自分のことを工藤新一だと信じて疑わなかったヤツ(黒歴史) 作:はごろも282
撮影開始から18日目
「ち、千世子ちゃん!」
私がベンチに座っていると、夜凪さんが声をかけてきた。後ろにはいつもの面子。どうかしたんだろうか。ていうかなんでそんなテンパってるの君は。
「……ここ、座ってもいい?」
「うん、もう座ってるね」
「「……」」
「千世子ちゃんのこと、千世子ちゃんって呼んでもいい!?」
「うん、だからもう呼んでるね」
「「……」」
え?何なのこの子ホントに。てか座るときの距離近いって。密ってレベルじゃないでしょコレ。仲良くなりに来たんだとしたらド下手だ。もしかしてバーローなんじゃないか。ここは小粋なトークで場を和ませてあげよう。
「どうしたの?関西人かってくらい距離のつめ方すごいけど」
後ろから関西人でももっとマシやわっ!という声が聞こえる。
やっべ、湯島さんいるの忘れてた。どうしよう。コレじゃうまい具合にコナントークに持っていけない。
いや、でも大丈夫だ。今ならまだ、夜凪さんが本題を切り出すだけで軌道修正できる。お願い夜凪さん!千世子ちゃんと友達になりたくてって言って!
「え?関西人って、距離のつめ方が私たちと違うのかしら」
絶望した。なんでソコ食いつくかなこの子!?ホントにバーローじゃん!無理だよ湯島さんの前で関西人バカにできないよ!絶対あの子コナンしらないもん!
もうよくわかんなくなってきた。多少強引でもコッチから話を切り出そう。
「え、えーと、あ!もしかして私とは仲良くなろうとしにきてくれた?」
「え?えぇ、でもそれより関西人「え?なんでわかるかって!?そりゃあ想像つくよ!夜凪さんは芝居に"心"を必要とするんだもんねきっと!」そ、そう。……?」
話を戻そうとするんじゃないよバーローだね君は!!
夜凪さんは私の言葉のどこかに引っかかったようで、こう聞いてきた。
「心を必要とするって、役者はみんなそうなんじゃないの……?」
落ち着け。表情を崩すな。私は天使だ。
そっかそっか、そういう認識ね。みんながみんな役になりきれると思ってるんだね。まあ彼女にとってはそれが当たり前なんだし、仕方ないね。
この程度で怒ったりはしない。イラつきはするが、その程度だ。
彼女は彼女で、私は私。ちゃんと仮面を含めた私を視てくれる人もいるんだ。彼との思い出は、私を成長させていた。
好きにはなれそうにないが、撮影を円滑にするためにも、ココは仲良くなっておかないと。
「それで、あなたは私と仲良くなるためにどうするの?」
さっきの問いにはあえて答えない。答えれば夜凪さんと仲良くなるのは難しくなるだろう。
私の質問に、夜凪さんはそういえば、といったような顔をしてからこう言った。
「そうなの、私にも一人仲のいい先輩がいるんだけど、その人から色々仲良くなる秘訣とか聞こうと思ったの。そしたら妹たちが乱入してきちゃって、結局聞けずに終わってしまったわ」
結局どうすればいいのかしら?とか言っている夜凪さんに、返答を返す。いいぞ、この調子だ。
「随分その先輩と仲がいいんだね。家族ぐるみの付き合いなんだ?」
夜凪さんはあまり友達がいなかったみたいだし、好きなことや自分のことを喋って貰ったほうが会話が弾む。相手が喋りたくなるような会話の回し方は、あのバカを思い出せばできるはずだ。
私は頭の中に脳内シン君を創り出していた。
「家族ぐるみっていうワケじゃないの。先輩は一人暮らしで、私も自分と小学生の妹弟とで暮らしているから。先輩と仲良くなったのは弟で、そこから私も話したりするようになったの」
うわ、笑顔になったと思ったら開幕から結構ドギツイのが飛んできた。キック力増強シューズでも履いていたんだろうか。
ていうかその先輩一人暮らしなんだ。高校生で一人暮らしって珍しいな。シン君みたいだ。
脳内シン君はタップダンスをしていた。あ、コケた。
「へ、へー。どうやって弟くんと仲良くなったの?あんまり接点とかなさそうじゃない?小学生と高校生って」
「妹が私があげたモノを落としちゃったらしくて、ソレを探してるときに手伝ってくれたんだって。私はじめ見たとき誘拐されかけてると思って蹴り飛ばしちゃったわ」
笑いながらそう言う夜凪さんに若干引いた。なんで見ず知らずの他人蹴り飛ばせるんだこの子。生き方がロックすぎる。
「それで、そのときに弟が懐いちゃって。あ、ルイって言うんだけどね?とっても可愛いの!この前も先輩にサッカーしてもらってたんだけど、帰ってきてそうそうにリフティングの練習はじめて。どうしたのって聞いたら、『今度遊ぶとき兄ちゃんビックリさせてやるんだ!』って。私ホントにうれしくて!」
うわ、すごいマシンガントーク。この子もしかしてブラコン?いや妹もいるんだしシスコンでもあるのか。でも、だいぶ打ち解けられた気がした。コレは勝ったのでは?脳内シン君も高笑いしてる。あ、むせた。
「じゃあ今は弟くんたちは先輩に預けてるの?」
「そうなの、今は事務所の人と先輩に頼んで面倒見てもらってるの。多分帰ったらまた報酬に料理とか作れって言われるわ」
「ふふっ、料理とか作ってあげてるんだ。ホントに仲いいんだね。一人暮らしだし、手料理が恋しいのかな」
シン君もそうだし。報酬に料理なんて、まるで私とシン君みたいだ。私もなにか頼むときは報酬と称して料理を作らされる。
そういえば、夜凪さんってシン君の後輩だったっけ。
……?
