自分のことを工藤新一だと信じて疑わなかったヤツ(黒歴史)   作:はごろも282

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ドシリアスです。シナリオが重かったからどうせなら重そうなのここで消化しとこって思いました。真面目に書こうとすると頭がおかしくなるので書き直すかもしれません。

簡単に言えば節穴、というお話。


自分を工藤新一だと思い込んでいた人による10話

「お母さんは僕を許してくださるだろうか」

 

「?カムパネルラ?どうしたの突然」

 

「僕は皆がほんとうに幸になるならどんなことでもする。けれどもどんなことが皆の一番の幸いなんだろう」

 

 舞台に向けた稽古中、屋形船の日から夜凪は演技に身が入っていなかった。今だってお母さんと皆を間違えて言っているのに違和感を覚えていない。重症である。

 

「やめよう、これ以上は癖になる」

 

「えっ?」

 

「全然芝居に没入できてないしその自覚もない。重症だよ。夜凪に何したの巌さん」

 

 夜凪の芝居相手である阿良也はそう言って芝居を中断して爺さんに食ってかかった。間違いなく夜凪の不調の原因は目の前のハゲである。

 

「新しい価値観を教えている。一時的に混乱しているだけですぐに安定する」

 

「……新しい価値観って?」

 

「お前はまだ知る必要はない」

 

 出たよ新しい価値観。少し前に言っていたことだ。ようやく夜凪に教え始めたらしい。俺も何故か教えてもらえなかったんだし阿良也が教えてもらえるはずがない。むしろ教えて貰えたら俺がキレてるよ。

 

 ソレにしても大丈夫なのか夜凪のヤツ。ここ最近ずっと思い詰めたような顔をしている。今日あたりで一度踏み込んでみるべきだろうか。イヤでもなー、どうしようか。

 

「あのさー巌さん、わかるだろ?俺は今かつてないほど役に潜れてる。いくらアンタでも余計なことしたら許さないよ」

 

 おっと?いつの間にか緊迫している。ジジイにつっかかる阿良也と黙って見つめ返すジジイ。そしてそれを見てザワつく周囲。うーんコレは雰囲気最悪だ。まあいいや、ここらへんは俺の管轄外だ。どうせどうにかなるだろ。

 

「アキラ、ボサッとしてんなよ。お前が一番ポンコツなんだ。休んでる暇なんてねーだろ」

 

「!……ああ!」

 

 アキラを俺が見ると船の上で決めたんだ。なら俺はソコに集中するべきだ。稽古中は他のことは二の次でいい。

 

 

 

 稽古が終わり、今現在俺たちは夜凪を待っていた。爺さんとの特別レッスンで様子がおかしい夜凪を心配した亀さんたちが延長で練習をしようと考えたからだ。

 というかもともとアキラのために頼み込んで読み合わせに付き合ってもらっていたのに夜凪も加えようとしているだけだ。別に夜凪のために待っていたとかではなかった。

 

 お、ちょうど夜凪がでてきた。どうやら今日は終わったらしい。一人で出てきた夜凪に声をかける。誰もいないと思っていたからか、夜凪は俺たちを見て驚いているようだ。

 

「みんな……待っててくれたの?」

 

「当たり前だろ。最近巌さんと何してるか知らねーけどな、これ以上主演にボサッとされてると俺たちが困るんだよ!」

 

 ツンデレかよ。素直に心配ですって言えばいいのに。ちなみに俺がここにいるのはアキラの指導の為だ。別に夜凪が心配だったとかではない。勘違いしないでほしい。

 

「読み合わせでも何でも付き合ってやるよ。どうせアキラとその予定だったしな」

 

「この舞台は必ず成功させなきゃいけないからね。巌さんと芝居を続けるために」

 

「……ありがとう、でもごめんなさい。今日は具合悪くて……」

 

 だが、夜凪は亀さんと七生さんの誘いを断り、その場を去ろうとする。

 

