【悲報】転生したらしいんだけど秒でオークと鬼ごっこしてる【どこここ?】   作:火壁

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ガッシュⅡが面白くて続きが楽しみな作者です。

お気に入り登録1000突破、PV100000突破アリガトナス!! これからも皆さんの性癖を晒せるような小説になるよう頑張ります。…感想と評価も待ってます(小声)


ボーイズ・ビー・アンビシャスとは言うけれど

 賢斗の初任務から数日経った五車町、対魔忍とその関係者しか住んでいないこの町も、普段は平和そのもの。放課後には駄菓子屋や公園で戯れる子供たちが見られるだろう。

 しかし、正義の味方はいついかなる時も巨悪に立ち向かう準備を怠ってはいられない。研鑽を積み、技術を磨き、真の平和の為に自らを高めるのだ。

 

 

 

 

 そして、賢斗もまた、その一人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五車学園地下訓練場

 

「おらあ!!」

 

「ラシルド!!」

 

 シミュレーターでビルが立ち並ぶようにホログラムが投影される演習場で神村舞華の『冥土バズーカ』から爆炎が幾つもの砲弾となって放たれる。複数の爆炎が賢斗に迫るが、第二の術によって防ごうとするが

 

「ぐ、ぐううううううう!!」

 

 数の暴力というべき高火力にラシルドが破られそうになっている。そして、賢斗が相手するべきは舞華だけではない。

 

「よそ見してるんじゃ無いわよ!」

 

「遠距離でペア組んでんじゃねえリンチじゃねえか!!」

 

 賢斗の背後にまわったゆきかぜが得物の『ライトニング・シューター』を構え、数発の雷を撃ち出す。ラシルドを展開している賢斗はその場を動く事ができず直撃した。ついでにラシルドも崩れ舞華の砲撃も当たった。

 

「よ、容赦ねえ…」

 

「悪いわね。アサギ校長から本気でやるように言われているのよ」

 

「そういうこった。ま、情報が無さすぎたって事で諦めろ」

 

 賢斗が苦戦したのには二つの理由がある。一つは初任務終了後に改めてアサギとさくら、そして紫から身体能力と術の限界を測るために倒れるまで術を放ち続けたのだ。そしてそれを見学したいというゆきかぜ、舞華、そして今ここにいないまりの三人は少なくとも賢斗の限界を把握している。

 その中でアサギは賢斗の能力から『脳筋より策を弄して戦う』スタイルが適していると判断。身体能力をあげるラウザルクを禁止として他の術のみで戦うように言われてしまった。

 

「ホント理不尽…」

 

「アサギ校長もどうしてこいつにそんな期待してるんだか。ほらさっさと立つ」

 

 肩で息をする賢斗だが、ゆきかぜはそんな事お構いなしに舞華と共に脇を抱え立ち上がらせる。この日の訓練時間は3時間。他にも体力トレーニングや筋トレもこなしているため、賢斗の身体はボドボドである。

 

「ちょ、ちょっと休憩…」

 

「敵がそんな事許すと思う?ほらさっさと動く」

 

 賢斗は嘆息しながらも両手で頬を叩き、気合を入れ直す。

 

「よっしゃ!もう一回だ!!」

 

「それじゃ、さっきとは違う初期位置に移動な。今度はバトルロイヤルでいこうぜ!」

 

「いいわよ。今度は私の一人勝ちね!」

 

「「上等!!!」」

 

 その後、訓練時間を1時間オーバーして紫に小言をもらう事になるが、三人共話を聞ける程の体力は残されていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 別の日

 

 五車学園の裏山

 

「九十…六、…九十…な…なあ!」

 

「やはり、一般人の能力と大差が無いですね。先程の術でも対魔粒子の流れもそこまで大きくなかったですし…となると、術の条件は心の力なのでしょうか」

 

「かもしれませんね。ゲームみたいに術ごとに数値化してくれると管理しやすいんですけど」

 

「まあそこは現実ですから。使っていって感覚を覚えないとですね」

 

 転生者仲間である井河核原のトレーニングをそのまま行っていた。しかし、対魔忍となって日の浅い賢斗と現役が長い核原では身体能力の差が激しく、半分をこなすのがやっとというのが現状である。

 

「陰キャの自覚はあるけど、ここまで体力が無いとは思いませんでした」

 

「体力とかは転生前と同じですからね。それは自分でどうにかしなければいけませんから頑張れとしか」

 

