個性『ショック吸収』を得た私がすべきこと   作:万望

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個性検査

 

4月2日。

 

 この日は、子供たちにとって重要なイベントがある日だ。

 

 そう、個性検査。国によって実施することを義務付けられており、多くの『個性』が3〜4歳で発現することから満4歳になるタイミングで地域の総合病院で一斉検査が行われるのが一般的だ。特にここ、蛇腔総合病院は大規模であることから今日だけは子供で溢れかえるのだ。

 

 ある個人が『個性』を有するか否かは、個性黎明期ならばともかく現在では医学的な検査によって診断が可能である。それは例えば採血による個性因子の識別であり、あるいは小趾の関節の有無という解剖学的観点からの判断でもある。5分もあれば診断が可能なので、ほとんどの場合採血で診断するが。

 

 そして『個性』があると分かった子供たちは例外なく大はしゃぎする。なにせテレビで見た、あるいは握手してもらった、ひょっとすると助けてもらったあの(・・)ヒーローたちの仲間入りができるかもしれないのだから。無論この一億総個性社会、その門は決して広くはないが。

 

 無個性と診断された子は可哀想だ。そうした道は閉ざされ、辿り着いても「(ヴィラン)受け取り係」と揶揄される警察官なのだから。あれも少なくとも自分にはできない立派な職業だと思うけれども。そう考えて、午前中に院長(・・)が診た子のことを思い出した。あの子確か無個性じゃなかったっけ。ちらっと見たが、オールマイトのフィギュアを持っていた。ありゃあヒーロー志望だったんだろうな。……まあ人助けをしたいなら色々な道があるし、そう気を落とさないで欲しいと思うのは大人のエゴだろうか。

 

 

 「次の方、どうぞー。」

 

 っと、いけない。今は仕事中だ。一応人数のノルマはあるんだから、早く進めてかないと。

 

「今日はよろしくお願いします。」

 

「おねがいします!」

 

 はーっ、えらく綺麗な人だなぁ。髪も透明感のある赤色っていうか凄く艶めかしい……え⁈

 

「あ、あの!もしかして!「ヒイロ」さんですか!?」

 

 思わず立ち上がってしまった。忘れるわけはない、数年前火災に巻き込まれてもうダメかと思った時現れたあの人だ!

 

「ええと、ひょっとしてファンの方でした?」

 

「あ、いえ、実は昔、あなたに助けてもらったことがあって……覚えていらっしゃらないかもしれないですけど」

 

「すみません、でもそう言っていただけて嬉しいです。今はただの母親ですから」

 

そうか、結婚してたのか……。全く見なくなったからどうしたんだろうとは思ってたけど。

 

 「いえ、私にとっては貴女が最高のヒーローです。……すみません、いきなり話し込んでしまって。えー、そちらがお子さんですね?」

 

ヒイロさん譲りの髪色に、褐色の肌。これは父親から受け継いだんだろうか。

 

「はい、『個性』はもう発現しているようなんですが」

 

「なるほど、わかりました。それに関しては検査中に伺いたいと思います。」

 

 子供に注射針という組み合わせはまあ相性が悪い。なので片手にぬいぐるみを持ちつつ採血の準備を進める。

 

「ごめんね、おうでがちょっとだけぎゅーっとするけど大丈夫かな?」

 

 そう言ってく駆血帯を巻くが……ずいぶんおとなしい。泣き虫の子ならもうここら辺で察して暴れ出すのだが。さすがヒーローの子、ということか。

 

 

 

 結局、採血そのものもあっけなく終わった。針を挿れた時も顔を顰めただけで、凄く楽だった。他の子も同じくらいスムーズになったらいいのに、と思うくらい。そしてすぐに検査結果が出た。結果はーーー個性因子あり。

 

 「ええと、ですね。個性学の分野はあまり詳しくないのですが、両親の『個性』と子の『個性』にはある程度の相関があるのはご存知ですね?なので、この子ーーー橋華ちゃんの個性届けを記入する際に火守さん達の個性を伺えればと思います。もしよろしければ概要だけでもお話いただけませんか?」

 

 ……なるほど、火守さんが火を吸収する『個性』、その夫が体の強度を変える『個性』か。変化が外見に現れるタイプではなさそうだしこれはちょっと予想がつかない。なにか生活上で心当たりはないだろうか。

 

 「『個性』というのは使用者本人が一番理解しているのですが、流石にこの年齢では本人による説明は難しいと思います。『個性』の予兆、なにか変わったことはありませんでしたか?」

 

水を生むような『個性』なら床をびしょびしょに濡らしていたり、ホークスの『剛翼』のような『個性』なら羽が散らばっていたり、そうした「お漏らし」はコントロールができない幼少期には必ずあるはずだ。そう聞いてみると、

 

「そう……ですね……あっ!」

 

というので続きを促す。

 

「お恥ずかしい話なんですが、訳あってこの子は私だけで育てているんです。それで去年の6月くらいでしょうか、うっかりこの子から目を離した時ジャングルジムの頂上から落ちてしまって。慌ててこの病院に連れてきたんですが、どこも怪我をしていないと言われたんです。もしかしたら『個性』が原因かもしれません。」

 

 なるほど、ダメージを抑えるような『個性』か。その可能性はあるな。

 

 でもその前に。

 

「火守さん、お子さんから目を離さないであげてください。この子は凄く賢いようですが、まだ子供なんです。それが難しいなら、どうか周りを頼ってください。お願いします。私のヒーローが子供に怪我をさせるなんて嫌です!」

 

 

 ……感情に任せてかなり余計なことを言ってしまった。他人の事情も知らず勝手に口を挟むなんて一番してはいけないことなのに。でも、私を助けてくれた人も、その子供も傷つくのはごめんだ。

