ゲームのエネミーキャラにガチ恋したのでイチャイチャするためにがんばります   作:どくはら

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終章、そして

 そして、あっという間に一ヶ月と半月が過ぎ去った。

 

 俺は高校一年から二年に進学し、今は来る中間テストに備えてゲームの時間は控えめにしている。全く断つことができないのは現代っ子の性というかなんというか。

 

 朔のルー・ガルー攻略がプレイヤーネーム付きで告知されたせいで一週間くらいは色んな奴に追いかけ回されたが、今はその流れも落ち着いている。有名配信者(アーサー)からいただいた「変に逃げ隠れすると注目が長引くから、少しの間は我慢して相手しとけ」というありがたいアドバイスがなかったら、鎮静化にもっと時間がかかったかもしれない。

 ほんと、頭が下がるばかりだ。四月一日とあわせて何か奢りたいところだが、どっちも成人だから俺から言うと普通に断られるんだよな。いつかちゃんと、何かの形で礼をしなければと思う。

 

 それ以外のことは、何か大きく変わったわけじゃない。

 現実(リアル)も虚構(ゲーム)も以前と変わらず回っていて、それなりのトラブルや問題が起きている。一人の少女(エネミー)がいなくなったことで、致命的な変化が起きたりはしなかった。

 

 さしあたって、今の問題は中間テストだろう。

 学生らしく、本分に励まなくては。赤点とったらゲーム禁止令がまた発令される。

 

 もう一つ問題があるけど……そっちはちょっと、保留で……。

 いやあだって、入道氏からリョウさんとフレンドになりたいって言われるとは思わないじゃん……。マジでどうすっかな……。

 閑話休題(さておき)。

 

 俺は今、虚構(ゲーム)の中で都電沿線を歩いていた。

 

 学生の本分に励むんじゃなかったのかと言うなかれ。

 不気味な夜空を満月が照らす日は、そうせずにはいられないのだ。

 

「いっちょあがりっ、と!」

『ギャァァァ……!』

 

 くるっと、手の中で比翼の雌雄(ソハヤマル)の柄を回す。勝利ポーズをとるほどの余裕がある俺の前で、レベル差にも怯まず挑んできた影人(シャドウ)は断末魔とともに霧散した。

 

 地面に転がった影御霊(ドロップアイテム)を拾い上げてインベントリに収納し、振るったばかりの脇差をホルスターに吊るす。鞘も作ったんだからそれに納刀しろと四月一日には言われるが、抜刀のタイムラグがどうにもしっくりこないのでスルーしていた。

 そして、俺は歩みを再開させた。

 

 戦闘中は途切れていたフィールドBGMが、聴覚を振るわせ始める。BGMをオンにしたのはかなり久々だが、静かなメロディーは違和感なく俺に染み渡った。

 

「~♪」

 

 そのメロディーに合わせてへたくそな鼻歌を歌いながら、線路に沿って歩いていく。

 

 一ヶ月前の夜も、同じようにこの道を歩いた。理由は至極単純で、満月の夜に歩いていたらまた彼女に会えるんじゃないかと思ったから。

 そして、当然のように会えなかった。

 それは俺をひどく打ちのめしたが、一ヶ月後の今、また懲りずに同じ道を歩んでいる。

 

 一ヶ月前は、会いたいと思いながら足を動かしていた。

 そして今、会えたらいいなと思いながら足を動かしている。

 わずかな違いだが、その違いによって心の軽さは大きく違っていた。

 

「…っ、……♪……♪」

 

 それでもやっぱり、吹っ切れているとは全然言えない。だからへたくそな鼻歌で気持ちをごまかしながら、夜の沿線を進んだ。

 

「~~♪~~♪」

 

 さっきみたいな好戦的な個体を除けば、基本的に格下の魔性(エネミー)は格上の退魔士(プレイヤー)に挑んでこない。

 そのため俺の歩みが止められることはなく、BGMが遮られることもそうそうない。ちぐはぐで一方的なデュエットが、しばらくの間、廃線の沿線に響き渡る。

 しかし、そろそろ折り返し地点に差しかかろうとした時。

 

 ぷつりと。

 間断なく続いていたBGMが、途切れた。

 

「……今日は絡んでくるのが多いな」

 

 そんな呟きとともに、ホルスターに吊るしていた比翼の雌雄(ソハヤマル)に手をかけるが。

 

 ――――オォォォォォン。

 

「――――」

 

 BGMの代わりに聞こえた咆哮(SE)が、その動作に待ったをかけた。

 直後、頭上から落下音が聞こえる。それに反応して顔を上げるよりも早く、俺の目の前に大きな物体が落ちてきた。

 

 象サイズの大きさに反して、着地の音はそこまで大きくない。

 しかし発生した風は強く、白い学ランをたなびかせながら俺の体は後ろに飛ばされた。

 普段なら、それでむざむざと転んだりはしない。だが、完全に呆けていた俺の頭からは体勢を整えるという事象が見事にすっぽ抜けていた。

 

「っ、だ」

 

 結果として、後頭部から倒れこんだ。

 痛みはないが、頭を打ちつけた衝撃に思わず声を上げてしまう。しかしすぐに我に返ると、慌てて上体を起こそうとした。

 

「……ぁ」

 

 したが、その動きは途中で止まった。

 なぜなら、体を起こすまでもなく、美しい獣の姿が視界に飛びこんできたからだ。

 

「……」

 

 ひくりと、喉が引きつる。

 本当にこのゲームは、生理現象の再現に凝っている。頭の片隅でそれを笑い、そして顔でも無理やり笑顔を作りながら、俺は口を開いた。

 

「……おわかれ、したろ」

『うん。でも……会いたかったから』

 

 白銀の狼はメゾソプラノでそんなことをさらりと言いながら、小首を傾げる。

 

『迷惑だった?』

「そんなこと……あるかよ」

『そう。なら、無理をした甲斐があったかな』

 

 無理というのは設定の話なのか、それとも味方NPC化した時の弱体の言い換えなのか。

 そんなことを考える俺の前に、ぽんっ、とウインドウが表示された。

 

『【貴方だけの獣(オンリーユアエネミー)】とエンカウントしました』

『彼女を、呼んでください』

 

「…………ははっ」

 

 ウインドウに刻まれた文章を見て、思わず笑い声を零す。

 前振りのない名づけイベント(むちゃぶり)だが、あいにくと彼女をなんと呼ぶかなんて、こんなイベントに促されるまでもない。視界を遮る邪魔なウインドウを消してから、俺は口を開く。そして、万感の思いでその言葉を紡いだ。

 

「おかえり、朔」

「……うんっ」

 

 いつの間にか人の形になっていた白銀の獣は、その言葉に嬉しそうに肩を震わせて。

 

「会いたかったよ、リョウ」

 

 世界一可愛い、とびきりの笑顔を俺にくれた。

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