「よ、夜凪さん。その先輩って一人暮らしなんだよね?サッカーが得意で、人の手料理が好きな」
いやいやそんなまさか、流石にシン君も後輩に料理作らせたりしないでしょ。脳内シン君は全力で首を上下させていた。
「うん。最近は食べたあと『掴まれた……ッ!』なんて言うようになったけど、あれどういう意味なのかしら」
それは胃袋なのでは?私は怪しんだ。てか本人ならあのバカ胃袋掴まれてるじゃん。なにしてんの?わざわざこの私が作ってあげてるのに。いや、まだ本人と決まったわけじゃないよね?
脳内シン君は顔を青くして逃げ出そうとしてる。
「も、もしかしてその先輩、妙に察しがよかったり、急にカッコつけたり、奇行に走ったりする?」
踏み込みすぎたのか、夜凪さんはどこかコチラを探るような目を向けてきた。しまった、食いつきすぎたか……?
「……なんでわかるの?もしかして、千世子ちゃんもエスパー?」
良かった。ただの電波だった。違うよと否定する。ていうかもってなんだもって。身近にエスパーいるのか。ぜひ紹介してほしい。不思議に思い、尋ねてみると夜凪さんは答えてくれた。
「さっき話してた先輩なんだけど、あの人もエスパーみたいなことするの。なにかあると全部解決しちゃって、それでルイたちも『コナンみたいーっ!』って喜ぶんだけど、なぜかそのたびに嫌がるのよね……」
やっぱりあれは超能力なんじゃないかしら?という彼女の声は聞こえなかった。
完全に黒だった。コナンなら既に全身黒塗りだろう。確かに後輩とは聞いていたがそれほど仲がいいのは想定外だった。ていうか胃袋掴まれてるのが一番悔しい。なんだ?私より上手なのか料理。こんなかわいい幼なじみに料理させといていいご身分だな?帰ったら作る料理全部にレーズン入れてやるからな。
私は小さな復讐を決意した。仲良くなろうと思ったが、夜凪さんめ。どうやら相容れない存在らしい。脳内シン君は死期を悟ったらしい。穏やかな顔で眠っている。
顔合わせのときの件、さっきの役者は全員心で演じるといったこと、そしてシン君をもっていきそうなこと。普通にスリーアウトだ。色々と我慢していたが限界というものもある。正直最後のはどうでもいいけど。勝手に持っていけあんなヤツもう知るか。
私のことランとか言ってたくせに!!バカ!アホ!マヌケ!自分を工藤新一だと思い込んでる精神異常者!!死人がでないと存在価値無し男!!
「ゴメンね夜凪さん。ちょっと用事を思い出したから」
夜凪さんが固まる。ていうかこっち見て震えてる。どうかしたのか。大丈夫だ。今の標的はあなたじゃないよ。
「あ、そうだ!さっき夜凪さん、お芝居に心が必要なのはみんなそうだって言ってたよね?じゃあ、私があなたとは仲良くなれないって言ったらどうする?演技ができなくなる?それじゃだめだよね」
夜凪さんが息を呑んだ。
「だからお芝居に、心なんていらないの」
景と千世子の壁は、まだ壊せていなかった。
「ハイ、オッケー!」
カットの声が聞こえる。
「もうオッケーとしか言わないよねーカントク」
「はは、君たちの演技がいいからだよ」
今は町田さんとのシーンを撮り終えたところ。コレから私と夜凪さんの共演するトコロがはじまる。
彼女はまだ私と仲良くなれてないけど、どうするんだろうか。
カントクが夜凪さんに何かを言っている。まとめあげてくれなんて言ってたけど、やっぱりだ。ウソつきの顔してるよカントク。
それにしても天気悪いな。こういうとき、つくづく撮影は巻いたほうがいいと思う。
「大丈夫、一発撮りでいこう」
私ならできるはずだ。夜凪さんを制御して、撮影を無事終わらせてみせる。
夜凪さんが私の前に立つ。不安そうだ。
「夜凪さんは、お芝居は好き?」
問いかけてみる。夜凪さんは困惑していたが、
「うん、好きなんだと思う」
そう答えた。
「……そっか、ゴメンね」
多分、あなたの好きなお芝居はさせられないから。
本番が、はじまった。
夜凪さんはきっと、嘘を現実にすることを芝居だと思ってる。でもそれは間違い。現実は美しくないから嘘はキレイに加工しなくちゃならない。芝居は商品だから。全部が正しいだけの作品を大衆は見ようとしない。現実味がなくても、キレイなものにこそ人は惹かれるんだから。汚れた真実を大衆に見せて称賛されるのは探偵の推理だけだ。
だから私は、あなたも加工しないといけない。
「ケイコ、良かった無事で……他のみんなは?」
いつも通り演じる。次は夜凪さんのパートだ。暴走するようなら、ちゃんと制御しなくては。
「……わからない。夢中で逃げているうちに離れ離れになってしまって……」
「そっか……ケイコだけでも無事でいてくれて良かった」
夜凪さんが私に抱きつく。少し驚いている。普通の演技だ。
「本当によかった……カレンちゃんが生きていて」
彼女はちゃんと台本通り適応してきていた。一体どうやったのか、彼女は間違いなく私を友達だと認識できていないハズだが……?
