「はぁっ……はぁっ……はぁっ……30本目最後ぉ!」
ボクは今、いつもの練習メニューをこなしていた。坂道を一杯走って*1その後にまたいっぱい走る*2内容。
ちなみに強くなろうとボクと同じ練習メニューをこなそうとしたメジロマックイーン先輩はベンチの上でへばっていた。そんな光景を尻目に、だから言ったのにと言わんばかりの顔でライス先輩がゆっくり柔軟をしている。
ライス先輩は体が硬いためにできるだけ柔軟など準備運動に時間をかける様に言われているため、かれこれ15分ほどの準備運動を行なっている。
「テイオーさん……いつもこんなメニューを?」
坂道トレーニングを終えてクールダウンとしてゆっくり走っているボクにマックイーン先輩が話しかけてきた。
「ええ、まぁそうですよ」
そう言うと信じられないという感じで横に顔を振る。
「テイオーさん、そんなに追い込むと怪我するかもしれませんよ?」
「頑丈なのでこの程度なら怪我しませんよ?車に相対速度100㎞/hで正面衝突しましたけどこうピンピンしてますし」
「え?」
なんかやばいことを聞いたとマックイーン先輩は思いっきり目を見開き、クールダウン中のボクを凝視してきた。ライス先輩は苦笑いをしていた。
「え?」
マック先輩が変な声を出したので思わず僕も変な声を出してしまった。ボクは変なことを言っただろうか?
「「え?」」
……確かに自動車事故に巻き込まれるとさすがにウマ娘であっても厳しいものが或るらしいし、信じられないのかもしれないが。
ちなみにライス先輩と一緒に居るとたまに上から花瓶が降ってきてボクの頭に直撃したりするが、そういう時は花瓶が降ってきた後に土まみれになりながら“晴れのち花瓶が降ってくるなんて天気予報では言って無かったんだけど”と宣ったこともあったし。
という訳で基本的に何が起きても無事なボクと良く行動するようになったのは必然の話かもしれない。
そして、ライス先輩は何が起きても無事なボクの身体に不思議に思いつつもとりあえず何故か頑丈であると理解しているらしい。
「ふぅっ……マック先輩、落ち着いたら並走しませんか?」
とりあえず先ほどの話を忘れてもらうため並走トレーニングの提案をする。マック先輩はどうやら同じステイヤーでかつ新入生のボクをある意味ライバル視的な思いを抱いているようで。
並走を提案すると食いついてくる。
「いいですわよ!10分後にやりますわ!あとマック先輩と短縮しないでください、ハンバーガーのファーストフード店と紛らわしいですわ」
「え?マック先輩マックに行かないんですか?」
「行かないですわ!鈴鹿トレーナーや沖野トレーナーにもあまりカロリーの高いものを取らないよう言われておりますの!」
「マックイーンさんは太りやすいですからね」
「 ラ イ ス さ ん ? 」
「あ……ライスそんなつもりで言ったわけじゃないの、いっぱい食べれなくてかわいそうだなぁって」
「この前のプリン食べて後悔してたからね。くくくっ……」
「 テ イ オ ー さ ん ? 」*3
「そんな口きけるのも今のうちですわ!並走でぼっこぼこにしてやりますわ!」
「マック先輩そんなに言ってますけどボクに勝てるんですか?この前の並走で2バ身差でボクが勝ったじゃないですか」
「うぐぐぐ……」
「あ、ライスも並走するよ?」
「じゃあ3人でやりましょうか?」
「望むところですわ!」
そう話していると鈴鹿サブトレーナーから念押しの声が飛んでくる
「そう張り合うのも良いんですが、くれぐれも8割程度でお願いします」
「もちろん分かっておりますわ!テイオーさん、私が勝ったらプリン御馳走してもらいますわ!」
「別にいいよ」
「言いましたわね!鈴鹿サブトレーナー、プリン一つたべても良いでしょう?」
「まぁ、
「よっし!じゃあ始めましょう!プリンが私を待っていますわ――――――!!!!!!!」
結果?
1/2バ身差で負けたけど何か?
「ボクが負けるなんてー!」
「テイオーさん……食べ物の恨みは一生続くと言うから、ライスは仕方が無いと思うよ?」
「ボクはマック先輩の食べ物勝手に食べてなんかないんだけど」
「じゃあマックイーンさんの甘味への執念がすごかったという事じゃないかな」
という訳で練習終わりにマック先輩にプリンを奢る羽目になった。ボクの通常の8割出力とマック先輩の8割出力+食い物の執念が僕を超えたという訳かぁ……ん?それは全力と言うのでは?
