自分のことを工藤新一だと信じて疑わなかったヤツ(黒歴史) 作:はごろも282
《自らが演出を手がけた舞台「銀河鉄道の夜」。その公演初日にすい臓がんのため亡くなった巌裕次郎さん。舞台は巌さんを欠いた状態で3日目を迎えます》
厳かな雰囲気の中葬儀屋みたいな人のナレーションだけが響く。いや、シャッター音も響き渡っている。なんならシャッターの音の方がうるさい。
《そんな中、今日巌裕次郎さんの葬儀・告別式が開かれました。三千人を超える参列者が見守る中、今──演出家巌裕次郎さんが出棺されます》
霊柩車がゆっくりと進んでいく。シャッター音が一段と大きくなる。
『オレは高校生探偵工藤新一』とか今やったら様になるんじゃないだろうか。
というかこういう有名人の告別式とかってはじめてだからなんか新鮮だ。マジで実在するんだなという気持ちと俺がその場にいるという事実でなんとも言えない気分だ。
不審に思われない程度に周りを見回す。夜凪にアラヤをはじめとした劇団の奴らも喪服に身を包んで参列している。沈痛な面持ちだ。黒山サンや柊サンもいる、てか人めっちゃいる。多分有名人なんだろうなって人もたくさんいる。大栗旬とかいねーかな。
そんな中で、不思議と心には余裕があった。仮にも恩師との別れの場だと言うのに脳内でクソみたいなことを考えられる程度には。
きっと、納得のいく別れ方ができたからだろう。死の間際まで演出家として生きて、俺の師としてやることをやっての大往生だ。急な別れではあった。けれど、俺たちもこれから先前を向いて進んでいける、そんな離別でもあったということだ。
そんなわけあるかバーロー。
いや、いいと思うよ演出家として生きて。アラヤが戻ってこれなくなったとき、夜凪を通して全部どうにかした手腕は流石だった。途中アラヤと星アリサがダブって見えたりもしたが、結局のところジジイは自分でその過去を超えたわけだ。
常に進化する芝居こそ演劇、そう言うだけのことはある。人にモノを言うのなら自分がそうあるべきだよな。
ああ、流石だった。思い知らされたよ。演出家の作品は演者込みだってことを。
舞台を通して人を成長させる、そんな演出は胸を熱くさせた。最後に呼び戻してまで見せたかったものの正解はもう確かめようがない。だから勝手に学んだ気になって、勝手に覚悟するだけだ。死者は口を利かないから。
だから、切実に願う。黙って死んでってほしい。
最後に取り返しつかない爆弾おいて死んでく必要があったか?立つ鳥跡を濁さずってことわざ知らねーのか。濁しまくりじゃねーか。死ぬ間際にできる限りのクソして飛び立っていったよあのハゲ。
俺は悲しみとかそういうのとはまた別に普通に荒れ狂っていた。
許せねぇ……!人は必ず死ぬが俺の人生は続く、その真意を作品を通して教えた人間のやることとは思えない。
ジジイ、俺の人生はお前のクソ掃除するところから続いていくぜ。
回想シーンにのみ登場するヒロイン枠を確立したハゲの悪辣さにひとしきり悪態をついたところで、周囲がさらにうるさくなってきてることに気がついた。
聞き耳を立ててみた結果、普通にマスコミだった。演出家が消えた状況で舞台が続く天球のメンバーたちに注目が集まっているようだ。カメラに映るのがイヤな俺はさも当然であるかのような顔をしてその場を離れる。
「ちゃんと撮れよ、あいつだ」
「はいはいアキラと明神阿良也でしょ」
「ちげーよバカ」
カメラを抱えた連中のそんな声が聞こえる。やはり天球の連中のなかでも注目の的というものがあるらしい。考えるまでもなくあてはまる役者は一人しかいない。
「女優夜凪景。新人だが素晴らしい芝居をするらしい。もうみんな目をつけ始めてる」
流石は期待の新星ちゃんだ。凄い評価を受けていて俺も鼻が高い。別に何もしていないけど。これが後方腕組みヅラってやつなのかもしれないな。へいへ~い、俺は夜凪景の古参ファンだぜー!!
