気軽すぎない?
私と緑谷はヘドロ
それに爆豪を引っ張り出せたのも奴が緑谷との因縁を優先したからで、ヒーローからすれば「人質に何かあったらどうするのか」という考えがあったのだろう。
だが結果的には物的被害はあれど誰も負傷せずに済んだ。なので、説教も「君たちが動く必要は全くなかったんだ」と締め括られた。
今度こそ家路をたどりながら、緑谷に聞いた。
「爆豪を救けたこと……ヒーローにかなり言われたが、後悔していないか?」
「うん、してないよ。多分同じことが後100回あっても、また救けてたと思う。」
「そう言っても……私がいなければどうなっていたかわからないんだぞ?」
「はは、そうだね。……もっと強くならないと。」
緑谷は自分ができることとできないことを理解して、その上であの場に飛び込んだ。
君はヒーローになれる、改めてそう思わされる。
そして翌日。いつものように道場に行くか、と考えていると、緑谷が「人がいないところで話したいことがあるんだ」と囁いてきた。なるほど、オールマイトからOFAを受け継いだのを「この歳で『個性』が発現した」と伝えるためか?本来なら受け継ぐのは入試の日ギリギリだっただろうが、身体は私が鍛えただけあって十分できている。
……これからは、オールマイトから色々学んでいくといい。笑顔で送り出すのが私にできる最後のことだろう。
わかった、と伝えて緑谷と連れ立ったのは、私の家。母は災害救助の講演などで家を開けているのだ。それでも必ず夕食までに帰ってきてくれるが。つまり、学校が終わってすぐのこの時間ならば誰にも聞かれることなく話ができる。
お茶と適当な菓子を緑谷に出して話すよう促すと、お茶をくっと飲んでから話しはじめた。
……なるほど、昨日私と別れた後オールマイトが来て謝られたと。『無個性』の君が飛び出したことに感銘を受けた、君はヒーローに相応しいと言われたんだと嬉しそうに語っている。
それはそうだ。幼い頃からの憧れの人物にそう言われたのだから。努力の甲斐があったな、というと笑っていた。
まだ続きはあるらしい。えー、その時にオールマイトの後継者になるよう言われて?後継と言っても歌舞伎役者の襲名のような話ではない。彼の『個性』、いや彼が先代から、そしてその前から受け継いできた『個性』の、次の継承者になるよう言われた……ちょっと待て。
「緑谷?何を言ってるんだいきなり⁈それはどう考えても私に話していいことじゃないだろう!」
危ない、なまじ知識があったものだから流しかけた。だが……え?それを私に言ったのか?なぜ?オールマイトの秘中の秘、どこかから漏れれば社会が揺らぐような話だぞ!そう思って内心で慌てる私だが、緑谷は冷静に答えた。
「うん、それでね。その話なんだけど、ちょっと待って欲しいって言ったんだ。もっと相応しい人がいるって。それで……僕がオールマイトの後継者に相応しいと思うのは火守さんなんだ。」
何を言ってるんだ。私は元々死にたくないから鍛えただけの、言うなれば意思の伴わない力を持っただけの人間だぞ?緑谷を鍛えたのだって、正義感ではなく哀れみとかそういった感情が原因だ。そんな私が、
「……待ってくれ、緑谷。話が大きすぎてついていけていないし、混乱している。仮にこの話が真実だったとしても、それなら尚更私にその役は相応しくないと思う。私には彼のような正義への義務感などないんだから。」
「いや、この話は本当なんだ。それに、オールマイトの力なら『無個性』の僕よりも、元々力のある火守さんが受け継いだ方が良いと思って。」
あくまで個人的な意見ではあるが、力がない者に与えられた力と、元々持っている者に与えられる力ならば前者の方が価値があると思うのだ。これは持っている側の傲慢さかもしれないが、緑谷には力を得る機会があるならそうして欲しいと思う。
「オールマイトは緑谷、君を認めたんだろう?ならば君がなるべきだ。……そもそも、私は彼に認められていないわけだし。それに、君はヒーローになるんだから『個性』があるに越したことはないと思う。」
「わかってるよ。……でも、火守さんは僕のヒーローだから。」
どうやら緑谷に期待を抱かれすぎているようできまりが悪い。私は本当にそんな大した人間じゃないんだがなぁ……。
「言っておくが、私はその話は絶対に請けないぞ。君の権利を奪うほど落ちぶれてはいないんだ。」
「そ、そんな……」
目に見えて落ち込む緑谷だが、どうしようも無い。私は100年にも及ぶ因縁に関わりたくないし、まして命の危険があるならばまっぴらごめんだ。私の力は元々、死なないために培ってきたのだから。
それから一時間ほど話し合い……というか意見の押し付け合いが続いたが、お互い引かなかった。「継がせたい」と「お前が継げ」というシンプルな結論が両者にあるため、どうしようもなかったのだ。どうしたものか、と考え込み……思いついた。
「緑谷、オールマイトと連絡は取れるのか?」
「え、うん……一応、教えてもらったけど。どうして?」
「私たちがここで話し込んでいても、互いの意見は平行線だ。そこで……どうだろう。結局は現在の「力」の所有者であるオールマイトに改めて判断してもらうのは。そこで完全に決着にすればいいんじゃないか?」
「な、なるほど……じゃあ呼ぶよ、今!」
「今?……まあいいか、うちはあと数時間誰もいないから。」
この件に関してはできる限り早く結論を出したほうがいい。早くOFAに馴染むほど、その習得が容易になるのだから。それに、明日は土日だし。
