扉を開ける。

 靴が脱いである。やっぱり家にいたようだ。ここに来るのも久しぶりだが、昔はよく入り浸っていたのもあり、内装はまだ覚えている。迷いなく廊下を進み扉を開ける。

 

 部屋の中には見終わって適当に投げ捨てられたであろうブルーレイ。そしてその先にはモニターを食い入るように見ているシン君。Lかお前は。

 

「おーい」

 

 返事はない。どうやらかなり集中しているらしい。……?近づいてみて初めて気づいたが、何かを呟いてる。

 

「七生さんたちの演技は新しいものになるに連れて進化していってる。ジジイの指導の賜物だな。とはいえ出来ることはまだあるな。亀さんに必要なのは観客を巻き込む演技。最初のみ登場だからコッチの世界観へ引きずり込むのは彼の仕事か。大丈夫だ。ここまで行けるんだったら問題ないはず。この細かいトコは俺が担当するべきだな。ジジイも夜凪で忙しくなるだろうし。問題はアキラだ。コイツ何処直せばいいんだ?別にこのままでも大して問題はない。アイツのルックスなら全然やっていけるだろう。でもそうじゃない。多分だけど彼は一流の演技を求めてる。自分の今の地位をすべて捨ててもいいと思えるくらいに。夜凪みたいな、阿良也みたいな、そんな力を求めてる。そうなるとここから今までの方法でレベルアップはこの短期間じゃほぼ見込めない。ただ芝居練習するだけじゃコイツだけ本番で浮くことになる。なら大幅にスタイルを変えさせるべきか?いや、それじゃ駄目だな。俺たちが伝えちゃ駄目なんだ、アイツ自身で気づくことが重要だ。待てよ?そもそもどうしてそこまで演技力に固執する?どうしてこんなになるまで周りは放っておいた?母親は大女優なんだろ?だってこんなの、教科書に載ってることを片っ端から覚えてきたようなものだ。誰も指摘しなかったのか?非効率的だって、もっとこうしたらいいよって。誰も教えてあげなかったのか?一流の演技法は一つじゃないって、多様性があってはじめて作品の色が生まれるからって。一流の証明方法は誰もが見惚れる主演をすることじゃないって。何も教えず突き放したのか?ただ才能がないからって、ただそれだけで。母親なのに、血を分けた息子を見捨てたのか?偉大な母親の背を追って進もうとした息子を。そもそも才能を絶対視するようならどうして夜凪をオーディションで落とした?なぜアイツに役者に向いてるなんて言った?行動に一貫性がなさすぎる。客観的に見れば……いや、逆なのか、もしかしたら。そうか!そう考えれば辻褄はあうかもしれない!推理なんて呼べない想像ばかりの考察だけど、探偵なんて名乗れないこじつけばかりのものだけど。これが正しいとしたらおそらく──」

 

 こっわ、思考を全部口に出して整頓してるのか知らないけど怖すぎるよシン君。小声で早口すぎて何言ってるかわかんないし。 

 

 これはいけない。やっぱり様子を見に来て正解だった。この調子だともうしばらくはこの調子だったに違いない。

 

「シン君!シン君ってば!!」

 

「──となるとあの一貫性のない行動には何か意味がってうおっ!?……千世子?どうした?てかここ俺の家。なんでいんの?」

 

 なんでいるのとは失礼ではなかろうか?勝手に入ったとはいえ私だって心配していたというのに。

 

「夜凪さんたちに聞いて様子を見に来たんだよ。いつからやってんのこれ?」

 

「あ?てか今何時?あー、19時か。まだ3時間しか経ってないじゃん。あれ?そんなわけなくね?時計壊れてない?」

 

 壊れてるのはお前の頭だ。

 

「日にち見てみなよ。現実が分かるから」

 

「は?日にち?……えっ日付変わってんだけど。バグ?最近DOC○MOってもしかしてバグあった?」

 

 だからバグってんのはお前の頭だよバーロー。

 

「回線エラーはあったけど君のスマホは正常だよ。丸一日なんてホント無茶するよね。止めてくれる人いないんだから無茶しちゃダメだよ。今回も私が来なかったらぶっ倒れてたでしょ」

 

「……嘘だろ?俺の休日が……。ちょっとやって済ますハズだったのに……」

 

 自業自得なのに可哀想に見えるのは何故なんだろうか。相手が曲がりなりにも幼なじみだからか?まぁ見るからに頑張ってたからなぁ。少しは大目に見てあげよう。

 

「仕方ないなー君は。どうせ何も食べてないんでしょ?キッチン借りるからね?」

 

 脳を酷使した影響か回転が遅いらしい。私の幼なじみ様は似合わない間の抜けた顔をしていらっしゃる。あ、再起した。

 

「……?……!?おいおい流石俺の自慢の幼なじみだわ。包容力がハンパねーって。今ならプロポーズもやぶさかじゃねーな。愛してるぜ千世子」

 

「はいはい。私も愛してるからさっさとシャワー浴びてきたら?頭も回ってないみたいだし」

 

「そーするわ。すぐ出てくるから。あ、ゴミは冷蔵庫に捨てといてくれたらいいから。明日ゴミ出しだし」

 

「じゃあ君もその頭冷蔵庫に入れときな」

 

 すごいや。さっきからずっとビックリするくらいイカれた事言ってるのになんの違和感も覚えてないっぽい。だいたいこの地区のゴミ出しは明日じゃなくて今日だろう。

 

 ……クソがッ!驚かせんじゃねーよバーローが!

 

*1
歩美ちゃんチョーかわいい




お陰様でこの作品は既に二部の中盤に突入しました。
10話そこらで。ちなみに他の作者さんたちはココまでに倍以上の話数があります。

どういうことですかコレ(半ギレ)

今まで10数話書いてきて、だんだん楽しくなって適当に文章を書くことが増えてきました。手癖とでも言えばいいでしょうか。そのせいで、過度に童貞を貶めるような文章を書くことが増えてきたと感じております。そこで、もしかしたら童貞であるかもしれない読者様方に不快な気持ちにさせてはいけないと思い、皆さまがどの層に位置しているのかを知っておこうと思った次第です。正直に答えてください。童貞ですか?

  • 悪いけど俺はソロだ(未経験)
  • 彼女はアスナに似てる(経験済み)
  • デュエルで決着をつけましょう(宣戦布告)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。