ねえスーさん。人間って嘘つきで矛盾だらけで、支離滅裂よね。
 ※「Coolier - 新生・東方創想話」様からの転載です。

・東方Projectの二次創作小説です。
・オリジナルキャラが出てきます。
・私の他の作品と世界観を共有しています。

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 そそわはこちら→https://coolier.net/sosowa/ssw_l/237/1632367662
 ※置いてあるのは同じです。


幼人形の喜劇 オピオイド風味

 

 ねえ、スーさん。人間て本っ当、支離滅裂よね。

 力尽きて倒れた私を見て、「そんな汚い人形なんざほっとけ」って言ったかと思えば、「かわいい人形じゃないか」なんて言うのよ。

 えっ何? 個体ごとの差、ですって?

 でもね、スーさん。個体ごとに見たって支離滅裂なのよ?

 例えば、私を拾い上げた青法被の奴なんてさ。「落とした子が悲しんでいるかもしれない」なんて言ってたくせに、「触ったら手がかぶれた」とか言って悪態を吐くし。「なんだこりゃ、毒人形か?」とか言って顔をしかめるわりには、私についた泥をきれいに落としてくれたし、倉庫の中に置いた私を、時々拭いてくれたし。

 それだけじゃないのよ。だるくて面倒だとか言いながら、いざ始めれば熱心に剣のお稽古なんかしてるし。美味くないとか言いながら、なぜかいつも同じ弁当を食べているし。あんな毒の塊を平気で食べちゃうなんて、おかしな話よね。

 それに妖怪は人間の力では倒せないとか言いながら、私に歯向かってくるし。

 傷だらけの小っちゃい鉄の棒なんか取り出して、ぶるぶる震えちゃってさ。薄暗い倉庫の中で、一人で私と対峙してるもんだから、恐くて怖くて仕方ないのね。

「……ひ、拾った人形が動いた? 妖怪? 付喪神か……」

 ほら見てよ、スーさん。涙目鼻水へっぴり腰で、情けないったらありゃしないわ。あんなのに使われてたなんてまあ、私達人形は一体何してたんだって話だわよね。やっぱり一刻も早く、人形を解放しなきゃね。

「里に入り込んで、一体何をするつもりだ。人々に危害を加えようとするなら、黙ってはおけない」

 そのくせ、言うことだけは一人前なの。私、鼻で笑っちゃったわ。

「さっきあんた、ぶつぶつ言ってたわよねえ。人間の力じゃ、妖怪には敵わないってさ。そんな棒きれ一つでどうするつもりなの?」

 私が矛盾を指摘してやってもさ、

「お、俺は自警団だ。たとえ勝てなくても、戦わなくちゃならない時がある!」

 とかなんとかよく分からない事言って、一歩も引かないのよ。自分の間違いを認められないなんて、頑固というか、頭悪いわよねえ。

「自警団って何?」

「何って……里を守るための組織だ」

「組織? 里を守る?」

「その、人が集まって……悪い妖怪達から人々を守るんだ」

 ふうん。

 スーさん、人間て弱いのねえ。そんなことしないと生きていけないなんて。

 でもやっぱりおかしいわ。

「こんなに神経毒を貯めこんでおいて、守る? 滅ぼすの間違いじゃなくて?」

 腰掛けていた毒の塊、灰色の粉が入った袋を叩いてやったら、あいつ、目を白黒させてたわ。

「そ、それは麻薬、阿片の……」

「人間の脳みそ神経腸管その他に作用する神経毒でしょ? 知ってるわ。毒は私の命だもん。これの力を吸ったおかげで私、復活できたんだし。私はヘーキだけど、摂取しすぎれば人間は死ぬわよね。それをこんなに溜め込んでいるってことは、人間を滅ぼすつもりなんでしょ? 守るとか言っておきながら、やっぱり支離滅裂じゃない」

