ゲームのエネミーキャラにガチ恋したのでイチャイチャするためにがんばります   作:どくはら

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現実は突然に

「ヨシツネさんっ、ありがとうございましたー!」

「ほらっ、もう行くぞっ」

 

 質問とその回答、そしてそれ以上の雑談を終えた後。死圀氏もとい死圀くんに半ば引きずられるようにして、きんつば氏改めきんつばさんは去って行った。

 ぶんぶんと力いっぱい手を振る彼女の姿が見えなくなったところで、フレンドリストを確認する。最新登録者(いちばんうえ)とその下にはそれぞれ、「きんつば(槍使い(ナガエ))Lv34」「死圀《元素使い(エレメンタラー)Lv71」の文字が表示されていた。

 

 まさかフレンド申請を投げられるとは……。

 きんつばさんは空気を読まないフレンドリー全開なのでわからないでもないが――アーサーにも申請して丁寧に断られていた――、死圀くんまで俺に申請してきたのは意外だった。

 

「……それにしても、信じられないっていうかなんていうか」

 

 黙っていたアーサーが、ぽつりと口を開く。

 それにもっともらしく頷いてみせた。

 

「ああ。今川焼が、地域によってはきんつばって呼ばれているだなんてな」

「ヨシツネ」

 

 わりとガチめなトーンでたしなめられた。

 どうやらエセ不良は、話題転換を許してくれないらしい。困ったように頬を掻いていると、仕方ないなあと言わんばかりの溜息が隣から聞こえてきた。

 

「聞きたいことは色々あるけど……。きんつば君、先輩フレ「たち」って言ってたな。でもストラテジーエネミーって、確かソロ限定だったと思うけど」

「……そうだな。ソロでエンカウントした後でも、そこに他のプレイヤーが合流したら朔のルー・ガルーは戦闘から離脱する」

「率直に聞くけど、ヨシツネの目から見てチーム戦ってできるん?」

「できる」

 

 間髪入れずの即答に、顔を向けなくてもアーサーの目が丸くなるのがわかった。

 ストラテジーエネミーは、地力(レベル)の高さも壁として立ちはだかるにせよ、何よりソロ限定という点で攻略難易度が高く(無理ゲーに)なっている。チーム戦ができるというのは、ストラテジーエネミー戦における難易度の前提をひっくり返すということだ。

 

 だが、できるのだ。

 少なくとも俺は、これが運営の想定した攻略方法だと思っている。

 

「多分だけど、ストラテジーエネミーは特殊な大規模戦闘(レイドバトル)だ。数人のアタッカーでうまくスイッチを繰り返しながら、他の面子が捕捉されない位置から支援するのがセオリーだと思う」

「マジかあ。ちなみに補足されるのってどれくらい?」

「何度か他のプレイヤーに乱入されたことあるけど、ルー・ガルーがはっきりと離脱反応を見せたのは、第三者が半径二十メートルくらいの距離を割りこんだ時だけだ。それより離れた位置からなら、ダメージ判定が出る術式攻撃の直撃でもない限り多分逃げない」

「二十メートル……。術式の射程範囲ギリかつ、なんとかスイッチできる距離か」

「だろ? まあこれ、俺の経験よりはあるギルドの成果って感じなんだけどな」

「ギルド? 朔のルー・ガルーの検証してる戦闘ギルドいたっけ」

「カメコ」

「ああ……」

 

 吐き捨てるように言えば、全てを察したとばかりにアーサーが遠い目になる。

 

 RTNには少し前まで、女性型敵Mobの性的なスクショを撮ることを目的としたギルドがあった。最初は戦闘中にエネミーのスクショを撮るだけのギルドだったらしいが、解散するころには完全に変態カメコの巣窟と化していたらしい。

 見た目は白髪赤目の女子高生でしかない朔のルー・ガルーも、奴らの毒牙にかかった。制服の胸元が大きく切り裂かれたスクショが晒され、その画像が出回ったのだ。

 画像に関しては、ギルマスその他に脅迫(おねがい)して削除してもらった。

 その時にどうやったのかを聞いてみたところ、離れたところから数人がかりでデバフを重ねがけして、動きが鈍ったところでアタッカー担当が服を切り裂いたのだと教えられた。

 

 今でもはらわたが煮えくり返るような所業は脇に置くとして、こいつらは実質チームでストラテジーエネミーに挑むことができる可能性を示唆した。

 数少ないフレンドに頼みこんで検証に付き合ってもらったので、可能性は今や確証になっている。他はどうかわからないが、少なくとも朔のルー・ガルーに関してはそれで間違いない。

 

「さすがに体晒したままスキル使ったら逃げられたから、遮蔽をとって視認されないようにしつつ、バフなりデバフなりで支援するのがセオリーだろうな」

「完全に識者じゃん……やば……」

 