 

 すると彼女は、落ち着いた目で私を見ていった。

 

「すみません。ありがとうございます。あの頃は本当に余裕がなくて……。でも、もうあの子を、私から離れるまで守ると決めましたから。」

 

 

 ……なるほど、これがヒーロー(守る者)か。やっぱり私には向いてない。気恥ずかしくなって、今度は橋華ちゃんに語りかける。

 

 

「きょうかちゃん、いままで、なにか「つかうぞー!」っておもったこと、あるかな?」

 

「ある!」

 

 『個性』を使う感覚は身に付けているということだろうか。

 

「じゃあ、おねえさんにつかうところみせてもらうことってできるかな?」

 

「いいよ!」

 

 聞き分けが良すぎて助かる。そう思っていると、椅子からぱっと立ち上がって演武のようなことをし始めた。

 

「これ!」

 

 ……どれだろうか。

 

 私の戸惑いに気づいたのか、橋華ちゃんが言った。

 

「あのねー、てをね、こっちにやって?」

 

 接触系の個性だろうか。少し疑問に思いながら手をのばし、その腕に触れた瞬間。

 

「あれ?」

 

 思わず声を出した。真っ直ぐ出したはずの手が、橋華ちゃんにより逸らされている。何より驚くべきは、それに一切気づけなかったことだ。慌てて言う。

 

「もう一回いいかな?」

 

「いいよ!」

 

 今度は変化を見逃さないよう、注意して行う。すると。

 

 今度も逸らされた。

 

 でも、違う。気づくこともできなかった1度目と違って、今回はどちらかというと技術によるものだと言う感覚を覚える。現に、

 

「しっぱいしちゃった……」

 

と橋華ちゃんがしょんぼりしているのだから。

 

 大丈夫、よくあることだよと言いながら今回の結果から考えると。この『個性』は、おそらく『受け流し』とでも言うべきものだろう。高所から落ちた時に偶発的に発動。そして意識的に使うことは難しく、なんらかの技と組み合わせると真価を発揮するタイプか。

頭の中でまとめ終わったところで、火守さんに語る。

 

「恐らく『個性』はアクティブ型、『受け流し』とでも言うべきものでしょう。訓練を積めばヒーローになることも可能な、いい『個性』だと思います。」

 

「良かった!この子がどんな『個性』だろうと応援しようと思ってたんですが……ふふっ、それなら雄英も夢じゃないかもしれないですね。」

 

 雄英って、あの(・・)雄英だろうか。なんとも大きく出たものだ。でも……この子なら、なんとなく行ける気がする。

 

「では、こちらで個性届けの提出は行なっておきます。後でこちらの書類にサインをお願いしますね。あと……」

 

 橋華ちゃんの前にしゃがみ込み、目線を合わせる。目を逸らすこともなくこちらをじっと見てくるので、逆に恥ずかしいくらいだ。

 

「きょうかちゃんは、ひーろーになりたい?」

 

すると、迷いのない返事が返ってきた。

 

「おかあさんみたいに、かっこよくなる!」と。

 

 なるほど、じゃあ未来のヒーローにご褒美をあげないと。普段は注射が終わった時にあげるんだけど、渡しそびれたし。

 

 私の『個性』を発動。背中からふわりと生えた翼を、常備している割り箸でくるくるっとまとめて完成だ。

 

 「はい、どうぞ。未来のヒーローさん?」

 

 こちらを驚いた顔で見つめ、そしてパッと笑い、言った。

 

「ありがとう!」

 

 

 

 

 全ての業務が終わり、ぐっと伸びをして診察室を出る。個性検査の日は本当に大変だ。……でも、今日は思いがけない出会いがあったから良かったかな?

 

 そう考えながら歩いていると、向こうに小柄な影が見えた。

 

「お疲れ様です!院長(・・)

 

 立ち止まって挨拶すると、返事が返ってきた。

 

「お疲れ様。今日は大変だったね?」

 

 殻木院長はとても気さくな人で、世間のイメージのような驕った印象はない。むしろいくつも病院や児童養護施設を運営している、尊敬すべき人だ。

 

 「流石に疲れますね。……でも、今日はいいことがありました!昔助けてくれたヒーローの方に会えたんですよ!」

 

 そう言うと、歯車のような眼鏡から覗く目が一瞬鋭くなった気がした。気のせいかな?と思っていると、興味を持ったようだった。

 

「プロヒーローのか。とすると、『個性』もさぞ優れているんじゃないかい?」

 

 優れているとは言い切れないが、間違いなく伸びる。そう確信を持って答える。

 

「ええ、今はまだ強いとは言えないですがきっといいヒーローになれると思います。」

 

 すると、そうかそうかと頷いて院長が言う。

 

「ゆっくり育っていってほしいものだね。……強い『個性』が生まれるのは、希望になるからね。」

 

「なりますよ、この社会の希望に。」

 

 私の『個性』ではヒーローはやれないが、その芽は育っているのだ。大きく咲いて欲しい、と思いながら院長に別れの挨拶をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つからんものだなァ、良い『個性』は。プロヒーローからプロヒーローが生まれるわけでもない訳か。」

 

 

 




天居 羽生(あまい はぶ):翼状の綿飴を背中から出すことができる『個性』持ち(飛べない)。当然ながら火災に巻き込まれた時はなんの役にも立たなかった。子供に人気のお医者さん。

 『個性』使用の是非については、ここでは問題ないものとします。綿飴出すだけのクソ雑魚個性なので迷惑をかけようがないし、その業務内容からしてメリットのほうが大きいと考えられるので。
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