 ……亀さんと七生さんの言葉を聞いて一瞬だが夜凪の様子がおかしくなった。今の発言のどこかに地雷があったと考えていいだろう。

 

 このまま調子を崩したままだと面倒だな。夜凪だけじゃなくメンバーにまで影響が出るかもしれない。

 だが、俺にはアキラを見る義務がある。夜凪は心配だが、今は色んなことに手を出している場合ではない。どうしよコレ。

 

「こりゃこっぴどくやられたな巌さんに」

「洗礼だ洗礼、皆通る道さ。俺たちももう始めようぜ」

 

 亀さんたちは既に読み合わせを始めようとしている。

 

「……シン、今日はいいからアンタ景の方に行きな」

 

 俺も読み合わせの手伝いに入ろうとすると、七生さんにそう言われた。なんだ?俺が迷ってるのがバレたのか?

 

「いや、俺はアキラを見なきゃいけないから」

「いいから。今日一日くらい大丈夫だから」

 

 うわ、すごい剣幕だ。迷ってるのがバレたとかではなさそうだ。ただ夜凪が心配なだけっぽい。

 

「シン君。僕はいいから夜凪君の方へ向かってくれ。別に1日くらいいなくても大丈夫だ」

 

「え、えぇ……?」

 

 何この感じ。ラブコメかよ。何で俺が行かなきゃいけないみたいな雰囲気になってんの?お前らがいけよ。この流れで行くの恥ずかしいよ俺。

 

「じゃ、じゃあ行きますけど。……え、ホントに行くの?俺が?」

 

 早くいけと蹴り飛ばされた。理不尽すぎるだろ。

 

 

 

「おーい!夜凪ー!」

 

「……?先輩?どうしたの?」

 

 夜凪の下へ向かうよう指示されてから少し。俺は夜凪を追いかけていた。そしてようやく追いついた。

 

「……いや……ハァ……ちょっとね……ハァ……久しぶりに……ちょっとまって息整えさせて」

 

「えぇ……大丈夫?」

 

 うるせー黙ってろ大丈夫に見えるかコレが。だいたいお前歩くの速すぎだろ。なんで追いつくだけでここまで息切れなきゃいけないんだおかしいだろ。

 

「……ふぅ。よし、もうオッケーだ。話を戻そうか、いやーアキラたちにお前いらねーからって言われて追い出されてさー、じゃあ夜凪と帰ろっかなって思ったわけよ」

 

 ココでお前が心配だったなんて言うのはド三流だ。そんなこと言えば間違いなく相手は気を使うから。よく漫画とかで見かけるが冷静に考えたらアレやばいからね?自分の行いに自信持ちすぎだろ。

 

「……もしかして、心配してくれてる?」

 

「は?バカ言ってんじゃねーよ誰がお前みたいな女の皮被ったバケモン心配するんだ俺はただレイたちに会いたかっただけだ勘違いしないでくれ」

 

「うわすっごい早口。しかも結構な罵倒も挟んでたの聞こえてるからね先輩?誰が化け物なの?」

 

 やっべ。テンパりすぎてつい本音が。だが仕方ないと思う。ただ暇になっただけと言っているのに何故かエスパー並の解読をされたのだから。しかも夜凪に。

*1この前まで『飛行機って翼に鳥詰め込んでるから空飛べるんだぞ』って言われたらマジにしそうな女だったのに、お前いつの間にそんな大人になったんだ……?

 

「ま、まあそういうことよ!どうせ事務所行くんだろ?今日は俺も行くよ」

 

「う、うん……」

 

 そうして一緒に事務所へ向かっているわけだが。

 

 き、気まずい……!何だこの空気。いつもなら静かでも別に何も感じないのになんだコレ。重い、重いよ空気。重症じゃねーかコレ。誰だよ大丈夫だろとか言ってたヤツ。

 

「どうした?悩みごとか?」

 

 軽く話題をふってみる。まずは様子を伺うことからはじめよう。

 

「……ううん、なんでもないの」

 

 あー絶対なんかある何でもないのだコレ。どっちだ?踏み込んで欲しいメンヘラの何でもないのか、マジで踏み込んで欲しくないけど演技ド下手クソな何でもないの、どっちだコレ?

