つよつよテイオー(YAMA育ち)   作:ナギサ推し

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 少し人生に残念な事が起こりまくって精神的にきつい作者です。


 前回の話で案外と反響もあったので続投します。さらに続けられるとは思っても居ませんでしたが。

 とりあえずやる気が続くまで書き続けるのでどうぞよろしくお願いします。


日本ダービーとライス

 日本ダービー。それは最も運が良いウマが勝つと言われるレース。

 

 そして、クラシック三冠を取る上で避けて通れないレースだ。

 

 皐月賞、日本ダービー、そして菊花賞を取れば晴れてクラシック三冠バとなれる。だが、それを達成したウマは少ない。

 

 だからこそ、無敗でクラシック三冠を達成した現トレセン学園生徒会長のシンボリルドルフは“皇帝”と言われる。神話を現代に呼び起こしたシンザン、そしてその後に現れシンザンの次に三冠を達成したミスターシービー。

 

 そして、数少ない三冠達成バの中で無敗でクラシック三冠を達成したのがシンボリルドルフだった。今までの戦績である16戦のうち13勝をあげ、負けた3戦について語られるウマ娘。それが皇帝だ。

 

 

 そして、クラシック三冠達成を目標に掲げたウマが居た。その名は――――――

 

 

 

ミホノブルボン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミホノブルボンさんに勝つにはどうしたらいいのかな?」

 

「そりゃあスピードを上げていくしかないだろうな」

 

 それはチームスピカの活動中の一幕だった。ライス先輩はミホノブルボンさんにレースで勝ちたい思いとミホノブルボンさんについて行きたい気持ちがせめぎ合っているとボクに話していた。

 けれど、ライス先輩は既に自分の気持ちに折り合いをつけたようだった。チームに入った以上、ミホノブルボンさんを倒してみせる。

 

 それを目標にトレーニングをしていた。ライス先輩の要望の為、沖野トレーナーはライス先輩のトモの触診をしながら故障せず且つ成長するトレーニングを課している。

 

 そして。今から行う並走はそれの一環だった。

 

「テイオーはミホノブルボンのように正確にラップタイムを刻んで走らなくて良い。テイオーの走り方で“大逃げ”をしてくれ。テイオーならできるだろ?」

 

 ボクがライス先輩の大逃げタイプの仮想敵として並走トレーニングのお供に選ばれたからだ。

 

「ちょっといいですか?」

 

「どうしたテイオー」

 

「逃げだったらマック先輩の方が良いと思うんですけど」

 

 そういうと沖野トレーナーはそんな簡単にいったら苦労しないという顔をしていた。

 

「あいつは才能はあるが良くも悪くも“普通の”ウマ娘だ。

 確かに逃げならテイオーより得意かもしれないが、逃げとなると足に負担がかかる。その点で言うと逃げの脚への負担の心配が少ないテイオーが適任だったわけだ。と言うかテイオーしか居ない」

 

 確かにそうかもしれない。って言うかチームスピカに所属しているのはまだ4人しかいないし、ボク以外ってなるとゴルシ先輩もいるけどあの人は典型的な追い込みウマだし。

 なんか体は強いらしいけど、逃げは無理に近しいものがある。

 

 そう考えると、先行と差しが一番だが、追い込みと逃げもある程度は行えて馬鹿みたいに走ってもケロッとしてるボクが適任だったのかもしれない。

 

 斯くして。

 

 

 

「今回は芝2400で、テイオーが大逃げをしてくれ。それをライスは差し切る練習だな。全力は出さないようにしてくれ、後が怖いからな。

 

 マックイーン!時間を測っておいてくれ、ゴルシはあっちでスタートの合図を出してくれよ」

 

「あいよ!よし、じゃああそこまで走って行こうぜ!」

 

「ライス先輩とこれから並走なのにそれ言います?」

 

「しょうがねぇなぁ!じゃあゆっくりウォーミングアップ程度で走って来いよ!」

 

 そう言い残すとものすごい速さでスタートライン付近まで走り去っていった。

 

 

 ボクは体を温めるために軽く駈足*1でスタートラインまで軽くかけていく。

 