でもよかった。コレなら彼女の演技を殺さなくて済みそうだ。
抱擁をやめ、彼女から離れる。
彼女をみると、なぜか泣いていた。
一瞬焦ったが、すぐに私も涙を流し、再度抱擁する。
ホントに油断ならないなこの子。演技の寒暖差が激しすぎる。コレでは作品が崩れてしまう。
「カット!オッケーだ!」
よかった。大丈夫だったようだ。監督の方へ向かう。端的にいえば、苛立っていた。
「夜凪さんを煽ったね?乙女の秘密は暴いちゃいけないって、忠告したのに……」
カントクは何も言わない。それが更に私を苛立たせる。
いけない、落ちつかないと。少しそこらを歩いてこよう。
そう思い、その場を離れようとしたときだった。
「──あんな仮面、かぶり続けてる千世子ちゃんが可哀想で」
話の流れは分からなかったが、そこだけはハッキリと聞き取れた。
……は?
確かにあなたの演技はすごいと思う。羨むものもある。でもさ、私の仮面悪く言うのは違うんじゃない?コレでも色々あがいて頑張ったんですけど?
「もう一度やりたい、やらせてください」
夜凪さんがカントクにそう頼み込む。
同時に雷がなり、雨が降り出す。
「……今のオッケーでいいよね?」
「ああ、悪いけど夜凪ちゃん。リテイクはなしだ」
雨が降ってくれてよかった。もしリテイクされてたら、夜凪さんとの溝は一生埋まらなかっただろう。
撮影の後、今日はインタビューが控えていた。そして現在はそのインタビューの真っ最中。
「漫画が好きということで有名な百城さんですが、今回の作品について、どう思っていますか?また、作品に対する感想なども聞かせてください」
「はい。最初は驚きました。でも嬉しかったです。デスアイランドは原作を読んでましたからね!まさか私がカレンを演じられるのか!って。カレンは普通の女子高生ですからね。年齢や設定が近いのもあって、自然体の私で演技できたので、是非会場まで足を運んでほしいです!」
ハイ以上でインタビュー終了となりまーす
あー、やっと終わったー!インタビューは疲れる。四方八方にカメラがあるから意識することも多いし。
「可愛く撮ってくれましたー?」
カメラさんに話しかける。いつも通り可愛いですよー?なんて返事が返ってきて、軽く談笑して部屋を出ると、
「枕投げをしましょう!俺達はお互いを知らなさすぎる!」
オーディション組の武光くんがそう言ってきた。
「枕投げ?は?なにそれ?」
竜吾くんが率先して突っかかる。いいぞー!もっといえー!
「交流会ですよ、俺達は互いを知らなさすぎますから」
再度武光くんが言う。だからなんで枕投げなんだ。竜吾くん、ガツンと言ってやれ。
私の思いが通じたのか竜吾くんは前にでると枕を持った。
……?なぜ枕をもったんだ?
「はっ!何かと思えば共演者との交流のため枕投げ!?くだらないねぇ!!」
投げてんじゃねーかバーロー。なにしてんのお前ホント。
「くだらなくないですよ!俺たちは飯を食うときもバラバラ!ろくに会話もない!コレでは同級生を演じるとき弊害がうまれる!」
武光くんが言葉を返しながら枕を投げる。なんで君もしれっと乗っかれるんだ。疑問に思わないか今の状況。
竜吾くんと武光くんの枕の投げ合いは続く。お前クランクアップした癖に一番ノリノリじゃねーか。はやく帰れよ。
「交流会でしたね。私もいいと思います。共演者を知らないと演じられない演技もあると思うので」
「そうだね。僕達も歩み寄るべきだった。すまない」
和歌月さんとアキラくんも存外乗り気のようだ。私はどうしようか。別に混ざっても構わないが、どうにも雨がヤバい。プロデューサーたちが今後どうするのかも気になるし……。
「千世子ちゃん!」
夜凪さんの声が聞こえソチラを向けばアキラくんが枕を思い切りぶつけられていた。え?なんでわたしを呼んだ?アキラくんにぶつけるとこを見てほしかったのかな?私達そんな仲じゃなくない?
「え、えーと、いい投げっぷりだね。砲丸投げとか出てみたら?世界取れるかも」
知らないけど。
「え、ええ!?ホント!?でも私は役者だし、どうしようかしら……?」
うわ、本気にしちゃった。普通そんなことなる?
「そ、それでさ!千世子ちゃんも枕投げやらない?」
まるで子犬のような目だ。多少申し訳ないが、ここは断らせてもらおう。
「ゴメンね。用事があるから先に戻るね」
あっ……という声が聞こえる。やめてその声。罪悪感が半端ないから。湯島さんが近づいてくる。
「千世子ちゃん……わかるやろ?夜凪ちゃんは千世子ちゃんと仲良くなりたくて」
ナニコレ、なんで私が悪いみたいになってるの?いいの?私が今動かないと撮影なくなるかも知れないんだよ?いいんだね?
