本日、9月23日は 加藤恵の誕生日です。

今回は高校二年の誕生日。

原作では触れらることのなかった恵の誕生日。
まだぎこちない倫也と恵の関係を淡く書いてみました。

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ほんとはテンポよく会話を増やしたいけれど
高2の頃の加藤恵は口数が少ない方がそれっぽくなるので
描写多めです。

これぐらいの距離感はけっこう好きです。


恵 バースデー

9月23日。なんでもない平日。朝はとても穏やかな陽気だった。

 

恵はいつものように起きて、いつものように顔を洗い、いつものように朝食を軽く取り、そして学校へ向かう。

朝の通学路で倫也に会うこともなく、学校へ到着。

退屈な授業を淡々と受けて、何事もないかのようにフラットな表情のまま一日を過ごす。

 

時々、倫也のことを見るが、だいたいいつも机に突っ伏して寝ていた。

バイトを掛け持ち、ゲーム作りを始めたこの男の子を気に始めている自分を自覚できていない。

 

けど、恵にとって特別な一日を、この鈍感極まりない男はまったく気が付いていないだろうことはわかる。

 

「お誕生日おめでとう」などとさりげなく言われ、現在の関係に相応しい小物・・・例えば文具を贈ってくるようなことは、まず考えにくい。

 

およそメインヒロインらしく扱われたことはなく、流されるままその謎のポジションに収まり、放課後を視聴覚室で過ごすようになった。

サークル活動を始めてから、少しずつプログラムも覚えて、ゲームが動くようになるのは楽しい。

高校2年の女子高生として考えると暗いかもしれないが、自分の性分にあっているようで結構満足していた。

 

「モノローグ長いかな?」

 

授業は上の空。はやくお昼休みにならないかなと、窓の外を眺める。

 

 

 

※※※

 

 

 

お昼休み。

 

購買にならんで、同じパンを二つ買う。

コーヒー牛乳も二つ買う。

それから今日はプリンも二つ買う。

 

領収書・・・じゃない、レシートは財布に一応とっておく。

 

教室で暢気に寝ている倫也の机の上に買ってきたものを置く。

倫也の指す出した財布を受け取り、清算する。

プリン1個分多めに受け取ったところで、倫也は気が付かない。

 

このちょっと悪いことをしている自分はともかく、誕生にまったく気が付く様子のないこのサークル代表になんだかだんだん腹が立ってくる。

財布を黙って返す。

 

恵は隣の席でパンの袋を開けて、「いただきます」も言わずに食べ始めた。

 

横目でちらりと倫也を見ると、プリンを目の前に持って眺めている。

 

「どうして、プリンがあるんだ?」

 

それを考えて、いい加減気が付けと恵は思う。

イライラしている気持ちは顔には出さない。フラットフラット。

 

倫也が恵の方を見て、もう一度聞きなおす。

 

「なぁ加藤。どうしてプリンがあるんだ?」

 

理由を聞かれても困る。こんな時はなんて返すんだっけ?

 

「べ・・・べつに、あんたのためじゃないんだからね」

抑揚をつけず、棒読みで言う。

 

「・・・ツンデレ?」

倫也がつっこんでいいのかどうか迷う。

やっぱりボケもツッコミもタイミングが大事で、勢いが足らない。

 

英梨々のようにはいかないなぁっと思いながら、恵は黙って前を向いてプリンを食べる。

耳が少し赤い。

 

 

 

※※※

 

 

 

放課後。視聴覚室。

 

「はぁ、あんたバカなの?死ぬの?」

 

いつものように英梨々が軽妙に倫也とやりとりをしている。

詩羽の作ったシナリオから英梨々がキャラを描きおこす、それに倫也の意見が加わる。2人でキャラ作りをしているうちはサークル活動なのでしょうがない。

そこから、話が脱線し他のアニメやマンガのキャラクターを英梨々が描いて、倫也が論評する。

いい関係だなぁっと、恵は思う。

 