ボクはいぶかしんだ*4
「お二人とも、聞こえてますわよ。ですが、これで2週間ぶりの甘いものですわ!パクパクですわ!」
「「……」」
なんだろう、この人愉快な人にしか思えなくなってきたんだけど。
しっかしどこでプリン食べるんだろ?勿論ボクはここら辺でプリンが美味しい所なんて知りません。
「んでマック先輩、どこでプリン食べるんです?」
するとピッと指をさして遠目に見える珈琲店の看板を指さす。
「あの珈琲店のプリンアラモードは最高ですのよ!!!」
「……そっか」
ボクはもうそれしか言えなかった。
珈琲店に3人で入って案内された席に座り、注文を確認する。
「えーと、プリンアラモード3人分とマック先輩は飲み物は?」
「もちろん紅茶ですわ!」
「……そっかぁ。ライス先輩は?」
「ライスは……珈琲かなぁ。いいの?ライスの分もおごってもらうのは」
「そう遠慮しなくていいですよ。すいません!注文決まりましたぁ!」
とりあえず店員さんを呼んで注文する。
「プリンアラモード3つと紅茶一つ、ブルマン二つで」
「かしこまりました、紅茶はホットとアイスがありますが」
「ホットでお願いしますわ!レモンもお願いいたします」
「では、プリンアラモード3つにホットの紅茶一つ、ブルーマウンテンのホットをお二つですね。伝票はこちらになります。少々お待ちください」
そう言って伝票を伝票置きに立てると厨房の方へと店員さんが帰っていった。
そこで二人の目が逸れている間にさりげなくボクの財布の中身を確認する。良し、中身は十分にあるから問題ないな。
しばらくして運ばれてきたプリンアラモードは確かに美味しかった。プリンはとろけるような触感と上品な甘さで、ホイップもけばけばしい甘いものではなくほんのりとした甘さで好きなちょうどいい甘さだった。
マンゴーも美味しかったしミカンとかも美味しかったが、特筆すべきは本業のプリンとホイップだろう。
他と隔絶された領域の美味しさだった。
ただ……
「おいしいですわ!パクパクですわ!」
このうるさい先輩をどうにかしてほしい。ライス先輩はもう悟った眼でマック先輩を見ながらプリンアラモードを食べていた。
お会計にはボクの自腹を持って三人分の会計を支払った。
「カードで」
「どうぞ」
スッと出される金色のカード*5を財布から取り出して暗証番号のキーに暗証番号を入力する。カードをさらっと出したボクに若干目を見張っていたライス先輩だったが、ふっとボクが見るとマック先輩とライス先輩はさりげなくそっぽを向いていた。
うん、モラルが良いようで。なお、店員さんもそっぽを向いていた。
マック先輩はすっかり満足し、ライス先輩は甘味に顔を綻ばせ、ボクもレベルの高い甘味にありつけたため良しとしよう。
其の後赤い夕陽の光を遮り、ゆっくりと寮への帰途につく3人のウマ娘の影があった。
次の日。
次の日はトレーニングの趣向を変えてみた。今まではいわゆるスピードとスタミナ、そしてレースの模擬的な経験を主な強化内容として挙げてトレーニングしてきた。
けれど坂道トレーニングは毎日やっても飽きない為継続するけどもひたすらウッドチップトラックを全速で走るのも飽きてきたので、別のトレーニングをやってみたいと思う。
実はこのトレセン学園にはダートトラック専用の練習器具が存在するんだけど、誰も使っている様子を見ないから不思議に思っていたんだ。
その用具はというと。
ボクの目の前に鎮座しているクソでかいタイヤである。聞いた話によると総重量は5000㎏近く、即ち5トンの重さとなり直径はボクの身長の2倍か3倍はありそう。そしてそのタイヤに頑丈そうなロープが括り付けられ、そのロープの先端の方が輪っかになっている。
その輪っかを腰当たりに通して引っ張るトレーニングだ。
そのきっかけを知ったのはボクがダートトレーニングコースを全速で爆走していた時の事だった。
走っている最中に妙にでかい練習用具置き場が目についたので鈴鹿サブトレーナーに聞いたところ、詳細は知らないとのことだったので、さらに経験があると思われる変質s……沖野トレーナーに話を聞いたらでっかいトレーニング用のタイヤが収められている用具置き場になっていると聞いて、ボクが使いたいと言ったところ全力で止められた。
曰くあれを好んでトレーニングで使うトレーナーはまずこの学園の中に居ないと言っていた。
誰も使いたがらないとか聞くと面白そうだったので使いたいから使用許可申請を出してほしいというと、また止められた。
そんなことはどうでもいいので使わせてください、使わせてくれないならゲート焼きますと言ったら許可申請を出してくれた。