そんなことよりはやく知り合いを見つけたい。大勢がいる中で一人でいるのは非常に心もとないということを実感している。
あ、柊サンがいる。レイとルイのチビッ子も一緒だ。とりあえず合流しとこう。
「雪ちゃんおねーちゃんまだ?」
「うん、劇団のみんなとまだいるみたいだから」
「そうだぞ、ホラあそこ。インタビュー受けてるだろ?」
「あ、にいちゃん」
「ん?シンくんも景ちゃんと同じで──どうしているの?」
「抜け出しました」
「何やってるの助監督!?」
やめてその助監督っていうの。助監督とかになると責任とかついてくるし。巌裕次郎の作品なのにーとかいう厄介どもに絡まれるのはごめんだね。
「まあまあ、落ち着いてください。騒ぐとあの集団がここに来ます」
「最低の脅し文句だ……!」
なんてこと言うんだこの人。いったい誰が脅しなんかしたというのか。ただ善意で状況を伝えただけだというのに。
「にしても随分と人が多いっすね、見たことある顔ばっかだ」
「ね、日本のアーティストほとんど集合してそう」
「ハゲでカスなのに意外と人望はあったのかな」
「なんてこと言うのこの子!?」
「ねー見て!ウルトラ仮面喋ってる!」
そんなしょうもない会話はルイの声によって遮られた。ルイがさした指の先には多くのマイクを向けられたアキラの姿。
「僕と巌さんの付き合いは3か月と本当に短く、けれど巌さんに与えてもらったものは本当に大きいものだと思っています。なんて言ったら『俺は何も与えてねぇ』って怒られそうですけど」
アキラの返答が聞こえてくる。流暢な受け答えだ。
「さすが星アキラ、慣れてるねぇ」
「でしょう?俺が育てました」
「はいはい」
ちょっと?返事適当じゃない?そんなお姉さんじみた対応されるとうっかり惚れてしまうだろう。もっとおっきくリアクションしてほしい。
「では、お母様の星アリサさんと続いて親子二代での巌舞台になったわけですが」
知ったことかと言わんばかりに質問は続く。
「当時のお母様の評価に対してアキラさんは今回の出演に関してもコネだったという声が上がっています。そういった声が巌さんの舞台に与える影響についてどう思いますか」
凄い、とんでもないこと言われてる。周りもざわついているし多分とてもマナーが悪い。隣で柊サンも怒ってる、今にも吠え出しそうだ。ガオーっ!ワンワン!
「──どうぞ僕たちの芝居を観に来てください。皆さんの判断に任せたいです」
まっすぐ目をそらさずに、アキラはそう言い切った。大した奴だ。マスコミも隣のチワワ(柊)も呆然としている。便乗して俺も格好つけることにしよう。俺はそっと柊サンの肩に手を置いた。
「──俺が育てました」
無言で払いのけられた。
「ところで、今回の舞台はエドガー・コナンが補助としてついているという話もありますが」
「あ、彼なら──え、いない?」
「ちょ、シンくん!探されて──いない!?」
「おにーちゃんなら逃げちゃったよ」
「も、もう!!あの自由人め!!」
☆
会見も終わり、天球の面子はとある部屋に集合していた。
「アキラ~カッコ良かったよ~!」
不穏な気配を察知して適当に時間をつぶして帰ってきた俺が目にしたのは、異様に陽気な七生さんに絡まれるアキラの姿だった。
「なんで酔っぱらってるんですか七生さん明日も舞台ですよ」
「ノンアルでも酔うんだよ七生は」
こうしてみるとアキラも随分七生さんの扱いが雑になった。肩の力が抜けたということでいいんだろうか。
というかノンアルでも酔うなんてむちゃくちゃエッチじゃないか?すごくいいと思う。
とりあえずあたかも最初からいたような顔で立っていよう。
「って、だから阿良也さんくっつきすぎ!ふざけてんですか!?ていうかシンくん!?え!?いつから!?」
ダルがらみする七生さんを捌いたり肩を組んで密着している夜凪と阿良也に苦言を呈したりと慌ただしく右往左往とするアキラ。自由な先輩たちに振り回されて大変そうだ。
「ん?俺たちは親友だからね。フツーだよ」
「親友ってそういうのじゃないでしょ!!」
「だそうだ夜凪、遠慮せずに払いのけてやれ。そのまま顔面パンチだ」
「先輩今までどこに行ってたの?」
「それより星く……堀君」
「いやだからそれわざと──」
「失礼するわよ」
と、そんなアキラの台詞はある来訪者の声によって中断された。
「か、母さん!?どうして!?」
声の主はアキラの母、星アリサだ。鋭い目つきで喪服?に身を包んだ装いはなんとも大人の女性らしい美しさを醸し出している。
当然の来客に団員の顔もどこか固い。阿良也なんかは特に。それもそのはず。巌裕次郎、ひいては天球と星アリサの間には浅からぬ因縁がある。思うところがあるのはむしろ当然だろう。