仕方ない。ちょっとだけやってくか。楽しそうだし。
「……わかったよ。時間ないからちょっとだけね?」
アキラくんが驚いた顔をしてる。なに?意外ってこと?確かに私の顔にキズが付けば何億ってくらいの損害がでるけど。そんな万が一はありえないから大丈夫だよ。
「夜凪さん、枕かして?」
「う、うん!ハイッ!」
投げ渡された。普通に痛かった。千世子ポイントは下がった。
「夜凪さんハイパス!」
「えっ?あわっ!?」
私は夜凪さんに枕を投げ返す。夜凪さんは危なげにキャッチする。よし。
「じゃあ私はこれで!枕投げ楽しかったね!!」
完璧だ。コレで反感を買わずに抜け出せたハズだ。自分の天才さに鼻が高い。私は走ってその場を去った。
千世子が去ったあと、その空間の空気は重かった。
「え?なにいまの、なに?……え?」
「わ、悪く思わないでやってほしい。彼女も悪気があったわけじゃないんだ」
「いや悪気しかなかったやろアレ。むしろ悪気なかったら怖いわ」
みんな困惑している。アキラの擁護も流石に無理だった。擁護した本人の顔も困惑を通り越してもはや無だった。
「彼女はときおり、ああやって一人で誰も理解できない結論に達するときがあるんだ」
「嘘やろ!?天使やであの子!?」
湯島のツッコミが響き渡る。
アキラはもはやすべてを悟った遠い目だった。
「基本はいい人なんだ。自分の勝手で周りに迷惑がかからないように、ちゃんと自制も利く。今回の枕投げも色々考えて断っていたんだと思う。ソレがなんでああなったのかは全く理解できないけど」
アキラは真剣だった。冗談でもなんでもなく、本当に百城千世子は善意からあの奇行に走ったのだと言っている。
正気の沙汰ではなかった。現に彼の言葉を誰も信じてなかった。
ただ一人、夜凪景を除いて。
「そうだったんだ。私てっきり新手の嫌がらせなのかと思っちゃったわ」
「嘘やろ夜凪ちゃん!?なんで信じとん!?」
頭ハッピーセットなんか!?ウガーっ!と湯島が吠える。張本人よりもキレていた。怖い。
「ううん、ウルトラ仮面の言ってることは多分本当よ。茜ちゃん。善意でああいうことやる人、私にも心当たりはあるもの」
どうなってんねん君の交友関係、そんなのとは縁きりぃやとか言ってる湯島をよそに、夜凪は頭の中で自身の先輩を思い出していた。彼も基本的にはよくできた優れた人間なんだが、時折すごいバカになる。
この前も二人で映画の話で盛り上がって、私が一人じゃ観に行きづらい映画があることとかを話していたら、一週間後その映画のパンフレットと感想が書かれた作文用紙を渡されたことがあった。
なんの嫌がらせかと思ってボコボコにしたあと事情を聞くと、
「だって観に行きづらいって言ってたから。せめて感想だけでも教えてやろうと思って」
そう言ったのだ。あのときほど他人の頭を心配することは今後そうそうないだろう。
そういう経験もあって、景は自分の理解の追いつかない思考をする人間がいることを知っていた。きっと彼女もその人種だろう。
景はそう結論づけた。そして、
「ウルトラ仮面、千世子ちゃんの部屋教えて」
ブルドーザーは、天使に直接攻撃することにした。
夜凪さんたちと別れて今後のスケジュールなどを調べていた私は今、カントクのもとへ向かっていた。
「駄目だ!!」
うわビックリした!!急に大きい声を出さないでよ!!まったくもう!
そのまましばらく話を聞くと、台風の影響でケイコの役をカットしようとしているらしいことが分かった。それで監督が珍しく声を荒げて反論していると。
いけ!頑張れ監督!ここで意見突き通さないと大変なことになるから!主に私の負担とか!
そのまま静観していると、なぜか監督が折れた。使えねーなあんたホント。今のところ私に害しか与えてないぞ。
私が監督を罵倒していると、夜凪さんが現れて監督たちを説得しだした。よし!この流れに乗じて私も出ていこう。
「監督。私千世子ちゃんと演じたい。今度は必「ダメだよ」!?」
やっべ。入るとこミスった。これじゃ私も夜凪さんに反対してるみたいだ。いや、これはこれでちょっとした意趣返しになるんじゃないか?そうだそういうことにしよう。
「最小限のリスクで最大限の利益を……でしょ?余計なリスクは背負えないよ」
やばい。私かっこいい。夜凪さんの顔もグッド、気分いいね。
「……主演が一番よくわかってるね。時にはあきらめることも必要だ」
おっと、プロデューサーさん?別にあなたに賛同したわけじゃないんだから落ち着いてよ。
「台風だろうと何だろうと、このシーンは撮らないとダメだよね」
プロデューサーがあわててるが構わず続ける。
「あと二日早ければ改稿のしようもあったけどもう遅いよね。三幕構成くらい守らないとさすがにお客さん騙せないよ。私なら全然巻けるし問題ないよ。撮ろう」
「い、いいの?千世子ちゃん」
夜凪さんが尋ねてくる。なんだこの子。私が助けてくれたとでも思ってるのか。そんなわけないだろ。
「私は売れる作品のためならなんだってするよ。だからいやでもあなたには最後まで付き合ってもらう」
「……うん!」
ここからが勝負だ。
台風が去り、撮影は再開した。残ってるシーンはほとんどが私の出る場所だ。主演なんだから当たり前だが。ということは、私がセリフ全部覚えて全て長回しの通しでできるようにしてしまえば撮影はいくらでも巻ける。*1私の天才的頭脳プレイにより現場には活気が戻ってきていた。なんなら絵コンテとかまで手を出してる。疲れはするが表には出すな。もし出てしまえばその分だけ遅延する。この状況でそれは許されない。
翌日、二度目の台風接近の知らせがあった。ちょっとそれはハード過ぎないかな?でも、これは夜凪さんとのあのシーンに使えるかも。臨場感も生まれるし最適だ。
問題は、周りがそれを許してくれるか、だけど……。
「……監督。わかってるんでしょ?ここで撮るしかないよ」
声をかける。責任者としてどうするか迷ってるな。ここでもう一押しできればいいんだけど。そう考えていると、夜凪さんが扉を思いきりあけながら入ってきた。
「すいません。予定の時間過ぎてるんだけどまだ撮らないのかと思って急いできたんだけど……」
ベストタイミングだよ夜凪さん!
