個性『ショック吸収』を得た私がすべきこと   作:万望

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 やる事が多かったわけでもなく更新しないという甘え。


火守 橋華(ひもり きょうか)

 

 

 

 オールマイトの髪を食べてそろそろ3時間くらいになるだろうか。正直に言えば力も何も感じないので不安ではあるが。寝転がっているが、体に不調も何もない。ひょっとして彼に譲渡を認められなかったのではないか、と疑ってしまう。……それならそれで、緑谷が正式な後継者になるんだから私にとってはメリットもあるが。

 

 隣にいる緑谷に話しかける。

 

「オールマイト……やっぱり、私に譲渡することを認めていないんじゃないか?」

 

 緑谷がいるのは、私に万が一(・・・)があった時OFAを失わせないための保険。私がオールマイトに頼み込んだのだ。私の『個性』ならば耐えられるとは判断しての試みではあるが、そうでない場合緑谷に受け継いでもらえば難を逃れられるから。

 

 「いや、オールマイトは一度言ったことを翻すような人じゃないと思うよ……多分。」

 

 だと良いがな、と息を吐く。わざわざ母に「友人の家に泊まる」と嘘をついて———いや嘘ではないのだが、他人に見られることがない場所にやってきたのだ。オールマイトが手配してくれたとはいえ、成果が出るに越したことはない。

 

 「あの、火守さん?」

 

 緑谷が呟いた。

 

「なんだ?」

 

「OFAを受け継いで欲しいって話。ずっと嫌がってたのに……なんで、受け入れてくれたの?」

 

 ……それを聞くか。いや、聞かれるだろうなとは思っていたが、できれば言いたくなかったんだが。

 

 「オールマイトの怪我、覚えているか?」

 

「うん、あの脇腹の……」

 

「あれをしたやつがオールマイトの、いやOFAの継承者の宿敵だと考えたからだ。」

 

「えっ?」

 

「そうだろう?あのオールマイトにあれだけの深手を負わせた(ヴィラン)なんて聞いたこともない。そして……宿敵ということは、その力が己に並ぶ、もしくは超える存在だったんだろう。結果として退治できたか逃げられたか……。まあ、彼が緑谷を後継と見込んだことを考えれば察しはつくが。」

 

 これはでまかせだ。実際は知識から語っているだけにすぎない。もっとも、それだけならばオールマイトの力を緑谷がそのまま受け継げば良いと考えていた。そう。次に期待できるなら。

 

 

 「だが、緑谷は次に受け継ぐことなく決着をつけなければならない。なぜなら、その力はもう誰かに受け渡せないから。」

 

 そう。緑谷は巨悪(AFO)、あるいはその後継を退治するまで戦い続けなければならない。誰かにその役目を譲ることも許されず、どちらかが途絶えるまで戦う。それは……あんまりじゃないか。

 

 「ならば受け継ぐ力を、少しでも大きなものにして渡してやりたい。そう思ったからだ。……一応その、なんだ、師匠面をしていたわけだし。」

 

 私には、先人から託された力と責務を全うするような度胸もないし正義感もない。だが……一人の友人が受け継ごうとする灯火を守り、育んでやりたいと思うくらいの人間性はあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初に感じたのは体の奥底から感じる熱。ついに変化が起きたか、と喜んだが、それが間違いだったことにすぐ気付かされた。

 

「ぐ?が、ぁぁぁぁああああ!!」

 

 痛い痛い痛い痛い!我慢できず声を上げてしまう。

 

 この肉体に傷がついたことなど数えるほどだし、そのどれもが重篤なものでなかったため私は痛みへの耐性は低いと自覚している。それでも……過剰すぎると思える激痛が全身に走った。

 

 体を巡る血液の頭にはじまり爪先まで、内圧で弾けてしまいそうなイメージが頭に浮かぶ。なるほど、これがOFA、幾代もの力の結晶か。

 

 思わず床に爪をたてるが、気休めにもならない。『個性』を全力で使い、溢れ出しそうなエネルギーを吸収して全身を強化するが明らかに追いついていない。

 

 さ、裂ける……!