 ライス先輩も同様だ。

 

 

 

 

 そして、ライス先輩と同じスタートラインに立つ。出遅れないようにスムーズなスタートができるよう、精神をすべてゴルシ先輩にすべての集中を注ぎこむ。

 

「よーい…スタート!」

 

 旗が一気に上げられたと同時に一気に走り出す。スタートダッシュはまずまずと言ったところか。それから脚を貯めるライス先輩の前に陣取りボクの8割くらいの速さで駆けていく。

 

 ボクの逃げ方はボク自身の身体能力によって成功の如何が分かれる。要は全力に近い速さを自分自身のスタミナで継続的に出力して平均的な速度を上げて勝利を挙げるというもの。

 

 それは一見簡単なようで簡単ではない。ライス先輩がミホノブルボンさんに勝ちたいと言い、ボクがライス先輩の心情を聞いた時からブルボンさんの走り方をよく見るようにしていた。もちろんビデオか直接レースを見るくらいしか手段は無いが。

 

 ブルボンさんの勝ち方はおおよそ分かりやすい。自身のスタミナとスピードから適切なラップタイムを刻み込んで逃げ切る勝ち方。

 

 平均速度を他のウマ娘より早く設定すれば逃げ切れる。ただそれだけ、なのだが。

 

 

 これが意外と難しい。ボクには有り余るスタミナがある為最速に近い速度を継続して走ることはできても、正確なラップタイムを刻むというのは難しい。だが、ミホノブルボンさんは驚くべきことに区間ずつのタイムがコンマ数秒まで同じ。

 

 これは自分自身のスピードとスタミナ双方が勘案されて計算されつくしたタイムであることは予想が付く。

 

(3ハロン大体38秒…位?)*2

 

 ライス先輩はボクの5バ身後方を走っている。最近もりもりとスピードとスタミナを上げるトレーニングをしているせいか意外と近い場所に付けている。

 

 いつもボクの場合は3ハロン35秒、距離や戦術によっては33秒を切るくらいで走る。が、これは本気でレースに勝ちに行くときの話。今回は並走で全力は出さないよう言われているため若干力を抜いて走っている。

 

 坂に付随したコーナーが見えるとそのまま同じスピードで突っ込む。これが最終コーナーだ。坂でも失速せずおおよそ同様のタイムをキープする。

 

 コーナーの終わりで最終直線が近づく。ライス先輩が溜めた足を解放する頃合いだろう。

 

 現に……ライス先輩の気配が近くにある。

 

 このまま冷静にペースを保たなければいけない。大きく息を吸ってゆっくり吐き、最終直線に入る。

 

 最終直線ではある程度速度を出す。若干姿勢を低くすると今までより少し早いくらいで走り始める。

 

 残り200。ライス先輩が後方のボクの視界内の端に移り始める。

 

 残り100、完全に並んだ。そして、ライス先輩は残り50と言うところでボクをかわし、伸びきった脚で差し切った。

 

 

 

 

 

 

「ふぅっ……どうでした、ライス先輩?」

 

 クールダウンを軽く行うため駈足で走りながら、トレーナーたちが待っているコース外の場所に向けて軽く走りながらライス先輩と会話をする。

 

「……ライス、もう少し速くなりたいの。テイオーさんはなんでそんなに速く走れてるの?いつもの並走で見せてるあの最終直線の伸び脚とか」

 

 ……ライス先輩が言っているボクの速さは、普段は知っている並走で見せている最終直線のストライド走法によって生まれる速さなのだろうか?