ちなみにボクが一番嫌なトレーニングはゲート練習。何時やっても蹴り開けたくなる。
ボクは足腰に全力で力を入れてタイヤを引っ張り始める。
「足腰の全体的な強化に持ってこいなちょうどいい負荷ですねこれは」
ズリズリとタイヤを引っ張っていき、ダートのコースに出た瞬間全力をもって引っ張る。
全力で引っ張っていくうちに、どうすればより良い負荷を掛けられるかを考えながら引っ張っていくとコーナーの上りが見えてきた。
コーナーで且つ緩やかであっても重量物を引っ張りながらの上りは、平地でのより一層の踏ん張りと“本物のPower”が必要になるだろう。
「It's a Power!!!!!!!」*6
タイヤはテイオーに引きずられながら猛烈な土煙を上げ緩やかな坂を上っていく。
そんな光景を信じられないという面持ちで見るのはチームスピカのトレーナーである沖野トレーナーと、偵察にきた(と思われる)チームリギルのトレーナーが一名。
[トレーナーサイド]
正午を下り、若干日が傾き始めた午後の事、俺はその時ダートコースで一人のトレーニングを見ていた。
今トレーニングをしているのはトウカイテイオ―。何の因果かこの場にはいないライスシャワーと共にチームスピカに入った。テイオー曰く北海道で仲良くしていたと言っていたが、俺もライスシャワーには目を付けていた。
そのためセットで来てくれたのは僥倖だったのかもしれない。ただしだ。
あのテイオーが異様に走りたがるのはどうすれば良いのか。走る為にトレーニング量を増やすという暴挙に出たが、トレーナーの俺でもトレーニングの量を制御することはできなかった。
走ることが何より好きで、トレーニングではずっと走っている。その練習量は並のウマ娘ならまとめて数人が故障する量なのだが、本人曰く頑丈で実際にトレーニング後も不思議なことにテイオーのトモに炎症が起きている気配も無かった。
どんな頑丈なウマ娘であっても小さい炎症はつきものなのだがそんな気配も無い。
しょうがないため好きにさせているが、一番怖いのはオーバーワークで急に倒れる事。
基本的には元気溌剌で良い子*7なのだが、トレーニングの時とゴルシが絡むと手が負えない。
走るためにしているトレーニングはテイオーが好きでやっている事だ。ライスやマックイーンはトレーニングに関しては筋を通せば話を聞いてトレーニングを行ってくれるが、テイオーに関しては制御不可能だった。
何しろ、いつものトレーニングを言い聞かせて取り止めさせてゲート練習をさせようとゲート練習場に連れてきた途端にダートコースの土に頭から突っ込んで俺をダートコースの途中に生えた花にしやがった奴だ。
後にテイオーに話を聞いた某副生徒会長曰く、
“トレーニングできなくてストレス溜まったのでやりました。当然の報いです”
とか言っていたらしい。ちなみにその後密かに自分のトレーナーを頭からダートコースに突っ込んで自身の愛を証明するということがトレセン学園では密かに流行ったらしい。
“日本トレーニングセンター学園ではトレーナーを地面に埋めてはならない。それは練習コース上でも同様である”
という校則が追加されたらしい。
とりあえず、テイオーには好きにトレーニングをして良いと許可を出したが、基本的に鈴鹿か俺が見張る手筈となっている。
オーバーワークは避けないといけないからな。
今日はテイオーにしては珍しく用具をつかったトレーニングだ。ダート専用の用具なので、ウッドチップコースで練習しているライスとマックは鈴鹿に任せて俺はテイオーが単独でトレーニングをしている風景をどこか達観した感情で見つめていた。
ダートコースで誰もが使用を嫌がる巨大タイヤ引きをしている。意味が分からない。通常であれは平地のダートで使うもののはずだ。重さも5tくらいあったはずだが、見た目通りの異様な負荷で他のウマには嫌われているトレーニングなのだが。
……当たり前のようにカーブの坂道でも引っ張っていくのは本当に良く分からない。平地でのタイヤ引きでもキツいと聞いているのだが。
見た目と重さの割りには早めの速度で引いているため相当な土煙を立てて引いている。もう今更だからテイオーのトレーニング内容に口出しても仕方ないだろう。
口出ししてまた地面に埋められるより、俺は黙ってテイオーがやりすぎ無いよう見ているしかないだろう。
すると、グレーのパンツスーツを身に纏ったクールな女の東条ハナが話しかけてきた。
「……ちょっと貴方。あれ大丈夫なの?」
「テイオーが異様に丈夫なのは知っているんじゃないのか?」
「えぇ、それは聞いてはいるけど、将来有望なあの子を潰すような真似はしないようにね?
