「俺を勝たせてくれって、どういうことだ?」
「まだわからないのか?察しが悪いな辰巳は」
目の前のウマ娘は呆れた目をして呟く。
「私の言っている先輩は辰巳が初めて担当したウマ娘さ」
「何を言って……まさかリョテイの知り合いか?」
「そうさ、私の名前はナカヤマフェスタ。一度くらい先輩から聞いたことないか?」
「聞いたことはあるが……それがどうして俺がフェスタの担当になることと関係があるんだ?」
そう言うと再びフェスタは呆れたように溜息をつき言葉を発した。
「辰巳、アンタはG1を勝ったことが一度もないんだってな」
「そうだ、ウマ娘の中じゃ有名な話じゃないか?」
「先輩は悔しがっていたさ。どうして私が辰巳トレーナーに恩返し出来なかったんだって。二人目のウマ娘だってインタビューで泣いたそうじゃないか。そして先輩からデビュー前でトレーナーのいない私が頼まれたのさ。辰巳トレーナーを勝たせてくれって」
「そうか……」
「まぁあたしでG1をとれるかどうかは自分の目で確かめてくれたらいいさ。でも私は辰巳にヒリヒリとした勝負の世界を見せてやれると思ってる。それじゃそろそろレースだから私は行かせてもらうよ」
そう言ってナカヤマフェスタはレース場のスタート地点に向かっていく。その後ろ姿を見てぽつりと呟く。
「勝負の世界か……」
しばらくしてナカヤマフェスタが出走するレースが始まり、ゲートが開く。そこからの記憶は余り覚えていない。ただ覚えているのはナカヤマフェスタが勝利したことだけだ。しかし、そこで俺は何かを見つけた気がした。だが、それは何か分からない。
「どうだった?私ならG1を勝てそうか?」
ボーッとしている俺に向かってナカヤマフェスタは飄々と話しかけてくる。
「あぁ、ナカヤマフェスタ、君が言った言葉の意味を理解したよ。確かに君の言う勝負の世界は面白いな」
「お気に召したようなら十分だ。どうだ?私と組む気になったか?」
「おう、フェスタ、君を最強の勝負師にする、約束する!」
そう言って俺は右手を差し出す。
「私もアンタをG1ウマ娘の担当にしてやるよ、辰巳」
そう言ってナカヤマフェスタは俺の右手を取る。
「契約成立だな」
「あぁ、よろしく頼む」
その後、俺は契約書類をナカヤマフェスタに渡すため、トレーナー室に向かっていると、途中ですれ違うウマ娘のボソボソと話す声が聞こえる。
「あのトレーナー、ナカヤマフェスタと組んだんだ」
「あのトレーナーって確か、辰巳って言うG1勝てないことで有名なトレーナーだよね?」
「そうそう、あのトレーナーの担当から移籍すればG1を勝てるって噂、聞いたことある」
陰口に近いこと言われながら俺は思わず噂話をするウマ娘から目を逸らす。ナカヤマフェスタはそんな俺を見てなにかを察している様子だった。
「ここが俺のトレーナー室だよ。他の同期に比べたらトロフィーとかは少ないけどな」
自嘲気味にナカヤマフェスタを部屋に案内する。そして契約書類を渡すとナカヤマフェスタは何かを思いついたように言葉を発した。
「なぁ、辰巳。私と賭けをしないか?」
「賭け?……どういうことだ?」
するとナカヤマフェスタは今まで一番楽しそうな笑顔でこう言った。
「辰巳はきっと自分が不甲斐ないから今まで二人は勝てなかった。そう思ってるんだろ?」
「違うのか?」
「私は先輩から私がG1を勝つことで辰巳をG1ウマ娘の担当トレーナーにすることを託された。だけど、辰巳の腕なら私がG1を勝つのは時間の問題だ。辰巳、アンタは言ったよな。勝負の世界は面白いってな。ならもっとひりつく戦場に私は辰巳と行きたい」
「もっとひりつく戦場って具体的にどこだよ?」
「そうだな……海外、いや」
ナカヤマフェスタはしばらく考え込むフリをしてさっきの笑顔を上回るいい面構えで言った。
「凱旋門賞だ!」
元担当ウマ娘の二人はまだでした、すいません。要望とか指摘とかありましたらどしどしお待ちしております。