 

「ボクが速い秘密?そうだねぇ、まぁ単純に走りこんでいるからも理由になると思いますけども……あとは単純にボクの走法はボク自身の身体に合った走り方をしているだけですよ?」

 

 ボクの走り方は走り幅を大きくとるストライド走法で、これをチームスピカで使っているのはゴルシ先輩とボクだ。

 で、ボクのストライド走法は最終直線に入ると異様に変化させている。柔らかい身体を生かし、全身をバネのように使いながら前へと蹴りだす力を上げ、結果的にスピードが増す。

 

 

 最終直線はもしバ群に囲まれても抜け出せるチャンスがある為一気に加速させ、速度を瞬間的に上げて前に居るウマを纏めて差すことができる。よってボクにマークが集中するときに使うが、公式レースでその走り方を披露した事は未だにない。

 

 ちなみにストライド走法は足に負担がかかる走法なのだが、ボクとゴルシ先輩は異様に頑丈だから耐えきれているだけ。

 

 ライス先輩は体が硬く、脚の強さはウマ娘平均よりは強いがストライド走法に耐えられるかと言うと微妙。であるため、スタミナを消費するが幅を小さくとって脚の動かす速度を上げるピッチ走法を取り入れている。

 

 

「ただ単純な型に嵌まったストライド走法から、ボクが最も強く駆け抜ける方法を模索して体得した走り方。それが今のボクの走りです。

 ライス先輩に、ボクの走り方が合うかと言うと合わないです。ボクの走り方は体の柔らかさをも生かした走りですので」

 

「テイオーさん、ライスが速くなるにはどうすればいいと思う?」

 

 難しい質問が来ましたねぇ。正直こういうアドバイスはボクには難しい。

 

「難しいですね、その質問は……地力のスピードはトレーナーさんたちに相談した方が良いですが……あとは心持でしょうか?」

 

「心持?」

 

「えぇ、誰かに強く勝ちたいと願い思うとき。その時に限っては誰よりも早く走れるって。これはボクの母の受け売りですけどね」

 

「―――誰かに強く勝ちたいと願い思うときに、自身は誰よりも早く走れる…………

 テイオーさんが誰かに強く勝ちたいって思ったことはあるの?」

 

「ボクですか?うーん……ボクは走ることが一つの趣味になってるんで走れれば満足ですからね。

 誰かに強く勝ちたいと思った事は無いですよ」

 

「おーい!二人ともトモの状態を確認するぞ!」

 

 沖野トレーナーがトモを揉みたいとせがんでいるが、無視してメジロマックイーン先輩の方へと向いてタイムを聞いてみる。

 

「マック先輩、タイムはどうでした?」

 

「2分36秒9でしたわ、全力は出しませんでしたのね」*3

 

「まぁ、そりゃあね」

 

「テイオー!トモを見せてくれ!」

 

 と、ライス先輩のトモの確認をし終えた沖野トレーナーはボクを呼び寄せた。黙ってベンチに座って右足を上げる。

 

 触診が開始されたが、それをそっちのけでライス先輩の方を見ると、鈴鹿トレーナーと何やら話していた。

 

 断片的に聞こえる会話内容から推測するに、ミホノブルボンさん……そしてボクに追いつくためにトレーニングを増やしてほしいと直談判をしていたようだった。

 

「ボク……かぁ」

 

「ん、どうしたテイオー?どこか痛むのか?」

 

「いや?このボクがあの距離で脚を痛める訳ないよ。まぁ、その内ライス先輩から相談があると思うから乗ってあげてね?」

 

 そういうと、沖野トレーナーは何を言っているんだと言うような表情を浮かべる。

 

「何を言ってるんだ、ライスシャワーはチームスピカのメンバーだぞ?相談に乗らないわけが無いじゃないか」

 

「そうだよね。終わった?トレーナー」

 

「今終わったぞ。相変わらずテイオーの脚はどうなってるんだ?ライスシャワーが全力を出していないにもかかわらずあれだけ走った形跡があったというのに……」

 

 なんか急に考え込んでしまったが、正直ボクも異常な程の治癒能力の原理は分からないので何とも言えない。黙ってマック先輩の方に寄って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は流れ―――――――

 

『この評価は少し不満か?スプリングS勝者のライスシャワー、二番人気です。そして一番人気はこの娘、ミホノブルボンです。

 夢のクラシック三冠のうち二冠目を取れるのか、それとも他の娘がダービーウマ娘として栄光を手にするのか!』

 

『ライス先輩、頑張ってください!』

 

 自らを不幸だと卑下する少女を、それでも貴方は幸せになるべきだと叫ぶウマ娘が居て――――

 

『残り600……っとぉライスシャワー、スパートをかけている!ミホノブルボンとの距離を着実に縮めている!』

 