対して夜凪なんかはそこらには疎い。今だってやっと誰だか分かったようで「……あ、スターズの」とか言っている。
そんなことを気にする様子もなく、こちらに向かって進む星アリサ。彼女の視線の先は、阿良也と夜凪のいる方向だ。
「……あなたはよく帰って来たわ。きっともう大丈夫」
彼女の言う『あなた』とは、阿良也のことだろう。多分、初日の公演で役に呑まれかけたことについてだ。彼女自身、阿良也を昔の自分と重ねていたのかもしれない。
そして、阿良也がそれを乗り越えた今、彼女の目的は夜凪景。
「けれど、公演はまだ30日近くある。日に日に芝居の精度は研ぎ澄まされてゆくでしょう」
謳うように言葉を紡ぐ星アリサ。彼女のことは少ししか知らないが褒めるためだけに来るような人じゃない。となれば、その目的はおのずと見えてくる。
「あなたはその度に死を体験する。自分にすり込むように何度も何度も」
夜凪の目の前で、ようやく彼女は足を止める。
「朝起きた時まず目に入る家族を昔の写真のように懐かしく感じたら気をつけなさい。あなたがあなたでなくなる前兆よ」
「お気遣い感謝します」
個人的にベストなタイミングで会話に切り込む。突然の横やりに虚を突かれたような表情の彼女。畳みかけるなら今だ。
「けれど、この公演に限っては何ごともなく終わらせます」
「あなたは……」
こちらを見つめる瞳がわずかに見開かれる。ふふん、いい気分だ。今のちょっとカッコよかったんじゃないか?
「江藤──エドガー・コナン」
「おっと江藤新と呼んでもらおうか。次に手が出ない保証はない」
どうして呼びなおすんだこの女!この息子との距離感拗らせおばさんめ!!読めてんだぞこっちは!
「なるほど、有希の息子がね……」
「母さんも知ってるのか。母が御迷惑を」
「ええ、本当にね」
えぇ……こういうときって『そんなことないわ』とかお世辞でも言うものじゃないの?即断で全肯定なんかするか普通?なにしたんだ母さん……。
「そう。なら、代役として責任を果たしなさい」
しばらく俺を見つめたかと思うと、視線を外してそう一言。なんとか認められたらしい。なんか、どっとつかれたな……。
「それともう一つ。良い話には気をつけなさい」
と、去り際にそんな台詞。そして、部屋から出ていく彼女と対照的に入室する新たな人物の影。
「手出し無用ですよ社長。ビジネスですから」
新たな人物は、星アリサとすれ違いざまにそう口にする。スーツを着こなした、背の高く細長い目で白髪の男だ。
「はじめまして。私は色々な才能を導くという……ふわふわしたことを生業にしているものです」
「……今日は人気者だね夜凪。次から次へと」
阿良也が夜凪にそう話をふる。ピリついているな。現状、職業が不明だからそれもそうか。
「プロデューサーの天知心一といいます。良い話を持ってきました夜凪景さん」
男、天知はそう名乗ると、その端正な顔に笑みを浮かべる。どうやら彼はプロデューサーらしい。
「事務所通されましたか?」
「……みんな?」
と、そんな天知さんの進路を阻むようにアキラが立ちふさがる。声を出してはいないが亀さんに七生さん、阿良也も同様だ。その姿はまるで夜凪を守るよう。突然の事態に夜凪もちゃんと混乱している。
俺も守ったほうが良いんだろうか?でも夜凪は俺よりフィジカル強いしなぁ…。
「……分かります。私の仕事は少々胡散臭く見えやすい」
おそらくそれは職ではなく風貌と言動のせいだろう。
「それにしても、本当に良い見世物……失礼……良い舞台でした」
会話もそこそこに、本題へ入るようだ。プロデューサーの会話術は相手を不快にさせるところから始めたりするものなのか。言葉のチョイスが死んでいる。
「さて、次は私の見世物になりませんか夜凪景」
そう言いながら何やら雑誌を見せる天知さん。なんて書いてあるんだろう。ここからじゃ見えない。
「どうして……」
あの空間に飛び込むのはだいぶ嫌だが、背に腹は代えられない。具体的には話の流れがつかみたい。
「私の仕掛けた記事です。これを皮切りにキミをスターにしたいと思っています。一緒に頑張りましょう夜凪景さん」
あ、何かの特集らしい。えーと、なになに?『新星女優は悲劇のヒロイン』?なんだこれ。
「誰が悲劇のヒロインだよ!!お前、何勝手なことして──」
「ちょ、七生さん」
あまりの無作法に烈火のごとく憤る七生さん。確かに、記事の内容は嘘もいいところだ。
「これは来週発売予定の文秋ですが心中お察しします。売れ始める芸能人はまずそこで苦しむ。自分の売れ方に」
流れるようにセールス?を続ける天知さん。紡ぐ言葉とは裏腹に一切の呵責はなさそうだ。
「でもね夜凪さん」
様々な言葉で懐柔しようと試みているようだが、次はどうするつもりだ──って、うそぉ!?