放送中のアニメや過去の名作アニメの話題になると、話が盛り上がって、2人でわいわいと騒がしい、そうなってくるとサークル活動とはいえないので、恵はイラッとする。

 

そんな時は、「あの~ちょっといいかな?」と間にはいって、わざと話の腰を折り、簡単なプログラムの質問や、演出について意見を求める。

すると、2人は少し静かに戻る。

 

この二人は仲がいい。英梨々が倫也のことを好きなのはすぐにわかった。倫也もきっとそうなのだろうと恵は思っている。

 

もう一方の詩羽はマイペースだ。

眠っているかと思ったら、何か火が付いたようにシナリオを書き始めている。

 

今日の恵はあまり気が乗らなかった。

作業がぜんぜん進まない。

 

「ちょっとごめん。今日は先に帰る」

 

一言いって、荷物をまとめた。

あまりにも日常的すぎる。そこでいつもの自分を演じるのが辛くなってきていた。

 

「ああ、うん?」

倫也があっけにとられている。

 

恵は特に付け足す言葉もないので視聴覚室を出た。

 

 

 

※※※

 

 

 

「倫也、なにやってんのよ。追いかけなさいよ」

 

英梨々が促す。

 

「なんで!?」

「なんでもなにも、女の子が意味深に帰ったら、追いかけるのが主人公の務めでしょう?」

「うーん」

「あら、澤村さんもたまにはいいこと言うわね。倫理君もイベントフラグ管理ぐらいできるように成長して欲しいものね」

「いや、言っている意味がぜんぜんわからないのだけど」

「見失うわよ?」

「わかったよ・・・」

 

倫也が荷物をもって、視聴覚室を出ていった。

 

英梨々が1つため息をつく。

 

「いいのからね、こんな敵に塩を送るようなまねをして」

「別に、あいつと恵がどうこうなるわけでもないし、だいたいサークルメンバーの誕生日ぐらい覚えておきなさいって話よ」

「なら、教えてあげればよかったじゃない?」

 

英梨々はムスッとした顔でそれ以上は答えなかった。

さっきまでは楽しかったのだ。

言い出すタイミングを失った。それだけのこと。

 

 

 

※※※

 

 

 

「加藤!」

 

恵が下駄箱の前で靴を替えていると、倫也が走りながら声をかけてきた。

 

「安芸くん。どうしたの?」

「いや、別に、何もないんだがな・・・」

「そう・・・?」

 

恵は自分がにやけてないかちょっと不安だった。

顔を見られないようにして、顔を一度軽く叩く。フラットフラット。

 

倫也が靴を履き替えた。

 

恵は外にでて空を眺める。雨でも降ってくれば相合傘でもできそうだけど・・・

日が落ちるのは早くなったが、まだ青空が残っていた。

 

「一緒に帰らないか?」

「うん。それはいいけど・・・」

 

倫也と恵が並んで歩き始めた。

校庭ではまだ部活が行われていて、騒がしい掛け声や、ボールの跳ねる音が聴こえた。

 

「サークルの方はいいの?」

「ああ、うん。平気だと思う・・・」

「そう、で、どうしたの?急に」

「うん・・・いや、その・・・なんだ?英梨々が追いかけろっていうから」

「・・・あ~うん、そう」

 

なんというか、どっちに対しても失礼だ。

ということは、英梨々は知っていたわけだ。

 

「なんで追いかけろ言われたか、心当たりは?」

「・・・さぁ」

 

うん。鈍感。

でも、覚えてないならしょうがないか。

自分から今更いうわけにもいかず、今日を祝われることはないらしい。

それならそれでいい。

 

何か適度な話題がないかな。

少し黙って歩く。それはそれでいいのだけど。

 

「俺、プリンはゼラチンプリンよりも焼きプリンが好きだな」

「ん?」

「ほら、今日のプッチンプリン。昔は好きだったけど・・・」

「ああ、うん」

 

プリンも種類がずいぶんと増えた。

 