 任務が終わってから賢斗は自身の欠点を洗い出した。体力、知力、戦況判断能力と課題は山積みとなり、時間の余っている時は戦術書を読み、雷関連の知識のために工学関連の勉強も始めた。実際、彼の脳はパンク寸前である。

 

「でもここ最近トレーニング続きですから、少し休んでも文句は言われないと思います」

 

「そうとは思うんですけどね。俺は皆より年上だしそれなのにスペックが低いのって、アレじゃないですか」

 

「だとしても、それで身体を壊しては本末転倒です。一日くらい休みなさい」

 

 賢斗の考えも理解出来るが、それでも核原は頑として認めなかった。賢斗もこれ以上の反論は無意味と判断し、訓練を終了する。

 

「となると明日は一日中休みか。どうすっかな」

 

「じゃあ明日は私と一緒に「ごめんなさい」せめて言い切ってから断ってください…」

 

 次の日は学校だが、放課後の予定が空き、久しぶりの余暇に思いを巡らせる賢斗であった。

 

 

 

 

 

 なんてことはなく、すぐにイベントが起こるのが主人公というもの。そしてそれは出会いも含まれる。

 

「…………」

 

「…………」

 

 朝、日がまだ上り切らない時間。賢斗はいつものように五車学園に登校しようと扉を開けた時に起こった。いや、いたというのが適切だろう。それは確かに『いた』のだ。

 

「…………」

 

「…………」

 

 扉の前にあったのは何という事はないボストンバッグ。これだけならば物であり、『あった』と表現するのが適当である。しかし、その『内容物』が問題だった。

 

「…………」

 

「!」

 

 賢斗は『それ』を気にしないように目を逸らしながら自宅を後にした。『それ』は自分を無視して去ろうとしている賢斗を追いかけ、賢斗の前にまで回り込むとその場に鎮座した。

 

「…………」

 

「!?」

 

 賢斗は再び『それ』を無視して歩き出す。しかし、今度はそれを予想していたためか、少しずれて賢斗の前に立ち(?)塞がった。

 

「……」

 

「~~~~~」

 

 最早涙目になっている『それ』は、何かを訴えるように賢斗を見つめている。賢斗は嘆息しながらも、筋肉痛を訴える左手で『それ』が入ったボストンバッグを持ち上げた。

 

「…………これ完全に」

 

「メルメルメ~~~~♪」

 

 そう、

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウマゴン(シュナイダー)である。

 

 

 

 

「…………」

「…………」

「wwwwwwww」

「…………」

「嘘でしょ…」

「おお……」

 

「…………」

「メルメルメルメルメルメルメ~~♪」

 

 五車学園に着いた賢斗だが、ウマゴン(?)を抱えたまま教室にたどり着けるはずもなく、すぐに風紀委員長である『氷室花蓮』に連行されてしまった。アサギ、紫は言葉を失い、さくらは爆笑している。ゆきかぜは呆れ、舞華はウマゴン(?)がソファに座っている様子に若干の可愛さを見た。

 

「高嶺くん、どういう事か教えてくれるわね?」

 

「俺もそうしたいんですけどね。朝登校しようとしたら扉の前にいただけなんで」

 

「何も情報がない、と?」

 

「いえす」

 

 ウマゴン(?)は二人の様子で自分が問題となっていると察したのか、自分が入っていたボストンバッグから一枚の手紙を取り出した。

 

「手紙?」

 

「中身は…魔界言語のようね」

 

「魔界言語?」

 

「今となっては魔界でも田舎のような場所でしか確認されていない言語よ。人間と関わる事が増えた魔族は人間が理解しやすいように英語や中国語なんかが多く使われてるけど、彼らにも独自の言語が存在するのよ」

 

 知的生命体である以上、自分達で使う言語があるのは想像できるが、下等と見下している人間に言語を合わせるのが賢斗には理解できなかった。

 

「それで、その手紙にはなんて書いてあるんですか?」

 

 ゆきかぜが聞くが、アサギは言葉を濁し、重々しく口を開く。

 

「さっきも言った通り、魔界言語は今だと田舎で使われる程度なの。勿論企業の書類なんかに書いてる訳も無いし、それの翻訳表も持っていないの」

 

「つまり手紙は読めないと」

 

「まあ、読める人材がいないわけではないわ」

 

 

 

 

 

 

 一時間後、五車学園の校長室に来たのは核原であった。

 

「お久しぶりですアサギ様。昨年の任務以来ですけど、新しい任務ですか?」

 

「久しぶりね核原。今日は任務じゃなくてあなたの知識を借りたいの。この魔界言語を読んでくれない?」

 