緑谷が電話をかけてからわずか十数分、ピンポーン、とチャイムがなった。念のため覗き窓から見ると金髪の、長身だがかなり痩躯の男性が見えた。間違いない、オールマイトだ。
ドアを開けると、彼が驚いた顔をしていた。それはそうだな、緑谷がいると思ったら女が出てきたのだから。
「き、君は昨日の?なぜここに。」
「なぜも何も、ここは私の家だからな。あ、入ってくれ。お茶を出そう。」
「ど、どうも……」
玄関先で話していてもしょうがないので席につくよう勧める。私に対して少し気まずげだが、何も気にしていないのに。お茶を用意して私も座ってから、いきなり切り出した。
「緑谷があなたを呼んだのは、OFAについて相談があるからなんだ。」
「なるほど、それは問題……だ、な……?」
お茶を啜りながら聞いていて私と同じように流しかけたようだが、流石に気づいたらしい。あまりに重要なことをさらっと言われると、その瞬間は気づかないものなのだ。
その後の彼の反応は迅速だった。瞬きする間にマッスルフォームになったと思うと横並びだった私たちの肩を持つと、
「詳しく……話してもらおう。」
そう、珍しくジョークの欠片も含まない声色で言った。
「なるほど、昨日少年が言っていた"相応しい人"というのは君のことだったか……。しかし、緑谷少年!」
オールマイトはそういうと、緑谷に指をビシッと向けた。
「私は曲がりなりにも、君ならそう言いふらすこともないだろうと踏んでいたんだ。だが……少々迂闊だったかな?」
「すみません、オールマイト。信頼を裏切ってしまって。でも、どうしても火守さんには言わなきゃ、火守さんの方がふさわしいと思って……。母さんにも言ってないけど、伝えなきゃと思って。」
そう聞くとオールマイトは全身から煙を出して痩せ細った姿に戻り、ふむ、と顎に手を当て考え込んだ。
「少女、君と緑谷少年との関係は?」
「関係か……。中学に入った時に緑谷が幼馴染に絡まれていてな。それを助けたついでに『無個性』だということを知って、『個性』なしでの戦い方を教えていた。まあ、師匠みたいなものだ。」
「ふむ……緑谷少年にとっては、親の次に信頼できる人物というわけか。」
「それに、すごく強いから……僕よりも、オールマイトの力を継ぐべきだと思って。」
緑谷がそう補足した。だが、
「君の想いは伝わった。その上で……答えはNoだ。私の『個性』を引き継げるのは、緑谷少年だけ。」
オールマイトはそう返す。
「ほらな、緑谷。君が受け継ぐべきだと言っただろう?」
しかし諦め切れないのか、さらに続けた。
「……どうして火守さんじゃだめなんですか、オールマイト。僕よりもっとすごいのに。」
「理由は二つ。まず一つ。私は彼女を知らない。君の師匠だというならその人柄は信頼できるが、私が惚れ込んだ君のヒーロー性があるかわからないこと。そして二つ。
「渡せない?」
思わず聞き返した。私にヒーロー性がないというのは正しいが、渡せないとは初耳だ。どういうことだろうか。
「私の『個性』、OFAはその継承者が代々培ってきた極まった力の結晶。そしてその力は拳の一振りで天候を変えるほどに極まった。だから……『個性』を有する人間ではその力を受け取り切れない。」
「受け取り切れないと、どうなるんだ?」
「私は約40年この力を保持してきた。その過程で、歴代の継承者についても調べている。そしてその死因についても。ある代の継承者は……老衰で死んでいたんだ。
「よ、40歳で老衰?」
緑谷が驚くが、そう言われて察しがついた。なるほど。内包するエネルギーが膨大なものになりすぎて、体に負担がかかるのか。うん?
「ちょっと待て。それなら、その力は『無個性』しか継げないということか?」
「その通り。だから、その精神を見込んで緑谷少年を……」
「なら、この力は緑谷に渡したが最後誰にも継げないんじゃないか?この総『個性』社会では無個性の子供の方が珍しいだろう?」
そう言うとオールマイトは一瞬唾を飲み、「その通りだ」と答えた。
「つまり、その力の集積とやらはもう行えないと?」
その問いにも、オールマイトは同じ言葉を返す。
「……気が変わった。オールマイト、頼む。私にその『個性』を継がせてくれ。」
そう言うとオールマイトは、一瞬呆けてから捲し立てた。
「だっ……さっきの説明を聞いていなかったのかい⁈『個性』を持つものに私の力は耐えられないと……」
「理解している。その上で言っているんだ。つまり、緑谷の前にもう1人継承者がいれば、緑谷が受け継ぐ力はより強大になるんだろう?」
「ああ、その通り、だが……」
「その役目を私にやらせてくれ。……実は私の『個性』は特殊でな。試しに「全力」の20……いや、15%くらいを私に打ち込んでくれ。」
そう言ってオールマイトに手を伸ばすが、当然のように断られる。仕方ないのでデコピンでいい、と粘り打ってもらうことにした。
それでもオールマイトは躊躇っていたが打たせる。すると、
「むうっ、これは……」
そう唸り、徐々に込める力が増していく。最終的に15%の拳を撃ち込まれたが、それすらも片手で簡単に受け止めてしまった。
……嘘だ。手がジンジンと痺れている。力を流さずに『個性』頼りで受け止めたとはいえ初めての経験だ。これを30%にせずによかったな、と息を吐いた。そして何も感じなかったかのように振る舞う。
「……この通り、私はエネルギーを吸収することができる。それと並行して肉体の強化も行えるから、あなたの『個性』の力も受け切れる算段はある。それができれば、私の力を上乗せして緑谷に譲渡できないか?」
オールマイトは、今までにないほど険しい顔をした。