 

 夜凪は芝居得意だから踏み込み待ちか?いやでもなー、そういうのできない人種だろコイツ。

 ……分からん!もういいや、雰囲気で突っ走ってやれ!

 

「亀さんたちも言ってたけどさ、主演がヤバいと困るんだよ。一応演出補佐としてはこの状況は良くないと思ってる」

 

「……うん」

 

 めっちゃ落ち込んでるじゃん。心が痛いよ俺も。

 

「俺個人としては単純にお前が心配ではある。コレでもそれなりの付き合いだからな。悩みがあるなら相談に乗ってやりたいとも思ってる」

 

「……うん」

 

「確かに、いかにお前が能天気で短絡的な口より先に手が出てもおかしくない犯罪者予備軍だとしても悩みの1つや2つあるだろう」

 

「……うん?」

 

「そこでバファリンの擬人化と言われている俺は思った。ボッチでコミュ障で妹弟しか話し相手がいないお前に悩みを打ち明けられる人間がいるんだろうか、と」

 

「……」

 

「そりゃ今は事務所の人もいるよ?でもお前多分言えないじゃん。黒山サンとかが踏み込んできてくれてやっと言えるレベルじゃん。だってお前コミュ障だもん。顔がいいから許されてるけどお前のソレ普通にクラスでうしろゆびささイタタタッ!なにすんだよっ!!」

 

「こっちの台詞なんだけど!?ボロクソ言いすぎじゃない!?そんな言わなくてもいいでしょ人が落ち込んでるときに!」

 

「俺だってあんまり隠されると信頼されてないんじゃないかって悲しくなっちゃうだろ!」

 

「そうその気持ち!今!今現在私のほうが悲しいから!ずっとそんなこと思ってたの!?」

 

 俺と夜凪の取っ組み合いが始まった。10秒で決着がついた。気がつけば俺は惨敗していた。

 

「……クソっこの女、電柱にヒビ入れられんじゃねーの?」

 

「なんか言った?」

 

「何も言ってねーよこの実写キャプテン・マーベルッ!」

 

 傷が4倍になった。

 

 

 

「ただいま」

 

「あ!おねーちゃんおかえ……何でにいちゃんボロボロなの?」

 

 事務所につきチビどもの第一声はそれだった。どう思う夜凪、こんなこと言われてるぞ?オイ、目逸らすんじゃねーよ。

 

「兄ちゃんはな、さっきまでキングコングと闘ってグフゥッ!……兄ちゃんドジだから20回くらい転んだんだ」

 

「20回もころんだの!?すげー!」

 

 恐ろしく早い手刀、食らってなきゃ気づかなかったね……。

 

 畜生なんでこんな目に遭わなきゃいけねーんだ。夜凪は少し元気になったけどやっぱり様子がおかしいし。

 というかコレどう考えても俺に話す気はなさそうだ。黒山サンに頼んどこうかな。

 

 

 

《演劇界の巨匠、巌裕次郎が手掛ける『銀河鉄道の夜』がいよいよ今月末初日を迎えます。巌作品には──》

 

 テレビを見ながら机を囲んで食事をしていると、そんなニュースが流れてきた。家にテレビなんてないからこういうのも久しぶりだ。にしても飯がうめー!やっぱあったけぇ料理は最高だな!

 

「話題になってるねぇけいちゃんの初舞台。稽古の方はどう?……けいちゃん?おーい?……あれ?」

 

「おねーちゃん?」

 

「あっ、えっ?何?」

 

 夜凪は柊さんとレイが話しかけても上の空。柊さんたちもそんな夜凪の様子が心配なようだ。

 

「何かあったの?今日も事務所でご飯食べたいとか言うし……ってソレはシン君がいるからか」

 

「……私……ううん、なんでもない」

 

 しれっと俺のせいになったが多分今日は俺がいなくても事務所で食べたがってたと思うぞ。明らかに何かを相談したくて仕方ないってオーラがにじみ出てるから。

 

「夜凪家、今日は泊まってけ」

 

「!」

 

 黒山サンが何かを察して夜凪に泊まっていくよう勧めた。この人もしかしなくても何か知ってるな?