「『悲劇のヒロイン』は金になる。それでいいじゃないか」
あろうことか、天知さんは夜凪の頭上から万札の束を落とした。あれ、全部本物じゃないか!?現実味のない光景に俺は勿論、当事者の夜凪も硬直する。当然だ。ただでさえ生活に余裕はない暮らしをしてきた夜凪にそんな大金は猛毒だ。今も現実に意識が追いついて震えだし──あ、倒れた。
「夜凪くん!?えっ何されたの!?」
「見たことない大金に触れて腰が抜けたんだ」
「大丈夫か夜凪!傷は浅いぞ!誰か、誰か100円玉を持っていませんか!?小銭の音なら貧相なコイツも親近感で息を吹き返すはずなんです!」
「シンくん!それはあまりにも彼女に失礼だ!」
「せ、せんぱい……ここはバブルよ」
抱き起こしてやれば、支離滅裂なことを呟く夜凪。くそっ!脳がやられてしまった!もう助からない……!
「くッ……天知心一、卑劣な男だ……!」
「君は──いえ、今はいい。こんな額すぐに小銭に思えるようになる」
なんだって!?この紙束が!?じゃ、じゃあ少しくらい盗んでもバレないんじゃ……?
「私がキミを輝かせよう。この芸能界の誰よりも。君の不幸を武器にして」
「他人の人生を手前の物差しで測ってんじゃねーぞ守銭奴天知君。お前、罰金刑だな」
「――断るよ黒山。君には一円も惜しい」
天知さんの独壇場を止めたのは、これまた新たな来訪者。夜凪の会社の社長、ボサツいた髪と髭面のおっさんである黒山墨字だ。
知り合いだろうか、二人の間で険悪なムードだ。
「くッ黒山さん!?」
「次から次に誰だよ」
「キナ臭いな……」
「神妙な顔して言うのはいいけどその札束から手を放しなシン」
驚くアキラとツッコむ七生さん。七生さんは黒山を知らないらしい。どうやら阿良也は知っているようだけど。今も興味深げに髭面を眺めている。あぁっ!俺の大金!拾ったカード(万札)は七生さんに回収されてしまった。
「黒山。君はどうせ『夜凪の心を尊重しろ』などと悪人のような顔をして善人面で宣うのでしょう。先に言っておきましょうか」
すごい、先ほどまでの比にならないぐらいペラペラと喋りだした。おっさん同士弾む会話もあるのかもな。
「私も何より、人の心を最も大切だと考えています。なぜならビジネスとは人の心の売買だから」
「ハッ、心っつって脳幹指すあたりお前らしいよ。何が目的だ?」
「ですから、夜凪さんを頂きます」
「質問を変えるよ。お前にしてはやり方がみみっちぃ。何手先が目的だ?」
言葉の応酬は黒山サンのその台詞で一旦打ち切られる。どうやら口喧嘩では黒山サンに分があるらしい。あの男の意地汚さであれば驚きはない。むしろ順当だろう。
「……何のことで──」
「ペン」
天知さんを遮るように割って入る夜凪の声。どうやらペンをご所望らしい。
「ペンある?」
「勿論。ビジネスマンですから」
と、言いながらペンを差し出す天知さん。夜凪はそれを受け取ると、雑誌に向かってキュッキュとペンを走らせる。
「皆!わたしと皆って友達よね!」
「?」
「友達ってより……妹?」
「ペットだよペット」
「……こういうのは時間が大切だからね。今はまだ友達でいいと思ってるよ夜凪、いや景」
「何スかそれ?まだって……」
上から七生さん、亀さん、阿良也、アキラの順で口々に所感を言う。聞いて夜凪はフフンと満足そうだ。天知さんは夜凪の異常行動に疑問符が浮かびっぱなし。
「アキラ君。私って結構おしゃれよね!」
「え……あー、そういう見方ができる側面も……」
「素直になれよアキラ。街中で隣だけは歩きたくな──」
「それに!熱愛もしてないわよね!」
「そ、それはうん……大丈夫かシンくん」
な、なにも殴らなくてもいいのに……。ちゃんと空気読んでアキラだけに小声で言ったのに。
「黒山さん。レイとルイはカワイイわよね!」
「寝てるときはな」
夜凪式質疑応答が続く。途中で言論統制が入ったけど。目的はまあ、ひとつだろう。
「黒山さん、あと先輩も。私って不幸?」
「知るか。それはお前が決めろ」
まずい。黒山サンの返事が速すぎてタイミングを逃した。なんでこのタイミングで二人に聞くんだよバカ夜凪。って、なんでこっち見てんだ!もう言うことないよ!