 アサギは核原にウマゴン(?)から受け取った手紙を見せる。核原は数行見るとアサギに向かって告げる。

 

「これは確かに魔界言語です。これはどこで?」

 

「そこにいるロバの子が持っていたの」

 

「え?ウマじゃない?」

 

「ロバでしょ」

 

「ウマだろ」

 

「そこ問題か?」

 

 ウマかロバかで話が逸れたが、核原が話を戻す。

 

「では少し時間をください。書き起こした方がいいですか?」

 

「そうね。それもお願いするわ」

 

 アサギは机の引き出しから紙とペンを取り出して核原に渡す。核原はソファに座って10分程で翻訳が完了した。

 

「終わりました。では読みますね」

 

『この手紙を読んでいる方は、なぜこの子がここにいるのかについて疑問だと思います。私の名は“メリア・ホース”。魔界に住む魔族です。今回我が子であるシュナイダーを人間界に送ったのには理由があります。我々はウマ族と称される種族でとある魔界貴族に使えているのですが、ある日他貴族が領地に侵攻。主の戦力より相手の兵力が上だったため、主から逃げるように命じられました。

 しかし、相手は執拗に主は勿論、臣下である我々にも手を伸ばして来ました。ウマ族は騎兵として、或いは魔界での移動手段として起用されるのですが、ウマ族は一度決めた者を主と定め、その者以外を背に乗せる事はありません。しかし、相手は息子を含めて無理矢理にでも従わせようと考えているようで私は身柄を拘束され、奴隷にされるでしょう。その前に息子だけでも無事でいて欲しい。その親心を汲んでいただけるのでしたら、どうか息子をよろしくお願いします。願わくば、あなたは私と違い、守るべきものを守る力があらんことを』

 

 その手紙は母としての叫びか、自分が守れなかったことへの懺悔か、賢斗の部屋の前に置かれているのは偶然なのだろうか。様々な思惑が混雑するが、少女の思いは固まっていた。

 

「賢斗、行くわよ」

 

「は?」

 

「は?じゃないわよ!あんたこの手紙聞いて何も思わないの!?今ならまだ生きてるかもしれない!すぐにでも」

 

「待ちなさいゆきかぜ。行くにしてもいったい何処に行くというの?」

 

「アサギ校長!!」

 

 ゆきかぜの激昂をアサギが窘める。ゆきかぜの()()を知っているアサギも気持ちは理解できるが、それは話が違う。

 

「なら聞くけど、仮に救出に行くとして何処にいるというの?攫ったという貴族の正体は?メリアという魔族の人相は?彼女の望みは息子であるシュナイダーを守る事。言い方はあれだけど自分の事は見捨てて構わないと言っているのよ。それをわざわざ救出したとして対魔忍としてどんな利益があるというの?」

 

「そ、それは…」

 

 ゆきかぜは言い淀む。対魔忍は国家に雇われた公務員という扱いである。そして公務員である以上国の利益となる事、そして国民を守る事である。魔族のために国民を蔑ろにしてはならない。

 

「だったら…この子の親を見捨てろというんですか?私達のために親が死ぬ事を認めろとこの子に言うんですか!?」

 

「その通りよ」

 

「!!」

 

 アサギに対してゆきかぜは親の仇を見るように睨みつけるが、アサギはそれを意に介さず続ける。

 

「私は対魔忍であると同時に皆をまとめることも役目なの。個人の勝手な動きは認められない。それも魔界に行ける程あなたの実力は高くないわ」

 

「!…私を舐めすぎじゃありませんか?」

 

 手をわなつかせながらアサギに襲い掛かりそうな程敵意を表している。しかしアサギはそれでも表情は変わらない。

 

「あなた、高嶺君との任務でそこのリーダーに負けているわよね。あれから強くなったと言ってもたかが知れているわ。そんなあなたが魔界に行っても精々孕み袋がオチよ」

 

「っ……失礼します」

 

 ゆきかぜはイラつきながら校長室を出ていく。賢斗はゆきかぜが出ていった扉を見つめ立ち尽くす。賢斗に話すように口を開く。

 

「彼女、母親で色々あったのよ。そんな自分をこの子に重ねているの。でもそれは対魔忍としては致命的な判断ミスに繋がる…だから彼女にそんな任務を任せたくないの。きっと、この子の親を優先して彼女が危険な目に遭うことをよしとしてしまうから」

 

「校長…

 

 

 

 俺、お涙頂戴求めてないんで」

 

 賢斗はそう言うとゆきかぜを追うように校長室を出ていく。舞華も追いかけようとするが、さくらが止める。

 