「あとは、とろけるプリンもうまいよな」

「うん。コンビニスイーツ?」

「そそ。けっこう充実しているだろ。加藤も時々買う?」

「うん。買うし、作るよ。プリンぐらいなら」

「プリンって作れるの!?」

「そりゃあ・・・作れるでしょう」

「へぇ・・・」

 

よし、そこからもう一言で、プリンを作ってくる口実ができる。

「食べてみたい」の一言があればいい

 

「器用だな」

「・・・」

 

褒めているつもりだろうか・・・

なんか斜めな感想だなぁ・・・

少し話題をずらそうっと

 

「でも、安芸くんがスイーツの話題なんてできるんだねぇ」

「それぐらいはなっ」

「自信あり?」

「いや・・・ただ、最近は英梨々がよく買ってくるから」

「・・・ああ、そう」

 

いけない。目からハイライトが消えてた。

フラットフラット。

しかし、どうしたらこんな鈍感極まりない発言ができるようになるんだろう?

 

倫也がだまった。

 

ん・・・、コンビニで買うところを広げれば、コンビニに一緒にいけたのかな

 

恵は考え込む。

 

(手作りプリンは敷居が高すぎたかな)

 

駅前に到着する。

 

「あっ、ちょっとコンビニ寄っていいかな?」

 

恵がコンビニはいる。倫也もついてくる。

話の流れもある、恵がスイーツコーナーにいく。

 

「ほんと、いろんなプリンがあるね」

 

が、倫也の返事がない。横を向いても倫也はいなかった。

あたりを見回すと、お菓子コーナーでプリングスを選んでいる。

そのまま目で追うと、会計のところでアニメキャラクターのクジをひいている。

クジを開けて、ガックシして、クリアファイルを手にしていた。

 

(自由だなぁ・・・)

 

もう、恵は怒る気もしなかった。

なんというか、いつもの倫也がそこにいる。

 

それはしょうがない。今日特別なのはわたしであって、彼ではない。

 

恵は何も買わずに倫也と店をでた。

 

それから駅に到着し、改札を抜ける。

ホームで電車をまった。

 

さっきから倫也が黙ったままだ。

目線も合わせない。

 

なんかおかしなことあったっけ?

 

電車が到着して、2人が乗る。中は空いていたので並んで座った。

倫也が鞄をあけて、レポートを恵に渡した。

 

「これ、修正した分。目を通しておいてくれる?」

「うん」

 

恵は受け取って鞄にしまった。

 

電車が揺れている。

駅に到着し、乗客が乗り降りし、また出発する。

 

やがて恵の最寄り駅に近づいてきた。

 

恵が座席から立ち上がる。

 

「あのさ、加藤」

 

振り返ると倫也の顔が真っ赤だった。

 

「これ」

 

小さな茶色の紙袋を手に持っている。

 

「うん?」

 

電車が到着した。

 

「これ」

 

袋を恵の方に渡す。

「うん」

恵はお礼も言わずに受け取った。

 

ドアが開いたので、恵は降りた。振り返ったが倫也はこちらをみていない。

電車のドアが閉まり出発する。

 

恵はホームの壁に移動し、茶封筒を開けると、中にはラッピングされた小さな小さな袋が1つ入っている。

それを開けると、カワイイ消しゴムが1つはいっていた。

 

「そっかぁ・・・」

 

恵の顔が少し火照る。

それからもう一度袋にしまってから、鞄へいれた。

 

(覚えていてくれたんだ)

 

けれど、倫也からお祝いの言葉はなかった。

プレゼントだということも言わなかった。

ようするに倫也は照れ臭かった。

英梨々が後押ししなければ、この消しゴムすら渡せなかっただろう。

 

恵はようやく理解して、喜んでいる自分に気が付く。

貰えるものはなんでもよかった。

今日という日を一緒に過ごせた。

 

 

 

「要するに、倫也くんもわたしも、今日をどうやって過ごしていいのか、わからなかったんだね」

 

 

 

恵が口元を抑えて、クスクスと1人で笑っていた。

 

 

 

(了)

 




ぜんぜん関係ないけど、まったく読まれていないミカンの話も読んでやってね

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