自分のことを工藤新一だと信じて疑わなかったヤツ(黒歴史)   作:はごろも282

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感想がいっぱい来て気持ちよかったので頑張りました。半分くらい決闘者だったけど。


自分を工藤新一だと思い込んでいた人による9話

 食事会が始まってから数時間が経過した。

 皆既にあらかた食べ終えており、今はどったんばったん大騒ぎの真っ最中だった。

 

 だから、隅に座り物思いに耽るアキラの姿は一際浮いて見えた。

 彼は一人スマホで自分の演技を見返し、反省をしていた。

 

「つまんねぇ芝居だ。何よりもまずテメェに芝居をしてやがる」

 

 手元を覗き込みながら話しかけてきたのは他でもない巌裕次郎だった。

 彼は今まで一度も自分の演技に触れてこなかったのに、いったいどういう風の吹き回しだろうか。

 アキラは急な出来事に戸惑いそう思った。

 

「ど、どういう意味ですか?」

 

 意図はどうであれはじめて自身に指導してくれようとしているのは間違いない。このチャンスを逃してなるものか。

 そう思ったアキラは深く追及しようと試みた。

 

「自覚のない嘘つきも不幸なもんだよな。母親の名前が……事務所の看板がそうさせるのか。それを自分の武器だと捉えられるなら良いが、見ている限りそういうことでもなさそうだ」

 

 話の内容は独り言のようなものだった。

 

「この世で最も自由な職業は役者だというのに、お前はそれを逆だと誤解している。その真理を理解するまで、お前は一生そのままだよ星アキラ」

 

 それは断定だった。ただ、ここから先は教えるつもりもないと言わんばかりに巌は口を閉ざしたままだった。

 

「それはどういう……えっ?寝てる?嘘だろ寝言だったの今」

 

 顔を巌の方へ向けたアキラが次に見たものは、何故か眠った巌裕次郎だった。

 自分で考えるべき、なんて高尚な思いから口を閉ざしたわけでは無かった。そこにいたのは高齢期を迎えたただの老いぼれだった。

 

「おおオオーイ!飲んでるかイケメーン!?」

 

「うわっ!未成年ですから飲んでませんよ!というかこの船カオスで怖いんですけど!」

 

 会話していた相手が突如爆睡するという不思議現象に困惑していたアキラに絡みに来たのは面倒くさい酔っ払いの七生だった。

 

「えーウッソ皆聞いた!?アキライケメンのくせに童貞だって!!」

 

「言ってない!怖いな酔っぱらい!ちょっと外の空気浴びて落ち着きましょうか!?」

 

 このままではさらに自身への被害が拡大する。本能でそう察したアキラは七生とサンドバッグの代わりにそこらへんに転がっていた亀を連れて船の外へ向かった。

 

 

 

「あれ?シンじゃん。なにしてんの一人で」

 

 屋形船の尖端に座ってぼーっと夜景を眺めていると、背後からそう声をかけられた。振り返ればそこにいたのは亀さんとアキラ、そして七生さんだった。

 

「え?いやー、まあちょっとね……。それより三人はどうしてここへ?」

 

 言えない。屋形船の尖端で一人黄昏る俺最高にカッコいいんじゃないかと思って試してたなんて言えない。

 

「いや、七生さんが酔っぱらって暴走しだしたからココまで連れてきたんだ。もう一人はもしものとき用に」

 

 代表してアキラが答えてくれた。あー、身代わりね?なかなかいい判断だ。亀さんはそこにいるだけで俺たちの被害を半分に減らしてくれるからな。

 ……というかお前も結構言うようになったな。来たばかりの頃とは大違いだ。

 

「もう劇団には慣れたのか?」

 

 アキラに軽く話題を振ってみる。七生さんたちは後ろでタイタニックごっこしてるからな。デカプリオ役死にかけてるけど。ちなみに俺も死にかけだ。船の先端って思ったより揺れる。気持ち悪い……。

 

「おかげさまでね。みんないい人ばかりだよ。今日みたいな姿ははじめて見たけどね。ハメを外し過ぎじゃないかい?」

 

 俺も思った。ビックリするくらい暴れまわってるからな。主に七生さん。俺がいたときはまだ二十歳前だったのもあって酒癖があそこまで悪いのはしらなかった。でもエロ可愛いから全部許します。

 

「みんなはしゃいでるんだよ。せっかく最後だからって奮発してくれたからね巌さんが」

 