「ワンカット長回し!一発撮りで行く!君たちのことは必ず僕たちが守るから、よろしく頼む!!」
さすがに現場も緊迫している。そりゃそうだ。こんな状況の撮影普通ならありえない。でもやるしかないんだからしょうがない。
夜凪さんも緊張している。まだ私をカレンだと思い込めてないんだろう。でも失敗されても困るな。話しかけておくか。
「夜凪さん。顔はケガしちゃだめだよ?役者なんだから。顔以外はいくらでもケガしてもいいけどね……冗談だよ?ケガはNGだからね?」
そういえばこの子あんまり冗談とか通じない子だった。失敗した。
「う……うん」
うわめっちゃ困惑してるじゃん。ていうかさっきよりも固くなってない?コレ私のせい?どうしよ、なんか話して戻さないと。なんか話せなんか話せ!
「……枕投げ」
「え?」
こっちがえ?だよ。なんだ枕投げって。なんで今出てきたんだ私のバーロー!もうこれから続けるしかないじゃん!できなかったらヤバいやつじゃん!どうにかしろ私!!
「撮影終わったらさ、枕投げやろうよ。今度はちゃんと。アレ、私ちゃんとできなくて悔しかったんだよね」
終わった。何言ってんの私。夜凪さん呆けちゃってんじゃん。取り返しつかなくないこれ。夜凪さんが口を開く。
「うん!いっぱいやりましょう!」
あ、なんか成功したわ。……私ってやっぱ天才!!
よーい、スタート!!
「森の中のあの建物にきっとこのゲームの主催者がいるんだわ。直接会って話し合うの!ちゃんとわかってくれるはず……!」
私と夜凪さん二人の芝居が始まった。
「大丈夫、私がケイコを守るから。こんなの捨てちゃおう!」
走り出す。雨で地面がぬかるんでるから細心の注意を払え。
「時間がない。夜明けまでに見つけないと!いくよケイコ!」
ここからはケイコのセリフも入ってくる。彼女もうまく演じてくれないと、全部終わる。頼むよ夜凪さん!
A地点を通過する。ここで火薬が爆発するはずだ。足を踏み外さないようにしないと。
そのとき、突然腕をひかれた。驚いて座り込む。目の前には、夜凪さんが私を守るように構えていた。
「大丈夫!?カレン!!」
思考が止まったまま動かない。まだ演技の途中なのに。
「伏せて!遠くから狙われてる!私たちを近づかせないつもりだわ!」
ケイコのセリフが続く。どういうわけか、彼女は私をカレンだと認識できている。私のほうも一瞬硬直してしまったが、もう動ける。大丈夫だ。
「ありがとうケイコ、行こう」
夜凪さんがケイコになりきれているということは、もう心配していたミスは起きないとみていいだろう。僥倖だ。あとは私がケイコに押されないようにするだけだ。
改めて先へ進もうとする。すると後方に引っ張られる力を感じた。夜凪さんだ。顔を見ると、おびえていた。役になりきりすぎた弊害だ。
「ケイコ、大丈夫。行こう」
仮面を変える。相手を安心させる天使のような笑顔を浮かべる。大丈夫だ、私は喰われない。
「うん、行こう」
夜凪さんは安心したような顔をして、立ち上がってくれた。よし、先へ進もう。
B地点へ突入する。いよいよクライマックスだ。
「来た!隠れてケイコ!!」
全力でカレンを演じる。気を抜けば主役を持っていかれる。
「やっぱり脅しだわ!当てる気はないみたい!」
「どうして!?」
「仲間同士で殺し合わせたいだけなんだ!」
「酷い……!なんのために!」
ここまで夜凪さんの演技は完璧だ。ほんとに女優かってレベルの泥臭い演技、それは私を喰いかねない。
「攻撃が止んだ!今のうちに!」
でも、あなたの演技が激しければ激しいほど、
「見えてきたよ、ケイコ」
私の演技は、より美しく際立つ。
いけない。仮面が外れそうだ。この子といると、いつもこうなる。流されちゃだめだ、私の演技を思い出せ。
本当は、このシーンが始まる前から気がついていた。彼女が私を視ていることに。いつからだったかは定かではないが、彼女は仮面ごと私を認めてくれていた。
本当は気がついていた。あなたが芝居に全力なだけだってこと。ホントは気づいてた。途中から芝居関係なく仲良くなろうとしに来てくれてたこと。
でもそれは認めたくなくて、私はその事実から目を背けていた。
だって悔しいじゃないか。あなたには私にない才能があって、私はそれが悔しくて、嫉妬して、八つ当たりみたいなことしてたのに。人間性まで私より上だっていうのかちくしょう。