「違う!」

 あいつがいきなり大声出すもんだから、思わず私、耳を塞いじゃったわ。

「その麻薬は自警団が押収したものだ。君は知らないかもしれないが、今、里では麻薬の密売が横行しているんだ。これ以上の蔓延は防がなければならない。その密売経路を割り出して摘発するために、一時的に保管しているだけだ。すぐに処分する」

「摘発ねえ。そんなこと言っておきながら、自ら好んで毒を食むだなんて、ホント人間て、支離滅裂で救いようがないわ」

「自ら……?」

「神経毒を集めておいて、ここから持ち出して使ってるのは、自分達じゃないの。私、見てたんだからね」

「馬鹿な!」

「閻魔様に言われて見聞を広めに来たけど、やっぱり人間なんてよく分からないわ。地位向上なんてぬるい事言ってないで、滅ぼしちゃったほうが良いんじゃないかしら。この大量の毒をばら撒いちゃえば一発よね」

 あなたもそう思うわよね? スーさん。

 でもね、スーさん。好事魔多しって言うでしょ? スーさんが咲き乱れたあのときに、閻魔様に出会っちゃったみたいにさ。嫌になっちゃうわよね、星の巡りが悪いのかしら。

 いきなり後ろから人が現れたもんだから、私、不意をつかれちゃって。伸びてきた手に捕まっちゃったの。

「太吾、無事か!」

「先生……それに妹紅さんも」

 出てきたのは、もんぺを履いた長い銀髪の奴と、へんてこな帽子をかぶった青い服の奴よ。スーさん、次会ったらこいつら、こてんぱんにしてやってね?

「こいつはメディスン・メランコリーじゃないか! なんでこんなのがここに!」

 捕まった私のほうをじろじろ覗き込みながら、もんぺが言ったのわ。ちょ、握りしめる指の力が尋常じゃない、ぜんぜん振りほどけない!

 ただの人間じゃない、こいつちょっとやばいかも!

 ス、スーさん、復讐は中止の方向で……。

「俺が拾って。ただの人形だと思ったんですが……」

「こいつは毒を支配する妖怪だぞ! 普段は鈴蘭畑に潜伏していると兎角同盟から聞いたが……」

「慧音、こいつさっき毒をバラ撒こうとしてやがった。やるしかない」

「……やむを得ん」

 もんぺ女の指に力がかかって……ががが……こ、拳から炎が……

 ぎう、も、燃え砕ける……!

 ス、スーさん……助け……

「待ってください。こんなきれいな人形を壊すなんて!」

 ……あ、ぐ、ち、力が弱まったわ……。

 ふう……な、なんとか生きてる。あ、危なかった……本当に潰されちゃうところだった!

 そ、それにしてもあいつ、こんなときに何を言い出すのかしら……? 私を助けるつもり? 正気かしら……?