 そんなことを考えていると、丁度話題の人物である七生さんがタイタニックごっこをしながら会話に混ざった。デカプリオ役は既に意識がない。

 

「最後?」

 

「あれ?言ってなかったっけ?」

 

 アキラも知らされてなかったのか。あの人ホント報告をしないよな。俺も先日急に聞かされて驚いたから。

 というか最後だからこんな豪華なのか。確かに金かかってんなーとは思ってたけど。

 

「これが巌裕次郎の……最後の舞台……!?」

 

 正しく衝撃が走っているといった顔してるな。お前芝居でそれできれば完璧なのにな。やっぱ余計なこと考えすぎなのが原因だと思うんだよね。

 この役に合わせて演じようって意識が出すぎてて逆に不自然に見えるっていうか、なんていうんだろう?演技の最中に自分が抜けてないんだろうな。この正直者め、その手の*1演技は自分を偽りきって初めて完成だぞ?

 

「ギャアァァァ!!!!何するんですか!?何するんですか!!」

 

 うわびっくりした!ちょっと思考の海を泳いでいたらアキラの大声で現実に引き戻された。

 

「……いやホントになにしてんの?」

 

 目の前では何故か七生さんの前でアキラがフルチンを晒していた。そしてそのまま亀さんの胸ぐらを掴んでいた。七生さんはアキラのアキラを凝視してるし亀さんは苦しんでいる。なにこのカオス、これもう警察呼んだほうがいいだろ。

 

「お前がふざけたこと言ってるからだろ!なにが『僕なんか』だバカヤロー!お前が俺たちに認められる演技をするって言ったんだろ!まだ俺は認めてねーぞ!認めさせろよ!!やる前からフルチンで自虐してんじゃねークソが!!」

 

 俺の知らない間にアキラが弱音でも吐いたのか、亀さんがアキラにブチギレていた。ブチギレながら叱咤激励をしていた。

 ……いいトコなのかも知れないがフルチンだ。

 

「……すいません、どうすれば成長できるのか……。あと三十日しかないのに……。自分が情けない……!」

 

 おう、そりゃその格好なら情けねーよ。だってフルチンだもんお前。いい歳してフルチンだもんこの夜景の下で。

 

「まだ三十日もある」

 

 七生さんがアキラの言葉を訂正する。まるで青春スポ根の1ページのようだ。

 

「普通の三十日と巌さんの下での三十日を一緒にするな。あの人の下でならいくらでも化けられる。それに今回はコイツもいるから」

 

 急に話題を渦中に放り込まれてしまった。すまない、状況は理解できたけどお前たちの世界観は理解できてないんだ。

 

「シン、出来るよね?まさかエドガー・コナンが出来ませんなんて言わないでしょ?」

 

「は?なに?煽ってんの?出来るに決まってるだろバカにすんじゃねーよぶっ殺すぞ。つーかフルチンにツッコめよなんなのフルチンなんでフルチンなの何で*2ちょっと大きいのムカつくなお前」

 

 しまった。フルチンなのにスポ根してる奴らに喧嘩を売られてつい衝動的に買ってしまった。

 まあアキラは千世子に頼まれてるから言われなくとも全力を尽くしてただろうけど。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!今、江藤くんに向かってエドガー・コナンと言わなかったか!?」

 

 俺に言われて慌ててズボンを履きながらそう尋ねてくるアキラ。もういいよそれ何でお前知らねーんだよぶっ殺すぞ。最近みんな知ってるから油断したじゃねーか。

 

「それも知らなかったの?四年くらい前に映画作ってたのコイツ。当時14歳で。その後失踪したけど」

 

 おい個人情報。七生さんならいざしらずオメーなにベラベラ喋ってやがる亀コラ。

 俺は亀さんでリフティングしながら船から落とそうとする。必死でしがみついてきた。まるでサイバイマンだ。キモい。

 

「……なんてことだ。こんな身近に幻の存在が……!サインとか貰えないかな?……というかどうして失踪なんて……?」

 

「知らないよ。どうせ名前が嫌だったとかじゃない?コイツ昔からスタジオ来てたから知ってるけど自分のことを工藤新一だと思い込んでたし。多分エドガー・コナンも江戸川コナン由来だよ。恥ずかしかったんでしょ。あーあ、子供の頃はアレで可愛らしかったのにどうしてあんなふうになったのか……」

 

「嘘だろ……!?こんなところで長年ネットで議論されてるコトの一つを知ってしまった……!」

 

 七生てめぇ!?禁句中の禁句に触れやがったな!?エドガー・コナンバレしてもそれだけは隠してたのに!夜凪もまだ知らねーのに!

