個性『ショック吸収』を得た私がすべきこと   作:万望

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 誤字報告いつもありがとうございます。


志望

 

 

 「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 

 

 ヒーローを目指すなら体力はつけるに越したことはない、と2年前に緑谷に言ったが、私もそのためのトレーニングはしている。

 

 何かといえば、往復20kmのランニングを朝晩2回、それを行きに30分、帰り20分かけて行うことだ。

 

 10kmを20分で走るのは『個性』が存在しなかった時代の最高記録を余裕で超えているが、これには理由がある。

 

 そう、『個性』の成長だ。

 

 私の『個性』の本質を理解してから、ずっと悩んでいた。「吸収」したエネルギーを細胞の強化以外に使えないかと。意識してエネルギーを使うため、電流を浴びてみたり、全身を火で熱して冷やすことを繰り返してみたり、手からエネルギーを打ち出すイメージトレーニングをしたりしていた。

 

 転機が訪れたのは4年前、自分の限界を超えて走る訓練をした時だった。私は汗をかかない。運動による発熱も火と同じくエネルギーとして吸収できる。故に、脱水の心配もなく純粋に体力の限界まで走ることができたのだ。蓄積した疲労の結果出た脳内麻薬が尽きるほどに。

 

 疲れ果て、指を動かすのも苦しいほどに減った体力。思考も靄がかかったようになり、「女子小学生、走りすぎて死亡」なんて馬鹿みたいなニュースが流れるのではないかと危機感が募り始めた時だった。

 

 突然、体が軽くなった。

 全身に活力が満ち溢れてきて、驚きのあまり飛び上がりそのことにまた驚くような状況だった。落ち着いて原因を考察した結果、判明した。

 

 私は、吸収したエネルギーを直接体に作用させることで活動を可能にしていたのだ。

そのことに気づいた時はとても嬉しかった。もう自分で伸ばせるところは伸ばし切ったと考えていた『個性』が、壁を越えたから。

これを『体喰(テイク)』と名付けた。

……いいだろう、別に。やっていることは栄養補給と変わらないが、『個性』を使っているのだからせめて格好良くしたいのだ。

 

 細胞そのものの繋がりや、その繋がりを強化しているエネルギーも意識して利用することすらできるだろうことは確信しているが、怖くて試していない。間違って体が崩壊とか、そういうリスクは避けたいのだ。

 

 というわけで行きは自身のスタミナ、帰りは常に(・・)全力で走ることで『個性』を鍛える。この二段構えによって体力は爆発的に向上した。そして全身にエネルギーを流し続けていた結果か、身長も筋肉も恐ろしいほどついた。そして何故か胸も。まあこれに関しては心臓という致命的な弱点を防御するのに有効なので言うことはない。

 

 走りながら、内心では学校に行くのが楽しみで仕方がない。なぜか?今日は中学3年生になって1週間経った日であり、進路希望(・・・・)を書く日だと担任が言っていたからだ。

 

 そう。ついに、原作と同じ時期にたどり着いた。思い起こせば、知識が流れ込んできてからの12年はかなり長かった。

 

 ドクターの目から逃れるため自分の『個性』を偽る訓練をして、『個性』を成長させようとするとなぜか私の『個性』が「ショック吸収」でないことが判明し、「体喰(テイク)」を習得し、緑谷と出会い彼を鍛え、そして今に至る。こう書くと大したことはないかもしれないが、私にとっては大きな出来事ばかりだったのだ。

 

 今まで緑谷の師匠のような役割を2年間してきたが、それも終わりになってしまうと考えるとかなり寂しい。だが、彼をーーー未来のOFA継承者を導くことができるのは、その精神性も含めてオールマイトしかいないだろう。ここは涙を飲んで彼に譲ろうと思う。

 

 

 

 そして家に帰り、朝食を食べ、学校への道を歩く。その途中で緑谷と合流した。

 

 そう。彼の家は私の家から学校に行くまでの道にあるのだ。登校時にたまたま出会って以来、ずっと一緒に登校している。

 

 「緑谷、おはよう。」

 

「あっ、おはよう火守さん。」

 