珍しくエアグルーヴが私にそう言ったのよ?」
「ほぉ、あの女帝がねぇ……あいつはトレーニングを強制的に辞めさせることが一番あいつを潰すことだと思っているからな。とりあえず今のところは問題はないだろ?」
「もし強くなりたい子がアレを真似し始めたらどうするの?」
「いや、あれはどう見ても無理だろ」
「……確かにそうね」
コースを見ると、コツをつかんだのか“It's a Power!!!!!!!”と叫びながらさっきより引く速度を上げてコーナーの坂でデカいタイヤを引いているテイオーが居た。
最初あれを見ると頭が理解を拒否していたが、俺はようやっと理解した。理解する事を辞めた方が良いという事を理解した。
しばらく(一時間程)引いて満足したらしいテイオーが、今度はタイヤを押して用具収納に納めて元に戻した。
満足した顔でぴょんぴょんとステップするように歩きながらこちらへ向かってきた。本人曰く身体が柔らかいためつい歩くとステップのようになると言っていたが。
頑丈で且つ体が柔らかいというのは、少なくとも俺は聞いたことは無い。
「あ、沖野トレーナーとチームリギルのトレーナーさんじゃないですか。見ててくれていたんですか?」
相変わらず天真爛漫な笑みを浮かべるテイオーを見てると、やはりまだ子供なんだなと感じて強くは怒れない。だが俺の事をたまに変質者と呼ぶのは辞めてほしい。
「貴女、何かこの男に変なことをされなかった?」
「酷いな、おハナさん……そんなことしてないって。なテイオー?」
「初対面の時いきなりトモを触られた以来は特にないですね」
……いきなり爆弾を放り投げてきやがった。おハナさんからものすごい凍った空気が漏れ出ている気がする。
「貴方……いきなりウマ娘の身体を触るなって何度も何度も、何度も言っているわよね?」
そうして俺は、右の頬に紅いモミジ色の跡を残しながら3回転したのだった。
「おー!これはbeautifulな平手打ちですね!」
「貴女、案外そういうキャラなのね?」
「そうですよ?」
さて、ボクはトレーニング終わりにいつも通りの道を通って、最近好きになったはちみーと言うドリンクを買いに歩いている。
はちみーと僕とはまだ1か月の付き合いだけど、甘味が大好きなこの体が随分とハマってしまったようで。
ついボクが考えたはちみー賛歌を口ずさむ。
かのウィリアム序曲を参考にして考えた賛歌だけども個人的に気に入っている渾身の出来。なお今ボクが口ずさんでいるのは短縮版。
はちみーを飲める事実だけでボクは満足じゃ。
はちみーを売っている移動販売車が見えたのでちょっと駆けて、店員さんにオーダーを出す。
「はちみー一つ、固め濃いめ多めで」
そうしてしばらく待って出てきたのははちみードリンクのほぼ原液のまま入れられたカップ。
添えられたストローを加えて、はちみつの甘味を堪能する。これは最高ですね*8
はちみーをなめると何処か今日が終わるという実感が沸くんですよねぇ。
其の後お風呂入って夕食食べて、他の部屋の親しい友達とマヤノんとおしゃべりして、早めに寝る。
「スヤァ……( ˘ω˘ )」
どうも。最近ハイレゾにはまってる作者です。ハイレゾ音源でウマ娘のアニメ音楽やゲーム音楽を聴くのは良き!
皆様もハイレゾ音源と言う質の高い音質で聞いてみましょう(なお有料)