 

「わーい!クロちゃんポニョ観よポニョ!」

「レイトトロがいい」

「兄ちゃんはコナンが観たいぞ」

「えー!ジブリがいいー!」

「というかお前は帰れよ」

「どうして!?」

 

 この状況で一人で帰るなんて寂しいことしたくない。というか間違いなくこの後話聞いたりする流れだろ。その為に引っ付いてきてるんだからここで帰るわけにはいかないんだ。絶対帰らないからな。

 

「お前らも兄ちゃんといたいよなー?」

 

 こういうときはガキどもを味方につけた方が強いんだよッ!俺の人望を舐めんじゃねーぜ!

 

「うーん、映画だと兄ちゃんネタバレするからなー」

「クロちゃんは色々教えてくれるのにねー?」

 

 お、俺の人望……。

 いやまだだ、まだ諦めるな。

 

「に、兄ちゃんだって色々教えてやれるぞ?なんたって兄ちゃんはエドガー・コナンだからな!当時のことも教えてやれるぞ?」

 

 この際もうバレてるんだからエドガー・コナンであることも使ってやろう。というかなんで俺はこんなことしてるんだろうか。

 

「エドガー・コナンの映画観たことないからいらなーい」

「なん……だと……っ!?」

 

 嘘だろ……?あの天才エドガー・コナンの奇跡の一作だぞ?確かに結構前だけど今観ても全然悪くないと思うんだが?

 

「そ、そっか……。エドガー・コナンとかぽっと出の一発屋だもんな。そりゃあ興味もないよな。どうせ若いからチヤホヤされてただけだよな……」

 

「そ、そんなことないよシン君!私は好きだから!大ファンだから!お話たくさん聞きたいなー!」

 

 柊さんのフォローが心に突き刺さる。優しいなこの人。欲を言うならズボラじゃなかったらもっと良かったよ。

 

「ハハ、ありがとう柊サン。でもいいよエドガー・コナンなんて所詮過去のモノだから……。ちょっと褒められてたからって調子乗ってたわ俺」

 

「えっ、ホントに話さないの?ホントに……?」

 

 あれ?マジでショックそうな声聞こえたんですけど?コレホントに楽しみにしてた?いや自惚れるな俺。柊サンは優しいからそう聞こえているだけだ。

 

「分かっただろ江藤。ガキどもも別にお前はいなくていいんだ。大人しく帰りやがれ」

 

「アンタはどうしてそこまで帰らせたがるんだ!?」

 

「お前事務所に大量のエロ本置いてったの忘れたのか!?アレ柊と夜凪に似てたせいで大変だったんだぞ!?」

 

 そういえばそんなコトもあったな。確かにあんなことされちゃ事務所に泊めるのも嫌か。ただアレはアンタが先にエドガー・コナンの暴露をしたのが原因だから俺は悪くない。

 

「チィッ!器の小さい髭面め!結局アレでヤッたんだからいいだろうがよ!どうだったんだ感想は!」

 

「お前みたいな思春期のガキと同じにすんな!ヤッてねーから!お前どうすんだアイツの目!犯罪者を見る目だぞアレ!」

 

 柊サンの目線がとんでもなく冷たくなっている。夜凪は依然として心ここにあらずである。ザマーないぜこのヒゲ野郎。お前はコレからあんな目を向けられながら……正直マジで申し訳ない。オッサンの歳までは考慮してなかった。

 

「もうお前ホント帰れよ。ガキどもも俺の味方だからお前を止める人間はいないからな」

 

「はー?それは分かんないね。見とけよガキどもはすぐコッチの味方にしてやるから」

 

「ハッやってみやがれ!できればの話だがなぁ!」

 

 よし、どうしようか。大見得を切って手前アレだがノープランである。俺の秘策エドガー・コナンは興味ないで叩き斬られたし。いけない、思い出して悲しくなってきた。

 

 考えろ、俺の持つ手札はなんだ?映画知識とか推理はどうだ?……ダメだ、ネタバレウザいって言われた。じゃあサッカーとかの身体能力は?夜じゃなんの役にもたたねーよカス。

 

 嘘だろ……?俺ってマジでエドガー・コナンと新一以外取り柄なし?そんなバカな。

 

 …………いや、アレならいけるんじゃないか?