 一年生の時は挨拶をするたびにビクッとなっていたものだが、2年もあれば変わるものだ。それは肉体面でも顕著であるが。身長は169センチほど。これは本来の彼の身長より若干高いくらいだろうが、そこについた筋肉は大違いだ。

 

 首は細いがしっかりと締まっていて、肩幅は服を脱げばかなりあるのが見て取れる。そして前腕は掴み、投げるために発達している。胸板はそこまで厚くないが、十分な量を蓄えさせることに成功した自慢のものだ。そして発達した腹斜筋に、かなり太い大腿部。脚は全ての動作の基本なので、執拗なくらいにつけさせたのだ。そして下肢は脹脛の筋肉がはっきりした筋を作っている。

 

 私が直接みて筋肉を育てていったので、自画自賛のようになっているが。あれはかなり苦労した。

 

 筋肉がつきすぎないように---緑谷はオールマイトに憧れているからきっとアメリカンな筋肉をつけたかったと思うのだが、彼が今身につけている技とあの体型は相性が良くないのだ---調節したり、筋肉をつけつつも関節の可動域を落とさないようにしたり。あとその過程で生じる体の歪みを無くすために全身の筋肉の張り具合を診て按摩の真似事もした。合気道は体の構造を利用する分自然と詳しくなるし、自分でも色々調べたので少しはそうしたことができるのだ。

 

 そんな私の密かな充足感に気づくことなく、緑谷は話題を振ってきた。

 

 「今日の進路希望調査、もうどこか決めてあるんだよね!」

 

「ああ、前にも言った通り私は雄英だ。……緑谷と枠を争うことになるのは少し心苦しいがな」

 

「そんな、火守さんは僕に遠慮なんてしないで!……僕も、遠慮はしないから。」

 

「ふっ、そうか。それは楽しみだ。」

 

 

  

 そんなふうに話しながら歩いていると、遠くで地鳴りのような音が響いた。

 

 見れば、鉄道橋の上で9mほどの巨大な男が暴れている。

 

 「うわっ、でっけー(ヴィラン)!」

 

 緑谷がそう叫び、野次馬の間に割り込もうとするが、こちらを振り向いて立ち止まる。

 

 「あっ、ご、ごめん。ヒーローが来てると思うとつい……」

 

「まったく、ヒーローがいるとはいえ近づけばどうなるか分からないんだから気をつけろ。」

 

「えへへ……」

 

 このヒーローへの好奇心の強さ、憧れは一種の才能だな。「将来のためのヒーロー分析」というノートは13冊、一度見たがびっしりと書き込みをしていた。正直少し引くほどだった。

 

 「あっ、あれはシンリンカムイ!人気急上昇中の若手実力派‼︎」

 

 駅の屋根の上に乗っている人影か。よくわかるなと思っていたが、腕から何か伸ばしている。なるほど、あれか。ヒーローの特徴と担当地域から割り出したんだな。すると人影の腕が膨らみ、枝が一気に伸びる。

 

「出た!先制必縛---」

 

 だが、緑谷がその技名を言い切る前、そしてそのヒーローが技を当てる前に巨大なはずの(ヴィラン)のゆうに倍はある女性が

 

「キャニオンカノン‼︎」

 

 と叫び飛び蹴りをかましていた。ズン……と地面が揺れる。

 

 「なんだあの人⁈全く知らないぞ?ていうことは新人かな…….。それにしても巨大化か。人気も出そうだし凄い『個性』だと思うけど……」

 

 と呟きながら「ヒーロー分析」に書き込み始めていたので、頭に軽くチョップして言う。

 

「時間はあるが、あまりのんびりしていると遅刻するぞ?雄英を受けるなら内申を下げるわけにはいかないだろう?」

 

「あっ、そうだった!」

 

 そう言ってわたわたとノートをしまい始める。

 

 再び歩き出したところで、緑谷に尋ねた。

 

 「緑谷、あの(ヴィラン)、君ならどう対処する?」

 

 かつての緑谷なら答えることも、ましてや考えることすらなかっただろうことを問いかける。すると、

 

 「うーん、定石は狙いにくい足元中心に攻撃してして隙ができた上半身を狙うことだけど、それだと線路の被害が大きくなるかもしれないし……」

 