あなたは、私とは真逆の演技をする。自分の横顔を見られることを気にしない。
あなたを見てると、彼を思い出す。頭は回るのにバカで、運動はできるくせにドジで、すぐ調子に乗って痛い目見るどうしようもない奴なのに、なんだかんだ相手のこと視てて、不安な時は助けてくれて、肝心な時は外さない精神異常者の幼なじみを。
性格も言動も全然違うのに、どこか彼と重なるあなた。そんなあなたを根本から嫌いにはなれなかった。強く拒絶しようとしても、最終的には折れている自分がいた。
あなたは今この仮面を認めてくれている。これごと私を視てくれている。なら私はこの仮面で最後まで演じて見せる。あなたたちが認めてくれる、この自慢の仮面で。
今なら言えそうだ。私、あなたと仲良くなれるかも。
そんなことを考えていたのが悪かったのかもしれない。芝居から気がそれていた。最悪だ
水に足を取られた。
一番やっちゃいけないことなのに。ごめんね監督。私の事故って今後に響いちゃいそうだ。
ごめんね夜凪さん。けがはNGって言ったの、私なのに。せっかくこんな私を好きになってくれたのに。
どうしようもないと流れに身を任せていると、手をひかれた。体が道に戻される。
「カレン、行って」
夜凪さんが私の代わりに落ちていく。台本通りだ。違うのは、ここが決まった場所じゃなくて、安全もちゃんと確保されてないトコロだということ。
「ケイコ!!」
セリフが出てこない。彼女がせっかく修正してくれたのに。無駄にするのか、その頑張りを。
言えよセリフを。作れよ仮面を。何してるんだ。いつもやってるだろ。あとはありがとうと言うだけだ。友達候補がつないでくれたんだぞ?絶対にやり通せよ。
口を開く。いつものように、いつもの仮面で──
「ありがとう」
仮面は、とっくに外れていた。
あの後、夜凪さんは安全対策で張られていたネットに引っかかっていたところを保護された。彼女は幸いにもかすり傷程度の軽傷ではあったが、その日から高熱に襲われ最終日までベッドで過ごすこととなった。
そして最終日、
「カット!これにてクランクアップになります!お疲れさまでしたー!!」
無事に撮影を終えることができた。疲労から一息ついていると、夜凪さんが下りてきた。よくなったんだ、よかった。
「百城千世子さん、星アキラさん、そして夜凪景さん、クランクアップです!」
そういって花束を渡される。夜凪さんは困惑していた。どうやら何が起きているか理解できていないらしい。監督が説明をする。すべて聞き終えて夜凪さんは固まっていたが、
「知らなかった。こういう時こんな気持ちになるなんて。ありがとう、すごくうれしい」
そういって、泣き出した。むき出しでぐちゃぐちゃの顔だったが、それはとてもきれいだった。
その日の夜、私たちは打ち上げをしていた。私と夜凪さんのおかげで時間ができたからだ。全員私たちに死ぬほど感謝してほしい。
「ずいぶん人数減ったよね」
そう監督に話しかける。
「そうだね。スターズ組はクランクアップした端から東京へ戻っていったから。みんな驚くと思うよ。あの夜の君の演技を見たら。……怒ってる?」
「当たり前でしょ?あれだけ乙女の秘密には触れるなって言ったのに。もう映画出てあげないよ?」
「おっと!?それは本当に困るなぁ!?」
まあいい作品になったならギリギリ許容してやってもいい。
「……助監督時代にね、生意気な後輩が言ってたんだよ。『俺たち映画監督は呪われている。見たことないものを見るためなら人の道を外れることをいとわない』ってね。僕は僕に少し安心した」
監督の言葉は続く。
「僕はどうしても君のまだ知らない顔を撮りたかったみたいだ」
カントクの顔は満足げだった。……まいったな。そんな顔されたら多くは言えないじゃないか。
「あーあ、私の初めて、あげる人決めてたのになー。カントクにとられちゃったよ」
だからこれくらいは許してもらおう。
「おおい!?言い方に悪意を感じるなあ!?まあいいや。それで、キミにそういわせる幸福な監督は誰なんだい?」
有名なのかい?僕も知ってるかな。と言っているカントクに笑顔を見せる。もちろん知ってるはずだよ。特別に教えてあげよう。
「その監督の名前は、エドガー・コナン。天才少年の作品の主演を飾るのが、私の目標の一つでもあるんだから」