 

「なあルイ、兄ちゃんに協力してくれたらさ……」

「何回やっても同じだ、大人しく出ていくんだな」

「ウルトラ仮面のサイン貰ってきてやるよ」

「クロちゃんにいちゃんも泊めてあげて!」

「プライドはないのかお前!?」

 

 ハッハッハ!俺には優れたコネがあるんだよ!ウルトラ仮面舐めんじゃねーぞオラァ!!

 別にコレは虎の威を借る狐とかではない。だからプライドも傷つかない。傷ついてないッ!!

 

 

 

 結局事務所宿泊の権利をもぎ取った俺はひとしきりガキどもと暴れたあと奴らを布団へと送還した。柊サンも同伴させてやった。あの人成人のクセにチビより早く眠そうにしてたからな。ビックリしちゃったぜ。

 そして俺は今、黒山サンと対面して座っていた。夜凪は消えた。多分一人で黄昏れてる。

 

「で、どうした?あそこまでしつこきゃ流石に分かるぞ」

 

「いやー、まーね?俺も一応は舞台に携わる人間の一人なわけでして。夜凪がおかしくなった原因、多分アンタ知ってますよね?教えてもらえません?」

 

 アンタさっき明らかに何か悟ってたもんな。じゃなきゃ急に泊まってけなんて言うわけ……なんだテメーため息ついてんじゃねーよカスヒゲオイコラ。

 

「ソレはジジイか夜凪に聞けばいいだろうが。どうしてわざわざ俺に聞こうとする?」

 

「確かにアンタの言うとおりだ。残念ながら奴らは教えてくれなくてね。ハゲは『お前にはまだ早い』の一点張り、ボッチのバカは弱音さえ吐く相手がいないのか抱え込んだまま。流石に見過ごせないってことッスよ」

 

 アンタの言わんとすることは分かってる。分かったうえでここにいるんだよ俺は。

 

「わざわざ黙ってるのに俺が言っちゃ……なんてアンタは思わない。そんな殊勝な考えがあるなら俺のエドガー・コナンはバラすはずがないから」

 

「それとこれは別だろ」

 

「別にするなぶっ殺すぞ」

 

 なんでそこで別にしてるんだお前マジふざけんなよコラ。

 

「お前のエドガー・コナンはただ知られるのが嫌なダダみたいなもんだろ。対して爺さんたちのはおそらく明確な理由がある。ソコを無下にはできないだろ普通」

 

「ぐぬぬ」

 

「何だぐぬぬって。口で言うやつはじめてだぞ俺も」

 

 ここぞとばかりに正論かましてきやがって……!アンタからそんな言葉が出てくるとは思わなかったッ!端的に言って失望しました!千世子のファン辞めます!!

 

「……分かった。百歩譲って夜凪の件を聞くのはやめる。いや千歩譲って、うーん、やっぱ万歩で、いやそれもな……」

 

「どんだけ認めたくないんだお前。ガンジーでもそんな譲らねーよ。そろそろブチギレて殴り返してくるよ」

 

「ええい、認めるから妥協案だ。どうせ夜凪は俺には隠したいみたいだから聞かない。ズケズケ探るのもどうかと思うしな。だから、アンタが少し夜凪と話してくれ」

 

「頼み方勉強してからこいクソバカ」

 

 うるさい。出鼻くじかれてどうしたらいいか分かんなくなっちゃったんだよ。なんでそんな真面目なんだバーカバーカ!

