個性『ショック吸収』を得た私がすべきこと   作:万望

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強くあれ

 私の二つの目標を達成するために必要なこと、つまりなんらかの武術を習得したいという願いは案外簡単に叶った。どちらかといえば今までの私は家で遊ぶことを好む子供だったし、またつい先日の落下事件もあって母は「痛いこともあるかもしれないけれど大丈夫?」と心配していた。しかし、あんなことにならないようにちゃんと体を動かしたいし、ヒーローにもなってみたいからだと言うと、しばらく迷ってから頷いてくれた。……少し目が潤んでいるのはなぜだろうか?

 

 

 実はこの世界、驚くほどに武術の需要が大きい。まあそれは当然か。『個性』持ちの凶悪な(ヴィラン)から逃れるために『個性』があろうとなかろうと、自衛の手段を得る必要があるのだから。

 

 嬉しいことにーーーそれともそうならざるを得ないほど犯罪発生率が高いこの社会を問題視すべきか、そのおかげで各武術の練度は非常に高いらしい。ヒーローが自分の『個性』と既存の武術を組み合わせて独自の流派を作り、似た『個性』持ちの子供がそこに入門するなんてこともあるようだから。

 

 そんな武術雨後の筍状態で何を習得するべきか考えた結果、空手と合気道に決まった。前者は強靭な体幹の育成と、手指という弱点さえ傷つくことがないであろう私に向いたスタイルだと思ったから。後者は『受け流し』をでっち上げるために必要な振る舞いを学ぶため。幸運なことに二つとも近場にあったので、雰囲気が悪くなければ行こうかという話になった。

 

 

 私が師事した道場は、どちらも元プロヒーローが教えてくれるところだった。少し調べたところ、こうした道場は一部の歴史あるところを除いて大体が元プロヒーローが指導員になっているらしい。まあ実戦経験もあるし、それだけ「強い」ことのわかりやすい証明になるのだから当然か。

 

 いきなり実戦形式でできるのかなとワクワクしていたら、受け身の練習や型の反復などひたすら地味なことの繰り返しだった。当たり前か。武術は型を染み込ませた結果、脳死でも最善手を最速で打てるようになることを目的にしているのだ。素人がいきなり殴り合いなんてしたらそれこそ危ない。仕方ないので家で母に見てもらいながら型を練習することにした。元ヒーロー、それも増強系でなかっただけあってしっかり修めているらしい。アドバイスにはなるほどと思うものもあり、とても参考になった。

 

 

 そして入門して6ヶ月経った現在の私の評価は、「才能があるかは分からないが体の動かし方がとてもしっかりしている」「合気の天賦の才がある」というものだった。

 

 当然だろう。私の知性はあれ以来並みの3歳児を凌駕しているので、体の操作に慣れることを優先した後型の動作を行うなど容易いことなのだ。他の同年代がそれをできない中私だけできることは地味に大きなアドバンテージではなかろうか。

 

そして合気道は言うまでもない。自分に働く力を第六感的に知覚できるのだから、それを相手に押し付けるのもまた可能である。真面目に鍛錬を積んでいけば、漫画のようなことも技術だけでできるようになる気すらしている。まあここが漫画世界なのでだからなんだと言う感じだろうが。

 

 『個性』の訓練は進んでいるといえば進んでいるし、そうでないといえばそうでない。なにせ、この『個性』の上限をまだ測ることができないのだから。

 

 とりあえず壁に向かって突きや蹴りをーーーろくに末端を強くする鍛錬をしていないならどこか怪我してもおかしくはないーーー放っているが、全くダメージを負わない。人体の弱い部分に指を突き込んだり引っ掛けたりする方ではない貫手をなんとなくでやってみたが、それすらもなんの問題にならない。一本指貫手はなんか必殺技になりそうなのでこれからも練習していきたいが。

 

 一方で『個性』の制御は少し進んだ。具体的には、吸収した衝撃の流れをほんの少し変えられる。……だからなんだという意見もあるかもしれないが、努力の積み重ねによって化けるのではないかと考えている。最終目標は衝撃を受けた瞬間返すアレだ。まあ気楽に行こう。

 

 私の『個性』を受け流しだと言い張るには十分な技量が(あくまでも3歳児にしてはであるが)今の段階で備わっていると思うが、どちらも辞める気はない。少しずつ、たまに停滞はあっても自分の技が洗練されていくのを感じるのはなんとも心地いいものなのだ。ライフワークになりそうな気がする。

 

 

 

 

 それから個性診断までの三ヶ月は、あっという間だった。技を磨き、『個性』の練度を高め、母との時間を過ごす。正直それくらいしかすることがないのだ。……この生活に父という存在がないことは疑問に思っていたが、今はその訳を理解している。元プロヒーローの母、私に受け継がれた『個性』のヒーロー適性の高さ、そしてたまに語ってくれる思い出話に出てくる頼もしい相棒(パートナー)。これだけ揃えば、いくらなんでも察せられる。まあ今は聞く必要がないし、むしろ聞かないでおくべきだと思っている。できることといえば、母に目一杯甘えることだろう。辛い経験は薄まることはないが、同時に幸福によって塗り潰すことは可能なのだ。

 

「ねえおかあさん」

 

「なあに、どうしたの?」

 

「おかあさんってひーろーさんだったの?」

 

「ふふ、そうよ。今はもうただのお母さんだけど」

 

「えー、うそだあ!」

 

「どうして?」

 

「だっておかあさん、かっこいいもん!」

 

この思いは本当だ。いくら公務員扱いのヒーローとはいえ、殉職率もそれなりなので報償金も決して高いとはいえない額だ。それでも子供に当たらず、苦しい顔を見せず、私の幸せを願っている立派な人なのだ。これを尊いと思わずにいられるだろうか。

 

 すると母はしばらく私の顔をまじまじと見て、ポロリと涙をこぼした。

 

「おかあさん?なんでないてるの?」

 

「えっ、ああっ、ごめんね?ちょっと目にゴミが入っちゃって。でも……そっか、お母さんかっこいいか」

 

「うん!」

 

 少なくとも私は、この母の下に生まれてよかった、と思っているのだ。だから……まあ、辛い思いをして欲しくない。

 

 

 そう。例えば。

 

 《子供が持つ『個性』が巨悪の信奉者に目をつけられて、その命ごと奪われるとか。》

 

 

 

 

 

 

 

 本番は明日だ。

 

 

 

 

 

 

 




火守 美奈(ひもり みな): 元プロヒーロー「ヒイロ」。熱を吸収しパワーに変えることができる『個性』を持つ。その強化倍率はあまり高くないが、熱への耐性が優れていたため特に火災救助などで活躍。夫とは死別し、一児の母。

柔 武志(やわら つよし): 武闘派プロヒーロー「クロガネ」。故人。体の弾性、強度を自由に変換する『個性』を持ち、必殺技は最高の強度と弾性を発揮してのラッシュ「黒鉄」。
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