 ……というかネットで議論されてんの?それって掲示板とか?当時からビビって深層には触れてこなかったけどそんなんなってるの?

 

「七生さん。明日からの稽古楽に終わらせないから。映画撮影の条件の課題出されてたときの5倍は厳しくするからアンタだけ」

 

「じじじ上等だよ。こっちだって真剣にやってるんだから願ってもない話。……ちょっと怒ってる?」

 

「いや、全然怒ってない。でも七生さんの熱意を甘く見てたよ。俺も本気でやらないとね。明日から長袖でよろしくね?ボールって皮膚に当たると跡つくから」

 

「怒ってるよね?ゴメンホント酔ってて口が滑ったんだ許して!嫌だよあのサッカーボール飛んでくるの!弟子だからってそんなとこまで似なくていいじゃん!!」

 

 七生さんが珍しくマジビビリしている。俺もマジギレしていた。女相手だからって容赦しねーからな。よく考えたら俺の周りの女はみんな突然変異種だからセーフだろ多分。

 

 ……最後に見た女の子してる女の子って誰だ……?もしかして映画撮ってたときの主演の子か?ちょっとやさぐれてたけど可愛くていい人だった。あれからまだ頑張っているだろうか?

 

「ねぇシン聞いてる?確かに良い舞台にはしたいけどちょっとは手心を……」

 

 いけない。最近物思いに耽ることが増えてきた。一度考えだしたら容易に帰ってこれなくなった。え?まさか工藤新一に戻ってきてる……?

 

「ああ大丈夫だ。コントロールには自信がある。どうしてもってなら亀さんとアキラにもやるから。コレで一人じゃない」

 

 後ろでギャーギャーうるさいが、全部無視した。

 

 

 

 

 

 

「テレビをつけても映画館に行っても同じ面したイケメンばかり並んでる!まるで美形が役者の条件と言わんばかりだマジウゼェ!」

 

 どうしてこうなった?

 

 ついさっきまでギャーギャーやかましく抗議してきてたから適当に流しながら明日からのプランニングをしていたらいつの間にか矛先がアキラになっていた。

 しかも内容がまるきり僻みだとても醜い。

 

「大手芸能事務所に所属してなきゃ役者は飯も食えねぇ!仕事がねぇからな!なのに芝居だけを見てくれるトコなんて殆どない!じゃあ俺たちはどう努力すればいい!整形か!整形なのかオイ!?」

 

 酔った勢いで凄い突っかかってる。ダサいことこの上ない。何がそこまで彼を駆り立てるのか。別にそれほど不細工でもないだろアンタ。カッコよくもないけど。

 

「卑屈なんだよ。売れてる三枚目もいるだろ」

「ブスのフリしてる奴は黙ってて下さーい!!」

「してねーよぶっ殺すぞ」

 

 わあ怖い。一瞬だけとんでもない圧を感じた。もしかしたら七生さんにはブスは禁句なのかもしれない。

 

 七生さんは付き合ってられないとばかりに首をふると俺の方を向いた。どうやら丸投げしようとしているらしい。

 仕方ない。仮にも演出家なんだしバシッと言ってやろう。

 

「大丈夫ですよ七生さん。俺七生さんくらいの方が逆に落ち着きます。とりあえず今度一緒に出かけませんか?ちなみにメガネ外してくれてたら泣いて喜びます」

 

「そこじゃねーよぶっ殺すぞ。亀の方のフォローだろ普通」

 

 しまった、つい本音が。軌道修正だ。

 

「……確かに、確かに僕はスターズ社長の息子で……イケメン俳優として名が通っています。でも!僕は自分が恵まれていると思ったことはない!」

 

 フザケたのが良くなかったのかもしれない。フォローの前にアキラが爆発した。でも、コレでアキラの胸中を聞くことができる。

 

 いや、むしろ計算通りじゃないか?自分でも気づかぬうちにここまで誘導していたんだ。そうだよきっとそうに違いない。流石俺だ。そういうことにしてスカした顔でいることにしよう。

 

「僕はアナタたちの方が羨ましい。完全実力主義と言われるあの巌裕次郎に認められ……阿良也さんと芝居をしてきたアナタ達の方が!」

 