 

「そもそもアンタ最初からそのつもりだろーが。別に文句ないだろ」

 

 分かってんだからなそんなコトくらい。

 

「分かった分かった。ったく、気持ちわりーヤツだな。話聞くだけだぞ?」

 

 そこらへんはもういいや。夜凪はアンタの事務所所属だからな。舞台までに立ち直らせてくれたら何でもいい。夜凪の件は仕事の範疇だからどうにかなるなら俺じゃなくてもいいし。心配していたのは事実だが俺が当たった方が人に頼るよりその後のプランを練りやすいからやりたかっただけだ。

 

「ソレで?本題はどうした?」

 

「え?やだなー、コレで話は──」

 

「惚けんなよ江藤。マジなら俺をナメ過ぎだ。そんな事務的なことでお前があれほど粘るわけがない。何を悩んでる?」

 

 ……どれだろうか。正直心当たりが多すぎて見当がつかない。

 

「……?どうした、さっさとしろ」

 

 いやさっさとしろとか言われても。ホントに分かんないんですけど。なに?俺の潜在意識でも読み取った?じゃあ本人分かってないのに凄すぎるだろ本業演出家。このレベルまで行ける気しねーよ俺。あ、コレ聞けばいいじゃん。天才キタコレ。

 

「……幼馴染みに、演出家復帰を望まれた」

 

 観念して話しだしたかのような素振りは完璧である。ジジイには話せねー内容だし丁度いいや。

 

「どいつもこいつも自分の都合押し付けてさ。ジジイのヤツも俺をコッチに戻そうとしてる。あの人は俺に何かを見出してて、困るんだよそういうの」

 

 別にそんな深刻な悩みでもないんだけど、まあちょっと引っかかる部分もあるし言語化してみようかな、なんて単純な理由で。爺さんと並ぶレベルのマジモンの天才である先達の助言を求めるように。

 

「俺がスゴイのは当然だ。だって俺天才だし。自分の能力を過小評価するつもりはない」

 

 当たり前だ。工藤新一なんてハイスペック人間を目指した手前ある程度高性能じゃなきゃ話にならない。そしてソレを行えた俺のスペックはちゃんと優れている。父さんも母さんもイカれた経歴してるし。

 

「だけどソレと才能は別だろ。才能ってのはソレを自分が楽しめるかどうか。心の底からコレが自分の天職だって思えてはじめて才能があると言えるはずだ」

 

 工藤新一が憧れながら欲望のままに探偵を目指すように。黒羽快斗が手品と怪盗を何だかんだ楽しんでいるように。夜凪が声高らかに一生芝居をすると叫んだように。千世子が天使として前を見据えて躍進するように。

 

「なんかちげーんだよな。いまいちピンと来ないんだよ。映画製作も雰囲気で売れた。作ってたときは面白かったけど労力の割にこの程度の達成感なのかって思ってしまった」

 

 大嘘の中に少しだけ真実も混ぜて。やっば俺役者向いてるだろやっぱ。コレで今の俺は自分の進みたい道が見えない思春期の少年だ。本当にやりたいことを求め苦悩する小さな人間。

 

 大嘘なんだけどね。ピンと来なかったのはマジでもその程度割り切って進める程度の神経はあるし。だって我慢するだけで金も貰えるしチヤホヤされる。

 

 ただ一つ、俺が辞めた理由は監督名のエドガー・コナン。コイツだけは乗り越えられなかった。誰が人生の黒歴史を一生背負える?背筋のムズムズなんてレベルじゃねー、ヤスリで削り取られてるみたいなものだ。

 

「お前には才能があるから、だって?冗談キツイぜ。そりゃ俺が凄いのは分かりきったことだけどさ、そうじゃないだろ。出来るかどうかじゃなくてやりたいかどうかで語るのが才能持ちの演出家だろ、少なくとも俺はそう捉えてる」

 

 ま、ソレが共感されないのは理解できる。誰もエドガー・コナンが嫌だから辞めたなんて想像できないだろ。

 だからこそ普通なら割り切れるこの部分が理由として上がってもみんな納得する。だってコレだって事実だから。

 

