オールマイトが本来の姿に戻った直後、緑谷は町中に響き渡るような奇声を発した。当然だ。小さい頃から憧れていたヒーローが、突然ガイコツのような見た目になったのだから。
「う、嘘だ……」
ショックを隠せず、緑谷がそう漏らす。
「オールマイト、か。驚いたな。なぜそんな姿に……?」
聞くと、オールマイトは一瞬躊躇い、
「いいだろう。見られたついでだが、決してネットに書き込んでくれるな少年少女?」
そう言ってシャツをめくった。見えた傷跡は、その破壊の生々しさを今でも感じさせる物だった。知っていた私でも、思わず眉を顰めるほどだ。
「これは5年前……ある
「度重なる手術と後遺症で憔悴してしまってね。……結果がこの有様だ。」
「そんな……オールマイトが誰に?まさか、毒々チェーンソー?」
「いや、それはないと思うぞ?」
何だその名前はと思ったが、聞いたことがあった。一応全国指名手配されていたが、あれにやられるわけはない。
「……詳しいな。だが、あんなチンピラに負けはしないさ。私が、公表するなと頼んだんだ」
そう。AFO。現在の弱体化したオールマイトの拳ですら私は受ける自信はないというのに、全盛期の彼と渡り合った本物の化け物。
「ヒーローは悪に屈してはならない。だから、笑うんだ。人々に希望を与えるために。己の内の恐怖を超えるために。」
これが本物のヒーロー、次代を導く者か。……私との格の違いを見せつけられているようで、恥ずかしいな。
「少年。君は『無個性』だったな。君の努力は体を見ればわかる。だが、あまりに凶悪な『個性』を持った
そう言ってオールマイトは去っていった。その背中は、あの
「……すまない、緑谷。こんなつもりでは……」
いや、私も正直予想外だった。ここにいるのは本来のやせっぽっちの少年ではなく、心身を鍛えた立派な青年なのだ。オールマイトも緑谷がヒーローになることは否定できないと思ったんだが……。やはり、彼が戦った
「謝らないで火守さん。確かにオールマイトに諦めろって言われたのはすごく……かなりショックだけど、吹っ切るよ。僕は僕の出来ることをするだけだ!」
「いや、私の気が済まない。……そうだ、何かして欲しいことはあるか?今なら何でも一つ聞こう。」
私程度が慰めにできることもあまりないだろうが、少しでも精神的なダメージを軽減できればと提案してみる。だが、
「えっ?いやいや、いいよ僕気にしてないから!ほら帰ろう!」
と慌てた様子で言われた。……やはりかなり落ち込んでいるようだ。
爆豪 勝己は荒れていた。取り巻き2人があれこれと言ってくることも気にせず、己の中の怒りをさらに激しくしていた。
(クソが……あのデクの野郎が……俺に並ぼうってか⁉︎)
緑谷 出久。彼の幼馴染で、いつも自分の後ろをついてきていた『無個性』の
あの日までは。
(そうだ……あのクソ女……!アイツがあのクソデクに関わり始めてからだ!)
自分と同じ学校に進んだ緑谷に難癖をつけていた時、止めに入った女。何の関わりもないはずの緑谷を庇った奴。自分よりも身長が高く、関わるたびに見下されているような気分になる———実際に常に余裕を持っていたのが気に入らない———が、まあそれは良かった。問題なのが、
(アイツに勝てる、ビジョンが見えねえ!)