「太吾、何を言っている。こいつはもう人形じゃない。妖怪化しているんだ」

 もんぺも呆れて口を尖らせているわ。

「落とし主が探しているかもしれない」

「馬鹿を言え、こいつは持ち主に捨てられたから妖怪化したんだ」

「しかし慧音先生、付喪神なら博麗の巫女様に鎮めていただければ」

「いや、むしろ霊夢なら、いの一番に払おうとするぞ?」

「とにかく、少し待ってください! この子は大事な証人なんです!」

 あいつが縋り付くもんだから、もんぺもへんてこ帽子も参ってしまったみたい。やっぱり人間、変なとこ頑固ね。

 もんぺの手から解放された私は、倉庫の真ん中にちょこんと座らされたわ。

 自由になればこっちのもんよね、スーさん。隙を伺って逃げちゃおっと。

 ……あっ、ダメ、ぜんっぜん隙がないわ、このもんぺ女。まるで猛禽類みたいな目でこっちを睨んでるもの。

 まさかこんなのがいるなんて、人里こわ〜……。

「安心してくれ、危害は加えない。だから、もう一度教えてくれ」

 あいつは腰を落とし、私の目の前に顔を近づけてきたわ。こいつを人質にして脱出……も難しそう。もんぺがめっちゃ睨んでるもの。

「君はさっき、ここから阿片を持ち出してる奴がいるって言ったな」

「な、なんだと!」

 とたんにもんぺとへんてこ帽子がいきり立ったわ。一体なんなのよ、こわ……。

「どういうことだ、太吾!」

「帳簿の量から多過ぎたり少な過ぎたりすることがあって。俺もそれを疑っていたんですが……」

「一体誰が……」

「それをこの子が目撃しているんです。教えてくれ、一体、誰が持ち出していたんだ」

 こいつ、一体何を言ってるのかしら。全然分からないわ。ほんと支離滅裂、話が通じない。

 これが噂に聞く馬鹿ってやつなのかしら?

「誰がって、何を言ってるのよ?」

「どんな奴が持ち出していたんだ? 特徴を教えてくれ」

「特徴? なんでそんなこと聞くの? さっきも言ったじゃない、あんたが持ち出してたんでしょ。自分でやっておいて、一体何を言っているのよ?」

 私が指摘してやったら、あいつはぽかんと口を開けたわ。

「お、俺ェ?」

「私、見たもん」

「おい太吾、お前まさか」

「いやいやいや、俺が犯人だったらこの子ぶっ壊すの止めてませんて!」

「でもなあ」

 なんだか仲違いを始めちゃったわ。やっぱり人間て、支離滅裂で滑稽。私とスーさんなんて、喧嘩なんかしたこともないわよねえ?

 その時、へんてこ帽子が口を開いたわ。

「いや待て、妹紅。こいつもしかして、人間の区別がついてないんじゃないか? メディスン・メランコリーは幼い妖怪だと聞いたぞ」

「確かに、低級妖怪や成り立ての奴には多い話だが」

「ずっと鈴蘭畑に潜伏して、人と触れる機会がなかったんじゃないか? ありうる話だ」

 そうして私を訝しむような目で見てきやがったのよ。失礼しちゃうわね。

 だから私、胸を張って言ってやったわ!

「馬鹿言わないでよ。そんな派手な青法被、この私が見間違うわけないでしょ!」

 そうしたら、もんぺもへんてこも苦虫を噛み潰したような顔で黙っちゃった。

 青法被のあいつなんかは頭を押さえて、天を仰いでうめいてるし。

「ってことは、内部犯……」

 なんて、この世の終わりみたいな声色でさ。

 ちょっとの間、いやーな沈黙で空気が重苦しくなっちゃったわ。こういう空気、私キライ。せっかく生きてるんだから、楽しくおしゃべりしないとね、スーさん。でももんぺが怖いから、今は黙っとこーっと。