 全体の2割程度の理由ではあるがなんとなく引っかかってる部分。こんな思考をする時点で俺は目の前のコイツらとは違う人種なのは分かりきってる。たからジジイの言葉が気味悪くって仕方ない。

 

「アンタは紛れもなく爺さんの同類だ。だから聞く。アンタらが言う演出家の才能ってなんだ?俺の本質ってなんだ?俺はどれを選ぶのが正解だ?」

 

 正直望まれてるなら復帰してもいいとは思いはじめている。名前変えていいなら。というか普段なら復帰の決意は既にしていた。

 

 あのバカ幼なじみが『自分で選べ』なんて言わなければ。

 

 アイツのせいで面倒なことになってる。素直に『復帰します』なんて軽々しく言えなくなった。俺が秒で千世子に絆されたみたいで気に食わない。あのクソ貧乳が、余計なこと言いやがって。

 

 背筋を駆け巡る悪寒は気にせず俺は黒山サンを見つめる。さあ、答えられるなら答えてみろ!ジジイからもコナンズヒント貰えなかったから俺の本質は迷子のままだそ!

 だいたい自分を客観的に見ることなんて不可能なんだクソハゲ。そんなことできたらコナン君も既に自首してる。他人に盗聴器付けたりスケボーでトンネルの側面走ったりしてるんだから順当だろう。

 

「お前マジメな顔してゴミみたいなこと言ってんの気づいてるか?」

 

 うるさい、俺はもともとこんな感じだ。俺の行為は基本楽したいか持て囃されたいのどちらかから始まってるから今更だ。まして俺なんか、なんて言うつもりはない。ソレはある種の侮辱にも等しい。

 

「ま、柄にもなく考え込んでるようだから助言だ。あんま深く考えんなよ。1個の行動に逐一理由付けしだしたらソイツは三流以下だ」

 

 ふーん、そんなもんだろうか。

 

「今お前がやるべきは巌裕次郎を視る事だ。何か考えるならあの人が本当に伝えたいことを考えろ。仮にも弟子なら分かるはずだ」

 

 えぇ……。そんなこと言われましても……。というか俺の質問に何一つ答えてないんだけどこの人。

 

「お前がこの道に向いてるかはお前が決めることだ。あの爺さんはその為にお前の知らないお前を伝えようとしている。それと──」

 

 黒山サンが俺に背を向けて歩き出した。全部言ってから背を向けろ。なんでちょっとカッコつけてるんだよ俺もやりたいソレ。

 

「お前がどう思ってるかは知らねーが、映画撮ってたときのお前はそれほど悪くなかったぞ」

 

 ……なんだあの人ツンデレかよ。ちゃっかり俺のこと認めてんじゃん。もっと褒めてもいいんだぜ?

 

 というか夜凪のこと聞こうとしたのに結局成果0じゃねーか。ホントに俺何しに来たんだろう。まあいいや。黒山サンが夜凪のことどうにかしてくれるらしいし。たぶん今そっちに向かったんだろ。安泰だなこれは!

 

 

 

 

 

 

「巌の爺さんに『言うな』とでも言われたか?」

 

 眠れなくて一人で外に出てぼーっとしていると、背後から急に声をかけられた。ビックリした。

 

「……黒山さん。……知ってるの?」

 

 急に声をかけられたことにもビックリしたが巌さんのコトを知っているかも知れないということにもビックリしている。

 

「ああ、だいぶ前に本人から聞いてる」

 

 どうやら黒山さんも知っているらしい。正直私一人では抱えきれないから非常に嬉しい。

 

「良かった……!私しか知らないのかと思ってて……。私、どうし「知らん」……?」

 

 なんなんだこのヒゲ男。何しに来たんだこのヒゲ男。

 

「……もっと大人らしいアドバイスくれるんじゃないの?」

 

「弱音吐きたいなら江藤にぶちまけろ。アイツ今俺に色々聞いてきたぞ」

 