「賢斗くんも賢斗くんでこの子が心配なんだよ。それに今のゆきかぜちゃんだと任務関係無しに突撃しちゃいそうだから止めるのは大事だけど、それが出来そうなのは賢斗くんか幼馴染の達郎くんだけなんだよね」

 

 最近のゆきかぜは登下校の間仲睦まじく歩く秋山凛子の弟『秋山達郎』と良い仲である。しかし今回達郎は無関係であり、達郎は押しに弱いため、ゆきかぜに押し切られて魔界まで行ってしまう可能性もある(ゆきかぜ自身達郎を危険にさらしたくないためにそうはしないだろうが)。

 

「私達が言っても逆に突っぱねると思うし、そうなると今説得できそうなのは賢斗くんだけなんだけど、賢斗くんはむしろ自分が行きそうではあるよねー。自分の家に来たんだからーとか言って」

 

 初任務以来、賢斗は自身の能力向上のために核原と修練に励み、術においてもその成果が表れている。しかし、それが魔族相手に通用するかといえばまだ練度不足といえる賢斗を魔界には送れない。

 

「ゆきかぜちゃんも賢斗くんも困ってる子は放っとけないんだよ。だからどっちも危険とは分かっていても突っ込んでいっちゃう。ゆきかぜちゃんは敵の罠関係無く行こうとするけど、それがいつまでも続けられるはずがない。いつかはそれが裏目に出て自分の首を絞める事になっちゃう。それならまだ対魔忍に染まり切っていない賢斗くんの方が可能性はあると思わない?」

 

「そ、そういう話じゃ…」

 

「まあまあ、それになんか賢斗くんならなんとかなると思わない?なんていうか、漫画の主人公みたいな!」

 

「漫画って…そんな甘いものじゃないだろ対魔忍って」

 

 舞華はさくらの言葉に呆れているが、舞華自身も賢斗に助けられた経験から、あいつならどうするかを考える。訓練でも力量で届かないのならその場にあるものを利用し、その場を切り抜けてしまう。罠に勘づけば術を用いてショートさせる等対策を数多く考える。欠点といえば一度見た物でなければ対策をとれないことだが、それを差し引いても有望な人材なのだろう。

 

「まあそれだけじゃ不安だしね。私も一肌脱ぎますかあ」

 

 さくらは悪戯を考える子供のようにニシシと笑う。その表情に舞華はどのような意図があるか図る事はできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆきかぜを追いかけた賢斗が見つけたのは、河川敷で膝を抱えて座っているゆきかぜの姿だった。

 

「ゆきかぜ、話が「アンタはさ」?」

 

「あの子の手紙聞いて、どう思った?」

 

「シュナイダーのか?親御さんがどうなってるのか分かんねえけどあまり希望は…っ!」

 

 賢斗がその続きを口にする前にゆきかぜは胸倉を掴んでやめさせる。その手は力強く握られているが、小さく震えていた。

 

「……ゴメン」

 

「びっくりしたぞ。まあ何かあるとは思ってたけどよ。…それって聞いても良いやつ?」

 

 賢斗は恐る恐る聞く。ゆきかぜはゆっくりとだが口を開いた。

 

「私ね、両親いないの。お母さんは任務で行方不明になって、お父さんはお母さんの穴埋めに任務に行って死んじゃった」

 

 思ったより重い告白に賢斗は息を呑む。それも構わずゆきかぜは続ける。

 

「お母さんはアサギ校長と肩を並べるくらい凄い対魔忍って言われていたの。『幻影の対魔忍』って異名もあって魔族に恐れられてて、その任務もなんてことない潜入任務だったのよ。その数日後には連絡が取れなくなった。あの子は、私と同じなの。お母さんがいなくなって助けてくれる人がいない」

 

 ゆきかぜの独白は親とはぐれてしまった子供の泣き言か、同族に共鳴したかのようにシュナイダーの現状を憂いている。何をもってここまで他者のために戦えるのか。気になった賢斗は尋ねた。

 

「どうして…どうしてゆきかぜはそんなに人のために戦えるんだ?」

 

「どうして?決まってるじゃない」

 

 

 

 

 

 ——私が対魔忍だからよ。

 

 

 

 

 

 

 

 ゆきかぜと話した後、帰宅し夕飯の準備をしている賢斗の家の扉をノックする音が聞こえた。賢斗が開けた先にはシュナイダーが立っていた。

 

「シュナイダー?アサギ校長と一緒じゃなくていいのか?」

 