 話を聞いてて確信した。おそらくアキラは自分の実力がコンプレックスになっている。母親は大女優。しかも同期に千世子までいた。この時点で心がへし折れても仕方ないのに、トドメとばかりに夜凪まで出てきた。改めてよくここまで好青年で生きてきたなコイツ。俺なら多分既に役者の道にいないだろう。

 

「変に絡むからだよバカ!地雷踏んだっぽいじゃん!」

 

 七生さんと亀さんが何か話している。俺が黙っていても話は進むかも知れない。けど、俺だって話したいことはある。この場の主導権は頂いた。

 

「うん。お前の思いはよく分かったよ。でもさ、勘違いしてるよお前」

 

「勘違いって……一体何を……?」

 

 あの挨拶の場でどうしてあそこまでやる気が出たのかよく分かった。お前が努力する存在だったからってのは勿論だが、それだけじゃなかったらしい。

 

「確かにさ、俺の目から見てもお前の芝居はいまいちだよ。天球の人と比べても当然だが見劣りする」

「……ッ!!」

「ちょ、シン!今言うことそれ!?」

 

 お前は俺と正反対なんだな、多分。同じように優秀な親から生まれたのに、お前には母親のようなキラキラした才能はなくて、自慢じゃないが俺にはあった。

 お前はその才がなくても演劇の道を愚直に進んで、俺はお前の羨む才があるのに全部途中で投げ捨てた。

 

「皮肉だよな。嫌味に聞こえるかもだけど、俺すごいから。正直お前の気持ちよく分かんないけど。もうバレたから言うけど、エドガー・コナンの活躍もトントン拍子に進んでさ」

 

 実際挫折も何もしてない。爺さんの課題も難題だったが普通にクリアしちゃったし。

 

「……何が言いたいんだ?」

 

「お前の欲しいものは俺が持ってるってことだ。どうだ?羨ましいだろ?」

 

 やば、ちょっとピキッてる?眉間にシワが寄ってるこわ。手出されたらどうしよ。でもまだ我慢だ。

 

「でも、母親の才能なんて絞りカス程度しか遺伝してないお前の演技が、俺は好ましいんだ。何でだと思う?」

 

「……同情か何かなんじゃないか?求めてはいないが」

 

「ハッ!違うさ。そんなんじゃない。俺を惹きつけたのは間違いなくお前の力だ」

 

 千世子に発破をかけられて、ジジイに諭されて、お前の心の叫びを聞いて、久しぶりに絶好調だ。まるで工藤新一時代に戻ったみたいだぜ。今ならどんなクサい台詞も言えちゃうね。

 

「経験は少なくても分かるんだよ、俺は芸術家だから。小綺麗な演技の内側にさ、泥臭い跡が見えた。とても綺麗なモノだ。いや、言い方が違うな。お前がソレを表に出してこなかったからこそ、綺麗なモノになったんだ。流石だな。試行錯誤の数なら俺が見てきた中でもトップだよ」

 

 努力をひけらかさず、自分がひたすら上を目指す為のツールとしてしか見てこなかったから、逃げずに目的と手段を入れ替えなかったから、ソレは綺麗なモノになったんだ。

 

「君は、一体何を……」

 

「おっと、悪いけど俺の眼は誤魔化せないぜ?なんたって、ホームズに憧れる探偵を目指してたんだからな。当然、十年近い妄執は俺の力になってるのさ」

 

「ッ!?」

 

 まあ、芸術品の鑑定はどっちかと言えば怪盗キッドだけど。

 

「天才達に囲まれても折れなかったお前と、曲がりなりにも才能を磨きまくった俺。階段の積み上げ方を知ってるお前と、登り方を知ってる俺。どうよ、俺たちならなんとでもなりそうだろ?」

 

「……は?」

 

 は?ってなんだよは?って。当たり前だろーが。いつの時代も死ぬ気で努力する凡才は最強なんだ。ヒル魔さんを知らないのか。0.1秒縮めるのに1年かかったヒル魔さんだぞ?

 まあいいや。つまり、そんなお前に、才能マンのこの俺がいるならそれはもう鬼に金棒だろ?