くっくそっ!とりあえずしたり顔で頷いておこう。これで難題の6割は潜り抜けられるんだ。*1
そんな必死の願いが通じたのか通じてないのか、夜凪はフッと笑うと視線を雑誌に戻す。な、なんとか乗り切ったか……。
「うん、天知さん。添削したわ。これが本当の私」
そういって、ペンを置いて突き出した雑誌には、至る所に×印と書き直した跡。そこには等身大の幸せを享受する少女の影が見え隠れするのみだ。最初の不幸な少女とは似ても似つかない。
「私は私の好きな私を演じる。これからもずっと。だからあなたとは無理」
つまるところ、これは天知さんの誘いを拒否する返答だ。なんとも彼女らしい、堂々とした物言い。
「……なるほど」
明確な拒絶を聞いてすぐそんな台詞が出せるあたり、天知という男も相当なやり手だ。正直もう疲れてきたから帰ってほしい。
「まあすべてどっきりなんですけどね」
「……は?」
ここにきてそんなことを宣う天知さん。手のひらにドッキリ大成功の文字まである。用意周到だ。
いや、絶対ドッキリじゃないだろ。
「お金は本物なので回収しますけどね。集めるの手伝ってください。もちろん記事は偽物で、推しの女優をからかいたかっただけです」
「事案?」
「事案だろケーサツ呼ぶか」
言いながら札束を回収する天知さん。亀さんたちの発言は完全にスルーするつもりらしい。
しかし、札集めを手伝いながらふと思う。この、天知さんと黒山サンの夜凪を巡る対立。なんか──
「……おじハーレム?」
「先輩?どうしていま私を見てその台詞を口にしたの?」
しまった。つい口に出てしまっていたらしい。
「ねぇ先輩、どうして目を逸らすの?ねぇ!」
「景、アンタも探すの手伝ってよ」
「待って!今それどころじゃないの!なにか凄く不名誉なレッテルを貼られている気がするのっ!」
ハーレム系がなにか言ってる。確かに荒良也ともアキラとも色々あるみたいだし。アイツらはおじさんじゃないけど。
……ハっ!?じゃあもしかして俺もハーレム要因なのか……!?
「お、俺はそう簡単には落ちないぞ!」
「何言ってるの!?」
宣戦布告だ。俺には七生さんがいるんだからな!
「あ、そうそう。君、江藤新くんですよね?」
ビクッ!
札を集めるのをやめて急に振り返る天知さんに、思わず背筋が伸びる。さっきの、聞こえていたか……?
「な、なんすか……?」
「いえ、君にもお話がありまして」
「は?いや、申し訳ないですけど夜凪同様また日を改めて──」
「いえ、そうではなくて」
「……?」
なんだ、記事の誘いではないのか。じゃあ一体何だって──
「君に関しては既に発信済みなので、こうして報告をと」
「キシャ──ッ!!!」
全力で目標めがけて走る。狙うは当然、頸動脈──!!
「って、離せ!どうして邪魔するんだお前ら!」
「待って待って!落ち着いてくれ!」
「やめなってシン!いったいどうしたの!?」
どうしたの、だって!?
「この野郎!俺のエドガー・コナンも確認しろよバーロー!」
「いえ、それは巌裕次郎さんの仕組んだことですので」
「ここでもかクソジジィ!」
何処までも付きまとうなあのハゲっ!お前のせいでエドガー・コナンが副監督みたいな話が爆発的に拡散されてるんだぞ!人の心がないのか!
「分かった!後でちゃんと聞いてあげるから落ち着いて!やっとまとまったんだからさ!」
「放してくれ七生さん!どうせシンイチなんて名前にろくなヤツはいないんだ!ここで粛清してやるっ!」
「かつての憧れにそこまで言うかコイツ」
「ところで札が1枚ほど足りないのですが」
「今それどころじゃねぇんだよ!てかテメーも探せよ天知!」
「だいたいなんだそのデコ!ふざけてんのか!落書きされたのか!説明しろ!」
「ついに関係ないとこまでいちゃもんつけだした!?」
「あ、私も気になってたわその黒子。どうして見せびらかしているの?」
「景も変なとこで入ってこないの!」
いずれ、いずれ報いは受けさせるぞ天知心一!!
いい感じのエピローグ、完結か?
一年越しに、ようやく息抜きに入ります。数話かかるとして
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