『残り500最後の直線だ!ここでライスシャワーが飛んできた!その差は5バ身……4バ身と的確に縮めている!』

 

 

 

『残り100!ライスシャワー、ミホノブルボンを猛追している!後続は7バ身以上離れています!』

 

『ライス先輩いっけぇー!』

 

『両者揃ってゴール!どちらが勝ったのでしょうか?写真判定です。ここで3着は11番マチカネタンホイザ4バ身差、4着はマヤノペトリュース、クビ差。5着はカミノエルフ1バ身差でした』

 

『着順が確定しました、一着は15番ミホノブルボン!勝ち時計は2.22.8。2着はハナ差で13番ライスシャワー。3着は11番マチカネタンホイザ、4着は5番マヤノペトリュース、5着は1番カミノエルフでした』

 

『……っ!』

 

『これでミホノブルボンはクラシック三冠のうち二冠目を手にしました。今回のダービーはどちらが勝ってもおかしくない勝負でしたね、今年の芝のクラシック路線はミホノブルボンとライスシャワーとの戦いになりそうです』

 

 

 

 

 

 

 

『ライスシャワー、宝塚記念に出るか?シニア級相手でも勝ちは狙えるはずだ。

 そして、テイオーはライスの前にダート1800でメイクデビューだな。マックイーンはテイオーの次の週に芝1800でメイクデビューだ。調整しっかりやるぞお前ら―!』

 

 そして――――

 

『9番トウカイテイオー、メイクデビューを圧倒的な速さで逃げ切った(・・・・・)ー!勝ち時計は……レコードです!ダート1800mのレコードを更新しました!1:46.9です!トウカイテイオ―、一番人気の期待に応えました―――!』*4

 

『芝1800mの10走目メイクデビューを制したのは7番メジロマックイーンだ!2着と5バ身差をつけて勝利しましたー!』

 

『宝塚記念を制したのはライスシャワーだ!並居るシニア級の娘達を撥ね退け一着へと輝きましたー!』

 

 

 

 

『テイオーさん……ライス勝ったよ……』

 

『……次は、ミホノブルボンさんに勝つ……ですか?』

 

『うん。ライスはブルボンさんに……菊花賞で勝つ。ライス泣かないから、何があっても』

 

 

 

 

 

 

 

『ライス先輩なら……ミホノブルボンさんに勝てるよ』

 

 そのウマ娘の言葉は、現実となった。勝者は、2着になったもののクラシック三冠が見たかったと嘆かれ、4割の者たちは勝者を祝福したが、6割は批判を浴びせた。

 

『沖野トレーナー、大丈夫?』

 

『大丈夫に決まってるぜ。俺の大事なチームメンバーの為だからな、これくらいは何ともないぜ!ライスシャワー、次のレースはどうする?もちろん次のレース勝ちに行くぞ!次って言っても行けるのは有馬くらいだな』

 

『わかった、じゃあライスの次のレースは……』

 

有馬記念

*1
駈足と言ってもウマ娘の駈足は時速20㎞。人間がフルマラソンで走る速度と同じくらいで普通に早い

*2
参考:京都大賞典におけるセイウンスカイの1ハロン当たりのタイムは11秒、3ハロン当たり33秒の計算になる

*3
参考:芝2400mレコードアーモンドアイ“2:20.6

*4
参考:19/07/14名鉄杯レコード“1:47.6”スマハマ




 史実のライスシャワーは1992年の菊花賞で勝ちましたがあらかじめ、シニア級も多く出走する(と設定した)宝塚記念に多くいたシニア級を実力で持ってねじ伏せたことから、ある程度ブーイングの量を減らしました。

 なお、それでもテイオーの目は曇った模様。泣かないよう気丈に振る舞うライスシャワーのメンタルケアを積極的に行ったのは同じチームのメジロ家のご令嬢と目が曇ったボクっ娘だった模様。

 自分はあまりライスシャワーの不幸を積極的に書きたくなかったのでこういう形で流させてもらいました。ですが、次の有馬記念に関しては詳細に書かせてもらいたいと考えております
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