カントクの眼が開いた。とても驚いている。気分がいい。
「驚いた。ここでその名前を聞くことになるとはね。確かに彼なら納得もできる。けど、彼は作品を一作出したきり失踪している。そして復帰するかどうかも「するよ」……?」
「彼は必ず復帰する。だって彼の作品は、まだ完成してないからね」
そうだ。あの作品はまだ完成してない。アレは私が主人公の作品なんだから、私が歴史を紡ぐ限り、完成しない。私が満足いくまで、終わらせない。そもそも主演が私じゃないなんてありえない。いずれ無理やりでも復帰させてリメイクとして作らせてやる。
「……随分と自信を持っているね。もしかして彼の正体を知ってるのかい?」
おっと、しゃべりすぎた。悪いけど、ここからは教えられないね。
「It’s a big secret. I’m sorry, I can’t tell you…… A secret makes a woman woman……」
このセリフは大好きだ。もはや私のセリフにしてもいいんじゃないか。あのキャラもなんとなく私に似てる気がするし。
私のセリフに監督は茫然としていたが、我に返りひとしきり笑ってこういった。
「君は本当にコナンが好きだねぇ」
何度も言っているが、好きじゃない。そう言って、私は背を向けてその場を立ち去った。
カントクの元を離れた私は、夜凪さんを探していた。話したいことがあった。あ、いた。なんか食べてるとこ悪いけど、少しだけ付き合ってほしい。
「夜凪さん。ちょっと反省か……デートしに行こうよ」
話しかける。夜凪さんはこちらを見て固まった後、震えて返事をした。
そんな怯えなくてもよくない?私は悲しかった。
景を呼び出した千世子は、人気のない場所に来ていた。これに対し、景はビビっていた。それはもう盛大に。あんまり私のこと好きじゃないだろう同僚が急に失態を犯した自分を呼び出したらどう思う?少なくとも景は腹パンくらいは覚悟していた。顔面はさすがにしないだろう。できれば一思いにやって欲しい。景の頭の中はそんな感じだった。相手が天使の肩書を持つことなど記憶から消し飛んでいた。
「前にさ、私と仲良くなろうとしてくれたよね。あれって、演技をするためだった?」
思わぬ質問に景は硬直した。意図はわからないが真摯に答えるべきだ。そう直感した。
「最初は、そうだったわ。でも、台風が来て、できることを全力でやっているあなたを見て、分かったの。その仮面は、あなたの映画への執念そのものなんだって。いっぱい努力して創りあげたものなんだって。それからは、本当に友達になりたかった」
この際だ。思ってることは全部言おう。景はそう思った。
「千世子ちゃんは、どこか先輩と似てるわ。全然違うのに、ふとしたところが重なるの」
枕投げの時の意味わかんない行動とか、とは言わなかった。言ったら雰囲気が崩れる。景は大人だった。
その言葉を聞いた千世子は、面食らったような顔をしていた。それに景は慌てる。
「ご、ごめんなさい。いきなりそんなこと言われても困るわよね!私ったらホント「そうじゃないよ」?」
千世子の声がかぶさる。千世子は笑いながら続ける。
「私もね、同じこと思ってたの。あなたは私の幼なじみと似てる。性格も性別も違うのにね。名前は江藤新っていうんだけど……」
知ってる?なんて聞いてくる千世子に、景は困惑した。まさか相手も同じことを思ってたなんて。しかも幼なじみ男なのか。仲いいんだろうか。くそっ!千世子ちゃんの幼なじみとかうらやましい!
江藤新め!なんか既視感ある名前だなと思ったら先輩と名前同じじゃん!……え?名前同じじゃね?
じゃあ何?あの人千世子ちゃんのこと知ってるの?一年くらいいてそんなこと聞いたことないけど?さすがに同姓同名か?
景はさらに困惑した。
「ははっ。夜凪さんはわかりやすいね。あなたの考えている通り、先輩と私の幼なじみは同一人物だよ。実はメールであなたのこと聞いてて、黙っててごめんね?」
「????」
景はさらに困惑した。もはや自傷率100%だ。欠陥ポケモンもいいところである。
「私もさ、たまに料理とか作ってあげてて、この前そんな話をしたじゃんか。それで、先輩とは聞いてたけどそんな仲良かったんだって驚いたよ」
徐々に状況が理解できてきた景の耳に、とんでもない爆弾が飛んできた。料理を作ってあげてる、だと?千世子ちゃんが?先輩に?