 

 思わずそう考えてしまうほどの苦しみ。全身を捩り、吠え、胸を掻きむしるが全く収まらない。内側で膨れ上がった力は膨張し続け、吸収限界を超え、結合さえも引きちぎり———

 

 プシッ

 

 小さい音が、私の体から出た。真っ赤になった視界には、凍りついたような表情の緑谷。どうしたんだろう、と思っていると、腕が裂け血が吹き出していた。

 

 ……ああ、まずいな。慌てて押さえて結合を強化、強引に繋ぎ止めるが同じ音が脚からも鳴った。

 

 そこから先は終わりの見えないモグラ叩きだった。エネルギーは溢れるほど、それこそ私の体を引き裂くほどあるので修復に困ることはなかったが、それでも追いつかない程の速度で全身が裂けている。手を治した瞬間に首筋、そこを塞ぐと脇腹が、といった具合に。そして……亀裂は、徐々に大きくなってきつつあった。

 

 

 

 後で緑谷から聞いたことだが、この時の私はまあひどいことになっていたようだった。喉が枯れる程の叫び声を上げながら手足は激しく痙攣。全身の裂け目からは筋肉も見え、身体中、眼からも血涙を流していたそうだ。……よく死ななかったものだと思う。

 

 

 

 

 体の裂け目から吹き出した量が明らかに多く、血が足りていないので「体喰」で全身にエネルギーを送りながら強化、吸収も同時並行で行なっている。痛みで意識が飛べば死ぬな、とぼんやり考えた。

 

 死をも厭わず戦い続けた力は、死ぬ覚悟も、命をかけるべき目的も持たない私が持つには大きすぎたのか。そう思うと、体に感じる圧力が一気に増した。痛みと熱が駆け巡っているはずなのに、首から下が妙に寒い。日和ったせいで押し負けている気がする。これは……限界だろうか。そう思った時だった。

 

 温かい。

 

 全身を焼き尽くしそうなOFAの熱とは違う、頼りない、でも温かい熱を右手に感じる。そうか、緑谷か。「がんばれ」と言っているのか、これは?

 

 ……なぜヒーローが強くあれるのか、分かった気がする。この熱を、誰かからの応援を、力に変えて限界を越えることができるからだ。

 

 私も、ちょっと限界を超えてやろうか。

 

 全身くまなく強化しようとするからだめだったんだ。裂けた部位を集中的に強化。破壊と修復を何度も繰り返したおかげかエネルギーの通りが格段に良くなったそこをハブと置いて、吸収を進める。強化の仕方も硬くするだけではなく柔軟に、だが強く。爆発しようとする力を抑え込みながら拡げて。

 

 血を流しながら叫ぶ。自分を奮い立たせるために、諦めないために。

 

 全身に走った亀裂から、力が漏れるのを感じた。それを結び、繋ぎ、圧縮する。

 

 視界が白い光に満たされた。薄い膜に包まれたように、音が聞こえなくなる。全身が溶けるような感覚。

 

 耐えて、耐えて、耐えて、そして。

 

 

 

 

 

 

 

 緑谷出久は、その時、ただ呆然としていた。彼の、師であり学友でありヒーローであり憧れである……とにかく大事な女性(ひと)が、一際大きな絶叫の後ピクリとも動かなくなったからだ。

 

 彼女の様相は、何も知らない者が見れば目を背けたくなるようなものだった。全身……力強さと美しさを感じさせた顔すらも血濡れになっている上、暗赤色の亀裂が首筋や手足、胴体にも走っている。普段は美しく括られている髪は血を吸って重く垂れ、花が散る様を連想させた。

 

 慌てて意識の有無と呼吸、脈の確認を行う———ヒーローは戦闘だけでなく災害救助なども行うので、基礎的な救命措置を学ぶことはヒーロー科を受験する上で必須なのだ———が、当然のようにどれも無い。心臓マッサージをすぐに始めながら、オールマイトに連絡を入れた。向こうでドタバタと音が聞こえたが気にする余裕もなかった。

 

 ……僕のせいだ。僕がオールマイトから認められたことに尻込みして、火守さんの方が向いているなんて言わなければ。

 

 "原作"ならば、彼は今に至るまで無力であり、オールマイトに力を与えられるというチャンスに縋った。だが、今の彼はただの『個性』持ちなら取り押さえられる技を、肉体を彼女によって与えられた。そのため、考えてしまったのだ。自分は彼の力を受け取るべきなのか、と。その結果彼女に無理を強いることになるとは予想していなかったが。

 

 そんな後悔も出している暇はないと、彼は自分のするべきことを続ける。普段なら長い睫毛、ずっと通る鼻筋、艶のある唇に目をやってしまい女性に免疫のない緑谷は顔を近づけることもできなかっただろう。だが今は急を要する状況であり、人を救けるのを躊躇わない彼は迷わず彼女に口を重ね、息を吹き込もうとする。

 

 だが、彼は気付かなかった。彼女の全身に走る暗赤色の亀裂に、光が灯ったことに。そしてその光が、徐々に広がっていることに。

 

 

 

 




 こんな展開にするにあたって継承者の名前の法則からずれることに悩んでいたんですが、安直すぎるくらい名前のままの役割を果たしてました。受け継がれた灯火を守り、育て、託す。

 天才か?
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