 

「多分さ、俺じゃなくてもいいんだ。お前は既にジジイに選ばれてるから、俺が何もしなくても成功するかも知れない。コレでもあのハゲのことはそこそこ知ってるから、どっちがやっても最終的な結果は同じになると思う」

 

 間違いない。あのジジイが本気でどうしようもないヤツを劇に加えたりしない。アキラ参戦にどんな理由があったとしてもジジイがコイツを加えた以上アキラは何らかの形で成功していたのは間違いない。でも、それじゃイヤだ。

 

「それでも、出来るならその役は俺がいい。次で引退するハゲの老いぼれになんか譲ってやるわけにはいかない。俺に託して欲しい。作品のためじゃなくて、ただ星アキラという役者を、この俺が輝かせたい」

 

 正直ジジイの最後の舞台と知って、俺は今回サポートに徹するつもりだった。急な呼び出しでやる気もなかったし、何よりも巌裕次郎最後の舞台に手を加えたくなかったから。

 

 でも、ソレもやめだ。爺さんは俺に試せと言った。これが最後なのに、失敗は許されないのに。それなら俺も相応の覚悟を持って挑むべきだ。コレはそのための誓いでもある。

 

「全員が何かを思って真剣にやってる。色んなものをかけてる。お前も、夜凪も、爺さんも、亀さんも七生さんも。だから俺も役者1人の人生を背負う覚悟を決めた。流されるわけでも押し付けられるわけでもない、他ならぬ()()()()()()()()()んだ」

 

 黙って俺の言葉に耳を傾けているアキラに畳み掛ける。こういうときは口数が多いほど了承されやすい気がする。ここで断られたら恥ずかしいし死にたくなるから是が非でも認めさせたい。

 

「よくここまで愚直に進んできたな、凡才。そんなお前は天才に届く刃がある。才能に乏しいのは事実でもソレが真実とは限らないことを証明してやろう」

 

「……それは、信じてもいいのかい?」

 

 圧倒的な才能を知って。無力を知って。それでも前に進んできた君は栄光へ進む資格がある。なくちゃ道理が通ってない。

 

「勿論だ。やってやろうぜアキラ。お前は路上の石ころなんかじゃない。誰もが2度見するビッグジュエルだ。ソレをこのエドガー・コナンが保証、いや証明する。だから手始めにお前は母親の度肝を抜いてやれ」

 

「……ああ!やろう江藤……いや、シン君!」

 

 努力する凡才(アキラ)は、最後には報われるって決まってるんだ。もしそれが違うなら、天才()が無理やり道をこじ開けてやる。

 

 俺が、アキラの道を演出するんだ。

 

 

 

 …………。

 

「……っ!!」

 

「え!?なに!?どうしたんだシン君!?ちょ!二人も手伝って下さい!」

 

「離してくれアキラ!俺はもう、もう海に還るんだッ!」

 

 何が天才だバーロー!!お前みたいな新一なりきり異常者が天才なわけあるかぁ!!このドバーローがッ!!

 

「あー、コレは多分自分の言ったこと思い出して恥ずかしくなってんな。コイツ勢いに乗るとカッコつける癖に思い出して黒歴史認定するから」

 

「えぇ……、僕は割と心に刺さったのに……。何この締まらない感じ」

 

 ああああ!ホントに俺何してんだよバカなんじゃねーのバッカじゃねーの!?調子乗りすぎだろお前キザすぎるって!コナン世界でギリギリ許されるラインだろコレぇ……。

 

「まあまあ、落ち着きなってシン。でも、久しぶりにカッコよかったよ。ちょっとだけ見直したかも」

 

「やめてくれ七生さん。それ以上言えば愉快な水死事件が起きることになる。楽しい屋形船の旅を凄惨な記憶で塗り替えたいのか?」

 

 畜生なんでよりによって亀さんたちの前でやったんだ!誰かこのバーローを殺してくれ!!

 

 

 

 

 

 

 同時刻、屋形船の上の別の場所で。

 

「半年ほど前に膵臓に悪性腫瘍が見つかった。およそ3ヶ月から半年、それが俺の寿命だ。だからまだ死を知らないカムパネルラに、俺が直接演技指導する」

 

「……え?」

 

 泥酔してぶっ倒れ、顔面落書きまみれの阿良也の隣で夜凪と巌の秘密の会合が行われていた。事態の深刻さを考えればまず間違いなく阿良也が邪魔だが、ソレも気にならないくらい夜凪は動揺していた。

 

「このことは誰も知らない。阿良也も、シンのヤツも。正真正銘お前と俺だけの秘密だ」

 

 夜凪から見れば巌は明らかにピンピンしている。身体に異常があるなんて分かりもしない。勘の鋭さが常軌を逸している自身の先輩であっても分からないだろう。そのレベルだった。