「そうだな、今回はかなり特殊な例だ。となると……」

 

 『個性』持ちの(ヴィラン)を倒すことを実現できるものとして考えている。その事実に嬉しくなった。

 

 

 

 

「えーお前らも3年ということで‼︎」

 

 「本格的に将来を考えていく時期だ‼︎」

 

 

「今から進路希望のプリント配るが 皆‼︎」

 

 

 

 

 「だいたいヒーロー科志望だよね」

 

 その担任の言葉とともに、生徒たちは手を挙げるとともに自らの『個性』を一斉に発動する。手から棘を出し、岩に変え、火を吹き、首を伸ばす。

 

 後半は大道芸の部類じゃないか?と思ったが、それらは皆彼らの自慢すべき『個性』だ。それを発揮する場が欲しくてたまらないのだろう。

 

 「うんうん皆、いい『個性』だ。でも校内で『個性』発動は原則禁止な!」

 

 担任はそう言うが、あくまで人に危害が及ぶ程度でなければいいという考えだ。『個性』を発動させているかどうかを識別する機械があるわけでもないのだから。

 

 そう『個性』を使い続けながら考える。発動時とそうでない時で変化がないのはありがたい。

 

 すると1人、声をあげる者がいた。

 

「せんせえ———「皆」とか一緒くたにすんなよ!俺はこんな『没個性』供と仲良く底辺なんざいかね—よ!」

 

 爆豪だ。この自信は彼の才能と努力の結果だからなんとも言いにくいが、言い方と態度はどうにかならないものだろうか。

 

 「あー確か爆豪は…雄英志望だったな。」

 

 その言葉にざわめき出す生徒たち。当然だ。余程自信がなければ、いやあったとしてもそこに挑戦する者はそういない。なにせ倍率は300倍を超えるという。故に選りすぐりの猛者が集まるのだ。

 

 それに気分を良くして己の夢、オールマイトを超えたヒーローになり高額納税者ランキングに名を刻むことを語る爆豪。いや、現実的な夢ではあるがNo.1ヒーローになってすることがそれか?と思わずにはいられない。

 

 だが、彼の高笑いはその後の担任の言葉で凍りつく。

 

 「そういや緑谷と火守も雄英志望だったな」

 

 その言葉で一斉に緑谷を見る生徒たち。……私には目を合わせる奴がいないのが不思議だが。いや、1人いるな。爆豪が私を殺しそうな眼で睨みつけている。

 

 その理由だが、心当たりがある。入学式以降徐々に体が出来上がっていく緑谷が気に入らなかったのか絡んでいた時に、爆豪は個性『爆破』で彼を襲おうとしていた。それに気づいた私は爆豪の手を握り、爆発を握りつぶしたのだ。それ以来気に食わない奴認定されたのか私も絡まれるようになった。だが校内で出せる爆発程度の熱と衝撃ではどう転んでもダメージを負うことはなかったので、問題なかった。

 

 そして緑谷に対する周囲の反応だが……実は悪くない。彼は元々頭はいいし、私が作り上げた肉体は女子の間で噂になるくらいなのだ。その童顔とのギャップがいいという者もいて、たまに告白したという話を聞く。どうやら成功したことはないようだが。

 

 彼のイメージは「無個性なのにすごく頑張っている奴」であり、『弱個性』と呼ばれる人々の星になっているらしい。

 

 なので、「頑張れよ!」「強い『個性』持ちに一発かましてくれ!」という言葉が聞こえる。後者は爆豪に睨まれて別の方向を向いた。

 

 

 うん、良い。




 緑谷から見ればこれだけ尽くしてもらって自分の夢を一番近くで応援してくれて、最も身近な憧れなのに「役目が終わったら引っ込むか」とか言ってる性癖歪めマシーンが居ます。

 マジ?

 理由としては、彼女ヒーローに対して純粋に憧れている(ヒーロー活動中に亡くなった父と尊敬してる母が原因)ので、死にたくないという思いから知識と打算で鍛え続けただけの自分は緑谷を導くのに不適切だと思っているということがあります。
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