「えっ?もしかしてバレてる?」

 

「なんでバレてないと思ったんだお前」

 

 だって聞いてこないし……。エスパーなのに聞いてこないからてっきり隠し通せてるんだと思ってたわ。

 

「じゃ、じゃあ教えちゃったの?」

 

「あ?まだ言ってねーよ。ちょっと踏み込んで来てすぐ引いてったぜ。多分どこまで攻めていいか分からなくてビビってるなアイツ。じゃなきゃとっくに全部見抜いてるだろ」

 

 アイツそこらへんバケモンだし昔から*2、とか言ってる黒山さんの言葉に、私は巌さんの話を思い出した。

 

 巌さんも黒山さんと同じことを言っていた。先輩は洞察力がとても優れてるけど隠し事は極力触れないようにするから気にしなくていいと。相手の内心を探るのに嫌悪感を抱いているから、と。

 

 違和感を覚えられても踏み込んでこないから気にしなくていいと言っていたがまさか本当にそうなるとは思わなかった。

*3いったいどうしてなんだろうか。何か理由があったりするのかしら。

 

「……いや、そんなことよりも!私は、病気のことちゃんと伝えるべきだと思うの。死んだらもう会えないんだから……」

 

 劇団の人たちは巌さんを慕ってる。先輩だってそうだ。そんなみんなにちゃんと教えないのは不誠実だ。

 

「……知ってるか?銀河鉄道の夜は宮沢賢治の死後に発見された作品なんだよ」

 

 今そんなことどうでもいいんだけど。ソレ関係ある?

 

「実は未完成の作品で、遺作だと俺は思っている」

 

「知らないんだけど。なんの話してる?」

 

「『本当の幸いってなんだろう』作中で何度も出てくるこの言葉は病に伏した宮沢賢治の最後の人生の疑問だ」

 

 ???ちんぷんかんぷんになってきた。でも大事な話っぽいことは分かったから聞くことにしよう。

 

「カムパネルラは友達のために死んでもそれが『本当にいいこと』だから母親はその死を許してくれると信じてる。冗談じゃねえよな。残された人間のことなんて考えもしてねぇ。俺から言わせりゃ巌もカムパネルラもエゴイストだよ。だからあいつら似てるだろ?」

 

「……カムパネルラは千世子ちゃんとは似てるけど巌さんとは──」

「似てるさ」

 

 断定する口調で遮られた。そこまで似ているだろうか?そんな感じはしないけれど。

 

「『本当にいいこと』さえしてりゃお前たちが許してくれると信じてんだよあの人は」

 

 ハッとした。屋形船での一幕を思い出す。あのとき巌さんは達観した様子で自身を演劇の為に生まれてきたろくでなしだと話していた。

 

「巌さんにとっての『ほんとうにいいこと』は、最高の舞台を私達に演じさせること」

 

「役者なら覚悟決めろよ夜凪、巌とカムパネルラの『ほんとうの幸』を演じる覚悟だ。巌裕次郎になってあの劇団を導くことがお前の役作りだ」

 

 ソレが答えだとして、私はコレから何をするべきだろうか。時間はない。悠長にはしてられない。

*1
そんなわけない。ないよね?

*2
一話後書きのアレ。あんな感じで撮影中は舐められないように必死だった

*3
新一なりきりセットへの恐怖。昔を思い出して恥ずかしいだけ




そういえば匿名外しときました。理由はいろいろです。投稿作品見れば察するかも。同じ名前のTwitterは本物です。だからって特に何もないけど伝えときます。

情弱だからurlの貼り方とか知らないとかじゃないです。



追記 1.28
微修正。黒山さんとの会話部分を分かりやすくしときました。コイツ脳内の2、3割程度の部分誇張しまくって話してます。3割程度の癖に引っかかる部分を他人使って解消してやろうとしてます。こんなシリアスな場面なのに。この引っかかってるトコロが次話に繋がるわけですね。あ~小説って難しいね
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