学校からの帰り道を緑谷と歩きながら、私は今後の展開を思い出していた。
えー、ヘドロ
ちょっと待て。
オールマイトが緑谷を見出したのは、緑谷が彼にしがみついてまで「無個性がヒーローになれるか」を聞いた結果である。だが、今の彼にそんなものが必要だろうか?
努力を認められ、自分に誇りを持ち、信念を持っている。例えオールマイトにあったとしても、彼を足止めすることは無いだろう。するとオールマイトは
一気に冷や汗が出てきた。
このままでは、OFAの継承者が見つからないか、あるいは別の者になる可能性がある。そうなった場合何が起こるのか私には想像できない。原作でも、ギリギリのバランスを保って事態は進んでいたのだ。
「———さん?」
つまり、私には何としてもオールマイトに緑谷を認めてもらうための展開を作り上げる必要があるということだ。
「あの、火守さん?」
出来るかな、と不安がよぎるが、やるしかない。やるしかないのだ。
「火守さん!」
「はっ?……ああ、何だ。どうした?」
「いや、急に黙りこんでたから心配になって。何か困っていることでもあるの?」
困っている。それはもう困っている。縋りつきたいくらいには困っている。
だが緑谷に言ったところでどうしようも無い。だから、これは私のみで対処しなければならない。
「いや、何も。少し考え事をしていてな。」
「そっか、それは良かった!」
ふと前を見ると、ガード下の短い通り道。「頭上注意」という看板がかけられていて、床面にはマンホール。
……ここだ。ここが、あのヘドロ
「なあ、緑谷。」
「どうしたの、火守さん?」
「ここ、何かいる気配がしないか?」
前を歩く緑谷に声をかけ、苦し紛れの時間稼ぎをする。
「えっ、どこに?」
そう言って緑谷は当たりを見回すが、いるはずもない。
「……何もいないよ?」
「そうか?……そうだな。」
「火守さん、やっぱり今日調子悪い?」
いや、むしろ良かった。帰り道に入るまでは。
「……やっぱり、何かいないか?」
こうなればヤケだ。緑谷は優しいから、私に一応付き合ってくれることだろう。私への評価が"ヤバい人"になるだろうが、知ったことか。ここで成功させねばもっとヤバいことになるのだから。
「やだなあ火守さん。ほら見てよ。何……も……」
緑谷の言葉が不意に途切れた。それとともに、ズブズブと液体が這いずるような奇妙な音が聞こえる。これは、もしかして……
『Lサイズの……隠れミノ……‼︎』
来た!
思わず喜びの声をあげそうになったが、堪えて「危ない、緑谷!」と言って彼を突き飛ばす。私ならともかく、緑谷がこいつに襲われた場合ひょっとすると後遺症が残るようなことになりかねない。従ってここは敢えて私が襲われるべきだろう。
そして、私は呑まれた。
うん、かなり不快だ。知らない他人に体を触られていると思うと気持ち悪いし、鼻と口を塞いでくるので鬱陶しい。
『助かるよ……キミは俺のヒーローだぁ……』
この状態で話されると、体全体に声が響く。というかどうやって発声してるんだ?そう呑気に考えていると、濁った視界越しに緑谷が動くのが見えた。
緑谷視点
今日の帰り道、火守さんの様子がずっとおかしかった。急に無言になるし、立ち止まって何かがいると言いだすし。でも……
まさか、あんなのが出るなんて……!
危ない、という声で火守さんに突き飛ばされた僕が見たのは、濁った色をした流動体に目と口がついたバケモノ。そして、それに包み込まれる火守さん。
思わず固まってしまうが、すぐにあれが
火守さんを助けないと!なにかあいつの弱点は?体はスライムみたいに動く、多分攻撃は効かない。じゃあどうする?火は……持ってないし、火守さんも巻き添えになる。
じゃあ眼は?あの体の中で唯一浮かんでいる器官。それだけは流動体にできないんじゃないか?眼を狙って意識が逸れ、拘束が緩んだ瞬間に引っ張り出せば———
そう考えて動き出そうとしたとき、抵抗が見られない火守さんに
『助かるよ……キミは俺のヒーローだぁ……』
その言葉を聞いた瞬間、僕の中で火守さんとの思い出が駆け巡った。
はじめて出会った時、かっちゃんに絡まれた僕を助けてくれた。『無個性』でも戦えることを教えてくれた。僕に付き合って強くし続けてくれた。そして何より。
僕がヒーローになれると、初めて手を差し伸べてくれた。
「その人は!僕の!ヒーローだぁぁぁ!」
叫んで、走り出す。今まで僕に何の警戒もしていなかった
そのまま走ってある程度近づいた———言い換えれば投げるのに適していない物を投げても外しようがない距離まで近づいたところで、眼を狙って荷物を投げる。びっくりして怯んだようだけど、大きな手で薙ぎ払ってきた。
それを鞄で受け、押し返す。こいつには点の攻撃は多分効かない。体の流動性で無効化されるから。でも面なら受け止められる。そして押し返すと、その力の弱さのおかげで簡単に腕を弾くことができた。
そして叫ぶ。
「火守さん!手を!」
火守さんは目を大きく見開くと、ぼくの手を握り返してきた。そのまま引っ張る。こいつには力はないけど、流動する体の拘束力は高い。だから火守さんを出すには、腕だけじゃなく全身の力、体重も利用して一気に引っ張らなきゃ無理だ。
「はああああ!」
転がるようにして腕を引っ張ると、抵抗はあっけなく弱まった。
文字通りの全力で引っ張った僕はこけそうになって目を瞑ったけど、その前に腕を引かれた。
「助けられたな、緑谷。……ありがとう。」
そう言って火守さんは、また僕を助けてくれたんだ。
火守視点
緑谷のヒーロー性をなめていた。あのまま私が捕まり続けるのが最良ではあったが、あの瞬間の緑谷の真剣な表情に、思わず手を伸ばしてしまった。ああいうところが私のような人種と彼の違いだな。
「火守さん、逃げないと!」
体をさらに大きくし、明らかにブチ切れた様子の
なぜって?