最強を目指す彼にとって、その女は常に壁であり続けた。
気に入らないことをした
「気に入らねえ……」
そう零したのを聞き、2人が語りかける。
「緑谷のこと?いや、あいつのことなんでそんな嫌ってんのさ。」
「そーそー。バッキバキだぜ、アイツ。……火守とずっと一緒なのは見てて腹立つけど!」
「あいつら……俺の前に立ってるつもりなのが気に入らねぇんだよ!特にデク!」
そう言ってペットボトルを蹴り上げる。まだ中身が入っていたのか、鈍い音を立てて転がっていった。
「じゃ……じゃあさ!あの近くのゲーセン寄ろうぜ!」
「そーだな。あそこカモ多いし!」
「だーかーら、そういうのやめろっつったろテメェら!俺の内申に響いたらどうする!」
その言葉に、口には出さずとも同時に(みみっちい……)と思う2人。だが、その視界に恐ろしいものが映った。
「ば、爆豪……後ろ……」
そして爆豪は呑み込まれ————
私と緑谷は、吹き上がる爆炎と瓦礫を呆然と見ていた。
オールマイトと別れてからそのままいつもの帰り道に戻っていたら、近くの商店街から煙が上がっているのを見つけたので寄ってみると爆豪があのヘドロ
そのせいで爆発が起きるたびに散弾のように瓦礫が飛び散り、平和だった商店街が紛争地帯のような有様だ。それにしても、いったい何であんな変化が起きたのだろうか。
……私のせいだな。私が緑谷に逃されたことから学習して、遠距離攻撃と盾を手に入れたのか。これは、本当に並のヒーローでは手に負えない。それどころか、緑谷が「知識」のように飛び出していけば強くなった今でさえ負傷、最悪の場合命を落としかねない。
「かっちゃん、そんな!ヒーローたちは……」
「この周辺のヒーローは皆あいつと相性が悪い、あるいは決定力に欠ける奴らばかりだな……危ない!」
飛んできた瓦礫を手で打ち払う。それにしても今でこそさほど苛烈でなくなったとはいえ、昔は酷い扱いをされていた幼馴染をよく心配できるものだ、と尊敬すらしてしまう。
「緑谷、下がろう。あれに巻き込まれては命が危ない。」
そう言うが、緑谷の足には力が入っている。
「……まさか、彼を救けるつもりか?」
「だって……」
緑谷は、強い感情の籠った目で私を見て、言った。
「かっちゃん、救けを求める顔をしてた‼︎」
……素晴らしい。何と素晴らしい。緑谷、君は間違いなく最高のヒーローになれるだろう男だ。だが、だからこそ。
「それでも、助けに行かせない。ここはヒーローの出番だ。それに、君を死なせるわけにはいかない。」
君を万が一でも失わせない。そう決意を込めて言うが、緑谷はこう返した。
「確かに僕1人なら、あの中に飛び込んでも何もできない。だから、
そう言われても、はいと頷く訳がない。私は……
あっ。
私は彼の願いを
なんとか回避する方法はないかと考えたが、どうしようも無い。くそっ、「危ないことは禁止」なんかの条件はつけておくべきだったろうに。何でもは言いすぎた。ぐしゃぐしゃと頭を掻いて、告げる。
「分かった。そういう約束だったからな。ただ……君が危ないと思ったらすぐに脱出させるからな。」
ちゃんとプランはあるんだろうな?
その
『奴に報復できる!』
そう確信していたからだ。その全能感のまま商店街で暴れ回ったが、周りのヒーローは手すら出してこない。間違いない。皆俺を恐れてるんだ!高揚した気分でさらに暴れ続ける彼だったが、前から誰か走ってくるのが目に入った。
……ムカつくな。
自分を恐れない存在がいることにそう感じたが、やってくる者の顔を見て彼の苛立ちは頂点に達した。その顔がオールマイトから逃げていた時人質兼隠れミノにしようとした女を逃したガキのものだったからだ。
丁度いい。ここでぶっ殺そう。そう考えて手を広げたところで、そのガキが何か投げるのが見えた。バカな奴、とほくそ笑む。確かに一度は引っ掛かったが、それだけに二度目はないのだ。それに、どう動こうが人質を助けたいなら自分の正面に来るだろう。ならそこを狙い撃ちにしてやる。
そう考え、視界を失ったように見せて大きくよろめきながら両手に瓦礫を集めた。自分をヒーローだと勘違いしたガキを穴だらけにしてやる、と思っていた彼だが。
後ろから看板で殴られることは考えていなかったようだった。
なるほど、やはり面の攻撃には弱いな。大きく体を崩した
私がしたことはシンプルだ。奴は自分が爆破し、火が燃え盛っている背後に全く気をかけていなかった。なので後ろから忍び寄り、緑谷の動きに合わせて叩いただけ。意識していない攻撃には皆弱い。バックアタックはどこの世界でも有用なのだ。
爆豪と緑谷が離れていったことを確認した時、奴はやっと私に気づいて腕を膨張、振るってくるが避けて腕、そして頭部に連続して看板を叩き込む。
『おおおまぁぁぁえぇぇぁ!』
と
一見すると私が圧倒しているように見えるだろうが、そんなことはない。こいつには面の攻撃しか効かず、そのためには結構な大振りが必要だ。つまり、冷静になられれば私に勝ち目はない。もちろん負ける気もないが。
なので。
「ヒーローの皆さん!あとはお願いします!」
と叫び、逃げた。
ヘドロさん、真面目にやってればヒーローとして大成した気がするんですよね。怪我させずに拘束とか、瓦礫の隙間に入って人命救助とか。
「隠れ蓑」という発言から、本来の目的は気絶させた人の服に入り込み操り人形のようにしてヒーローの目を逃れることだったのではないかと推測しました。強個性の子に出会って浮かれたのかな?