「メル……」

 

 シュナイダーは俯きながらも首肯する。そして腹部をさすりながら空腹を訴えていた。

 

「腹減ってるのか?今シチュー作ってるから待ってな。……シチューいけるか?」

 

「メルッ!」

 

 シュナイダーを家に上げ、座布団の上に座らせる。野菜を柔らかく煮込んだシチューをよそい、自分とシュナイダーの前に置く。スプーンを使えるのか疑問だったが、問題無く持っているためホッとしたが、今度はどうやって持っているのか気になり始めた。

 

「美味いか?」

 

「メル!メル…」

 

 声を出して肯定するが、シチューに入っているニンジンに苦い顔をする。ニンジンが苦手なのは人間の子供と変わらないと賢斗は苦笑した。

 

「それくらい食えよ。人んちで食ってるんだから少しは我慢しろって」

 

「メルゥ……メルメ…」

 

 シュナイダーはそれでも尚、苦々しい顔をする。賢斗もシュナイダーが喋ることができないところから、幼児程の年齢なのだとうかがえた。そんな子供が戦いに巻き込まれ、両親をなくしても、気丈に振舞うなどできようはずもない。

 

「……まあ、好きにすればいいさ」

 

「っ…メル!」

 

 そう言うとシュナイダーはニンジンをよけるが、ひとつだけ意を決して口に入れる。苦虫を嚙み潰したような表情をするが、しっかりと飲み込んだ。

 

「お前…ははっ」

 

 賢斗は何ともなく笑った。そして、ゆきかぜと話していたことを思い出す。対魔忍だからこそ市井の人々を守る。その行動(人々を助けること)に意味を求めえるのではなく、自分の在り方(対魔忍)はその役割(人々を助けること)そのものなのだと胸を張って言う事ができるゆきかぜはやはり強いと、賢斗は納得した。

 

「なあ、シュナイダー。お母さん、助けたいか?」

 

「メルッ!メルゥ……」

 

 シュナイダーはすぐに答えを出そうとするが、それは目の前の賢斗を危険にさらすこと。自分のためにこれ以上誰かを死地に送ることを決められる程、シュナイダーは冷徹でも、我儘にもなれなかった。

 

「メル、メルメル!」

 

 だからシュナイダーは否定する。自分が否定すれば賢斗は魔界へ行くことはない。今日出会っただけの関係だが、得体の知れない自分に料理を振舞ってくれた相手なら人情も湧くというもの。そんな人が助けの手を伸ばしていても、その手を取ってもし最悪な結果になってしまったら、今度こそ自分を許せなくなる。だから自分はこの手を取ってはいけないのだ。必死に否定している間に、頬が水気を帯びてきた。

 

「メル……メルメルメェ……」

 

「……シュナイダー、もう一回聞く。行くか行かないかじゃなくてお前の気持ちを聞かせてくれ。

 

 

 

 

 お母さんを助けたいか?」

 

 今度は首肯する。しかしシュナイダーはイヤイヤと賢斗に抱き着きながら止める。心の優しさが賢斗を止めるが、母を助けに行けるのは現状賢斗を含めた五車学園の対魔忍だけである。そして、解決のための勢力を集めるのは対魔忍という組織の性質上不可能に近いこと、その中で今回の件に関わり、力量のある者は限られる上、多くが立場ある存在。どうしてもすぐに出立できるのが賢斗しかいない。

 

 つまり、シュナイダーが頼ることができるのは賢斗、もしくはゆきかぜか舞華になり、後者の二人はほかの対魔忍とのつながりで勝手な行動を察知される可能性がある。それらの可能性を除外して、一番適した人物は賢斗なのだ。

 

「シュナイダー、お前が俺の身を案じてくれるのは分かる。でも、それ以上にお前がこの先、母親を助けられなかった後悔を背負ってほしくない。そのためなら、俺はいくらだって体張ってやる。だから頼れ」

 

「……」

 

 シュナイダーは涙を拭い、意を決した目を向ける。心優しい者が見せる強さは決して不戦だけではない。時に固い意志の下、戦う事もまた強さなのだ。

 

「ボーイズ・ビー・アンビシャス……か」

 

 『少年よ大志を抱け』という意味の言葉だが、悪意の溢れるこの世界で。

 

 

 

 

 いち個人の持つ意識は、果たして大いなる悪意を打ち破るに足るのだろうか。




むっっっっっっっっっっっっっっっず!!!!!!!!!!!!!!

新しい舞華姐さんが出たので書ききりましたが難産申し訳ナス…許して亭許して……

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