「私が 来た!」
彼が来たのだから。
そこから先はあっという間だった。
彼が「《ruby》TEXAS SMASH《/ruby》!」
と拳を一振りすると、その風圧だけで
「そこの少年!よく彼女を助けてくれた。なかなか出来ることじゃあないぞ!」
オールマイトは私が全身を取り込まれたことで退治しあぐねていたらしいのだが、緑谷が私を引っ張り出したおかげで動くことができたようだ。
そして憧れの人にそう言われた緑谷は興奮しっぱなしで、サインを書いてもらうまでずっと言葉が出ていなかった。
「キミは大丈夫か?ずっとあの
立ちくらみとか、精神的に辛いとかないか?とオールマイトが聞いてくるが、問題ないというしかない。
「何も。『個性』のおかげで耐久性には自信があるんだ。」
あいつの力はそこまで強くなかった上に、口鼻を塞がれても吸収したエネルギーを使えば気絶はしない。
「そうか、それなら安心だ!じゃあ、私はこいつを警察に届けてくるのでこの辺で!液晶越しにまた会おう!」
そう言って
「オールマイトさん、あなたにどうしても尋ねたいことがあるが駄目か?」
「No!ヒーローは常に敵か時間との戦いさ!」
せめて、緑谷が『無個性』であることをここで印象づけられれば一番良かったんだが……仕方ない。
「緑谷、ちょっと掴まってくれ。」
「え、う、え?」
時間が惜しいので戸惑う緑谷を片手で抱き寄せる。そしてもう片方の手で、
「それじゃあ今後とも、応援よろしくね———!」
とオールマイトが跳ぶ寸前に彼のズボンに腕を回した。
「って、コラコラ———!離しなさい、熱狂がすぎるぞ!」
跳んでしばらくした後、私たちの存在に気づき、離そうとするオールマイト。だがそれは駄目だ。
「申し訳ない。それをすると私はともかく緑谷が助からないので拒否させてもらう。」
「あ、確かに。って名も知らぬ少女‼︎この状況であまりに冷静過ぎないか⁈」
「私にも事情があってな。どうしてもあなたに聞きたいことがあるんだ。」
「それはダメ‼︎とにかく適当な建物の屋上に降りるからそのままで!」
そう言って腕を軽く振り、軌道の調節を行うオールマイト。やはり尋常ではない。その身体能力も、技量も。経験の濃さと言ったほうがいいだろうか?
そして言葉通りビルの上に降り立った。まだ理解が追いついていない緑谷の肩を支え、また跳ぼうとするオールマイトに声をかける。
「聞きたいのはこの緑谷のことだ。」
「ダメ‼︎私はマジで時間ないのでこれで‼︎」
「彼は『無個性』だが、ヒーローに憧れている。いつでも笑顔で人を救けるあなたに。そしてそのために努力を続けてきた。彼はヒーローになれると思うか?」
「『個性』が……‼︎」
よし、食いついた!そう思った直後、彼の言葉が途切れた。見れば彼の全身から白い蒸気が上がっている。本当にギリギリだったんだろう。……跳んでいる時に元の姿に戻ったら、どうする気だったんだろう?
急に蒸気を上げるオールマイトに驚く緑谷。本来なら張り切り過ぎて気づかなかったのだろうが、流石にそうはならないか。
そして現れたのは、オールマイトとは似ても似つかない痩身の男性。私にはもう正体も分かっているが、様式美として聞いておこう。
「あなたは…….誰だ?」
すると彼は一瞬沈黙したのちに答える。
「私はオールマイトさ。」
そして溢血した。
主人公は5時間くらい呼吸しなくても大丈夫です。