 当然だろう、と鼻を鳴らす。

 リスポーンシャトルランで一晩十数回バトルしたこともあるのだ。こと朔のルー・ガルーに関しては、俺が一番戦ったし、俺が一番あいつのこと(パターン)を知っている自負がある。

 

「……でさあ」

 

 そんな自負が宿った胸を張っていると。

 

「お前、なんとも思わんわけ?」

 

 アーサーが、容赦なく冷や水を浴びせてきた。

 

「……そりゃあ、ゲームに登場する敵を倒すのは個人の自由だし」

「そんな当たり前を聞いてないことくらい、わかってるよな?」

 

 正論でのごまかしは、ばっさりと切り捨てられる。

 思わず苦虫を噛み潰したような顔になるが、友人は追撃を緩めなかった。

 

「現在確認されているストラテジーエネミーは全部で四体。【白夜のアリアドネ】、【境界の継ぎ接ぎ少女】、【雨天のルサールカ】。そして、お前がご執心の【朔のルー・ガルー】。このうち運営から撃破の告知があったのは【境界の継ぎ接ぎ少女】だけど、半年前の告知以降、リスポーンが報告されてないことを知らないとは言わせないぞ」

「…………それは」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 RTNプレイヤーの間では暗黙の了解となっている事実を突きつけられ、言葉に詰まる。アーサーと視線を合わせるのがしんどくなり、明後日の方向に顔を向けた。

 そんな俺を見て、アーサーは大きく溜息をついた。

 

「はっきり言うけどさあ……。()()()()()()()()?」

「……フレに呼ばれたので失礼します」

「あっ、こらっ、お前!」

 

 返事の代わりに、俺はゲームからログアウトした。

 

 

     ■■■

 

 

 目を開けると、暗色のフィルター越しに自室の天井が広がった。

 ベッドから上半身を起こし、頭につけているVRヘッドセットを外す。視界は暗色からクリアになり、世界はちゃんとした色合いに戻った。

 サイドテーブルに置いてあるスポドリに手を伸ばして、常温のそれをぐびぐびと飲む。

 乾いた体に水分チャージ。ペットボトルの中身がなくなったところで口から離し。

 

「は~~~~~~~~」

 

 長い溜息とともに、再びベッドに沈みこんだ。

 携帯端末が痙攣しているのかってくらい震え始めたが、相手はわかりきっているので出るつもりはない。代わりに手探りで端末を掴むと、電源ボタン長押しで黙らせた。

 

「…………はあ」

 

 静かになった端末を足元に放り投げ、もう一度溜息を零す。

 

『はっきり言うけどさあ……。()()()()()()()()?』

 

「いいわけねえだろ、馬鹿野郎……」

 

 脳内でリフレインするアーサーの言葉に悪態をつきながら、目を閉じる。

 いいわけがない。

 彼女が他のプレイヤーに倒されるところを想像しただけで、嫉妬がこみ上げる。

 

(話し合いで解決? 討伐チームを脅しつける?)

 

 浮かんだ考えには、即座に首を横に振る。

 根本的な問題の先送りだ。ルー・ガルーを倒そうと意気込むプレイヤーが次にいつ現れるかわからない以上、何の解決にもなっていない。

 何より、そこまでするのはMMOの流儀に反している。

 

 カメコを脅した時とは状況が違う。あのケースは要するに、NPCをいじるプレイングがあるなら、そのいじりからNPCを守るプレイングもあるというだけの話だ。

 ペナルティこそあれど、PKそのものは禁止されていない。あそこで返り討ちされても俺は文句を言えないが、俺に奇襲されたことを彼らが訴えることもできない。なぜなら、ゲームのシステムはPvsPを認めているのだから。

 

 しかし、朔のルー・ガルーは運営が創った敵性存在(エネミー)だ。

 どれだけ強かろうとも、その強さがバグによるものでない限り、いつかはプレイヤーに倒されることが想定されている。彼女を倒すことが公式に認められている以上、自分が倒すために邪魔をするならまだしも、誰にも倒させないようにするのはゲームの主旨に反する。

 俺もゲーマーの端くれ。そんな困プレイヤーみたいなことはしたくない。

 なら、どうすればいいのか。

 

 ――――答えは、わかりきっている。

 問題はただ一つ。俺がそれを即断できないということ。

 

「ルー・ガルーを……好きな女の子を、自分の手で殺すってことだろ、それ」

 

 彼女(ルー・ガルー)とエンカウントできる日は何があろうともログインし、毎月のように戦ってきた。多い時には一晩で十数回。こっちを瞬殺してくる彼女と善戦できるようになるまで、彼女の攻撃を体が覚えこむようになるまで、何度も何度も戦った。

 こと朔のルー・ガルーに関しては、俺が一番戦ったという自負がある。

 けれど、彼女を討伐(キル)しようと思ったことは、ただの一度だってない。

 

「倒したくねえなあ……」

 

 呻くように言いながら、今度は現実からログアウトし、眠りの世界にログインした。

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