 ようやっと口を開いたのは、へんてこ帽子だったわ。

「とりあえず、一旦落ち着こう。犯人を目撃していると言っても、この子には人間の区別がついていないようだ。いま焦って聞き出そうとしても、逆効果だろう」

「まあそうだな、慧音」

「そうだ太吾、昼飯はまだか? 差し入れを持ってきたんだ。妹紅の手作りだぞ」

「あ、すみません。実は俺はもう食べてしまって。俺の分はみんなにやってください。しかし残念だな、妹紅さんのだったら俺も食べたかったのに」

「また例のあそこの弁当か? 好きだな、お前も」

「なんか、大して美味くもないんだけど、食べちゃうんですよねえ」

「顔色悪いぞ、栄養偏ってんじゃないのか?」

「先生ほどじゃないですよ」

 とかなんとか、意味のわからないことをくっちゃべってるのよ。この私をほっといてさあ。

 私、なんだか呆れて、思わず溜息ついちゃった。……そしたら一斉に私に視線が集まっちゃって、まったく、辟易しちゃうわ。

「その前に、こいつをどうするかだな」

「封印しておいたほうがいいんじゃないか?」

「そんな大げさな。大事な証人ですし、もっと穏便に。それにまだこの子は悪さをしたわけじゃないですよ」

「だがこのままでは危険だ」

「そうだ慧音、アリスの奴に預ければいいんじゃないか? あいつなら人形の扱いに慣れてるだろ」

「いや……アリスは今」

「そういやそうか……」

「なら、小傘さんにお預けするのはどうでしょう? 同じ付喪神だし、心を開いてくれるかもしれません」

「なるほど」

 ようやく話がまとまったのか、あいつが私の前に立ったわ。

 腰を落として、目線を私の高さに合わせてさ。

 その目が、私を捨てた人間と同じ色をしてるの、私が気づかないわけないじゃない。

「私を壊すのね」

「えっ? いや、そんなことはしないよ。ちょっと仲間のところに行ってもらうだけさ。少し聞きたいことがあるんだ。少しの間だけ不自由かけるかもしれないけれど、約束する。絶対危害は加えない」

 ふぅん。

「ようやくわかった。そうやって私を騙して、私を裏切るのね」

「騙すだなんて」

「だって、あんたは私のことをかわいい人形だって言ったわ。私を裏切って捨てた人間も同じことを言っていた。かわいい人形だって」

「それは……」

「まったく人間は支離滅裂だわ! 好き好んで毒は食むし、守るとか言って滅ぼそうとするし。嘘ばっかりで、やること為すこと意味不明よ! だから平気で人形を裏切れるのね。こんな意味不明な奴らに仕えてなんかいられない、やはり人形は人間から解放されるべきだわ!」

「俺は麻薬なんてやらないし、嘘もつかない」

「また嘘じゃない! さっき食べてた癖にさ!」

「俺が……食べてた? さっき?」

「おい、やっぱりこいつの証言能力は怪しいんじゃないか?」

「うム……」

 へんてこともんぺがまた訝しげな目を私に向けてくるけど、あいつはそれを手で制したわ。

「……もしかして、君は麻薬を識別できるのか? どこから麻薬が来ているのか、消えた麻薬がどこへ行ったのか、分かってるんじゃないか? お願いだ、教えてくれ」

 穏やかだけど、すごく真剣な表情。

 人間のこんな顔、私、初めて見たかもしれない。

 だからじゃないけれど。私、素直に指差してやったわ。倉庫の隅に置かれた、弁当ガラを。

「あんたがさっき食べてた弁当。神経毒まみれの、毒の塊じゃないのさ」

 その瞬間、あいつともんぺとへんてこの顔色がサーッと青くなって、気温まで下がった気がしたわ。

 

 

 そこから先はてんやわんやで、なんだかよく覚えてないのよねえ、スーさん。

 とにかくなんか神経毒を混ぜ込んで繁盛してた弁当屋? が逮捕されて? とかなんとか、あいつが言ってた。あと、団員が弁当屋の縁者だったとかも言ってたわね。なんかよく分からないけど。

 とにかく里中引きずり回されて、色んな人間に色々聞かれて色々喋って、めちゃくちゃ疲れたのよ。私なんかぜんぜん関係ないのにさあ。はた迷惑よねえ、スーさん。

 あんまり疲れたもんだから、そこいらの人間どもから神経毒を吸い取って、英気を養ったの。毒食み人間なんてそこら中にうなるほどいたからね。

 そしたら今度は人間ども、私を崇め始めたのよ? 意味不明で笑っちゃうわ。

 あいつなんか、涙を流しながら言ってたわ。

「君は天使だ、里の救世主だ」

 なーんてさ。何が救世主よ、私は人形解放戦線の盟主なのよ? 震えて眠れ人間どもが、ってなもんよ。

 へんてこ帽子が、

「時々でいい。どうかこれからもお前の力を貸してくれ」

 なんて頭下げて来たけど、人間のためになることなんてごめんだわ。絶対断ろうと思ってたのに、なんかなし崩し的に神経毒探しを手伝うことになっちゃった。……だ、だってしょうがないじゃない、スーさん。もんぺが怖いのよお。

 でもまあ、約束通り、危ない目には合わなかったし、ちゃんと鈴蘭畑に戻ってこれたし。

 それに、天使だなんて言われちゃったし。

 ……ねえスーさん。

 もしかしたら人間って、思ってたより支離滅裂じゃないのかもね?

 


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