 

「……どうして、私にだけこんなこと……」

 

 頭の中が真っ白になりなりながらも、どうにか口に出した疑問はアッサリと答えられた。

 

「お前の役のカムパネルラは自分が死んでいることを自覚している。だからコレから1月、俺は俺の死の体感を伝えてお前を演出する。だからお前は俺の死を喰って役作りしろ。それが俺の最後の演出だ」

 

 当然のように告げられた言葉は、納得できないことばかりだった。

 

「……どうして、ちゃんとみんなに言わなくちゃ……!ちゃんと入院して、ちゃんと治療して──」

「俺が演出家で、お前が役者だからだ」

 

 かぶせるように言われた言葉は、認めたくないのに心にスッと入ってきた。

 

「なんだよその顔は。俺はな夜凪、演劇をやるために生まれてきたろくでなしだよ」

 

 淡々と話す巌に、夜凪は口をはさむことができなかった。

 

「お前も俺と同じ人種だ。役者になるために生まれてきた……そうだろ?」

 

 否定することはできなかった。似たようなことを自分も昔アキラに言ったことがあったから。オーディションを受けたばかりの頃だ。

 

「俺の死で舞台がよくなりゃそれでいい。今日から俺たちは共犯者だ」

 

 一度受け入れてしまったからには止めることはできなかった。こうして夜凪と巌は共犯者となった。

 

 

 

 

 

 

 結局あの恥ずかしい事件を消し去ることはできず、気が付けば朝になっていた。

 屋形船の旅も終わり俺たちはすでに陸に上陸していた。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫じゃない……」

「飲みすぎなんだよバカ、大学生か」

 

 完全にグロッキーな亀さんを介抱するアキラと罵倒する七生さん。完全に平常運転だ。

 ただ、船の上では七生さんのほうがヤバかった気がするんだが、これはどういうことだろうか。まさか酔った時の記憶がないタイプだろうか。もしそうなら夢が膨らむ。

 

「夜凪、そういえば朝帰り大丈夫なの?チビッ子たちは?」

 

 なぜか顔中落書きまみれの阿良也が夜凪にそう尋ねる。そう言えばお前夜凪の家行ってたもんな。*3レイに手出したらぶっ殺すからな。

 

「大丈夫、こういう時事務所で預かって貰ってるから」

「……ふーん」

 

 そういや最近チビどもの顔を見ていないな。俺も忙しかったから仕方ないが今度ちょっと行ってみようかな。喜んでくれるだろうか。ガキは成長が早いというが『何しに来たの?』とか言われないだろうか。もし言われたらギャン泣きする自信がある。

 

「よしもう一軒行くか」

「バカ言ってるよこのジジイ歳考えな」

「あ?」

 

 爺さんと阿良也のそんな掛け合いをはじめ、周囲はがやがやとした喧噪であふれていた。対していつもと変わらない風景、最近よく見る光景だ。

 

 ただ一人を除いて。

 

「あーもう、面倒極まりないな」

 

 原因を解明することは簡単だ。俺のスペックなら余裕で推理できる。だが、踏み込んでいいのかの区別がつかない。

 出来ることと行うことは別だ。俺は*4コナンのように殺人以外は何してもいいとは思っていないんだ。隠していることを解き明かすのは躊躇する。秘密にしなければいけないことを無理やり暴くのは悪だ。工藤新一もその点で言えば普通にやべー奴である。

 品行方正質実剛健を地で行く俺がそんなことするわけにはいかない。

 

 とはいえ、親しい後輩だ。悩みがあるならどうにかしてやりたくもあるのも事実。うーん、どうしようか。

 

 しばらく考えた末に俺は判断を先送りにした。ぶっちゃけ日和った。

 何も問いただすことがすべてではない。そっとしておいてやるのも優しさの一つだろう。軽く尋ねて何か言ってきたら相談に乗る、そのスタンスで行くことにした。

 

*5ま、どうにかなるだろ!

 

 

*1
なお、自分はできない模様

*2
自分と比べて急にキレるチェリー

*3
倫理的な問題、決してロリコンではない

*4
緋色の弾丸参照。アイツマジでやりたい放題してる。一回捕まるべきだろアレ

*5
特級フラグ




全然関係ないけど遊戯王ってもともとマジック&ウィザーズって名前だったんですね。直訳で魔法と魔法使い……。
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