「……せない。許せないわ!!私だって千世子ちゃんの料理食べたい!」
景は壊れた。戻ったら黙っていたことも含めて必ず報復をしようと決めた。私と先輩の仲なのにどうして教えてくれなかったんだ。景は怒りに震えた。
それを見て千世子はドン引きした。なんなら怖かった。前回は千世子が景と同じようになっていたが、千世子はそれを知らなかった。
景が落ち着きを取り戻してしばらくして、
「あの夜に撮った映像、夜凪さんは観た?」
千世子はそう切り出した。これを聞いて景は落ち着いて答える。
「う、ううん。ず、ずっと寝てたから」
嘘である。彼女はついに来たかとビビり散らかしていた。なおも千世子の言葉は続く。
「私さ、思わずケイコって呼んでたよ夜凪さんのこと。ああいうのを芝居って言ってたんだね。自分でもびっくりしちゃったよ。あの時の私、顔ぐちゃぐちゃで超不細工でさ」
言葉とは裏腹に、千世子の顔はすがすがしいものがあった。ここまでくると景もあれ?怒ってないかもと気づいたようだ。千世子は話すのをやめない。
「でも案外、私の横顔もきれいだった。だからありがとう。私の芝居はもっと良くなるよ。あなたの芝居を盗んじゃったから」
それは宣戦布告だった。負ける気はないという意思を、率直にぶつけてきていた。
「……うん。私ももっと──」
言い終える直前だった。あたりが明るくなった。花火だ。
「さすがに二人を仲間はずれにするわけにはいかないからね。締めに海で花火と行こう。乙でしょう?」
カントクがそう言う。
「花火!?本当に!?」
景はすごい喜んだ。あまりの感情の起伏に千世子はちょっと引いた。
「みて!みんな!花火二本で二倍きれい!!」
「こら!危ないで夜凪ちゃん!」
はしゃいでる声にたしなめる声。どちらも楽しそうだ。
「夜凪甘いぞ!見てろ!!」
「ギャーッ!武光てめぇコラァ!打ち上げ花火ほとんど使いやがった!!」
騒がしい声が響く。そんな中、夜凪は端で線香花火をしている千世子のもとへ駆け寄った。
「見て!千世子ちゃん!!とってもきれい!すごいでしょ!?」
好きな子に話しかける小学生か。光彦でももっとうまいわ。でもせっかく私の元まで来てくれたんだ。とっておきを見せてあげよう。
「夜凪さん、あっちいこ?」
そういって武光くんたちのもとへ行く。まだ打ち上げ花火は残ってるだろうか。
「ごめん、打ち上げ花火って残ってる?」
そう話しかける。源くんたち仲良し組は驚いているが、
「え、あ、はい。武光の奴がほぼ使っちゃいましたけど、まだ残ってます。やるんすか?」
「おお、どうぞどうぞ!やっていってください!!」
みんなはそう言って私に打ち上げ花火を渡してくれた。不思議そうな顔の夜凪さんに話しかける。
「今からとってもすごいものを見せてあげるから、楽しみにしてて?」
私が準備していると、監督とアキラ君も近づいてきた。
「何するんだい?ケガだけはやめてくれよ?」
「だいじょーぶだって。でも危ないからみんなこっちに来ないように見張ってて」
私がそういうと、アキラ君は露骨に顔をしかめた。なんだその顔。喧嘩売ってんのか、さっさと場所取りしてこい。
「千世子ちゃん、いったい何するの?」
夜凪さんたちは心配そうにこちらを見ている。そろそろ教えてあげよう。
「夜凪さんたちは、コナンって見たことある?……あ、わかるんだね。よかったー」
私がそういうと、何をするのかと集まってきていたスターズの人たちが頭をおさえた。なんだその反応。ていうか見世物じゃないぞ。そんな大勢で来るな。
状況が呑み込めていないオーディション組にアキラ君がひきつった顔でこういった。
「前に話したよね。彼女は時々奇行に走ることがあるって。それに加えて彼女はああみえてコナンジャンキーでね。映画もどれだけ忙しくても毎年初日に見に行ってる。僕も何度か付き合わされたよ。それで時々こうして再現できそうなときは暴走するんだ。スターズはもう慣れたよ。多分今回は打ち上げ花火を使って何かやるんだろうけど……」
何するかまではわからないな。そういってるアキラ君に安堵する。バレてたら間違いなく止められるからね。
よし、準備が完了した。気づかれる前にやってしまおう。
「打ち上げ花火っていえば、ちょっと前の映画で*2コナンが蹴り飛ばしてたけどな……ってまさか!?」
源くんが何かに気が付いたようだがもう遅い。テープで巻き付けたすべての打ち上げ花火に火をつけ、全力で蹴り飛ばす!
「いいいいいっっっっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
蹴り飛ばされた花火はどんどん上に進んでいき、おおきな花火となって破裂した。後ろで顔を青ざめさせている監督たちを無視して、夜凪さんに話しかける。
「どうだった夜凪さん。最高にすごかったでしょ?」
夜凪さんは笑顔でこう言った。
「うん!最高だわ千世子ちゃん!!」
こうして、私たちのデスアイランドは終わった。
「あぁ、奇行に走るって本当やったんや。私、また勘違いしてたわ」
そんな声は聞こえていなかった。誰が奇行だバーロー!
余談ではあるが、当時この状況を見ていた源真咲は、のちにこう語った。
「マジで原作と一致してたなあれは。蹴りで風圧出す人間なんて初めて見た。ちょっと足光って見えたし。千世子……さんって、毛利蘭の生まれ変わりなんじゃないっすかね」
自分の中の千世子が抑えきれなくなった、気づいたらおかしくなっていた。などとわけのわからないことを繰り返しており……
最初の方で千世子がプランを押し通していたら
「え?関西人って距離のつめ方が私たちと違うのかしら」
「そうだよ。彼らにはパーソナルスペースって言葉がないからね。多分道頓堀あたりに落としてきたんだと思う。だからそんな距離の詰め方してたら関西人にしか見えないっちゅうわけでおまんがな」
「上等やかかってきぃゴラァッ!!」
たぶんこうなる。源くんだけ元ネタ分かって困惑してる、でも千世子の顔で笑っちゃう。
没にした理由は間違いなく湯島さんとの仲が修復できなくなるから。
新章の間の軽い日常回について
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これはお前の物語だ。
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やるしかないならやるだけだ。
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興味ないね…。